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第4章 いじめの代償~物理的いじめ~
5(0-3)転校生の親①
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「あなたがたに面倒を見てもらいたいこどもがいるのですが、よろしいでしょうか。」
話があったのは約1年前。私たち夫婦にはこどもがいなかった。こどもは欲しかったが、できなかったのだから仕方がない。旦那もこどもができない私を責めることはなく、夫婦仲睦まじく過ごしてきた。
ある日のこと、私がスーパーで買い物をしていた時のこと。買い物を終え、スーパーを出て駐車場に向かっているところを呼び止められた。
「お断りします。そういうのは間に合っていますので。」
とっさに断ってしまった。いきなりこどもの面倒を見てくれと言われて、はいそうですか、と答える人はなかなかいないと思う。案の定、私の答えを予想していたのか、話しかけてきた男性はその答えに臆することなく、話を続ける。
「いきなりこんな話をしても信じてもらえないかもしれませんね。まずはお話だけでも聞いて頂けないでしょうか。」
男は30代くらいでスーツを着用していた。名刺を渡されてそこに書いてある内容を確認する。
「EC(エターナルチルドレン)佐々木千歳」
そこにはそれしか書かれていなかった。住所も電話番号も何も書かれておらず、彼女は戸惑った。これを渡されても何をしたいのか、何の目的で私に話しかけてきたのかわからない。
「すいません。仕事内容を一言でまとめるのは難しくて。まあ、すごく簡単にまとめると、ぼくたちは里親になってくれそうな人を探す仕事をしているといった感じです。」
里親を探しているのなら、それを先に言ってくれればこちらもそれ相応の対応ができたのに。そう思いながらも、私はその話を断った。
「子供の面倒を見るのはお断りです。」
本当は自分の子供がいないのが、嫌だった。子供連れの親子を見るたびにどうして私たち夫婦には子供がいないのだろうと自分を責める日もあった。それでも、見ず知らずの子供を引き取って里親になる勇気はなかった。それにもし里親を希望するならば、自分で調べて行動している。どちらにしろ、男の話に乗るつもりはなかった。
「そうとは言わずに話だけでも聞いて頂けませんか。」
断っても粘り強く私に付きまとってくるので、仕方なく話だけでも聞くことにした。そして結局、話を聞くだけでは終わらず、子供の面倒を見ることになってしまったのだった。
その後、旦那にも相談して、話はどんどん進み、子供がうちに来る日となった。面倒を見る子供は今年の春に小学校5年生になる女の子だった。
話によると、この少女を1年間だけ預かってほしいとのことだった。なぜ一年間だけなのか問うと、それは企業秘密と言われてしまい、答えてはもらえなかった。
これは仕事らしく、報酬は結構な額をもらうことになった。それはうれしいのだが、どうも預かる少女は何か問題を抱えているようだ。
親がいないか、虐待されているかに違いない。現に少女の目には覇気がなく、この年ですでに人生をあきらめたような暗い瞳をしていた。とはいえ、受け入れると決めたからにはしっかりと面倒を見なければならない。
こうして、1年間だけ家族が増えることになった。
その少女が学校でいじめに遭っていることがわかった。それは少女と旦那と3人で夕食を食べているときだった。少女が上靴の新しいものが欲しいと言い出したのだ。私はその言葉にピンときた。転校してからまだ数カ月しかたっていないのに上靴が新しく必要なわけがない。
少女には表情がなく、いつも無表情で何を考えているかわからないが、きっと学校でつらい目に遭っているのだろう。私は何も詮索せずに彼女に新しい上靴を買い与えたのだった。そして、それ以上何も言わない彼女をしっかりと抱きしめた。
「何かあったら、言ってちょうだいね。1年間は私たちを本当の家族のように思ってくれていいからね。」
そう言っても、彼女の表情に変化はなかったが、私はこの子を一年間守って見せると改めて決意したのだった。
話があったのは約1年前。私たち夫婦にはこどもがいなかった。こどもは欲しかったが、できなかったのだから仕方がない。旦那もこどもができない私を責めることはなく、夫婦仲睦まじく過ごしてきた。
ある日のこと、私がスーパーで買い物をしていた時のこと。買い物を終え、スーパーを出て駐車場に向かっているところを呼び止められた。
「お断りします。そういうのは間に合っていますので。」
とっさに断ってしまった。いきなりこどもの面倒を見てくれと言われて、はいそうですか、と答える人はなかなかいないと思う。案の定、私の答えを予想していたのか、話しかけてきた男性はその答えに臆することなく、話を続ける。
「いきなりこんな話をしても信じてもらえないかもしれませんね。まずはお話だけでも聞いて頂けないでしょうか。」
男は30代くらいでスーツを着用していた。名刺を渡されてそこに書いてある内容を確認する。
「EC(エターナルチルドレン)佐々木千歳」
そこにはそれしか書かれていなかった。住所も電話番号も何も書かれておらず、彼女は戸惑った。これを渡されても何をしたいのか、何の目的で私に話しかけてきたのかわからない。
「すいません。仕事内容を一言でまとめるのは難しくて。まあ、すごく簡単にまとめると、ぼくたちは里親になってくれそうな人を探す仕事をしているといった感じです。」
里親を探しているのなら、それを先に言ってくれればこちらもそれ相応の対応ができたのに。そう思いながらも、私はその話を断った。
「子供の面倒を見るのはお断りです。」
本当は自分の子供がいないのが、嫌だった。子供連れの親子を見るたびにどうして私たち夫婦には子供がいないのだろうと自分を責める日もあった。それでも、見ず知らずの子供を引き取って里親になる勇気はなかった。それにもし里親を希望するならば、自分で調べて行動している。どちらにしろ、男の話に乗るつもりはなかった。
「そうとは言わずに話だけでも聞いて頂けませんか。」
断っても粘り強く私に付きまとってくるので、仕方なく話だけでも聞くことにした。そして結局、話を聞くだけでは終わらず、子供の面倒を見ることになってしまったのだった。
その後、旦那にも相談して、話はどんどん進み、子供がうちに来る日となった。面倒を見る子供は今年の春に小学校5年生になる女の子だった。
話によると、この少女を1年間だけ預かってほしいとのことだった。なぜ一年間だけなのか問うと、それは企業秘密と言われてしまい、答えてはもらえなかった。
これは仕事らしく、報酬は結構な額をもらうことになった。それはうれしいのだが、どうも預かる少女は何か問題を抱えているようだ。
親がいないか、虐待されているかに違いない。現に少女の目には覇気がなく、この年ですでに人生をあきらめたような暗い瞳をしていた。とはいえ、受け入れると決めたからにはしっかりと面倒を見なければならない。
こうして、1年間だけ家族が増えることになった。
その少女が学校でいじめに遭っていることがわかった。それは少女と旦那と3人で夕食を食べているときだった。少女が上靴の新しいものが欲しいと言い出したのだ。私はその言葉にピンときた。転校してからまだ数カ月しかたっていないのに上靴が新しく必要なわけがない。
少女には表情がなく、いつも無表情で何を考えているかわからないが、きっと学校でつらい目に遭っているのだろう。私は何も詮索せずに彼女に新しい上靴を買い与えたのだった。そして、それ以上何も言わない彼女をしっかりと抱きしめた。
「何かあったら、言ってちょうだいね。1年間は私たちを本当の家族のように思ってくれていいからね。」
そう言っても、彼女の表情に変化はなかったが、私はこの子を一年間守って見せると改めて決意したのだった。
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