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約束の夏休み
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「でもせっかく1番目のお姉さん夫婦と子供が来てて、2番目のお姉さんも結婚式を控えているのに、あんまり暴れない方がいいよ」
「分かってる。でも親父が引かない」
彼も彼で、将来に問題を抱えている。
「由月は将来のこと、伯父さんに伝えた?」
「言ったさ。大反対されたけどな」
その時の伯父の怒りが目に浮かぶようだ…。
「でも姉貴達が珍しく賛成してくれてな。だから2番目の姉貴の結婚式までが勝負だな」
「結婚式って秋だよね? お婿さんを取るから、この家に家族が増えるんだ」
「ああ。元々2番目の姉貴は自分が家を継ぐんだって考えていたらしい。けれど親父がああだろう? オレの次に、親父とやり合っている」
…相変わらず気性の荒い人達だ。
「う~ん…。由月、パソコン関係の仕事をしながら、家を守ることはできないの?」
「さすがにムリだな。宮乃原家の当主は代々、村長みたいなことをしている。青年団をまとめたりするのも、当主の役目なんだ。片手間にやれるほど、楽な仕事じゃない」
「うう~ん…」
思った以上に、当主の仕事は難しそうだった。
「…悪かったな」
「ん? 何が?」
「せっかく里帰りしたのに、イヤな場面を見せてしまって…」
「別にいいよ。まだここへ来たばかりの頃は、母さんと伯父さんの方がやり合っていたから」
血気盛んな一族だ。
気まずそうに俯いている彼に、そろそろ言わなくちゃいけない。
4年間、会いに来れないことを…。
「あの、さ。由月に改まって言わなくちゃいけないことがあるんだ」
「ん?」
何も分かっていない顔をされると、胸が痛む。
「えっと…夜に話したい。ちょっと重くなると思うから」
「あっああ、分かった」
「うん、ありがとう」
その時、僕は彼の顔を見れなくなっていた。
「…あっ、母さんだ」
由月が襖の方を向いた。
「由月、雅貴くん、いる?」
「いる」
「あっ、いるよ」
伯母は襖を開き、不安そうな顔を見せた。
「雅貴くん、来てくれたのに嫌な場面を見せてゴメンなさいね」
「いっいや、母さんと伯父さんの方が激しかったから」
「ふふっ、そうね。あと由月」
由月は伯母に呼ばれ、びくっと肩を揺らしたけれど、顔は背けたままだった。
そんな様子を見て、伯母は仕方無いというように困り顔でため息をついた。
「父さんにはわたしから言っておくわ。でもあなたも少しは反省してね」
「…分かった」
「ええ。それじゃあ食事はできたら持ってくるから」
「いっいいよ、伯母さん。お膳重いし」
「それなら大丈夫。娘の旦那さん、2人もいるしね。気にしないで」
あっ、なるほど。
僕や由月より、よっぽどアテになるな。
「お膳は部屋の前に置いてもらうから。食べ終えたら同じように、部屋の前に出しときなさい」
「うん…」
「分かったよ、伯母さん」
「じゃあね。何かあれば、気軽に言ってね」
伯母は最後まで困り顔で、襖を閉めて行った。
「カッコ悪いな、オレ…」
「そんなことないよ」
僕は彼の側に寄り、細い肩を抱き寄せた。
「由月も伯父さんも、叶えたい願いと夢がある。だけどお互いにすれ違っているだけ。分かり合える時は、必ず来るよ」
「ああ…そうだと良いな」
素直に僕に身を寄せる彼を見て、また胸が痛む。
こんなに弱っている彼に、更に追い討ちをかけるのは、僕なんだ。
暗い気持ちのまま、由月を抱き締める。
由月は疲れていたらしく、眠ってしまった。
「由月…」
あどけない寝顔を見ると、胸の奥が熱くなる。
唇に視線を向けると、思わず思い出してしまう。
この唇の熱さと甘さを…。
「分かってる。でも親父が引かない」
彼も彼で、将来に問題を抱えている。
「由月は将来のこと、伯父さんに伝えた?」
「言ったさ。大反対されたけどな」
その時の伯父の怒りが目に浮かぶようだ…。
「でも姉貴達が珍しく賛成してくれてな。だから2番目の姉貴の結婚式までが勝負だな」
「結婚式って秋だよね? お婿さんを取るから、この家に家族が増えるんだ」
「ああ。元々2番目の姉貴は自分が家を継ぐんだって考えていたらしい。けれど親父がああだろう? オレの次に、親父とやり合っている」
…相変わらず気性の荒い人達だ。
「う~ん…。由月、パソコン関係の仕事をしながら、家を守ることはできないの?」
「さすがにムリだな。宮乃原家の当主は代々、村長みたいなことをしている。青年団をまとめたりするのも、当主の役目なんだ。片手間にやれるほど、楽な仕事じゃない」
「うう~ん…」
思った以上に、当主の仕事は難しそうだった。
「…悪かったな」
「ん? 何が?」
「せっかく里帰りしたのに、イヤな場面を見せてしまって…」
「別にいいよ。まだここへ来たばかりの頃は、母さんと伯父さんの方がやり合っていたから」
血気盛んな一族だ。
気まずそうに俯いている彼に、そろそろ言わなくちゃいけない。
4年間、会いに来れないことを…。
「あの、さ。由月に改まって言わなくちゃいけないことがあるんだ」
「ん?」
何も分かっていない顔をされると、胸が痛む。
「えっと…夜に話したい。ちょっと重くなると思うから」
「あっああ、分かった」
「うん、ありがとう」
その時、僕は彼の顔を見れなくなっていた。
「…あっ、母さんだ」
由月が襖の方を向いた。
「由月、雅貴くん、いる?」
「いる」
「あっ、いるよ」
伯母は襖を開き、不安そうな顔を見せた。
「雅貴くん、来てくれたのに嫌な場面を見せてゴメンなさいね」
「いっいや、母さんと伯父さんの方が激しかったから」
「ふふっ、そうね。あと由月」
由月は伯母に呼ばれ、びくっと肩を揺らしたけれど、顔は背けたままだった。
そんな様子を見て、伯母は仕方無いというように困り顔でため息をついた。
「父さんにはわたしから言っておくわ。でもあなたも少しは反省してね」
「…分かった」
「ええ。それじゃあ食事はできたら持ってくるから」
「いっいいよ、伯母さん。お膳重いし」
「それなら大丈夫。娘の旦那さん、2人もいるしね。気にしないで」
あっ、なるほど。
僕や由月より、よっぽどアテになるな。
「お膳は部屋の前に置いてもらうから。食べ終えたら同じように、部屋の前に出しときなさい」
「うん…」
「分かったよ、伯母さん」
「じゃあね。何かあれば、気軽に言ってね」
伯母は最後まで困り顔で、襖を閉めて行った。
「カッコ悪いな、オレ…」
「そんなことないよ」
僕は彼の側に寄り、細い肩を抱き寄せた。
「由月も伯父さんも、叶えたい願いと夢がある。だけどお互いにすれ違っているだけ。分かり合える時は、必ず来るよ」
「ああ…そうだと良いな」
素直に僕に身を寄せる彼を見て、また胸が痛む。
こんなに弱っている彼に、更に追い討ちをかけるのは、僕なんだ。
暗い気持ちのまま、由月を抱き締める。
由月は疲れていたらしく、眠ってしまった。
「由月…」
あどけない寝顔を見ると、胸の奥が熱くなる。
唇に視線を向けると、思わず思い出してしまう。
この唇の熱さと甘さを…。
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