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異世界転移をした彼女は異世界の常識を変えようと試みるが、勇者がくそ過ぎて困りました

29魔王にはいろいろな意味で勝てそうにありません

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 平和な光景は長くは続かなかった。女性陣四人が楽しくビーチバレーに勤しんでいる様子を上空から観察しているものがいた。

「あのような珍妙な格好をして恥ずかしくはないのだろうか。それにしても、そのような格好を思いついたあの男の感性を疑いたくもなるが。」

 観察していたのは、ユーリたちに接触していた女性の一人であり、ユーリに抱き着いていたチャイナ服を着た女性だった。女性の頭には人間にはない角が生えており、背中には、コウモリのような翼が生えていた。さらには、お尻に黒い尻尾が揺れていた。

「ですが、あの男こそが、今回の勇者というではありませんか。魔王側としては、あんな弱そうな男が勇者というのは、こちら側をバカにしているとしか思えず、屈辱的です。」

「そうは言っても、弱そうなのは、こちら側にとって好都合ではないか。今まで倒されてきた魔王様たちの仇をやっと討てるまたとない機会ですわ。」

 チャイナ服の女性以外にも二人ほど、同じように頭に角と背中に羽を生やした女性が二人、空からユーリたち一行を観察していた。彼女たちもユーリに接触していた。白と赤の巫女装束姿、真っ赤な帽子とミニスカを履いたサンタ姿の女性だった。


 こんなに破廉恥な格好をしているのに、どうやら水着のビキニ姿は彼女たちにとって、目新しい服装として映るようだった。




「来たな。それにしても、この世界の女性はどうして、こうもオレの心の癒しとなるのか。敵も味方も最高だ。いたっつ。」

「その思考を何とかしないと、そのうち誰かに刺されて死ぬぞ、くそ男。」

 ユーリとカナデは、上空にいる魔王側の女性を認識していた。彼女たちは隠ぺいの魔法を使っていて、自分たちに気付いていないと思っていたようだが、ユーリとカナデには効果がなかったようだ。ただし、他の女性陣は気づいていないようだった。上空の敵に気付かずにのんきにビーチバレーに勤しんでいる。

「じゃあ、計画通りにいきますか。いたっつ。」

「いちいち恰好をつけるな、キモい。」

 ユーリの言動一つ一つに対してむかつくので、話すたびに足を踏んでやったカナデ。ユーリの痛そうな顔を見て、少しすっきりした気分となった。



 その様子をそばで観察していたものがいた。

「私にも、上空の女性が見えるのですが、これもまた、運命という奴ですか。」

 聖女はため息をついて、砂浜でのんきにビーチボールを楽しんでいる女性陣に声をかけるべき、日陰から抜け出した。




『上空、オレの視界にうつる生き物は、俺の前にひざまづけ。』

 さっそくユーリは作戦の実行に取りかかる。魔王側である女性たちは、いったんユーリに接触してどこかに姿をくらました。去り際にまたユーリたちに接触すると宣言してきた。だからこそ、イザベラたち女性陣にビーチバレーをさせて、いかにも襲ってくださいというすきを見せることにした。

 再び姿を現したところをユーリのチート能力で捕獲する。そして、その力を活用して、魔王の居場所を吐かせ、女性たちを人質にとるというシンプルな作戦と呼べるかわからないものだった。しかし、以前にシーラたちの村を襲われた際に、ユーリが魔王の手下を始末し損ねて、突如逃げられたことから、魔王は意外に慈悲深い奴だということがわかった。ユーリの力の前に逃げることは不可能だった魔王側の部下を逃がしたのは、おそらく魔王本人だろう。今回もその手を使おうと思ったわけである。

 ユーリの能力が発動した。とたんに、ユーリの目の前に突如、魔王側の女性たちが姿を現した。そこにいたのは、破廉恥な格好をした女性が三人。チャイナ服、巫女装束、ミニスカサンタ姿の美女たちだった。ただし、出会った時にはなかったものがついていた。頭に角、背中にはコウモリのような翼、お尻には悪魔のような黒い尻尾が生えていた。

「も、もしかして、こいつらは俗にいう、バンパイアとか、サキュバスとかいう奴か。ああ、なんてオレは罪深いことをしようとしているのか。」

「いや、いちいち、美女に出会うたびにそのセリフはやめてくれない。キモすぎて、毎回突っ込む私の気持ちも考えて欲しい。」

 ユーリとカナデは、目の前の美女たちの顔が苦痛と屈辱に顔をゆがめているのも気にせず、通常運転の会話をする。それが女性たちには限界だったのだろう。チャイナ服の女性が叫んだ。

「お、お前、なぜ、私たちのことに気付いた。私たちは隠ぺいの魔法を使っていたはずだ。それに、どうしてこのような高度な魔法を……。」

「ああ、すまんすまん。そこのくそ女と会話していて、あなた方への挨拶が遅れてしまった。改めまして、私の名前はユーリ。あなた方のボスである、魔王の敵ともいえる存在です。」

 にっこりとカッコつけて自己紹介を始めるユーリ。すでに勝者の余裕という雰囲気を女性たちに見せつけている。


「ユーリ様。魔王の手下が来ているというのは本当ですか。」

「ああ、ユーリ様、私たちがそんな下品な女性の相手をする必要はありません。」

 異変に気付いたイザベラとシーラが、ユーリのもとに駆け寄ってきた。走ってくる様子をガン見しているのはユーリ。カナデも思わず凝視してしまった。イザベラは女性騎士ということもあり、筋肉質な感じだったが、胸は大きく豊かだった。対するシーラもしなやかな女性らしさを備えた肢体にこちらは、イザベラよりもさらに豊満な胸。その二つの胸が走るたびに揺れてタプンタプンと揺れていた。


「ユーリ様。敵が来たなら、私たちに行ってくれればすぐに倒したのに。」

「かっこいいところ独り占めはずるい。私の活躍も見せたい。」

 続いてやってきたのは、エミリアとルー。こちらはまだ幼い容姿に見合った可愛らしい走り方でやってきた。当然、胸は小さいが、これはこれで満足だとこちらの二人も凝視する二人。やはり、頭の中は似た者同士で腐っていた。


「おほん。」

 二人の視線が四人の姿に集中しているのをとがめたのは、ソフィアの咳払いだった。はっと我に返ったユーリとカナデは慌てて、平静を装うために一度深呼吸をする。これも息がぴたりと会った見事なハモりを見せていた。


「皆、集まったようだな。それでは、君たちには一つ質問をしよう。正直に答えてくれると助かる。答えない場合は、強制的に答えさせる用意はできているので、心して答えるように。」

 その上から目線の態度に女性たちはバカにするような嘲笑を浮かべる。ケっと柄の悪いヤンキーみたいに舌打ちする。

「バカな勇者だな。お前みたいな頭の悪そうな男の質問に誰が正直に答えるものか。」

「そうだ。それに、こんなことをしてただで済むと思うなよ。」

「私たちのボスは魔王様だ。そこを忘れてくれるなよ。」

 口々にユーリをバカにするような態度で反論する女性たちに、ユーリはイラっと来たようだ。しかし、ユーリが何か話す前に反論する者たちがいた。


「ユーリ様を愚弄するとは何様のつもりだ。」

「ユーリ様、あなた自ら手を下す必要はありません。我々がこの不届き物の処分をいたします。」

「ルーがやってもいいよ。」

「いや、私のこの魔法で消し炭にしてやる。」


 ユーリたちに与する勇者軍と魔王率いる魔王軍が両者睨み合う。そこに割って入ったのは、ユーリののんきな声だった。

「まあ、そこまで威嚇することはないだろ。オレたちはただ、魔王が今どこで何をしているのか聞きたいだけだからな。」

「お前ごときに教える筋合いはない。それに、知っていて、わざわざ敵に情報を流す阿呆はいない。」


「そうか。では仕方ない。オレは忠告したからな。では、強制的に魔王の居場所を吐いてもらおうか。」




『その必要はない。』

 ユーリが魔王側の女性陣に強制的に魔法をかけ、魔王の居場所を吐かせようとしたその瞬間、突然、稲光がユーリの目の前に落ちた。とっさにユーリはイザベラたち女性陣をかばうようにシールドを展開する。

「お前が今回の勇者か。なるほど、確かに報告通り、頭の悪そうな顔をしている。彼女たちに渡した服装が役に立ったようだな。」

 光に目が慣れて目を開いて確認すると、そこには、先ほどまでいなかった漆黒の男が立っていた。


「び、美形だ。これもまた、異世界のテンプレかもしれない。」

「けっつ。美形の男なぞ、オレのいる世界に必要ない。けってい。オレはお前をぶっ殺す。」

 今、魔王と勇者が邂逅した。

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