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瀧という男①
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平日のバイトは、きちんと給料が出る仕事であり、つまり普通の生徒に勉強を教える仕事である。今日は塾に行くと、すでに瀧さんが教室で準備をしていた。
「こんにちは、瀧先生。今日もよろしくお願いします。」
「こんにちは、朔夜さん。こちらこそ、よろしくお願いします。」
挨拶をして私も塾の準備にとりかかる。西園寺さんに聞かされた、佐藤さんのことが頭から離れずに無言で教室内の掃除をしていると、それを見かねた瀧さんが話しかけてきた。
「今日はなんだか元気がないようですね。大学で何かあったのですか。」
瀧さんは私が落ち込んでいるのに気が付いたようだ。そんなに元気がなかっただろうか。別にいつもと変わらずに仕事をしていると思うのだが。
「電源が入っていない掃除機で掃除をしても、きれいにならないと思いますが。」
続けて瀧さんが私の行動を指摘した。いつもと変わらずに仕事をしていると思ったが、どうやら相当おかしな行動をしていたらしい。さっきから掃除機を動かしていたが、道理で掃除機がごみを吸い取る音がしないし、床の埃が取れないと思った。
「すいません。大学でちょっと気になることを聞いたものですから。別に心配するようなことではないのですが、大学の知り合いが授業を欠席していて、たぶん風邪だと思うのですが、なんだか気になってしまって。突然休むような子ではなかったと思うので余計に心配で。」
嘘は言っていない。佐藤さんには友達だと言われたが、私はそれに了承していない。西園寺さんの話が本当ならば、犯人に殺されているということになるが、私はそれを信じていない。
「そうですか。それは心配ですね。ですが、生徒の前では明るくふるまってくださいね。仕事中ですから、それくらいはできますよね。」
確かに今は仕事中であり、きちんと給料が発生する。私は気を引き締めて塾に生徒が来るのを待った。
今日は普通の生徒たちで、頭に動物の耳も生えていなければ、尻尾も生えていない。自分の記憶は持っている。私は生徒たちに勉強を教えながら、幽霊となっても塾に通っている生徒たちを思い出す。そして、私がこの塾で働く前に、この塾で働いていた先生がいたことも思い出した。思い出したら、どのような理由で辞めてしまったのか気になってしまった。
「先生、この数学の文章問題ややこしくてわからないから、どうやって解くか教えてよ。」
「ここはこの数式を使って解くといいよ。そういえば、ここの先生が何人かすぐにやめたって聞いたけど、前の先生はどんな先生だったのかな。」
勉強を教えながら、気になったことを生徒に聞いてみる。今質問をしてきた生徒は、中学1年生の男の3つ子の一人である。
初めて3つ子という存在に出会ったが、この3人は本当によく似ていて、まだ塾に来て間もない私には見分けがつかない。本人たちも、自分たちが他人にとって見分けがつかないことはすでに知っていることなので、間違えても笑って許してくれる。早く覚えて、しっかりと彼らの名前を呼んでやりたいのだが、なかなか覚えられない。
彼らはこの塾に通っている年数が長いようなので、私の前にいた先生が、なぜやめたのか理由を知っているかもしれない。
「前の先生は、宇佐美翼先生といって、背は高かったけど、全体的にウサギっぽい先生だったよ。男のくせに色白で、弱そうな先生だった。ウサギ先生というと怒られるから、誰も面と向かって呼んでなかったけど、陰ではウサギと呼んでいたよ。」
私の質問に答えたのは、別の机で勉強していた3つ子の一人である。さらに別の机からも声が聞こえてきた。
「それより先生。あの先生は突然やめたんだ。また明日といって挨拶したのに、次塾に行ったらやめていたんだ。あんな無責任な先生のことなんかいいから、朔夜先生の話を聞かせてよ。」
3人は前の先生の話には興味がないようで、これ以上は前の先生について聞くことはできなかった。私の話を聞きたがっていたので、答えられる範囲で質問に答えていった。
それにしても、翼という名前にウサギに似た先生。その名前と特徴を持った人物を最近どこかで見たような気がする。もう少しで思い出せそうなのだが、残念ながら思い出すことはできなかった。
塾に来た生徒が全員帰り、片付けを早めに終わらせた私たちは、机に向かい合わせになっていすに座る。
「さて、今日は早く片付けが終わったので、少し雑談でもしましょうか。まずは、私がなぜ幽霊たちに勉強を教えることにしたかという話をしましょう。朔夜さんも興味があるでしょう。」
夜中に男女が二人きりで話をする状況になったが、私は特に気にすることはなかった。瀧さんは見た目だけは良いけれど、私のタイプではない。それに性格が残念系である。一緒に働いているが、ただのバイトの上司である。ここで何か恋愛感情が芽生えるということはないだろう。
瀧さんは自分の生い立ちと初めて幽霊と会話した時のことを話し出した。彼はお寺の息子で、昔から幽霊を見ることができたらしい。ただ、自分には見ることができて、他人には見えないのでいろいろ苦労していたようだ。
「こんにちは、瀧先生。今日もよろしくお願いします。」
「こんにちは、朔夜さん。こちらこそ、よろしくお願いします。」
挨拶をして私も塾の準備にとりかかる。西園寺さんに聞かされた、佐藤さんのことが頭から離れずに無言で教室内の掃除をしていると、それを見かねた瀧さんが話しかけてきた。
「今日はなんだか元気がないようですね。大学で何かあったのですか。」
瀧さんは私が落ち込んでいるのに気が付いたようだ。そんなに元気がなかっただろうか。別にいつもと変わらずに仕事をしていると思うのだが。
「電源が入っていない掃除機で掃除をしても、きれいにならないと思いますが。」
続けて瀧さんが私の行動を指摘した。いつもと変わらずに仕事をしていると思ったが、どうやら相当おかしな行動をしていたらしい。さっきから掃除機を動かしていたが、道理で掃除機がごみを吸い取る音がしないし、床の埃が取れないと思った。
「すいません。大学でちょっと気になることを聞いたものですから。別に心配するようなことではないのですが、大学の知り合いが授業を欠席していて、たぶん風邪だと思うのですが、なんだか気になってしまって。突然休むような子ではなかったと思うので余計に心配で。」
嘘は言っていない。佐藤さんには友達だと言われたが、私はそれに了承していない。西園寺さんの話が本当ならば、犯人に殺されているということになるが、私はそれを信じていない。
「そうですか。それは心配ですね。ですが、生徒の前では明るくふるまってくださいね。仕事中ですから、それくらいはできますよね。」
確かに今は仕事中であり、きちんと給料が発生する。私は気を引き締めて塾に生徒が来るのを待った。
今日は普通の生徒たちで、頭に動物の耳も生えていなければ、尻尾も生えていない。自分の記憶は持っている。私は生徒たちに勉強を教えながら、幽霊となっても塾に通っている生徒たちを思い出す。そして、私がこの塾で働く前に、この塾で働いていた先生がいたことも思い出した。思い出したら、どのような理由で辞めてしまったのか気になってしまった。
「先生、この数学の文章問題ややこしくてわからないから、どうやって解くか教えてよ。」
「ここはこの数式を使って解くといいよ。そういえば、ここの先生が何人かすぐにやめたって聞いたけど、前の先生はどんな先生だったのかな。」
勉強を教えながら、気になったことを生徒に聞いてみる。今質問をしてきた生徒は、中学1年生の男の3つ子の一人である。
初めて3つ子という存在に出会ったが、この3人は本当によく似ていて、まだ塾に来て間もない私には見分けがつかない。本人たちも、自分たちが他人にとって見分けがつかないことはすでに知っていることなので、間違えても笑って許してくれる。早く覚えて、しっかりと彼らの名前を呼んでやりたいのだが、なかなか覚えられない。
彼らはこの塾に通っている年数が長いようなので、私の前にいた先生が、なぜやめたのか理由を知っているかもしれない。
「前の先生は、宇佐美翼先生といって、背は高かったけど、全体的にウサギっぽい先生だったよ。男のくせに色白で、弱そうな先生だった。ウサギ先生というと怒られるから、誰も面と向かって呼んでなかったけど、陰ではウサギと呼んでいたよ。」
私の質問に答えたのは、別の机で勉強していた3つ子の一人である。さらに別の机からも声が聞こえてきた。
「それより先生。あの先生は突然やめたんだ。また明日といって挨拶したのに、次塾に行ったらやめていたんだ。あんな無責任な先生のことなんかいいから、朔夜先生の話を聞かせてよ。」
3人は前の先生の話には興味がないようで、これ以上は前の先生について聞くことはできなかった。私の話を聞きたがっていたので、答えられる範囲で質問に答えていった。
それにしても、翼という名前にウサギに似た先生。その名前と特徴を持った人物を最近どこかで見たような気がする。もう少しで思い出せそうなのだが、残念ながら思い出すことはできなかった。
塾に来た生徒が全員帰り、片付けを早めに終わらせた私たちは、机に向かい合わせになっていすに座る。
「さて、今日は早く片付けが終わったので、少し雑談でもしましょうか。まずは、私がなぜ幽霊たちに勉強を教えることにしたかという話をしましょう。朔夜さんも興味があるでしょう。」
夜中に男女が二人きりで話をする状況になったが、私は特に気にすることはなかった。瀧さんは見た目だけは良いけれど、私のタイプではない。それに性格が残念系である。一緒に働いているが、ただのバイトの上司である。ここで何か恋愛感情が芽生えるということはないだろう。
瀧さんは自分の生い立ちと初めて幽霊と会話した時のことを話し出した。彼はお寺の息子で、昔から幽霊を見ることができたらしい。ただ、自分には見ることができて、他人には見えないのでいろいろ苦労していたようだ。
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