私の大事な妹は

折原さゆみ

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28ミコの居場所を知る方法

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 車はどんどん公園から遠ざかっていく。車を運転しながら、清光はどこに向かおうか悩んでいた。自分の家に弟たちを招き入れるのは論外だった。せっかく安倍家から出ることができたのだ。彼らを家に案内したら、引っ越しまでして行方をくらましている意味がなくなってしまう。かといって、彼らの要求通りに監禁している人外の存在のもとに連れて行く気もなかった。

「どうしたものかねえ」

 ぼそりとつぶやいた言葉は静かな車内に思いのほか響いた。

「兄貴に与えられた選択肢は二つだけだ。兄貴の家に案内するか、こいつの妹がいる場所に案内するか」

「選択肢があるのはありがたいけど、それは嫌だなあ。だから、第三の選択肢を選んでもいいかな。第三と言っても、僕がやるべきことは二つになるね」

①清春とそこの彼女の記憶をいじって、そのままそれぞれの家に送り届ける
②彼女が連れている二匹の人外はこちらで回収、そのまま消去する

 清光は弟の選択肢を無視して、自分が考えた新たな選択肢を口にする。それは、清春たちにとっては最悪なものだった。


「車を停めろ」

 このまま車に乗っていたら、何をされるのかわからない。車を運転しているとはいえ、何か自分たちに仕掛けてくるかもしれない。歩武と清春が対応策を考えている間にセサミが口を開く。

「お前の気配は覚えた。後は、そこからあいつの監禁先を割り出すだけだ。これ以上、この車に乗っているのは無意味だし、危険だ」

 アルもセサミに続いて口を開く。なにやら、ミコの居場所を掴めたような感じに見える。歩武は彼らの言葉を信じることにして、清光に頼み込む。

「私からもお願いします。ミコのいる場所にも、あなたの家にも案内してくれないのなら、車に乗せてもらっている意味がありません」

「まったく、勝手に降りようとしやがって。兄貴、そう言うことだから、乗ってすぐだけど、オレ達は車から降りるから。どうせ、こいつの妹の居場所は教えてくれないんだろ?」

 清春も歩武たちの言葉に加勢する。


「そこまで僕の車から降りたいのなら、降りてもいいよ。ちょうど、清春たちが通っている学校があるから、そこで降りるといいよ」

 清光はこの状況を面白いと感じていた。どういった理屈かわからないが、人外の彼らには清光の気配からミコがいる場所を探し当てるすべを持っているようだ。しかし、彼女を監禁している倉庫には結界が張ってある。そう簡単に見つけられるはずがない。

「僕のもとに来て、君の妹を取り返せることを祈っているよ。とはいえ、僕も祓い師という人間だから、そんなに悠長に妹を消すのを待ってはいられないよ。そうだな。今日一日、彼女をこの世から消すのを待ってあげよう。それまでに僕の居場所と彼女の居場所を探り当てたら、君たちの勝利かな」

 待っているよ。


 案外あっさりと、清光は歩武たちが通う中学校の校門前で車を停めた。そして、歩武たちが車から降りるのを確認すると、そのまま車を走らせてどこかに走り去っていく。拍子抜けするほどあっけなく、歩武たちは車から降ろされた。

 去り際に残した言葉が歩武たちの心に重くのしかかる。中学校前で降ろされた歩武たちはとりあえず、清春の家に戻ることにした。


「兄貴には会えたけど、やっぱり、そう簡単に居場所を掴ませてはくれなかったな」

「セサミたちは、何かわかったみたいだけど、どうなの?」

「どうと言われたら、どうにかなりそうだとしか言えないな」

「詳しい話はこいつの家でしてやるよ」

 歩武たちは雲一つない晴天の下、日差しと暑さに耐えながら、清春の家を目指して歩き出した。




「それで、これからどうするんですか?お兄さんの居場所も、ミコの居場所もわからずじまいでしたけど」

 今朝、先輩の家から出たはずなのに、また戻ってきてしまった。清春の家のリビングで歩武は今後の計画について清春に問いかける。その答えを口にしたのは清春ではなかった。

「ねえ、歩武。僕、こいつのお兄さんにも言ったけど、あいつの居場所、わかったよ。でも……」

 ためらいがちのアルの言葉に歩武は首をかしげる。清春の兄に反論した時の威勢はなくなり、自身がなさそうにしている。頭から生えたうさ耳がたらりと垂れてしまっていた。

「いまさら、言葉を濁したって仕方ないだろ。どうせ、あいつのもとに向かったらわかることだ」

「どこにミコがいるの?わかるって何?もしかしてミコはもう」

『それは大丈夫』

 何やら意味深な言葉をつぶやくセサミに、思わず言葉を荒げて問い詰めてしまう。突然の大声に驚いたセサミがびくっと頭に生えた猫耳を揺らす。隣のアルも同じように耳を揺らしていた。しかし、すぐに歩武の言葉に返事する。息の合った言葉に少しだけ安心する歩武だが、彼らの話を詳しく聞く必要がある。

「お前ら、あいつの居場所が分かったような話し方だが、どうやって居場所を特定した?兄貴のことだから、そう簡単に尻尾を掴ませてはくれないはずだ」


「ジリリリリリ」

 歩武たちの会話は電話の音に中断された。音の在りかを探ろうと歩武が辺りを見渡すと、鳴っていたのは清春の家のリビングに設置されていた固定電話からだった。ディスプレイには『父』と表示されている。

「ああ、無視していいよ。きっと仕事の依頼で帰りが遅くなるという連絡だろう」

 電話の着信音が鳴り響く中、清春が無視していると、しばらくして音が鳴りやんだ。電話の音で思い出したのは歩武の両親のことだった。先輩の家に外泊するとは言ったが、今日何時ごろに家に帰るかは伝えていない。両親が心配していないか不安になったが、首を振って考えることを放棄する。さっさとミコを救出して一緒に帰れば良いだけの話だ。

「電話……」

 他のことを考えようとして、ふとミコが携帯を持っていたかどうかが気になった。そしてすぐにその疑問は解決する。歩武が持っていないのに、ミコが持っているはずがなかった。携帯電話を持っていたら、電話して居場所がすぐにわかったのになと思ったが仕方ない。


 ゴホン。

 清春の咳ばらいの音で、歩武は自分が今、何処にいて何をするべきかを思い出す。電話の音に中断されていたが、セサミたちがミコの居場所がわかりそうだという話をしていたのだ。清春と歩武がセサミたちに視線を向けると、彼らは顔を見合わせて頷き、説明してくれた。

「なんていうか、僕たちは人間の気配を察知できるし、同じ人外同士の気配なら、探せないこともないんだよ」

「あいつが歩武のことを探せていたのもそのおかげだな」

「そっか」

 彼らは人外の存在でそんなこともできたのか。道理でミコが私のことを見つけられないはずがなかったと、歩武はミコとの過去を思い出して納得する。


「それで、その力を使ってみても、あいつの居場所はわからなかった。何かに阻まれるような感じはあったけど、こいつの兄貴に会って確信した。阻まれている奴の気配があいつの物と同じだった」

「だったら、ミコの居場所がわかるってこと?だったら今すぐに」

『それは無理』

「どうして!」

 居場所がわかるのだったら、すぐにでも助けに行くべきだ。何をためらうことがあるのだろうか。

「兄貴の結界のせいか?」

 歩武の疑問を解決したのは清春だった。どうやら心当たりがあるらしい。

「あいつがそう簡単に尻尾を掴ませないと言っただろう?おそらく、あいつの結界の中に遠野さんの妹はいると思うけど、その結界を何とかしないと、中にいる妹は助けることは不可能だ」

「そんな」

「一つだけ、結界を破って助け出す方法があるけど、聞いてくれる?できれば、こんな方法を僕たちは取りたくはないんだけどね」

「でも、オレ達よりもあいつの方が歩武の心の割合を占めているからな。ここまでって感じだな。オレ達は覚悟ができている」

 絶望を突きつけられた歩武に告げられたのは、さらに絶望を突きつける彼らの言葉だった。
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