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第4章 いじめの代償~物理的いじめ~

3(26)いじめに加担する女①

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 かのじょ、紫苑すみれという人物はクラスの中心的存在だ。良くも悪くも目立っている。クラスのだれもがかのじょの行動に気を配っている。

 わたしもその一人だ。かのじょはバイオレットとよばれているので、わたしもそう呼ぶことにする。

 バイオレットは父親がえらいだけで、それがなければだれもかのじょのいうことにしたがわないというクラスメイトがいるがそれはちがうとおもう。

 バイオレットは背後の父親の存在が大きすぎて、本人はどうってことないと思われがちだが、そんなことを思っている奴は見る目がない。



 たとえば、勉強だ。バイオレットは地味にテストの点は毎回90点を超えている。おそらく、頭がいいのだろう。カンニングしている、先生のえこひいきだという人もいるが、それは頭が悪い人が言っているだけだ。ちょっと考えればわかることだ。

 テストの点数をごまかしたところで何かよいことがあるとも思えない。どうせ、頭が良くても悪くても父親がいる限り、私たちはバイオレットに何もできないのだから、ごまかす意味がない。

 一つ気になることがある。それはテストの点数だ。毎回90点以上なのはすごいと思うが、なぜか100点を取っていないのだ。これはバイオレットが本気でやって出た点数なのか、それとも手を抜いているのか、本当のことはわからない。
 しかし、バイオレットのことだから、きっとあえて100点にならないようにしているのかもしれない。

 運動面でも100点満点の結果を出していない。おそらくバイオレットは本気を出すということをしていない。どうしてなのだろうか。勉強も運動も本気を出して行えば、それなりに結果はついてくるし、やりがいもあって楽しいと思う。

 本気を出していないから、いつも退屈そうにしているのかもしれない。そうは言っても、わたしからは絶対に本気を出して勉強や運動をした方がいいですよ、なんて言うことはない。




 私は平凡を愛する人間だ。日々の生活を普通に何事もなく過ごしていきたい。その中に多少の幸せを感じることができれば、それだけで満足だ。

 だからこそ、私はバイオレットのターゲットに選ばれることを避けなければならない。他のクラスメイトがどうなろうとも、自分の平穏だけは守って見せるとこころに決めている。

 転校生は私の平穏を守ってくれそうだった。少し、変わった雰囲気を持っていたけれど、バイオレットのいじめの対象になってくれた。一人がいじめられていれば、その間は私たちはバイオレットの指示に従っていれば、とりあえずの平穏は保たれる。

 先日も上靴を隠し、机とイスを廊下に出せと指示があった。私は率先して行った。そうすることで、バイオレットに歯向かう意志がないことを証明しているのだ。

 可哀想だが、転校生にはせいぜいバイオレットの餌食になってもらおう。そして、願わくば、その期間が長いことを祈る。そうすれば、バイオレットから狙われる可能性が低くなる。せいぜい、バイオレットの興味を引くような反応をしてほしいものだ。
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