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番外編~文化祭③~

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 黙々と食べていると、翼君が突然席を立った。驚いて、口に入れていたフランクフルトの串が落ちそうになり、慌てて私が受け止める。翼君が見つめている方向を見ると、そこには見知らぬ女性が男性と楽しそうに話していた。翼君の生前の知り合いだろうか。

 
 ふらふらとその男女のもとに行こうとしていた翼君に、九尾が厳しい声をかけた。

「やめておけ。お前はすでに一度死んでいる。それにその姿であっても相手にはお前だとわからない。姿を変えたところで、どうにもならないことはわかるだろう。」

 翼君は目に涙を浮かべていた。今でこそ、翼君や狼貴君は幽霊として認めているけれど、彼らは瀧によって殺された被害者なのだ。さらに言うと、そのもととなる原因は九尾である。

 目に涙を浮かべていた翼君だが、声だけはかけたいようだ。九尾と一言二言会話をして、目的の男女のもとに駆け寄っていく。

「まったく面倒なやつね。あれはどう見てもカップルじゃない。そんな奴に話しかけても悲しくなるだけだと思わないのかしら。」

 そんなことは翼君もわかっているはずだ。その後、悲しそうに、しかし、案外すっきりとした顔で翼君は私たちのもとに戻ってきた。





「どうやら過去としっかり訣別できたようだな。」

「はい。これで僕は宇佐美翼の過去に思い残すことはありません。今後はただの翼として、九尾の眷属として生きていきます。」

 それはそれで寂しい気がしたが、今の翼君はすでに人間ではないので、生前のことを気にかけていてもできることはない。割り切るしかないのだろう。



「さて、それじゃあ、目的の綾崎さんのところに向かうとしますか。」

 ジャスミンが暗くなった空気を払しょくするかのように大きな声で提案してきた。私は九尾たちと別行動しようと提案する。

「今から私たちは綾崎さんが出している店に行くけど、九尾たちは説明が面倒くさいから別行動でよろしくお願いします。また、昼頃、このベンチに集合ということにしましょう。午後からはステージでの出し物があるみたいですので、それをみんなで見て帰りましょう。」

 わかったと素直に返事をして私たちと別れる九尾たち。翼君の様子が気になったが、こればかりは当人の問題で私がどうにかできる問題ではない。そっとしておくのが無難だろう。



 私たちは綾崎さんの出しているお店に急いだ。綾崎さんが入っている「妖怪調査サークル」は文字通り、妖怪を探すサークルである。

 何を出店しているのかパンレフレットで確認すると、妖怪に関するグッズの販売を行っているようだ。店はすぐに見つかった。明らかに他の店とは外観が異なっていた。



「綾崎さんって、こんな変なサークルに入っていたのね。人って見かけによらないとはこのことね。」

 ジャスミンは若干引いていたが、私も同意見だった。いかにも妖怪が出ますという雰囲気を醸し出している。店は大学の講義室の一室を借りているようだ。扉は真っ黒な布がつけられていて、そこに血のりやろくろ首や雪女などが描かれていた。いかにも妖怪といったものがたくさん描かれていた。


 店に入ると、そこも同じような装飾が施されていた。中をぐるりと観察すると、講義室の奥の方に机が置いてあり、そこに綾崎さんは腰かけていた。私たちに気付くと、明るく手を振ってくれたので、私たちも手を振り返す。

「ようこそ、妖怪調査サークルに来てくれました。ぜひ、何か欲しいものあったら買ってくださいね。」

 私とジャスミンは顔を見合わせた。とりあえず、部屋の中心にある机に展示されているグッズを見ることにした。



 どれも昔話に出てくるメジャーな妖怪をモチーフにしたキャラクターが付いていた。手帳やシール、はがきや封筒などが置かれていた。教室の外で見たろくろ首や雪女の他に座敷童や鬼や九尾の狐などがあった。

「これだと私をモチーフにしたのはこれかあ。なんだかわかってはいたけど、いざ見ると、悲しいものがあるわね。」

 ジャスミンはこっそりと私の耳元でささやいた。ジャスミンが手に取って見ていたのは、蛇のようなうろこを持った女性が描かれたハンカチだった。確かに不気味で間違っても親しみとかかわいさとかは感じられない。


「本物の私はこんなに可愛らしいのに嫌になっちゃうわね。蒼紗のイメージ妖怪はどれかしら。ううん、見つからないわね。」

「別になくて構いません、それより何か買いますか。私はこれを買おうかなと思っています。」

 九つの尾をもつ狐が描かれたはがきを見つけたので、それを購入することにした。九尾の本来の姿はいまだに見たことがないが、本来の姿は名前の通りに九本の尻尾があるのだろうか。

なんとなく身近に感じたので購入を決めた。ジャスミンは悩んだ末に買うのをやめたようだ。確かに蛇女のハンカチは可愛らしくもないので買う必要もないだろう。
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