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43人生初のイベント

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「じゃじゃーん!」

「お邪魔します」

「その大きな紙袋は何ですか?」

 次の日、何かの記念日らしき二月十四日がやってきた。玄関で彼女たちを出迎えた私は、二人が何やら大きな手荷物を抱えていることに気付き、気になって聞いてみた。


「ううん、それはまた後で。とりあえず、ここで話すことでもないから、上げて頂戴」

「ソウデスネ。上がってください」

 最近、アポなしでの突然の来客が多い我が家だが、今日は事前に、とはいっても昨日だが、連絡があったので、掃除はしておいた。


「やっと来たか。待ちくたびれたぞ」

「九尾!それに翼君たちも」

 私たちが玄関で話していると、後ろからひょっこり九尾たちが顔を出した。しかも、いつものケモミミ少年ではなく、なぜか青年姿になっていた。そうなると、ただのイケメンにしか見えない。そんなイケメンが家に居るということに、綾崎さんは不審に思わないだろうか。いや、九尾たちと青年姿で会ったことがあった気がするので問題はないだろう。ちらと綾崎さんを見ると、口をあんぐり開けてパクパクしていた。

「あ、あおあお、あおささん、どうして彼らがここに」

「いや、彼らは私の……」

「蒼紗の家に居候しているくそ野郎たちよ」

 綾崎さんはなぜ、そこまで驚いているのだろうか。とはいえ、彼らの詳しい説明をした記憶がないので、私の家に彼らがいるとは思わなかったのだろう。


「と、とりあえず、上がってください。話はそこでしましょう」

 いったん、話をそこで終え、ジャスミンと綾崎さんをリビングに案内した。九尾たちも黙って私たちの後を追ってきた。


「あいつらのことは気にしたら負けよ。蒼紗が変な奴にモテるのは知っているでしょう。彼らもそんな奴らと同じなの」

「そ、そうですよね。まさか、彼らの誰かが蒼紗さんのこ、こい」

「それは私が許さないから」

 ジャスミンと綾崎さんが何やらこそこそと話しているが、どうにも私には聞かれたくない話のようだ。






「さて、今日が何の日かということだけど、蒼紗はスーパーで特設コーナーがあったことを知っているかしら?」

「特設コーナーですか」

 最近寄った、家から一番近いスーパーでの買い物を思い出す。その日の夕食の材料を買うために買い物をしていたはずだ。

「そういえば、なぜかチョコ売り場が大きくなっていたような気がします」

「それよ!そこで売られていたチョコと、チョコ売り場に掲げられていた売り文句は覚えていないかしら?」

 ジャスミンの追加の質問について考える。チョコの値段をちらりと見たが、確か通常のチョコよりかなり値段が高かった記憶がある。そして、チョコ売り場の上に掲げられていた売り文句は。

「ああ、わかりました。『バレンタイン』ですね。でも、どうしてバレンタインを私の家で行う必要があるのでしょうか。あれは確か、女性が好きな男性にチョコを贈るイベントのはずですよね?」

 思い出したはいいが、それならなぜ、ジャスミンたちが私の家に来たのかがわからない。私も彼女たちも女性であり、チョコを渡す異性がいない。それとも、九尾たちに渡すつもりで今日、私の家に集まったのか。それにしては、九尾たちのことが話題にならなかったのはおかしい。

「蒼紗って、こういうところで、ババくささが現れるのね。それはそれでかわいいけど」

「ババくさいなんて、蒼紗さんに失礼です。蒼紗さんは私たちと同い年ですよ!」

「ババくさい……」

 私の実年齢は確かにそう言われてもおかしくない年齢だが、面と向かって言われると、傷つく。ショックを受けていることに気付いたジャスミンが慌てて話題を切り替える。





「そうそう、綾崎さんも蒼紗にチョコ、渡すんでしょ。どっちが先に渡すかで喧嘩になるのも嫌だから、せーので渡しましょう!」

「そ、そうですね。なんか、蒼紗さんがババくさいって言われて落ち込んでいるみたいですけど、謝らなくて大丈夫なの、佐藤さん」

「いいの、いいの。事実だから。さっさと渡しちゃいましょう。そのために私たちは蒼紗の家に居るのでしょう!じゃじゃーん!どうぞ!」

「蒼紗さん、好きです。これからも一緒に居てください。私が蒼紗さんを幸せにします!」

「それは私のセリフだから」

「言ったもん勝ちです!」
 
 二人は各自持ち寄った大きな紙袋から、ラッピングされた袋を私に同時に手渡してきた。袋からは甘い香りがした。私が受け取る理由はわからなかったが、ありがたく受け取っておくことにした。

『ハッピーバレンタイン!』

 ぎゅっと二人に唐突に抱き着かれた。左にジャスミン、右からは綾崎さんが私に抱き着いている。

「く、くるしい」

『ごめん』

 突然、離れられると、反動でフラッと倒れそうになる。倒れそうになったが、九尾が支えてくれた。

「あ、ありがと」

「構わんが、さっさとその包みを開けてやったらどうだ。お主の分は我らにも分けてくれるのだろう」

 何と横暴な神様だろうか。しかし、中身が気になったので、ジャスミンと綾崎さんの前でもらった包みを開けてみる。





「こ、これは。でも、なぜ、私に」

「友チョコってやつよ。まあ、私も綾崎さんも友チョコではなくて、本気チョコだけど」
 
 友チョコ。口の中でジャスミンの言葉を反芻する。そんなものが存在するとは知らなかった。しかし、友チョコというからには、最近では、友達同士でチョコを渡しあうこともあるということか。そうなると……。

「私たちがチョコをあげた理由は理解していただけたかしら。それとも、私たちが友達ではないなんて、いまさらそんなふざけたことを言うおばあさんではないわよね?」

 ジャスミンの皮肉はスルーして、今までのバレンタインを思い出す。バレンタインを楽しみにしていたことがあっただろうか。いやない。即答できるほど、今日、この日に対しての思い入れは何もなかった。

「バレンタインを知らないほどおばあさんではないですよ。ジャスミンは失礼ですね。女性におばあさんなど、本当でも言ってはいけませんよ。しかし、今日は許しましょう。何せ、私はいま大学生ですから。ぴちぴちの女子大生です!でも、ジャスミンと綾崎さんが私にチョコをくれたのに、私は何も」

「別に構いませんよ!私たちはお礼を期待して渡しているわけではありません。蒼紗さんと今日この日に会えて、チョコを渡せるだけで私は幸せです!」

「ふうん、皮肉を返せるくらいには元気になったみたいね。でも、友チョコの存在は知らなかったみたいだけど。私も綾崎さんと同じで蒼紗に期待なんてしていなかったから、問題なしよ」


「お返しすればよかろう。確か、バレンタインの一か月後にホワイトデーとやらがある。その時にお返しすればいいだけの話だ。翼や狼貴の分もな。もちろん、彼らの分は我ももらうがな」

「そうすることにします」





 その後は、チョコとお菓子を楽しむ会となった。ジャスミンはトリュフ、綾崎さんは生チョコを私にくれた。それらをありがたくいただいていると、翼君が棚からたくさんの甘いお菓子を取り出してきた。

「もしかしたらと思って、お菓子をたくさん準備しておきました。みんなで食べましょう!」

「俺もお金を出した」

 その日は、たわいのない話で盛り上がり、とても楽しい一日となった。

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