剣士リーリアは漫画家になりたい

あのまろ

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第一章

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「「うおおおおおおおお!!!!」」
「ひいぃぃ……!! 

 人が一斉に動き、辺りに地鳴りが響く。
 雄叫びをあげ、打ち合いを始めた。

「まずいよお……どどど、どうしよう……こんな野蛮な場所、くる予定なんてなかったのにっ、このままじゃ殺されちゃうよ!」

 は、はじまってしまった。
 犯人はわかったが、だからといって、何かが変わるわけでもない。
 分かろうが、わからまいが、どの道大ピンチだよ!

「と、とりあえず逃げきらなきゃ……!」

 このまま戦いになったら、素人のわたしは無事ではすまない。
 素人が防具もなしに殴られれば、骨の一本や二本は簡単に折れる。
 打ち所が悪ければ、最悪死んでしまうかもしれない……
 とにかく今は、逃げることだけを考えなくてはっ。

「くっ、ひ、ひとだらけ……どこに逃げればっ!」

 だが、この乱戦の中ではどこにいっても人だらけだ。隠れられそうな場所もない。
 試験終了まで逃げ切るなんてことが可能なのか。

「おっとお嬢ちゃん、悪く思うなよ! これも戦いだからな!」

 身長2mはあろうかというムキムキマッチョな男が剣を手に襲ってきた。
 おそろしくでかい。その上、スキンヘッドだ。
 本当に同じ13歳なのかこいつ!?

「ひいっ!」
「な、何ぃ!?」

 振り下ろされた剣をよけて、すばしっこく人混みの合間を縫って走り出す。
 相手はわたしを追ってこれない。
 巨体だけあって、のろまで助かった。

「おっと、活きのいい獲物だねえ! あたいの斧の錆びになってもらうよ!」

 しかし、今度はがたいのいい女生徒が斧を持って襲いかてってきた。
 って……ええっ!? 何で斧!?
 これって剣術部の試験だよね!? 斧って反則じゃ……!?

「くらいなぁっ!!」
「ひぃえぇっ!!」

 間一髪のところで斧をよける。斧は地面にめり込んで地割れを起こした。

「何っ!? あたいの渾身の一撃をあのたいせいからよけるなんてっ!?」
「何っ!? じゃねえよ! 何考えてんの!?本当に殺すつもりなの!?」
「うるさいよ! この斧はね あたいの魂なんだよ!」

 会話になってない! 
 剣士志望のやつはほんと狂ってるやつしかおらんのか!
 地面に突き刺さって抜けずにいる斧使いを尻目に走り出した。

「や、ヤバい……! しぬ! まじで……!」

 くそ、やっぱり無理だよこれ。
 逃げ切るなんて不可能だ。
 このまま何度も襲われ続ければ、やがて力尽き攻撃を受けてしまう。
 試験開始してからまだ数分しかたっていない。
 どうやってもわたしの体力がなくなるのが先だ。
 さっきから体の震えが止まらないし。

「あなたね……さっきから大量の魔力を放って周りを威圧しているのは……?」
「えっ……」

 全速力で疾走していると、今度は三人組に行く手を阻まれた。
 ちくしょーまたかよ! 次から次へとエンカウント率高すぎ!

 一人はぱっつん黒髪ロングの女の子。
 二人目は気弱そうなみどりの髪の女の子。
 三人目は金髪のモブっぽい男だ。

「悪いけど、ここであなたには倒れてもらうわ……」
「あ、あの……わたしたちあなたを倒すために同盟を組んだんです……覚悟して下さい……」
「三人がかりなんて卑怯なんて言葉はよしてくれよ……この僕の力を持ってしても君の力は強大で危険だ」

 三人は口々にそういって、逃げ場を塞ぐようにわたしを囲んだ。
 まずい……! 
 これじゃあ逃げられない!

「ちょっと待ってください……! なんでわたしを狙うんですか?! 他にもいっぱい人いるじゃないですか!」
「あなたが一番の脅威と判断したからよ……アリスさん以上に魔力が多い……あなた危険だわ……」
「ええっ、魔力なんてないですよわたし! そもそも剣を振るったこともなくて!」
「だまそうとしても無駄よ……わたしたちこう見えても、その辺の雑魚とは違って多少なりとも魔力があるの……だからあなたの魔力も感じられる……かくしたりできないわよ」

 そういう彼女たちの向こう側には、たくさんの人間の遺体が転がっていた……
 いや、実際には遺体ではなく、ボコボコにやられてただ気絶してるだけだろうけど。
 しかし、その数30人以上はいる。
 これをこの三人で短期間の内にやったのか?
 そうだとしたら、実力は今さっきのスキンヘッドや斧使いとは比べ物にならない。

「ひい……ヤバいよ。魔力なんて、そんなものないって……」

 魔力? 脅威?
 そういえば、ミハニアさんもわたしの魔力がどうのと言っていた。
 ここは異世界だし、やっぱりわたしには魔力が宿っている……?!
 いや、例えそうだとしても魔術なんてさっぱりだし、魔力だけあってもどうしようもないよ!

「さあ、覚悟はいいかしら!」

 黒髪の女の子が剣を振り上げる。
 それに続くように他の二人も剣を振り上げた。

「ひぃ……!」

 逃げ道を防がれているので、さっきのようには逃げられない。
 頭を抱えてうずくまった。
 ここまでなのかわたしの人生は!

「リリィ大丈夫!? 」

 しかし神はわたしを見捨てなかった。
 三人の間を人影が通り抜ける。

「ラナちゃんとメーロルちゃん!」

 とっさにその名を叫んだ。

「助けに来たよ! リリィちゃん!」
「ふっ! はああッ!」
「チッ!」
「なにッ!?」

 ラナとメーロルがわたしと三人の間に入って、剣を弾いてくれた。

「へへ、なんだかんだ言ってリリィも結局剣術部にきたんだね」
「リリィちゃんなら来てくれると思ってたよっ」
「いや、それには……色々と事情があって……」

 まさかこの場面でラナとメーロルが来てくれるとは! 
 自分のことでばかりで忘れていたが、二人もこの場にいるんだった。
 ありがとう。二人とも!  心の友よ!

「くっ、あなたにも仲間がいたのね……不覚だわ……」

 突然の事態に黒髪の女の子は爪を噛んで、嫌な顔をした。
 他の二人も予期せぬ事態に驚いている。

「どうする? 相手が三人なら当初の作戦通りいかないぜ。一旦撤退する?」
「見たところ助っ人は雑魚だし、本命はわたしがなんとか押さえておくから、あなたたち二人でさっさとやっちゃっいなさいな……」

 しかし、向こう側に引く気はないらしい。
 こちらに剣先を向けて構え直す。

「おっと、君の相手は僕がするよ。少しは楽しませてくれよ」
「あ、あの……よ、よろしくお願いしますね……弱小さん……簡単にやられないでないでね……」
「あって早々弱小扱い? ……失礼しちゃうよ! こっちはアリスと戦わないといけないんだから、さっさと倒させてもらうよ!」
「ラナちゃん行くよ!」

 ラナとメーロル、気弱そうな少女と金髪の男がそれぞれ踏み出す。
 甲高い音がなって剣と剣がぶつかり合った。

「くっ、予想外だわ……まさかあなたには子分がいたなんてね」

 黒髪の女の子も剣劇を繰り広げる4人を尻目に剣を構え直した。
 いや、二人は子分じゃないんだけど……

「まあいいわよ……わたしはあの金髪と緑よりもはるかに強いから。数分間くらいならあなたをとめる自信があるわ……」

 あれ、ちょっとまってこの流れってまずくない?
 三対三で、二人が戦っているってことは、一人余るってことじゃん……
 結局二人が来ても、わたしも戦わないといけないじゃん!

「ほらほら、どうした? その程度かい? こちらまだまだ余力があるよ」
「くっ、こいつ! 強い!」
「ふふ、やはり予想通りの実力ですね……これならわたしでも勝てそう……」
「なっ、このぉっ!!」

 二人を見ると苦戦していた。
 とても、こちらに構っている余裕なない。

「ま、ま、待ってください! 少しお話ししませんか?! こうみえてわたし結構しゃべり上手でして! 面白い話とかできますよ?」

 とっさに事実でもないことを言ってしまう。
 何いってんだ、わたし……

「無粋ね……実は私、あなたと戦ってみたかったのよ。でも流石にこの試験は負けるわけにはいかないから三人がかりで安全策をとらせてもらったというわけ……」

 そして、こいつもこいつで何言ってんだって話だ。

「どこの剣豪か知りませんが、相当の手練れだとお見受けします。いざ、お覚悟を!」
「ちょ、ちょっとまって!」

 黒髪の女の子は一気に間合いを積めて、剣を振るってきた。
 もうやるしかない!

「はあぁっ!」
「ひぃっ!」

 木剣を前に突き出し、なんとか黒髪の少女の一撃を防ぐ。
 甲高い音がなって、少女の剣が弾かれた。

「ふっ、はああっ!!」
「なっ!」

 返す刀で斬りかかってくる。
 不意を突かれたが、その一撃も弾き返す。

 もういっそ逃げようか。
 逃げ道ができた今なら簡単に逃げられる気がする。
 けど、助けに来てくれた二人に背を向けて逃亡は……さすがにクズすぎるよね。
 クズなわたしにも一応の良心はあるってもんだ。

「くっ、はあああッ!」
「ううっ!」
「このっ!」
「くうっ!」

 何度も、剣閃が襲ってくる。
 剣のつかを両手で持ち直し、その軌道を打ち返す。

 あれ? でもなんだか結構戦えてる?
 剣を弾き返せているし、力負けしていない。

 それどころか、押し戻してさえいるし。
 相手の動きも手に取るようにわかるんだけど……

「つ、強いわ……! これほどとは……」

 強いわって……わたし、何にもしとらんのだが……
 ただ、相手の動きが読めて、それにあわせて剣を軌道上に持って行ってるだけで……

 いや、でもなんでそんなことが軽々とできているんだ?
 やっぱり転生者だから特殊な力でも備わっているんだろうか?
 ステータス画面を開いたら、レアスキルがたくさん付与されているとか……
いや、この異世界にステータス画面なんてないんだけども……

 わたしは防戦一方だった。
 しかし、一発一発剣を打ち合うごとに何故か黒髪の少女は顔を歪め、体勢を崩していった。

 そして決着の時はすぐにやってきた。

 少女が横なぎに斬りかかった剣を掬い上げるようにして防御する。
 すると剣は弾かれるようにして、少女の手からするりと抜け、向こう側に飛んでいった。

「え?」
「うっ、そんな……」

 黒髪の少女は明らかに動揺していた。
 わたしも驚きをかくせない。
 あれ? 今何が起こったんだ……
 ほとんど力を入れてなかったんだけど……

「完敗だわ……わたしの負け……まさかまったく及ばないなんて……」

 少女は悔しそうにうつむく。
 もしかして勝ったのか?
 剣を弾き飛ばしたということは、剣士の常識の中では勝ちということなのだろうか……?

「あなた想像以上だわ……魔力を放って周りを挑発してるだけのことはあるのね……そ、それだけ強かったら納得よ……」

 少女は意気消沈して、アベリア先輩のいる方へ歩いていった。
 目の前の脅威を排除したということは勝ったといっても差し支えないだろう。

「ふえ? ……なんで?」

 なんで、わたしこんなに戦えるんだ。
 しかも、一瞬のうちに勝敗がついちゃったし。
 意味不明だ。理解が追い付かない。

 剣なんて一回も振ったことないし、前世でも剣道をやってたとかいうわけでもない。
なのにどうやったらきれいに剣がきれいに振れてどうすれば、相手の剣を上手くいなせるかすべてわかった。
 筋肉なんて大してないのに、剣は羽のように軽く、動体視力なんてあるわけないのに相手の動きはすべて見切って、おまけに次の行動まで全部予測できたんだが……

 初めてなのにそんなことできるか? 普通……?
 言うなれば、絵を一度も描いたことない人間がマンガ雑誌に応募していきなり連載を獲得するようなもんだよ。
 ありえん……

「もしかしてリーリアちゃんって剣がうまかったのかな? いや、でもそんなはずはないよね……」

 リーリアはたしか、運動神経皆無で三人の中では一番弱かったはず……
 でも“観察眼だけは優れてた”ってラナ言ってたような気も……

 まあ、でも今あれこれ考えても仕方ない。
 と、とにかく勝利できて良かった。
 今は無事でいられたことを喜ぼう。

「よ、よかった……ふふ、案外わたしって強いのかな? 天才だったりするのかな?」

 これなら、この試験も無事に乗り越えられる。
 なぜなのかなんて知るよしもないが、今の一瞬でわたしは戦えるということがわかった。
 剣術は素人だが、剣はなぜか扱える。
 ラナとメーロルと一緒に同盟を組んで戦えば、何とかなりそうだよ。

「ラナちゃん、メーロルちゃんやったよ!」

 ラナたちの戦いの方はどうなったのかな?
 そう思って二人が戦っていていた方を振り向いた。

「え……メーロル……ちゃん……?」

 しかし、そこにいたのはボロボロの状態で地面に横たわるメーロルだった。

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