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第5章 いじめの代償~席替え~

1(9)クラス委員長①

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 ぼくは、クラス委員長をやっている。委員長というと、真面目で正義感あふれる、リーダーシップに優れた子がやるというイメージが強いけれど、ぼくはそんなことはない。どちらかというと、その反対だ。
 
 そもそも、ぼくは人見知りで、委員長などというクラスのまとめ役ができる人間ではない。

 どうして、ぼくみたいな人間が委員長になってしまったのか。自分でもよくわからない。


 しかし、委員長になるよう仕向けたのが誰かはわかっている。このクラスの真のまとめ役、ガキ大将みたいな女子だ。紫苑すみれ。彼女がぼくのことを委員長として推せんした。

 クラス中がおどろいた。ぼく自身もまさか自分が委員長に推せんされるとは思っていなかった。

 先生も予想外だったのだろう。少しおどろいた顔をしていたが、すぐに真面目な顔に戻って、どうしてぼくを推せんしたのか、彼女に理由をたずねた。





「だって、彼は自分の仕事をしっかりこなして、さらには、他の人の分の仕事も手伝ってあげているからです。他人の仕事まで手伝ってあげるくらいなら、逆に仕事の指示を出す立場になればいいのかなと思って。」

 こうして、よくわからない理由から、小学校5年生の1学期は、ぼくがクラスの委員長をつとめることになった。


「まあ、彼なら私の言うこともよく聞いてくれそうだし、何より、押しが弱そうだから使いやすいしね。」

 ぼそっとつぶやいた紫苑すみれの言葉に納得した。

 ああ、ぼくは操り人形でしかないんだ。彼女自身がリーダーになるのではなく、あくまで、彼女は、それを支えるクラスメイトの一人でありたいんだと。

 そんなことをしなくても、彼女はすでに良い意味かどうかはわからないが、クラスをまとめることに成功している。いまさら、彼女自身が委員長をやっても、誰も文句を言わないと思うのだが。しかし、それはないなと思いなおす。

 委員長の仕事は面倒なことが多かった。学校行事があるたびにクラスの代表として、いろいろな会議に出席しなければならない。さらには、何かにつけて、クラスの代表者としての発言を求められる。

 彼女はそれがきっとめんどうくさかったに違いない。委員長にならずにクラスメイトの一人として、クラスをまとめた方が楽に決まっている。

 そう思いながら、真面目なところだけは委員長向きな性格なぼくは、今日もクラスをまとめていく。



 


 今日の議題は席替えについてだった。席替えは大事だ。隣の席はもちろん、グループ活動をするうえでも、周りの席の人間が学校生活を左右するといってもいい。そんな大事なことをどうやって決めるかという話し合いだ。

「くじ引きで決めるのが平等だ」
「自分たちで好きな席を決める」
「先生がきめてくれればいい」

 決め方について、いろいろ意見が出された。ぼくとしては、くじ引きでも構わないのだが、それをすると、平等に席は決まるが、不満も多く出る。まあ、どの決め方をしても、不満は多かれ少なかれ出るのだから、関係ないと思う。

 またしても、紫苑すみれは口を出してきた。

「何やっても不満が出るのは仕方ないから、くじ引きで決めて、どうしてもという人たちが席をかえたらいいんじゃないかな。」

 紫苑すみれの意見が通り、くじ引きで決めて、その後は話し合って決まることになった。

 そして、くじ引きが始まった。さて、ぼくはどの席にあたるのだろうか。
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