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それに最近じゃあ女の子も自分のことを『ボク』や『オレ』と言う子も少なくない。

…そもそも小学生って、性別が分かりづらい子が増えてきているから、ややっこしいんだよな。

「ところで、誰か捜してんの?」

「あっ、いや、その…。まっ迷子になっちゃって」

アハハと苦笑しながら言うと、由月は腕を組み、ため息をついた。

「どこに行きたいの?」

「えっと、玄関入ってすぐの広間」

「…随分遠くから来たんだね」

「たっ探検してたら、迷っちゃって」

「この家、増改築繰り返してて、慣れないとすぐに迷子になるんだよ」

そう言いながら歩き出した。

広間まで案内してくれるみたいだ。

「そうなんだ。どおりで入り組んでいると思った」

「まだウチに金があった頃、先祖がおもしろがって家をいじくったんだって。ヘタすりゃカラクリ邸さ」

「でもそういう所に住んでるのって、おもしろくない?」

「実際住んで見ると、はた迷惑なだけ」

答え方は素っ気無いけど、話はしてくれる。

この子が例の男の子とは、ちょっと思えないな。

無表情で話をするけど、難しい性格ではなさそうだし…。

「アンタの住んでいる街の方が、楽しいんじゃない? 都会だから、いろいろあるんだろう?」 

「あることはあるけど…。あり過ぎて、ワケが分かんない時がある」

僕の答えを聞いて、由月はきょとんとした。

しかし次の瞬間、ふっと笑った。

「何じゃ、そりゃ」

「あっはは…。いろいろあると、迷うんだよね」

「アンタ、迷ってばっかだな」

「そうだね」

…ヤバイ。

この笑顔は、胸が高鳴る。

思わずイトコ同士って結婚できることを、思い出してしまうほどに魅力的だった。

他愛のない話だったけど、僕はスッゴク楽しかった。

やがて広間が見えてきて、話し声も聞こえてきた。

「ついでだから、雅子叔母さんに顔見せしとくかな」

「うん。両親喜ぶと思うよ」

「そっかな?」

「うん!」

僕はすっかり舞い上がっていた。

広間に戻ると、心配顔の四人に出迎えられた。

「雅貴! アンタ、どこ行ってたのよ?」

母が駆け寄ってきた。

「ちょっと邸の中を探索してたら、迷子に…」

「ここ、複雑に入り組んでいるから、迷子になりやすいのよ。でも戻って来れてよかったわ。今、兄さんと捜しに行こうかと…あら?」

母は僕の背後にいる由月に気付いた。

「由月…ちゃん、かしら? もしかして」

「…うん」

由月は僕に隠れながらも、頭を軽く下げた。 


「あらあら、はじめましてね。玖城雅子よ」

母は僕を除けて、由月に近付いた。

「…どうも」

由月はさっきと様子が違い、どこか緊張した面持ちになった。

まあ10年ここに戻ってきていないということは、この子に会うのははじめてなんだろう。

お互い存在は知っていても、顔を合わせるのは生まれてはじめてだからなぁ。

「ああ、キミが由月ちゃんか。よろしく。俺は玖城貴信たかのぶ。キミの叔父になるんだ」

父も広間から出て、由月に挨拶する。

「雅貴くん、早速由月と話をしてくれたのね?」

伯母が嬉しそうに言ってきた。

「僕が迷子になっているところを、助けてくれたんです」

「まあそうだったの」

伯父と伯母は心底意外だという顔で、由月を見る。

由月は見られて居心地が悪いのか、ちょっと顔を赤らめ、そっぽを向いてしまった。

…やっぱり可愛いなぁ。

いつも周りにいる女の子はうるさいぐらいで、こんなに大人しい子は近くにいない。

今は色白が流行っているのに、この子は健康そうに焼けているのも、中身とギャップがあって良いなぁ。

でも遠距離恋愛って、難しいって言うし…。

僕が1人の世界に入っている間に、由月は両親の質問攻撃から逃れる為に、僕の背後に隠れた。 

不安そうな顔で、僕の服の裾をつかむ様子を見ると、思わず守ってあげたくなる。

「とっ父さん、母さん、あんまりいろいろ聞いちゃかわいそうだよ」

「あっ、そうだな」

「ゴメンね? 由月ちゃん」

2人に謝られ、由月は無言で首を横に振った。

「ちょっとびっくりしただけよね?」

伯母に頭を撫でられて、ちょっと表情がゆるんだ。

やっぱり緊張してたんだな。

「そっそう言えば、由月は何番目の子供なんですか?」

「あっ、言ってなかったわね。由月は6番目の子よ。今は小学1年生なの」

…6番目の子?

そして小学1年生?

……と言うことは!

僕は勢い良く振り返った。

「なっなに?」

びっくりした顔も可愛いな~。

じゃなくて!

「由月って………男の子?」

「は?」

瞬時に由月の顔が険しくなった。

「アンタまさかっ! オレのこと、女だって思ったのか!」

胸倉を掴まれるも、動揺している僕は抵抗できなかった。

四人の大人達も、ポカーンとしている。

えっ? もしかして由月が男の子だって気付いていなかったのって、僕だけ?

「だっだってキミ、浴衣着ているし、髪長いし…」

「どこが長いんだよ!」 


「まっまあ男の子にしては、少し伸びているわよ。だから夏休み前に、髪を切りましょうって言ったのに」

伯母がフォローのつもりで言った。

「それに名前だって何だか女の子っぽいし、ウチの両親もちゃん付けで呼んでたし…」

「えっ、だって…」

「幼い甥っ子ですもの。小さい子にはちゃん付けしてしまうのが、大人の悪いクセと言うか…」

さすがの両親も、どこか視線が虚ろだ。

フォローする言葉を、必死に探しているのがバレバレ!

「名前は親父が勝手に名付けたんだ! 浴衣はおふくろが作った!」

あっああ、ご両親の愛情だったんだ…。

でもどっちの要素も、女の子のイメージしか浮かびません(涙)!

「まっまあまあ。落ち着きなさい、由月。子供のうちは性別が分かりにくいことなんて、いくらでもある。現に雅子だってお前ぐらいの歳の頃には、しょっちゅう男の子に間違えられてたんだぞ?」

「そう言う雅月兄さんは、高校生になるまで女の子に間違えられていたわね」

「おまっ、それを今ここで言うか!?」

…ああ、嫌な血の受け継ぎ方だなぁ。

どうやら由月は物の見事に、伯父の血を濃く受け継いだらしい。 

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