Kiss

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クリスマスのキス

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わたしの住む街には、冬限定で見られるイルミネーションの公園がある。

そこの公園では樹や遊具、または手作りの物でイルミネーションを飾り付け、公開されている。

手作りの物は人形や小さな家など、創作に凝った物が多い。

冬休み、特にクリスマスともなれば、恋人連れや家族連れ、友達を連れて訪れる人は多い。

けれどわたしは一人でジックリ楽しみたいタイプだった。

だから友達の誘いも断り、毎年一人でここに訪れる。

一人でイルミネーションを見に来たと言うと、寂しいと言う人もいるけれど、でもわぁわぁ・きゃあきゃあ騒ぎながら見たくはないからな。

女子高校生としては、変わった感覚を持っていることは自覚している。

けれどいつもは友達と騒いでいる分、こういう幻想的な美しさは一人で堪能したい…と思っていたのに。

「…何で、アンタがいるのよ?」

「それはこっちのセリフだ。友達の誘いを断っといて、何している?」

ぶっきらぼうなわたしの質問に、これまたぶっきらぼうに返してきたのは、同じクラスで同じグループにいる男子生徒の一人。

わたしは学校では男女入りまじったグループに入っていて、コイツもそうだった。

けれど仲が良いとは、決して言えない。

コイツはいっつも無表情で、たまに口を開けばさっきのようにぶっきらぼうな言い方しかしないからだ。

愛想がないったら、ありゃしない。

「わたしは一人で見に来たのよ。こういうの、一人でじっくり楽しみたいタイプだから」

…でもまあ、コイツに対するわたしの態度も、愛想は無いわね。

「ふぅん…」

「んで、アンタの方は? 友達と来たの?」

キョロキョロと周囲を見回すが、いつもの知った顔はいない。

「いや、俺は…。ただの散歩で寄ってみただけだ」

「…そっ。じゃあわたし、他の所、回るから」

とっとと背を向け、わたしは歩き出す。

何せ公園は広い。

遊具がある所から、芝生だけの所、また海に面した所もあって、一周するだけでも一時間はかかる。

今年は点灯時間が短いらしいし、とっとと回らなきゃ、全部なんて見られない。

わたしは白い息を吐き、マフラーに顔を埋めながら早足で歩き出す。

スタスタと。

けれどすぐ後ろから、スタスタと歩く音が聞こえてくる。

まさかと思い、そっと後ろを振り返ると、アイツがいた。

…まあ歩くコースは決まっているし。

この先の公園の出口までなら、同じ所に向かっていても、不思議じゃないか。



―と思っていたのに。

アイツは何故かずっとわたしの後ろを歩いていた。

わたしが立ち止まると、アイツも立ち止まる。

そして歩き出すと、歩き出す。

早足にしても、わざと遅くしても、歩調を合わせてくるのだ。

だから公園を一周した後、人の少ない場所まで移動した。

そして体ごと振り返り、アイツを睨み付ける。

「…アンタ、何で人の後、ついてくるのよ? 不気味で気持ち悪いんだけど」

ハッキリと言っても、アイツは相変わらず無表情。

「…お前って、本当に気持ち良いぐらい、ハッキリと言うよな」

「言わないとストレスがたまるもん。でも一応協調性はあるわよ? それに友達付き合いも嫌いじゃないし」

「そうか…」

「でもアンタはムリしてんじゃないの?」

わたしの言葉に、弾かれたように顔を上げたアイツに、わたしの方が驚いた。

「なっ何よ?」

「何で…そう思うんだ?」

「だってアンタ、楽しそうじゃないもん」

問われたから、わたしはハッキリと自分の思っていることを言う。

「普通、友達といて楽しかったら、そういう顔するでしょう? でもアンタはずっと面白くなさそうな顔しているし」

「そうか?」

「うん。まっ、人と合わせられない時って必ずあるもんだけど、アンタの場合、そういうもんでもなさそうだし」

ズバズバ言うと、流石に傷ついたのか、俯いて黙ってしまった。

「…えっ、えっとぉ…。言いすぎた?」

苦笑いしながら首を傾げて言うと、首を横に振って否定したので、一安心。

「確かにそうだな、と思っただけだ。俺は人付き合いというものが、うっとおしくてしょうがないと思っているし」

「なら何でグループん中にいるのよ?」

「そうしないといけない、みたいな空気があったから」

「それはまあ…何となく分かるけど」

今時、一匹狼を気取っても、周囲からは浮いている存在だとしか思われない。

なら多少ムリしてでも、誰かといたほうが良いということもある。

…けどコイツの場合、否定が態度にまで出ているから、問題なんだろうな。

「まあ…アレよ。ムリに合わない時は、わたしみたいに断ったら? 全部を全部、合わせてたら、体も心も持たないでしょう?」

わたしの言葉を聞いて、しばし考えた後、肩を竦めた。

「―だな。ムリに全部を合わせていたら、楽しくないかもな」

「そうそう」

それで思い出した。

コイツは楽しそうにはしないものの、グループの集まりとかは必ず参加していたことを。

そんなのきっと、グループ内ではコイツだけだ。

他のみんなは何らかの理由で、いない時だってあるのに。

そう考えると、一応コイツなりに、仲間に気を使っていたのかもしれない。

「…で? わたしに相談したいことは終わった?」

「別に相談しようと思って、つけていたワケじゃないが…」

「つけていた自覚はあったのね?」

まあ無かった方が、怖いけど。

「んじゃ、何でつけてきたのよ? わたしは『一人でジックリ楽しみたい』って言ってたのに」

思わず恨みがましく言ってしまう。

ずっとつけられていたせいで、あまり集中できなかった。

…まあイヤってワケではなかったから、今まできたんだけど。

「つけていたのは悪かった。…ただ、タイミングが見つからなかっただけで」

「タイミング? 何の?」

首を傾げるわたしを真正面から見つめ、アイツは言った。

「告白」

「何の?」

「愛の」

…何だろう?

このぶつ切り会話は。

そして甘くもないのは何故?

ここはイルミネーションが煌びやかな公園の中。

しかもクリスマスで、雪までチラホラ降り始めている。

ホワイトクリスマスに告白されるなんて、普通の女の子ならば、心ときめくシチュエーションなのに。

…ああ、わたしは普通の女の子じゃなかったか。

そして目の前の男も、普通じゃなかった。

なら、こういう雰囲気も当たり前か。

「…って、納得できるかぁ!」

いきなり怒鳴ったわたしを見て、アイツはびくっと体を震わせる。

わたしは眼をつり上げ、アイツの目の前まで足音高く近付いた。

「もう少し、空気読んでよ! せめてイルミネーションが一番綺麗な場所で言うとかなんとか、あるじゃない!」

「だっだから言い出せなかったんだ」

「不器用にもほどがあるわよ!」

どこまで不器用な男なんだ! コイツは!

「…でも、わたしのどんなところが良いのよ? こんな可愛げのない女、滅多にいないけどさ」
「ん~っと。そういうハッキリしているところが良いんだ。お前は自分の気持ちに、嘘をつかないだろう?」

そう言って優しく微笑むものだから、…思わず胸キュンしてしまう。

滅多に見られない表情を、わたしの前だけ出すなんて…卑怯だ。

「俺は逆に誤魔化してばかりだからな。お前の生き方が、眩しく見えたんだ」

「…それでもっと近くで、見てみたいと思ったの?」

「ああ。そしてできれば一番近くで、ずっと見ていたいと思った」

…ストレートな告白。

愛の告白まで、ぶっきらぼうだけど…その分、本気さがダイレクトに伝わってくる。

「…わたし、めんどくさい女よ?」

「ハッキリしているから良い。俺が邪魔な時は言ってくれるだろう? お前がお前らしく生きてくれるのならば、気を使ってくれなくても良いから」

「むぅ…」

自分で自分のことを『めんどくさい女』だと言っているのに、コイツは本当に変わっている。

何となく、シャクだ。

わたしは顔を上げて、改めてアイツの顔を見る。

今も見たことのないぐらい、優しい顔で微笑んでいる。

コイツとずっと一緒にいたら、今まで見られなかった表情も、見せてくれるのかな?

何となく…見たい気もする。

それをわたしだけが独占できるって言うのが、おいしいと思ってしまう。

だから背伸びをして、キスをした。

「っ!? おいっ!」

触れるだけの一瞬のキスだったけど、アイツは顔を真っ赤にするぐらい照れる。

触れた唇は冷たかったけど、心も体も火照るぐらいに熱くなっていく。

「…何よ? 恋人がクリスマスにキスしたら、おかしい?」

だけど照れ臭くて、思わずぶっきらぼうな言い方になってしまう。

「お前なぁ…。キスなら、それこそ景色の綺麗な所で、なんじゃないのか?」

「やぁよ。だって同じようにキスしている恋人がいっぱいいるもん。人に見られるなんて、イヤ」

これは本心。

たくさんのキスシーンを見ながら、二人の世界に浸れるほど、まだわたし達の仲は深くないから。

「まったく…」

アイツは苦笑しながら、それでもわたしを抱き締めてくれる。

「お前のペースには、ホントまいるよ」

「そんなわたしを選んだアンタが悪い!」

「ははっ。そりゃそうだな」

頭上で笑うアイツの顔を見たくて、わたしは再び顔を上げる。

すると今度はアイツの方からキスしてきた。

「んっ…」

「―好きだよ。マイペースに生きているお前が、誰よりも好きだ」

「うん…。わたしも不器用なアンタが好きよ」

間近で見つめ合いながら、わたし達は笑いあった。

景色が白く染まる中、それでもわたし達の熱は上がっていく。

「あっ、それともう一つ、言っておくことがあったわ」

「何だ?」

わたしはアイツの頭を抱え、耳に唇を寄せた。

そしてそっと囁くような声で、言う。

「―メリークリスマス」
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