20 / 27
20久しぶりの手料理
しおりを挟む
「遅い!朝の散歩は良いけど、せっかくの朝食が冷める」
「おかえり。なんだかいい雰囲気みたいだけど、さっそく恋人のふりの練習ですか?ずいぶんと努力家ですね」
ダイヤの家に戻ると、不機嫌そうなダイヤとにやにやした表情のアリアさんが出迎えてくれた。キッチンからは醤油の甘辛い良い匂いが漂ってくる。
「昨日の肉じゃがに、味噌汁と卵焼きを作ったから、早く席について」
「ダイヤの料理はおいしいからね。温かいうちに食べましょう!」
2人にせかされて、急いで洗面所で手を洗い、リビングに向かう。テーブルの上にはすでに4人分の食事が並べられていた。
時刻は6時40分。休日にしてはかなり早い朝食だ。私たちが家を出た後すぐに2人は起きたのだろうか。ダイヤもアリアさんもシッカリと身なりを整えていた。ダイヤに至っては朝食の準備までしていた。もしかしたら、ダイヤもアリアさんも私たちが気づいていないだけで、寝ている振りをしていたのかもしれない。
『いただきます!』
私とルリさん、正面にダイヤとアリアさんが座り、食事の挨拶をする。
「ぐうう」
目の前のおいしそうな食事に思わず私のお腹が鳴ってしまう。恥ずかしさにお腹に手を当てるがどうしようもない。私の空腹音は3人にばっちり聞かれてしまう。
「昨日からずっと、緊張していたから仕方ないですよ。ダイヤの手料理を見たら誰だってお腹すきますよ」
「腹が減っては戦はできぬ。たくさん食べて元気出しなよ」
「ダイヤの手料理、おいしいんだよね」
だれも私のことをからかったり、笑ったりしなかった。私も生理現象だと気にしないことにして、ダイヤの作った肉じゃがに箸をつける。
「おい、しい」
久しぶりに他人の手料理を食べた。彼は同棲を始めた最初の一週間こそ、料理を作ってくれたが、それ以降は私の仕事となった。仕事をしているのは同じなのに、私が料理することが当たり前となった。さらには家事も一切やらなくなり、私はただの家政婦と化していた。
彼とのことを思い出すと心が痛くなり、今の状況と比較して泣きたくなる。しかし、ここで泣いたら、また彼らに要らぬ心配をかけてしまう。涙をぐっとこらえ、私は食事を続ける。しかし、私が泣きそうになっているのはばれていたらしい。
「姉ちゃん、また泣いてる……。もう、今日にでもけりをつけようぜ」
「私もそれには賛成。ルリ、今日の予定はない、よね?」
「大丈夫だよ。予定は空けてあるから、実行可能だよ」
そして、朝食を終えるころ、ダイヤの言葉にアリアさんとルリさんが賛同する。私の泣き顔を見て、計画が前倒しになってしまった。
『ごちそうさまでした』
食事を終えると、アリアさんが気を利かせて、食後の温かいお茶を出してくれた。それをちびちび飲みながら、今後のことを考える。弟の言う通りならば、今日、私は彼と別れることになる。昨日相談して、今日、すぐに別れることができる。そんな簡単に物事が運ぶとは思わなかった。
「姉ちゃん、嫌だと思うけど、あのクズ野郎に電話してくれる?他のみんなが聞こえるように、電話に出たら、スピーカーにしてくれると嬉しい」
「わ、わかった」
さっそく、こちらから別れ話を切り出していくようだ。テーブルに置いていたスマホを手に取るが、緊張してうまく手が動かない。3人が見守る中、ようやく連絡先を開いて彼の電話番号をタップする。
私と彼との別れ計画を実行してくれるのは頼もしい。そして、それが早ければ早いほどありがたいが、昨日の今日は緊張して当然だ。しかし、彼らの時間を無駄に消費するわけには行かない。
(もし、電話に出なかったら)
彼らの時間を無駄にしてしまう。いつもなら、彼の電話を心待ちにすることはないのに、今日だけは電話に出ることを期待した。
「……。もしもし?」
とはいえ、相手が出ない可能性もあった。夜、家を出ていったとき、もしかしたら浮気相手の元に行ったかもしれないからだ。そうだとしたら、ホテルや相手の家に泊まり、まだ寝ているだろう。しかし、通話は切られず、相手とつながった。
「真珠、です。あの、昨日はごめ」
「謝るのは当たり前だろう?いきなり外泊するとか言いだすとかありえないだろ。飯の準備もしてないわ、弟?の家に泊まるだの。好き勝手し過ぎだろ。それで、いつ家に戻ってくるんだ?お前のせいで部屋が汚れたままだ」
電話に出たはいいが、彼は不機嫌だった。どこにいるかはわからないが、昨日の外泊の件に対して相当不満のようだ。そして、自分で掃除すればよいのに、汚い部屋だといって私に家に帰らせて掃除させようとしている。しかし、私はもう決めたのだ。彼とは別れて、あの部屋には戻らない。
「おかえり。なんだかいい雰囲気みたいだけど、さっそく恋人のふりの練習ですか?ずいぶんと努力家ですね」
ダイヤの家に戻ると、不機嫌そうなダイヤとにやにやした表情のアリアさんが出迎えてくれた。キッチンからは醤油の甘辛い良い匂いが漂ってくる。
「昨日の肉じゃがに、味噌汁と卵焼きを作ったから、早く席について」
「ダイヤの料理はおいしいからね。温かいうちに食べましょう!」
2人にせかされて、急いで洗面所で手を洗い、リビングに向かう。テーブルの上にはすでに4人分の食事が並べられていた。
時刻は6時40分。休日にしてはかなり早い朝食だ。私たちが家を出た後すぐに2人は起きたのだろうか。ダイヤもアリアさんもシッカリと身なりを整えていた。ダイヤに至っては朝食の準備までしていた。もしかしたら、ダイヤもアリアさんも私たちが気づいていないだけで、寝ている振りをしていたのかもしれない。
『いただきます!』
私とルリさん、正面にダイヤとアリアさんが座り、食事の挨拶をする。
「ぐうう」
目の前のおいしそうな食事に思わず私のお腹が鳴ってしまう。恥ずかしさにお腹に手を当てるがどうしようもない。私の空腹音は3人にばっちり聞かれてしまう。
「昨日からずっと、緊張していたから仕方ないですよ。ダイヤの手料理を見たら誰だってお腹すきますよ」
「腹が減っては戦はできぬ。たくさん食べて元気出しなよ」
「ダイヤの手料理、おいしいんだよね」
だれも私のことをからかったり、笑ったりしなかった。私も生理現象だと気にしないことにして、ダイヤの作った肉じゃがに箸をつける。
「おい、しい」
久しぶりに他人の手料理を食べた。彼は同棲を始めた最初の一週間こそ、料理を作ってくれたが、それ以降は私の仕事となった。仕事をしているのは同じなのに、私が料理することが当たり前となった。さらには家事も一切やらなくなり、私はただの家政婦と化していた。
彼とのことを思い出すと心が痛くなり、今の状況と比較して泣きたくなる。しかし、ここで泣いたら、また彼らに要らぬ心配をかけてしまう。涙をぐっとこらえ、私は食事を続ける。しかし、私が泣きそうになっているのはばれていたらしい。
「姉ちゃん、また泣いてる……。もう、今日にでもけりをつけようぜ」
「私もそれには賛成。ルリ、今日の予定はない、よね?」
「大丈夫だよ。予定は空けてあるから、実行可能だよ」
そして、朝食を終えるころ、ダイヤの言葉にアリアさんとルリさんが賛同する。私の泣き顔を見て、計画が前倒しになってしまった。
『ごちそうさまでした』
食事を終えると、アリアさんが気を利かせて、食後の温かいお茶を出してくれた。それをちびちび飲みながら、今後のことを考える。弟の言う通りならば、今日、私は彼と別れることになる。昨日相談して、今日、すぐに別れることができる。そんな簡単に物事が運ぶとは思わなかった。
「姉ちゃん、嫌だと思うけど、あのクズ野郎に電話してくれる?他のみんなが聞こえるように、電話に出たら、スピーカーにしてくれると嬉しい」
「わ、わかった」
さっそく、こちらから別れ話を切り出していくようだ。テーブルに置いていたスマホを手に取るが、緊張してうまく手が動かない。3人が見守る中、ようやく連絡先を開いて彼の電話番号をタップする。
私と彼との別れ計画を実行してくれるのは頼もしい。そして、それが早ければ早いほどありがたいが、昨日の今日は緊張して当然だ。しかし、彼らの時間を無駄に消費するわけには行かない。
(もし、電話に出なかったら)
彼らの時間を無駄にしてしまう。いつもなら、彼の電話を心待ちにすることはないのに、今日だけは電話に出ることを期待した。
「……。もしもし?」
とはいえ、相手が出ない可能性もあった。夜、家を出ていったとき、もしかしたら浮気相手の元に行ったかもしれないからだ。そうだとしたら、ホテルや相手の家に泊まり、まだ寝ているだろう。しかし、通話は切られず、相手とつながった。
「真珠、です。あの、昨日はごめ」
「謝るのは当たり前だろう?いきなり外泊するとか言いだすとかありえないだろ。飯の準備もしてないわ、弟?の家に泊まるだの。好き勝手し過ぎだろ。それで、いつ家に戻ってくるんだ?お前のせいで部屋が汚れたままだ」
電話に出たはいいが、彼は不機嫌だった。どこにいるかはわからないが、昨日の外泊の件に対して相当不満のようだ。そして、自分で掃除すればよいのに、汚い部屋だといって私に家に帰らせて掃除させようとしている。しかし、私はもう決めたのだ。彼とは別れて、あの部屋には戻らない。
0
あなたにおすすめの小説
子供にしかモテない私が異世界転移したら、子連れイケメンに囲まれて逆ハーレム始まりました
もちもちのごはん
恋愛
地味で恋愛経験ゼロの29歳OL・春野こはるは、なぜか子供にだけ異常に懐かれる特異体質。ある日突然異世界に転移した彼女は、育児に手を焼くイケメンシングルファザーたちと出会う。泣き虫姫や暴れん坊、野生児たちに「おねえしゃん大好き!!」とモテモテなこはるに、彼らのパパたちも次第に惹かれはじめて……!? 逆ハーレム? ざまぁ? そんなの知らない!私はただ、子供たちと平和に暮らしたいだけなのに――!
【完結済】25億で極道に売られた女。姐になります!
satomi
恋愛
昼夜問わずに働く18才の主人公南ユキ。
働けども働けどもその収入は両親に搾取されるだけ…。睡眠時間だって2時間程度しかないのに、それでもまだ働き口を増やせと言う両親。
早朝のバイトで頭は朦朧としていたけれど、そんな時にうちにやってきたのは白虎商事CEOの白川大雄さん。ポーンっと25億で私を買っていった。
そんな大雄さん、白虎商事のCEOとは別に白虎組組長の顔を持っていて、私に『姐』になれとのこと。
大丈夫なのかなぁ?
私を嫌っていた冷徹魔導士が魅了の魔法にかかった結果、なぜか私にだけ愛を囁く
魚谷
恋愛
「好きだ、愛している」
帝国の英雄である将軍ジュリアは、幼馴染で、眉目秀麗な冷血魔導ギルフォードに抱きしめられ、愛を囁かれる。
混乱しながらも、ジュリアは長らく疎遠だった美形魔導師に胸をときめかせてしまう。
ギルフォードにもジュリアと長らく疎遠だったのには理由があって……。
これは不器用な魔導師と、そんな彼との関係を修復したいと願う主人公が、お互いに失ったものを取り戻し、恋する物語
婚約破棄歴八年、すっかり飲んだくれになった私をシスコン義弟が宰相に成り上がって迎えにきた
鳥羽ミワ
恋愛
ロゼ=ローラン、二十四歳。十六歳の頃に最初の婚約が破棄されて以来、数えるのも馬鹿馬鹿しいくらいの婚約破棄を経験している。
幸い両親であるローラン伯爵夫妻はありあまる愛情でロゼを受け入れてくれているし、お酒はおいしいけれど、このままではかわいい義弟のエドガーの婚姻に支障が出てしまうかもしれない。彼はもう二十を過ぎているのに、いまだ縁談のひとつも来ていないのだ。
焦ったロゼはどこでもいいから嫁ごうとするものの、行く先々にエドガーが現れる。
このままでは義弟が姉離れできないと強い危機感を覚えるロゼに、男として迫るエドガー。気づかないロゼ。構わず迫るエドガー。
エドガーはありとあらゆるギリギリ世間の許容範囲(の外)の方法で外堀を埋めていく。
「パーティーのパートナーは俺だけだよ。俺以外の男の手を取るなんて許さない」
「お茶会に行くんだったら、ロゼはこのドレスを着てね。古いのは全部処分しておいたから」
「アクセサリー選びは任せて。俺の瞳の色だけで綺麗に飾ってあげるし、もちろん俺のネクタイもロゼの瞳の色だよ」
ちょっと抜けてる真面目酒カス令嬢が、シスコン義弟に溺愛される話。
※この話はカクヨム様、アルファポリス様、エブリスタ様にも掲載されています。
※レーティングをつけるほどではないと判断しましたが、作中性的ないやがらせ、暴行の描写、ないしはそれらを想起させる描写があります。
公爵様のバッドエンドを回避したいだけだったのに、なぜか溺愛されています
六花心碧
恋愛
お気に入り小説の世界で名前すら出てこないモブキャラに転生してしまった!
『推しのバッドエンドを阻止したい』
そう思っただけなのに、悪女からは脅されるし、小説の展開はどんどん変わっていっちゃうし……。
推しキャラである公爵様の反逆を防いで、見事バッドエンドを回避できるのか……?!
ゆるくて、甘くて、ふわっとした溺愛ストーリーです➴⡱
◇2025.3 日間・週間1位いただきました!HOTランキングは最高3位いただきました!
皆様のおかげです、本当にありがとうございました(ˊᗜˋ*)
(外部URLで登録していたものを改めて登録しました! ◇他サイト様でも公開中です)
婚約破棄された際もらった慰謝料で田舎の土地を買い農家になった元貴族令嬢、野菜を買いにきたベジタリアン第三王子に求婚される
さら
恋愛
婚約破棄された元伯爵令嬢クラリス。
慰謝料代わりに受け取った金で田舎の小さな土地を買い、農業を始めることに。泥にまみれて種を撒き、水をやり、必死に生きる日々。貴族の煌びやかな日々は失ったけれど、土と共に過ごす穏やかな時間が、彼女に新しい幸せをくれる――はずだった。
だがある日、畑に現れたのは野菜好きで有名な第三王子レオニール。
「この野菜は……他とは違う。僕は、あなたが欲しい」
そう言って真剣な瞳で求婚してきて!?
王妃も兄王子たちも立ちはだかる。
「身分違いの恋」なんて笑われても、二人の気持ちは揺るがない。荒れ地を畑に変えるように、愛もまた努力で実を結ぶのか――。
『冷徹社長の秘書をしていたら、いつの間にか専属の妻に選ばれました』
鍛高譚
恋愛
秘書課に異動してきた相沢結衣は、
仕事一筋で冷徹と噂される社長・西園寺蓮の専属秘書を務めることになる。
厳しい指示、膨大な業務、容赦のない会議――
最初はただ必死に食らいつくだけの日々だった。
だが、誰よりも真剣に仕事と向き合う蓮の姿に触れるうち、
結衣は秘書としての誇りを胸に、確かな成長を遂げていく。
そして、蓮もまた陰で彼女を支える姿勢と誠実な仕事ぶりに心を動かされ、
次第に結衣は“ただの秘書”ではなく、唯一無二の存在になっていく。
同期の嫉妬による妨害、ライバル会社の不正、社内の疑惑。
数々の試練が二人を襲うが――
蓮は揺るがない意志で結衣を守り抜き、
結衣もまた社長としてではなく、一人の男性として蓮を信じ続けた。
そしてある夜、蓮がようやく口にした言葉は、
秘書と社長の関係を静かに越えていく。
「これからの人生も、そばで支えてほしい。」
それは、彼が初めて見せた弱さであり、
結衣だけに向けた真剣な想いだった。
秘書として。
一人の女性として。
結衣は蓮の差し伸べた未来を、涙と共に受け取る――。
仕事も恋も全力で駆け抜ける、
“冷徹社長×秘書”のじれ甘オフィスラブストーリー、ここに完結。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる