年を取らない子供たち~EC(エターナルチルドレン)~

折原さゆみ

文字の大きさ
6 / 28
第1章 いじめの代償~季節外れの転校生~

4(21)バイオレット①

しおりを挟む
 私の親は偉い人らしい。誰もかれもが父親に対してへっこらしている。私に対しても腫れものを扱うような対応をされる。それが嫌だった私は、そのストレスを発散させようとクラスの中にターゲットを決めてそいつで憂さを晴らすことにした。

 私に逆らうクラスメイトはいなかった。いたとしても表面だって反論するほど愚か者はいない。私が一言父親に相談すれば、すぐにその子供は私に謝ってくる。そして私に従うようになる。それでも私に反抗する奴は私の前からいなくなる。突然転校するものや事故に遭って入院してしまう。そんなこんなで幼稚園、小学校と今まで自由にわがままし放題に遊んできた。

 クラスメイトが私のことを陰でバイオレットと呼んでいるのは知っている。しかし、そのまま放っておいている。面と向かって言う勇気のない彼らのことなどさして興味がわかないのだ。

 私は現状に退屈を感じている。私の言うことに逆らうものはいない、わがままし放題のこの状況で張り合いがない。しかし、だからといってこの日常が終わってほしいとは思わない。退屈だが、別に不満に思うことはない。


 小学4年生の担任は典型的なくずだった。私の父親は先生にも影響を及ぼすことができるようで、今までの先生も私に対して特別扱いをしていた。とはいえ、建前上は私が悪いことをしたら、叱るふりをしていた。
 普通、悪いことをした児童には説教をするのは当たり前だ。しかし、彼はそれをしなかった。さらには私がいじめた児童に対して、その子の両親がいじめだと訴えても我関せずといった態度を崩さなかった。いじめておきながら思うのも変なことだが、この担任はどうかしている。それ故に私は自由にストレスを発散することができたのだから別に良いのだが。

 今までの担任は私がいじめをしていたら、ふりだけでも止めようとしていた。両親から訴えられたらとりあえずいじめを止めるよう働きかけますといったことを嘘でも話していた。

「いじめがあるか調べてみます。」
「いじめがなくなるよう対策を考えていきます。」
「クラスでいじめについて話し合っていきたいと思います。」

 彼はそのような期待を持たせるようなことを一切言わなかった。
 
 
 小学校5年生になった。今年の担任も去年と同じだった。 
 その担任が転校生を教室に連れてきたのはGW明けの月曜日だった。先週までは何も言っていなかったはずなのに、突然に朝のHRで転校生が来ましたと話し出した。

 クラスはとても驚いた。そもそも私たちが住んでいる場所は田舎で人の出入りが少なく、そのため転校生というのは珍しい。そろそろ新しいストレス発散が欲しかったところなので、転校生がちょうどよいストレス発散相手であったなら、これ以上楽しいことはない。

 他のクラスメイト同様、楽しみに待っていると、転校生が教室に入ってきた。転校生は水無月といった。小学生にしてはとても大人びているというのが第一印象で感じたことだ。すでに小学校を卒業していて、中学も高校も卒業して成人していそうな雰囲気だった。背丈は小学校5年生の平均くらいしかなく、どこからどう見ても小学生にしか見えないが、その体から醸し出す雰囲気は大人そのものだ。アンバランスな原因は何だろうかともっとよく観察する。

 理由が判明した。彼女の瞳が、小学生がもつ純粋無垢な瞳とは正反対の暗く世間の汚いところを見てきた暗く、濁った瞳をしていた。きっとその瞳のせいで大人びて見えるのだ。いったい今までどんな人生を歩んできたのだろう。私は転校生に興味を持った。いじめるのは簡単だ。私がクラスメイトに指示すれば、簡単に実行される。しかし、すぐに壊してしまうのはもったいないと思った。まずはじっくり転校生の中身を調べていこう。それからいじめても遅くはない。

 とはいえ、小学校に入ってから何人を不登校送りにしてきたことか。
わかっているのだ。私だって他人にそんなことをされたら、学校に行けなくなることは十分承知である。それでも私は私なりに人生を楽しく過ごしていきたいのだ。誰もが幸せに生きられることなんてありえない。私が父親によって周囲から腫れもの扱いされているのも、私がいじめて不登校になる児童がいることも、それぞれが考えて行動した結果だ。


 さて、この転校生は何をクラスに運んでくれるのだろうか。もしかしたら、この転校生は私たちのクラスを破滅に導く悪魔かもしれない。それともこのクラスの天使で、誰もが楽しく過ごせるようなクラスに変えてくれるかもしれない。

 そう思いながら、休み時間に彼女に殺到して質問しているクラスメイトを見ていた。彼女は気づいていないかもしれないが、転校前のことを思い出すと悲しいと言いながら、その実悲しいと思っていないことはバレバレだった。

 
「面白いおもちゃが手に入りそう。さて、これからどんな風に遊んでいけばより楽しく遊べるか考える必要があるわね。」

 この転校生は過去に面白そうな経験をしていそうだ。これは話を聞いてみる必要がある。これからの学校生活が楽しみだ。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

あるフィギュアスケーターの性事情

蔵屋
恋愛
この小説はフィクションです。 しかし、そのようなことが現実にあったかもしれません。 何故ならどんな人間も、悪魔や邪神や悪神に憑依された偽善者なのですから。 この物語は浅岡結衣(16才)とそのコーチ(25才)の恋の物語。 そのコーチの名前は高木文哉(25才)という。 この物語はフィクションです。 実在の人物、団体等とは、一切関係がありません。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

妻からの手紙~18年の後悔を添えて~

Mio
ファンタジー
妻から手紙が来た。 妻が死んで18年目の今日。 息子の誕生日。 「お誕生日おめでとう、ルカ!愛してるわ。エミリア・シェラード」 息子は…17年前に死んだ。 手紙はもう一通あった。 俺はその手紙を読んで、一生分の後悔をした。 ------------------------------

今更気付いてももう遅い。

ユウキ
恋愛
ある晴れた日、卒業の季節に集まる面々は、一様に暗く。 今更真相に気付いても、後悔してももう遅い。何もかも、取り戻せないのです。

ダンジョンに行くことができるようになったが、職業が強すぎた

ひまなひと
ファンタジー
主人公がダンジョンに潜り、ステータスを強化し、強くなることを目指す物語である。 今の所、170話近くあります。 (修正していないものは1600です)

『急所』を突いてドロップ率100%。魔物から奪ったSSRスキルと最強装備で、俺だけが規格外の冒険者になる

仙道
ファンタジー
 気がつくと、俺は森の中に立っていた。目の前には実体化した女神がいて、ここがステータスやスキルの存在する異世界だと告げてくる。女神は俺に特典として【鑑定】と、魔物の『ドロップ急所』が見える眼を与えて消えた。  この世界では、魔物は倒した際に稀にアイテムやスキルを落とす。俺の眼には、魔物の体に赤い光の点が見えた。そこを攻撃して倒せば、【鑑定】で表示されたレアアイテムが確実に手に入るのだ。  俺は実験のために、森でオークに襲われているエルフの少女を見つける。オークのドロップリストには『剛力の腕輪(攻撃力+500)』があった。俺はエルフを助けるというよりも、その腕輪が欲しくてオークの急所を剣で貫く。  オークは光となって消え、俺の手には強力な腕輪が残った。  腰を抜かしていたエルフの少女、リーナは俺の圧倒的な一撃と、伝説級の装備を平然と手に入れる姿を見て、俺に同行を申し出る。  俺は効率よく強くなるために、彼女を前衛の盾役として採用した。  こうして、欲しいドロップ品を狙って魔物を狩り続ける、俺の異世界冒険が始まる。 12/23 HOT男性向け1位

冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

シリアス
恋愛
冤罪で退学になったけど、そっちの方が幸せだった

処理中です...