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40因果応報
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「もしもし」
部活に顔を出し、その後帰宅した明寿の元に一本の電話がかかってきた。相手は佐戸だったが、佐戸とは先日、担任との話に割り込んできた時に話をしたばかりだ。こんなにすぐに電話とはいったいどんな用事だろうか。嫌な予感がした明寿だが、内容を聞かない限り、真相はわからない。
「非常に残念なお知らせです」
電話に出て開口一番の佐戸の言葉に緊張が走る。明寿の予想は当たってしまった。明寿のスマホを握る手に力がこもる。
(いったい、どんな情報だ。今のところ、甲斐たち三人は退院して自宅療養だと聞いている。自宅療養中に逃げ出して行方不明になったとかだろうか)
明寿はソファに座って佐戸の残念な知らせの内容を考える。スマホ画面に映るスピーカーボタンを押して、スマホを机の上に置く。スマホから佐戸の声が聞こえてくる。
「まあ、残念っていうのは普通の人の感想です。流星君にとっては、ラッキーなことかもしれません」
「ラッキー、ですか?」
「そうです。流星君は甲斐君とやらに復讐をしたかったのでしょう?それで、私にお願いをした」
「そうですけど」
「だったら、やっぱりラッキーですよ。だって、今朝、清水さんは」
自宅で自殺しました。
「自殺……」
明寿の頭に甲斐の絶望した顔が浮かんだ。自殺、ということは、明寿が高梨を亡くしたときと状況が同じになったわけだ。目には目を、歯には歯を。きっちり復讐を果たせたということだ。
「うれしくないのですか?清水さんは甲斐君の恋人で、彼女の死は間違いなく、甲斐という男にかなりの絶望を与えたはずですよ」
佐戸の言葉は理解できるが、明寿の心は複雑だった。確かに、明寿は甲斐への復讐を誓っていた。清水という女性を利用しようとしていたことも事実だ。それなのに、復讐が果たされたとわかったのに、なぜ、心がここまで踊らないのか。
(清水と接触してしまったから。彼女のことを知ってしまったから)
準備室での会話を思い出す。彼女はなぜか、明寿が行動を起こさなくてもすでに、自殺しそうな雰囲気を醸し出していた。
『彼を捕まえるのは無理よ。それに、私は死ぬことを許されていない。彼は』
あの言葉の意味は何だったのか。自殺してしまった今となっては永久に謎のままだ。死ぬことを許されていないとはどういうことか。そう言っていたのに、なぜ自殺してしまったのか。
(私は佐戸さんに清水さんを殺してほしいとまでは頼んでいない)
ここに来て、怖気づいてしまった。自分が間接的に人を殺すことにためらいを覚えてしまった。だからと言って、復讐を忘れたわけではない。明寿は妥協点として、清水を殺さずに甲斐を絶望させるような案を思いついた。そしてそれを佐戸に伝えたはずだった。それなのに。
「悲しいですか?でも、この展開を作ったのは流星君自身です。それを忘れてはいけません」
「わかっていますよ。情報提供、ありがとうございました」
「いえいえ、お礼を言うのはまだ早いですよ。それで、甲斐君のことはどうします?彼の恋人が自殺したことで、かなりの絶望を味わっているとは思います。流星君の復讐は果たせましたが、彼の罪はまだ世間に知れ渡っていない」
「罪を暴くまでが復讐、ということですか?面倒なことを言いますね」
佐戸の言うことは正しい。そもそも、甲斐がやっていた【楽園送り】のせいで、高梨は自殺する羽目になった。そこを解決しないと、今後も被害者は増え続ける。明寿としては、高梨以外の誰がどのように死のうと関係ない。とはいえ、清水の死を聞いて多少、心が痛んでいる。罪滅ぼしではないが、彼女達のためにも、未来の犠牲者を減らすために行動してもいいかもしれない。
「では、追加でお願いしてもいいですか?」
「約束を守っていただけるのなら、多少の追加も目をつむりましょう」
「あと、どうせなので、もう一つ、依頼を聞いてもらえますか?」
「どうぞ。流星の君のお願いが一つや二つ増えたところで、私の仕事に大した影響はありませんから」
「じゃあ、お願いします」
明寿は甲斐の悪事を暴くよう、佐戸に依頼した。そして、追加であることも頼むことにした。
(私のことが世間に広まるかもしれないが、まあ、彼女にも罪はある)
明寿は彼女との関係を世間に公表することにした。
夜になり、明寿はベッドにうつぶせになり、スマホをいじっていた。スマホで清水の自殺に関しての情報を探す。スマホはとても便利なもので、誰がどこで亡くなったのか、リアルタイムで情報を知ることができる。
(なんで、出てこないんだ)
しかし、明寿がスマホで懸命に探しても、清水の自殺に関する情報は見つからなかった。佐戸が嘘の情報を明寿に伝えたとは思えない。だとしたら、考えられることはひとつ。
意図的に清水の自殺が隠蔽された。
誰が何のために隠蔽したのか不明だが、明寿にとってはどちらでも構わない。むしろ、世間が騒ぎ立てないので、明寿が起こした準備室での事件が公にならずに済む。明寿はスマホを閉じて寝室の天井を見上げる。
(まあ、最終的にばれるだろけど)
明寿の追加の依頼で準備室の件も公になるので、清水の件でばれなくてもあまり意味はない。
(甲斐は何を思うだろうか)
清水の自殺の情報がネットに出回らないからと言って、甲斐が彼女の死を知らないはずがない。きっと、佐戸が甲斐に知らせているはずだ。今頃、明寿と同じように最愛の女性の死に絶望しているだろう。甲斐の絶望した顔を思い浮かべて苦笑する。
因果応報だ。自分の行いが回りまわって自分に返ってきただけだ。これからは、彼女のいない世界で絶望しながら生きていけばいい。
とはいえ、甲斐は今後、平穏な人生を歩むことは許されない。佐戸に依頼したからには、彼は明寿の依頼を完璧に遂行するだろう。
明寿は目を閉じて、今後のことを考える。夏休みは目の前に迫っているが、高梨がいない今、明寿の予定は空白のままだ。学校関係で部活や夏期講習があるかもしれないが、さぼろうと考えていた。高校生活を数か月行っただけで、いろいろなことがあり過ぎた。
(若い世代とは相いれないのは、私の頭が固いからかもしれない)
そんなことを考えていたら、眠気が押し寄せてくる。明寿は睡魔に身を任せ、目を閉じてそのまま眠った。
部活に顔を出し、その後帰宅した明寿の元に一本の電話がかかってきた。相手は佐戸だったが、佐戸とは先日、担任との話に割り込んできた時に話をしたばかりだ。こんなにすぐに電話とはいったいどんな用事だろうか。嫌な予感がした明寿だが、内容を聞かない限り、真相はわからない。
「非常に残念なお知らせです」
電話に出て開口一番の佐戸の言葉に緊張が走る。明寿の予想は当たってしまった。明寿のスマホを握る手に力がこもる。
(いったい、どんな情報だ。今のところ、甲斐たち三人は退院して自宅療養だと聞いている。自宅療養中に逃げ出して行方不明になったとかだろうか)
明寿はソファに座って佐戸の残念な知らせの内容を考える。スマホ画面に映るスピーカーボタンを押して、スマホを机の上に置く。スマホから佐戸の声が聞こえてくる。
「まあ、残念っていうのは普通の人の感想です。流星君にとっては、ラッキーなことかもしれません」
「ラッキー、ですか?」
「そうです。流星君は甲斐君とやらに復讐をしたかったのでしょう?それで、私にお願いをした」
「そうですけど」
「だったら、やっぱりラッキーですよ。だって、今朝、清水さんは」
自宅で自殺しました。
「自殺……」
明寿の頭に甲斐の絶望した顔が浮かんだ。自殺、ということは、明寿が高梨を亡くしたときと状況が同じになったわけだ。目には目を、歯には歯を。きっちり復讐を果たせたということだ。
「うれしくないのですか?清水さんは甲斐君の恋人で、彼女の死は間違いなく、甲斐という男にかなりの絶望を与えたはずですよ」
佐戸の言葉は理解できるが、明寿の心は複雑だった。確かに、明寿は甲斐への復讐を誓っていた。清水という女性を利用しようとしていたことも事実だ。それなのに、復讐が果たされたとわかったのに、なぜ、心がここまで踊らないのか。
(清水と接触してしまったから。彼女のことを知ってしまったから)
準備室での会話を思い出す。彼女はなぜか、明寿が行動を起こさなくてもすでに、自殺しそうな雰囲気を醸し出していた。
『彼を捕まえるのは無理よ。それに、私は死ぬことを許されていない。彼は』
あの言葉の意味は何だったのか。自殺してしまった今となっては永久に謎のままだ。死ぬことを許されていないとはどういうことか。そう言っていたのに、なぜ自殺してしまったのか。
(私は佐戸さんに清水さんを殺してほしいとまでは頼んでいない)
ここに来て、怖気づいてしまった。自分が間接的に人を殺すことにためらいを覚えてしまった。だからと言って、復讐を忘れたわけではない。明寿は妥協点として、清水を殺さずに甲斐を絶望させるような案を思いついた。そしてそれを佐戸に伝えたはずだった。それなのに。
「悲しいですか?でも、この展開を作ったのは流星君自身です。それを忘れてはいけません」
「わかっていますよ。情報提供、ありがとうございました」
「いえいえ、お礼を言うのはまだ早いですよ。それで、甲斐君のことはどうします?彼の恋人が自殺したことで、かなりの絶望を味わっているとは思います。流星君の復讐は果たせましたが、彼の罪はまだ世間に知れ渡っていない」
「罪を暴くまでが復讐、ということですか?面倒なことを言いますね」
佐戸の言うことは正しい。そもそも、甲斐がやっていた【楽園送り】のせいで、高梨は自殺する羽目になった。そこを解決しないと、今後も被害者は増え続ける。明寿としては、高梨以外の誰がどのように死のうと関係ない。とはいえ、清水の死を聞いて多少、心が痛んでいる。罪滅ぼしではないが、彼女達のためにも、未来の犠牲者を減らすために行動してもいいかもしれない。
「では、追加でお願いしてもいいですか?」
「約束を守っていただけるのなら、多少の追加も目をつむりましょう」
「あと、どうせなので、もう一つ、依頼を聞いてもらえますか?」
「どうぞ。流星の君のお願いが一つや二つ増えたところで、私の仕事に大した影響はありませんから」
「じゃあ、お願いします」
明寿は甲斐の悪事を暴くよう、佐戸に依頼した。そして、追加であることも頼むことにした。
(私のことが世間に広まるかもしれないが、まあ、彼女にも罪はある)
明寿は彼女との関係を世間に公表することにした。
夜になり、明寿はベッドにうつぶせになり、スマホをいじっていた。スマホで清水の自殺に関しての情報を探す。スマホはとても便利なもので、誰がどこで亡くなったのか、リアルタイムで情報を知ることができる。
(なんで、出てこないんだ)
しかし、明寿がスマホで懸命に探しても、清水の自殺に関する情報は見つからなかった。佐戸が嘘の情報を明寿に伝えたとは思えない。だとしたら、考えられることはひとつ。
意図的に清水の自殺が隠蔽された。
誰が何のために隠蔽したのか不明だが、明寿にとってはどちらでも構わない。むしろ、世間が騒ぎ立てないので、明寿が起こした準備室での事件が公にならずに済む。明寿はスマホを閉じて寝室の天井を見上げる。
(まあ、最終的にばれるだろけど)
明寿の追加の依頼で準備室の件も公になるので、清水の件でばれなくてもあまり意味はない。
(甲斐は何を思うだろうか)
清水の自殺の情報がネットに出回らないからと言って、甲斐が彼女の死を知らないはずがない。きっと、佐戸が甲斐に知らせているはずだ。今頃、明寿と同じように最愛の女性の死に絶望しているだろう。甲斐の絶望した顔を思い浮かべて苦笑する。
因果応報だ。自分の行いが回りまわって自分に返ってきただけだ。これからは、彼女のいない世界で絶望しながら生きていけばいい。
とはいえ、甲斐は今後、平穏な人生を歩むことは許されない。佐戸に依頼したからには、彼は明寿の依頼を完璧に遂行するだろう。
明寿は目を閉じて、今後のことを考える。夏休みは目の前に迫っているが、高梨がいない今、明寿の予定は空白のままだ。学校関係で部活や夏期講習があるかもしれないが、さぼろうと考えていた。高校生活を数か月行っただけで、いろいろなことがあり過ぎた。
(若い世代とは相いれないのは、私の頭が固いからかもしれない)
そんなことを考えていたら、眠気が押し寄せてくる。明寿は睡魔に身を任せ、目を閉じてそのまま眠った。
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