上 下
32 / 48

32調査報告

しおりを挟む
 高梨が亡くなってから二週間が過ぎた。あれから、明寿は毎日のように荒島と放課後、補習という名の親密な時間を過ごしていた。部活がある日は、わざわざ視聴覚室まで休みの連絡を入れてから、教科準備室に向かっていた。部長たちには不審な目を向けられたが、明寿は無視してただ休むと言って部活を休んだ。

「今度は荒島先生にご執心か。白石の愛はそんなに簡単に相手を変えられるのか」

「いびつな正義感を持つより、ましだろう?」

 甲斐を見ると、明寿は殺したい衝動に駆られる。それでも、この後の復讐を考えて怒りを抑えていた。クラスで話し掛けてきても、冷静さを装ってたわいない会話をする。高梨が亡くなって以降、新たな犠牲者はいないが甲斐が相手を物色しているだけだろう。明寿にほかの【新百寿人】の自殺を止める義理はない。ただ、甲斐が苦しむ姿を見るために行動するだけだ。


「白石です」

『流星君、二週間ぶりですね。元気でしたか?いや、この声は……。もしかして、あなた先ほどまで不純異性交遊を』

「さっさと用件を言ってください。あれから二週間経っていますけど、わかったんですよね?」

『連絡が遅れてすみません。本業の方が忙しくて……。でも、きっちりと調べましたよ。流星君が言っていた通り、彼には年上の恋人がいるようです』

 時間はあっという間に過ぎて7月になり、もうすぐ夏休みに入る。明寿が頼んだ依頼は一週間ほどで連絡が来るはずだったが、連絡がきたのは二週間後で、明寿は相談相手にいらだちを隠せない。

 荒島と親密な時間を過ごして、マンションに帰るとスマホに不在通知が入ったので連絡をしたら、ようやくの報告だった。約束の一週間をとうに過ぎていたので、こちらから電話しようと思っていたが、その必要はなくなった。相手は明寿の苛立ち交じりの声を気にすることなく話を続ける。

『その年上の彼女の名前は清水巴菜(しみずはな)、20歳。高校はなんとか卒業したみたいですが、その後は定職につかず、アルバイトを転々としているみたいです。今はファミレスでバイトをしているようですよ。そこで彼に一目ぼれされて、付き合うことになったみたいです。まあ、ここまではよくある男女の出会いというわけですが、面白いのはここからです。この女性、なんとなんと!』

(連絡はありがたいが)

 話を聞きながら、明寿は電話の最初で相手が明寿に放った言葉の意味を考える。明寿は電話の相手に荒島のことは一言も話していない。そもそも、電話の相手とは最近会っていないのに、どうして明寿が不純異性交遊をしているとわかったのだろうか。今日の放課後もまた、当然のように荒島と一緒に過ごしているが声も枯れていないし、のどに違和感があるわけでもない。カマかけのつもりかもしれないが、油断しない方がよいだろう。

 とはいえ、明寿は荒島との関係を相手に話すつもりはなかったし、相手も明寿の人間関係に口を挟む気はないらしい。向こうが追及してこないのなら、明寿から口を開くこともない。明寿は黙って、相手からの情報に耳を傾けることにした。

『ちょっと、聞いていますか流星君』

「聞いていますよ。それで、その彼女がどうしたんですか?」

 相手は明寿の知らない名前を口にしたが、どうやら彼女には何か秘密があるようだ。明寿にはそれがわからないので、首をかしげるしかない。

『まったく、人間の縁というものは不思議ですねえ。まさか、調べていたらこんなこともあるんですね』

「知り合いなのですか?」

『いえいえ、私は直接彼女に会ったことはありません。ですが、彼女に高校生以前の記憶がなく、過去に自殺未遂をしています』

 記憶喪失に自殺未遂。

「【新百寿人】ということですか」

『ご名答。これだけの言葉でよくわかりましたね。それで、彼女をどうするおつもりですか?同じ【新百寿人】の流星君は」

「実際に会ってからから考えます」

 ただ、甲斐の最愛の恋人を殺すだけでは物足りない。もっと記憶に残る残虐な方法を取らなければ気が済まない。

『それがよいでしょうね。ちなみに優秀な私は、彼女を流星君の学校に送り込むことに成功しました。週明けにでも、彼女があなたの学校にやってくるでしょう』

 学校に甲斐の最愛の人がやってくる。

「そんなことが可能なのですか?」

 相談相手に選んだのは、単純に【新百寿人】の情報を一番多く持っていると思ったからだ。まさか、明寿のためにそこまでしてくれるとは。しかし、甘い話には裏がある。相談した相手が明寿に求めるものは何だろうか。

『可能ですよ。そもそも、私を誰だと思っているんですか。まあ、流星君もわかっていると思いますが、私はただでは動きませんよ』

「私に何をして欲しいんですか?」

『賢い人は話が早くて助かります。復讐が終わったら、私の……になりませんか』


 電話を終えた明寿は、大きな溜息を吐く。相手は明寿に求めたことは予想外のことだったが、叶えられないことではない。とはいえ、明寿を求める意味がわからない。

「まあ、甲斐の奴を始末してから考えればいいことです」

 7月に入ってしまい、すぐに夏休みがやってくる。もたもたしている時間はない。幸いにして、清水という女性は週明けに学校にやってくることになっている。

(期限は夏休みが始まるまでの二週間。短気決戦になる)

 夏休みに入る前に決着はつけたい。すべてのけりをつけたうえで、夏休みは自由に過ごしたい。

 目には目を。歯には歯を。

 明寿が味わった喪失感や絶望感を甲斐にも経験してさせてやる。

『電話では伝えにくい情報をまとめた資料を送ります。どうぞ、自由に使ってください』

 スマホが振動して、明寿宛に一通のメールが届く。先ほどの電話の相手が彼女の資料をメールに添付してくれたようだ。

 資料によると、彼女は学校の事務員として働くようだ。事務員と生徒とのかかわりは少ないが、それでも学校に来てくれたのならその縁を十分に活かしたい。

「荒島先生も利用できるかもしれないな」

 明寿はスマホを閉じてベッドにダイブする。天井を見上げて思わず笑ってしまう。この後の計画を立てながら、自分の非道さにあきれてしまう。

(すべては甲斐が悪いから、仕方ない)

 目を閉じると、急に眠気が襲ってくる。このまま寝てしまったら、夕食も風呂も宿題も何もできないままになってしまう。明寿は重い身体を起こして夕食の準備を始めた。

しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

記憶を失くした悪役令嬢~私に婚約者なんておりましたでしょうか~

Blue
恋愛
マッツォレーラ侯爵の娘、エレオノーラ・マッツォレーラは、第一王子の婚約者。しかし、その婚約者を奪った男爵令嬢を助けようとして今正に、階段から二人まとめて落ちようとしていた。 走馬灯のように、第一王子との思い出を思い出す彼女は、強い衝撃と共に意識を失ったのだった。

『別れても好きな人』 

設樂理沙
ライト文芸
 大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。  夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。  ほんとうは別れたくなどなかった。  この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には  どうしようもないことがあるのだ。  自分で選択できないことがある。  悲しいけれど……。   ―――――――――――――――――――――――――――――――――  登場人物紹介 戸田貴理子   40才 戸田正義    44才 青木誠二    28才 嘉島優子    33才  小田聖也    35才 2024.4.11 ―― プロット作成日 💛イラストはAI生成自作画像

春の真ん中、泣いてる君と恋をした

佐々森りろ
ライト文芸
 旧題:春の真ん中  第6回ライト文芸大賞「青春賞」を頂きました!!  読んでくださった方、感想をくださった方改めまして、ありがとうございました。  2024.4「春の真ん中、泣いてる君と恋をした」に改題して書籍化決定!!  佐々森りろのデビュー作になります。  よろしくお願いします(*´-`)♡ ────────*────────  高一の終わり、両親が離婚した。  あんなに幸せそうだった両親が離婚してしまったことが、あたしはあたしなりにショックだった。どうしてとか、そんなことはどうでも良かった。  あんなに想いあっていたのに、別れはいつか来るんだ。友達だって同じ。出逢いがあれば別れもある。再会した幼なじみと、新しい女友達。自分は友達作りは上手い方だと思っていたけど、新しい環境ではそう上手くもいかない。  始業式前の学校見学で偶然出逢った彼。  彼の寂しげなピアノの旋律が忘れられなくて、また会いたいと思った。

日給二万円の週末魔法少女 ~夏木聖那と三人の少女~

海獺屋ぼの
ライト文芸
ある日、女子校に通う夏木聖那は『魔法少女募集』という奇妙な求人広告を見つけた。 そして彼女はその求人の日当二万円という金額に目がくらんで週末限定の『魔法少女』をすることを決意する。 そんな普通の女子高生が魔法少女のアルバイトを通して大人へと成長していく物語。

月曜日の方違さんは、たどりつけない

猫村まぬる
ライト文芸
「わたし、月曜日にはぜったいにまっすぐにたどりつけないの」 寝坊、迷子、自然災害、ありえない街、多元世界、時空移動、シロクマ……。 クラスメイトの方違くるりさんはちょっと内気で小柄な、ごく普通の女子高校生。だけどなぜか、月曜日には目的地にたどりつけない。そしてそんな方違さんと出会ってしまった、クラスメイトの「僕」、苗村まもる。二人は月曜日のトラブルをいっしょに乗り越えるうちに、だんだん互いに特別な存在になってゆく。日本のどこかの山間の田舎町を舞台にした、一年十二か月の物語。 第7回ライト文芸大賞で奨励賞をいただきました。ありがとうございます、

娼館で元夫と再会しました

無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。 しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。 連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。 「シーク様…」 どうして貴方がここに? 元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!

瞬間、青く燃ゆ

葛城騰成
ライト文芸
 ストーカーに刺殺され、最愛の彼女である相場夏南(あいばかなん)を失った春野律(はるのりつ)は、彼女の死を境に、他人の感情が顔の周りに色となって見える病、色視症(しきししょう)を患ってしまう。  時が経ち、夏南の一周忌を二ヶ月後に控えた4月がやって来た。高校三年生に進級した春野の元に、一年生である市川麻友(いちかわまゆ)が訪ねてきた。色視症により、他人の顔が見えないことを悩んでいた春野は、市川の顔が見えることに衝撃を受ける。    どうして? どうして彼女だけ見えるんだ?  狼狽する春野に畳み掛けるように、市川がストーカーの被害に遭っていることを告げる。 春野は、夏南を守れなかったという罪の意識と、市川の顔が見える理由を知りたいという思いから、彼女と関わることを決意する。  やがて、ストーカーの顔色が黒へと至った時、全ての真実が顔を覗かせる。 第5回ライト文芸大賞 青春賞 受賞作

捨てる旦那あれば拾うホテル王あり~身籠もったら幸せが待っていました~

霧内杳/眼鏡のさきっぽ
恋愛
「僕は絶対に、君をものにしてみせる」 挙式と新婚旅行を兼ねて訪れたハワイ。 まさか、その地に降り立った途端、 「オレ、この人と結婚するから!」 と心変わりした旦那から捨てられるとは思わない。 ホテルも追い出されビーチで途方に暮れていたら、 親切な日本人男性が声をかけてくれた。 彼は私の事情を聞き、 私のハワイでの思い出を最高のものに変えてくれた。 最後の夜。 別れた彼との思い出はここに置いていきたくて彼に抱いてもらった。 日本に帰って心機一転、やっていくんだと思ったんだけど……。 ハワイの彼の子を身籠もりました。 初見李依(27) 寝具メーカー事務 頑張り屋の努力家 人に頼らず自分だけでなんとかしようとする癖がある 自分より人の幸せを願うような人 × 和家悠将(36) ハイシェラントホテルグループ オーナー 押しが強くて俺様というより帝王 しかし気遣い上手で相手のことをよく考える 狙った獲物は逃がさない、ヤンデレ気味 身籠もったから愛されるのは、ありですか……?

処理中です...