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第3章 いじめの代償~クラスメイトの無視~

3(21)転校生③

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 日直を押し付けられてから数日が過ぎた。どうやら彼女は私にいじめの照準を合わせてきたようだ。今はまだ物を隠されたり、靴の中に画びょうを入れられたり、教科書などに落書きなどはされていない。物理的いじめはないのだが、精神的いじめを始めたようだった。
 私がクラスメイトに話しかけようとすると、それを察したかのように私から離れていくクラスメイト。明らかに数日前までと状況が一変している。


 さて、私がいじめの対象となったということは、私に対して興味を持ったということだ。好きにしろ、嫌いにしろ、興味を持たない相手には行動を起こさない。しかし、私がいじめの対象になったことは想定内だ。むしろ、そのように仕向けての行動を今まで行ってきた。

 たださえ珍しい転校生という属性。それに加えて前の学校でいじめられていたという可哀想な過去。性格もおとなしくてか弱く、つい守ってあげたくなってしまうというオプション付き。男子ならすぐに私のことを好きになること請け合いだ。女子に関しても、自分に対して脅威をもたらさないならば、仲良くなれること請け合いだ。とはいえ、男子の視線を独り占めしているので、女子からはそこまで支持を集めることはできなかった。




 彼女はそんな私の行動や態度が気に食わなかったのだろう。そして、私がこのクラスで唯一自分の地位を脅かす存在だと認識しているようだった。彼女の地位は父親の権力に一存している。その権力を振りかざして、何も考えずに、むやみやたらに弱い者いじめをしているかと思ったのだが、どうやら違うらしい。
 
 意外にも彼女のいじめは一過性のものではなく、計画性があるということだった。彼女のいじめの内容をクラスメイトが話してくれたのだが、彼女はいじめるにしても、突然行動を起こすのではなく、徐々に始めていくらしい。被害者が気付くころにはすでにいじめは本格化していてどうにもならなく、不登校になってしまう。その繰り返しのようだ。

 一つ気になったことを聞いてみた。そんなにもいじめが横行しているのなら、自殺した人はいるのではないか。もし死人が出るようなら、学校側もそこまで彼女を放置していないのではないか。クラスメイトに無視されている私なので、質問に答えてくれるかわからなかったが、彼女の取り巻きの一人に、彼女がいない時を見計らって質問してみた。彼女は紫苑すみれがいないことを確認すると、快く私の質問に答えてくれた。

「それはないかな。彼女もきっとそこまで追いつめてはだめだと思っているのかも。さすがに自分がいじめた人間が自殺したら後味が悪いんじゃないかな。まあ、彼女の考えることなんて私みたいな平民がわかるはずもないけどね。」

 そういった彼女は彼女の取り巻きの一人である。そんなことを私に話してもいいのかと尋ねると、別に平気だからと言われた。これからのことを考えると、あなたの方が大変だから気にしないで、他にもわからないことや聞きたいことがあったら遠慮なく聞いてとまで言われてしまった。



 私がクラスメイトから無視されているのをどう感じているのか、彼女はしっかりと見定めているようだった。ことあるごとに彼女の視線が痛いほど身体に突き刺さる。いじめの次の段階にいつから入るべきか時期をうかがっているのかもしれない。いや、様子を実際にうかがっているのは、紫苑すみれで、彼女はその指示に従っているだけなのだろう。

 クラス全員に無視はされていたが、いじめの張本人である紫苑すみれは例外らしく、話しかけてきた。私は現在、か弱くて頭が悪いふりをしている。本来ならとっくに小学校を卒業して大学も卒業している年ごろだ。それに私たちECは基本的に才色兼備、文武両道、すべてにおいて優れている者が選ばれる。
 選ばれたものは、勉強を先取りして教えられる。私も例外ではなく、すでに小学校6年生の時点で高校3年生の学力を身につけていた。



「能ある鷹は爪を隠す」というが、まさにその通りだ。私が頭の悪いふりをしていると、クラスメイトは自分より下だと思い込み、いろいろよくしくれる。

 彼女はそんなことを知ってか知らずか、勉強についての質問はないかと聞いてくる。そして、何か困ったことがあったら何でも話しく頂戴とまで言われた。



「私はあなたと相性がよさそうだから、ぜひ、困難を乗り越えて私とお友達になってほしいくらい。それまで持ちこたえてくれるならばだけど。それはそれで私の地位が危うくなるから難しい選択だわ。」

 その後に言われた独り言によって本音がわかってしまったが、私は彼女と友達になるつもりもつぶれるつもりもない。なぜなら、この学校には仕事で来ているのだ。仕事を全うすることこそ、私がこの学校にいる意味なのだから。
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