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第1章 いじめの代償~季節外れの転校生~

2(27)不登校になった女子児童(依頼者の娘①)

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 いつからだろう。わたしは学校に行くことができなくなった。朝目覚ましが鳴り、起きる。服を着替え、顔を洗い、朝食を食べる。歯をみがき、かみを整える。学校に行くまでの作業を終え、げんかんでくつをはき、ランドセルを背負い、学校に向かおうとげんかんのドアを開ける。

「かはっ。」

 今日もやはりダメだった。わたしはげんかんにさっき食べた朝食をはき出してしまった。それを見た両親があわててわたしにかけ寄る。そして、今日も学校を休むかたずねてくる。わたしはそれにうなずき、くつをぬぎ、ランドセルをゆかに置く。

 わたしの身体は、学校に行きたくないというサインをもっと前から出していた。学校に行きたくないと思うようになったころ、朝、家から出ようとするとお腹が急に痛くなることがあった。今思えばそれがわたしの身体が出していたSOS信号だったのかもしれない。それを無視して学校に通い続けた結果が不登校である。完全に学校に行けなくなってしまった。

 
 
 わたしが住む地域は人口が少なく、へいさ的だった。人の出入りが少なく、学校に転校生が来ることもめずらしかった。周りはようち園からの付き合いで、おたがいがおたがいを知りつくしている。ようち園から小学校に上がり、そのまま中学校まではほとんど顔ぶれが変わることはない。そのために、クラス内での位置づけもおのずと固定されてくる。いわゆるスクールカーストも固定される。

 スクールカーストトップは紫苑すみれという女子だった。かのじょの名前とぼうりょく的な性格から同じクラスになった児童はみな、かげでバイオレットと呼ぶようになった。バイオレットの父親はえらいひとだったようだ。権力を持っているようで、先生はバイオレットに対して多少態度が悪くてもしかることはなかった。バイオレットは親の権力を振りかざしてわがままし放題だった。それがエスカレートしていき、バイオレットは他人をいじめることに快感を覚えるようになった。

 バイオレットは定期的にいじめの標的を変えている。そして、運悪く次のいじめの標的になったのはわたしだった。わたしはどちらかというと、おとなしい性格であり、スクールカーストでは真ん中か、それより下に位置すると自覚している。
 
 それからの日々は最悪だった。小学生のいじめとはいえ、ひどいものだった。ものをかくされることは当たり前で、無視されることも日常。給食もわざとごみを入れてきたり、わたしの分の給食をわざとこぼされたり散々だった。
 
 先生は犯人がバイオレットだということはわかっていながらも、わたしに対するいじめをとめようとはしなかった。バイオレットの父親はどうやら先生にも影響力があるようだった。

 わたしはもともと感情が顔に出ないタイプで、いじめられていてつらいとは思っていたが、それが表情に出ることはなかった。そのため、両親はわたしが学校に行けなくなるとは思っていなかった。わたしもつらいとは思ってはいたが、それでも学校に行けないほどまで自分が追いつめられているとは思っていなかった。心はマヒしていても、身体は傷ついていることを理解していたのだろう。

 わたしが学校に行けなくなったことを両親は学校側にうったえた。今まで何人の児童がバイオレットの被害者になったかわからない。わたし以外の被害者の両親もうったえたに違いない。それでも何もしなかった学校側がわたしのために動いてくれるとは思えなかった。

 両親もそれはわかっていたようだった。しかし、むすめがいじめをうけて不登校になってしまったことのくやしさだけはどうにもならなかった。どうにかしてむすめのわたしが安心して学校に通うことができるように必死で解決策を探していた。

 

 そこで出会ったのがEC(エターナルチルドレン)である。両親はECに相談した。

 ECは両親の相談を受け入れた。そして、むすめのわたしが安心して学校に行けるような環境を1年で整えると話した。両親は半信半疑だったが、それでもわらにもすがるような思いでその話を信じることにした。

 両親の話によると、学校に対する問題を解決するのがECという組織で、実際に依頼を引き受けるのはこどもたちのようだ。

 こどもの身体でいったい何ができるのだというのか。一度、両親の依頼をうけおってくれるこどもと会うことになった。そのこどもはわたしと同じ学年の女子だった。 
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