この声が君に届くなら

折原さゆみ

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 光詩が教室に到着すると、まだクラスメイトの数は半数ほどしか登校していなかった。電車通学の光詩は、自転車や徒歩通学の生徒たちに比べて早めに学校に着くようにしていた。

(まだ、彼女は教室に来ていない)

 海田直(かいだなお)という生徒と同じクラスになったことで、光詩に対する声の批判はほぼなくなった。しかし、それとは別に光詩のマスク登校は続いていた。今更マスクを外すことに抵抗があった。教室内で声をバカにされることはないが、長引く声の不調で、光詩は他人と普通に会話することができなくなっていた。

「よお、光詩。おはよう。今日からまた学校だな。授業は面倒くさいけど、頑張っていこうぜ」

『どうせ、授業中は寝てるだけでしょ。おはよう、光詩』

 二年生になって、光詩には初めて友達と呼べるような人ができた。光詩が席についてリュックから教科書などを取り出していると、声をかけられる。二人の男子生徒が光詩に近づいてきた。

『お゛はよう゛』

クラスメイトの湖西洋翔(こさいひろと)と海田夕映(かいだゆえ)に挨拶を返した光詩は、改めて二人を観察する。

「なんだよ、そんなにじっと見て。もしかして、オレのかっこいい姿に見惚れていたのか?残念、いくら光詩が美青年でも男はちょっと」

『光詩は洋翔の容姿なんて気にしてないよ。それよりどうしたの?俺の顔に何かついてる?』

『な゛にもつい゛ていな゛いけど』

 最初に声をかけてきたのが湖西洋翔で、光詩が一年生の時に体育の授業で一緒だった男子生徒だ。バスケ部に入っていて、身長が180センチ越えの長身で、色白で色素の薄い茶髪をしていた。本人曰く、染めなくても地毛が茶色いらしい。始業式の日に光詩に話しかけてきた一人だ。

 洋翔の次に光詩に挨拶をしたのが、今年初めて同じクラスになった海田夕映だ。海田という苗字から察せられるように、彼は海田直のいとこだった。夕映は変声期をいまだに迎えることなく、高い声を維持していた。声だけを聞けば低めの女性の声に聞こえてしまう。身長は165センチほどで男性にしては低めだった。高校生にもなって、女性と間違われるような声で苦労はしているらしい。電話などではたまに女性と間違われるとぼやくことがあった。

 二人は光詩にとって友人とも呼べる存在だった。洋翔も夕映も過去に声に関して苦い記憶があるらしく、最初から光詩のガラガラの声を馬鹿にすることがなかった。そのため、光詩も安心して二人と会話することができた。
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