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第3章 いじめの代償~クラスメイトの無視~

4(18)バイオレットの取り巻きB

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 クラスに転校生がやってきた。うちの学校に転校生は珍しいから、クラスメイトは転校生に興味津々だ。しかし、ことさら興味を強く示したのは彼女だった。彼女はいつも退屈そうにしている。彼女の親は偉い人のようで、彼女が言えば何でも与えてくれる。彼女が悪いことをしても怒られることはない。

 退屈をもて持て余した彼女はいじめを始めた。クラスの中で最も弱そうな人物を見つけてはいじめていた。しかし、いじめた相手のここが気に入らない、むかつくという理由でいじめるのなら理由はわかるが、彼女の場合は違っている。いじめられているのはあくまで弱者であり、クラスの誰もがこの児童は自分より下だと思うようなものばかりを狙っている。



「クラスメイトで興味をそそる人物はいない。だから、順番にいじめてみるしかないなと思っているけど、さて次はだれにしようかしら。全員をいじめてみるなら、弱い順からの方が都合がいいと思うのよねえ。でも、学年すべての人を不登校にするわけにはいかないしどうしたら退屈を紛らわすことができるのかしら。」

 ある日の放課後、たまたま彼女が教室で一人残っているのを発見した。私はその日、ちょうど持って帰るのを忘れた宿題があり、教室に向かっていたのだが、教室に彼女がいて驚いた。何をしているのだろうと、様子をこっそりうかがっていると、独り言が聞こえたのだ。

 それを聞いて、私は背筋が凍る思いだった。つまり、彼女は退屈のあまり、最終的には学年すべての児童をいじめていくつもりだということだ。さいわい、私が教室の外にいることは気づかれておらず、私は忘れ物をとりに教室まで戻ってきたのに、そのまま教室から離れ、ダッシュで家まで帰ってしまった。

 それから私は今までの行動を振り返り、今後どのような行動をとればよいか足りない頭で必死に考えた。そして、一番の最善策は彼女に気に入られるような行動をとることだと結論が出た。

 彼女の言うことには逆らわず、彼女の表情を読み取り、どのような行動をすればよいかを考える。そんなことをずっと続けているうちにストレスがたまってきたのだろう。私はあるミスを犯してしまった。




 転校生をいじめの対象に定めた彼女は、手始めに日直を転校生に押し付けた。転校生は首をかしげながらも仕事を全うしていた。さらに彼女は日直の相方もクラスでも要領が悪いと思われている男子を指名した。さぞかし転校生はいい迷惑だっただろう。それでも文句も言わずに転校生は日直の仕事を全うした。

 その様子を見ていた彼女は次の行動に移した。クラスメイトに転校生を無視するように命令した。理由はくだらないものだった。

「転校生は私が嫌いみたいで悲しい。話しかけてもあからさまに嫌な顔をするし、彼女だってそんなことをされたことがあるのにひどい。だから、私たちで彼女に他人に対してあからさまに嫌な顔をするとどういう目にあうかわからせてあげましょう。」

 別にそれなら一言本人に、どうして私が話しかけると嫌な顔をするのと直接問いかければよいことだ。それをわざわざ回りくどく彼女に体感させなくてもいいと思う。しかし、彼女が言ったことなので、皆しぶしぶ彼女の指示に従うのだった。


「それはないかな。彼女もきっとそこまで追いつめてはだめだと思っているのかも。さすがに自分がいじめた人間が自殺したら後味が悪いんじゃないかな。まあ、彼女の考えることなんて私みたいな平民がわかるはずもないけどね。」

 転校生から、彼女がいじめを行っていて、それによって自殺をした人は今までいなかったのかと質問されて、つい答えてしまった。転校生は彼女がいないところで質問をしてきた。どうやら転校生も自分がクラスメイトから無視されていることに気付いているようだった。それもそうだろう。転校生を見ていると、か弱そうに見えるがそうでもないことがわかってきた。

 「あなたの方が大変だから気にしないで、他にもわからないことや聞きたいことがあったら遠慮なく聞いて。」

 さらにはこんなことまで私は転校生に言ってしまった。転校生はそうなのとうなずくだけで特にその後何かを言うことはなかった。

 私はきっと彼女が今後大変な目に合うとわかっていたからこそ、言ったのだろう。こんなことを言って転校生が本気にして相談してきても私には何もすることができない。

 転校生には願わくば、今までいじめられてきた他の人とは違って、いじめに屈せずにいてほしい。そして、できればこの狂ったクラスに終止符を打ってほしいと思っている。

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