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5中庭での出来事
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予冷が鳴り、三人はそれぞれの教室に戻ることになった。ミコはとても不満そうな顔をしていたが、昼休みに約束を取り付けることで隣の教室に戻っていった。昼休みがつぶれるのは嫌だなと思いつつも、話は聞きたかったので、歩武はミコの言葉に異を唱えることはなかった。同級生も文句を言うことはなかった。
「これは、また、すいごい光景だわ……」
昼休みになるまでに、歩武はたくさんの半透明の存在を目にした。クラスメイトの肩に乗っていたり、廊下を生徒の間をすり抜けてふわふわと漂っていたりしていた。いずれも人間の形を取っているものはなく、人間以外の動物の形を取っているように見えた。
「では、この問題を前で解いてくれ。そうだな、遠野。お前はどうだ?」
「ええと、すいません。話を聞いていませんでした」
「まったく、しっかりと先生に話を聞くように。今日はどうにも集中力がないな。気を付けなさい」
あまりの非日常な景色に歩武は授業に集中するどころではなく、先生に問題を解くよう指摘されても、とっさに反応することができず、叱られてしまう。そんなことが続いて、ようやく給食を食べ終え、昼休みに突入した。
○
「お姉ちゃん、それと朝の同級生。中庭に行って、三人きりで話せる場所に移動しましょう」
昼休み始まりのチャイムが鳴り、歩武と同級生の高木が隣のミコのいる教室に向かおうと教室を出ると、すでに、廊下でミコが二人を待ち受けていた。にっこりと圧のある笑顔で微笑まれ、二人はあいまいに頷いて彼女の後に続いて中庭に向かう。
そういえばと、歩武は今朝、同級生との話に中庭がどうのこうのと話していたことを断片的に思い出す。とはいえ、肩の存在に気を取られすぎて話を聞き流していたので、詳しいことはわからない。
「まあいいか」
ちらりと隣の同級生の様子をうかがうと、なぜか顔を真っ青にして震えていた。やはり、中庭に不気味な何かがあるようだ。
「ああ、そういえば、中庭でいろいろあるみたいだね。でもまあ、私が一緒だから、何も起こらないと思うよ。お姉ちゃんも一緒だし、ね」
意味深なミコの言葉にひっと彼女はおびえるが、歩武はいつものことだと割り切って何も口にすることはなかった。
○
「よいしょっと」
歩武たちは中庭の花壇の近くまでやってきた。そして、ミコは椅子代わりとばかりに花壇の端にあるレンガの上に腰かける。歩武たちもそれに続いてミコと少し距離を取ってレンガの上に座り込む。
「では、詳しい話を聞いていきましょうか。いったい何がわかったのか、ということからね」
「あ、あれは、その」
「ねえ、ミコ、本当に高木さんの肩に何か乗っているの?」
会話が始まってしまう前に、歩武はミコに自分が見た謎の半透明の物体について質問することにした。そもそも、ハモった原因にもなった存在である。歩武だけに見えている存在なのかどうかが気になった。
「そうだねえ。だから、わざわざ高木さん?を呼び出しているんだよ。それが答えって言うことにしてもいい?」
「だったら、高木さんの身に危険は」
「本当に私の肩に何か視えるの?それって、もしかして、フクロウの姿をしていない!どうなの!」
突然、同級生の高木が遠野姉妹の会話に声を荒げて割り込んできた。先ほどまでおびえていた人物とは思えない興奮ぶりだ。歩武は驚いてミコの様子をうかがう。妹は驚くことなく冷静に高木に対応する。そして、歩武にはわからないことを話し出す。
「なるほど。家でフクロウを飼っていたと。それで、老衰か病気か知らないけど、最近亡くなって、そいつがまだあんたのそばに居たくてそこにいるわけね。ふむ、わかった」
「やっぱり、『ふくちゃん』は私の近くにいたんだ!それで、今はどんな表情で私を見守っているの!」
どうやら、同級生に肩に乗っていたのは彼女のペットのフクロウの霊だったようだ。正体が判明したが、このままずっとそばに居ていいものだろうかという疑問が歩武の頭に浮かぶ。それにしても、ミコは歩武の心以外にも他人の心も読めるのだろうか。だとしたら、すごいことである。歩武の心の内を見透かしたようにミコはどんどん話を進めていく。
「今はそんなことを考えている時じゃないよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんもこいつの姿が見えていて、それでフクロウに見えたから、こいつと『わかった』なんてハモりになったわけだよね」
「う、うん。まあ、そう言うことになるのかな。ところで、もしそれが本当だとしたら、このままずっと高木さんのもとに、そのフクロウの霊は居続けていいものなの?」
霊はこの世に残り続けるのは良くないと聞いたことがある。悪霊にでもなってしまったら、大変なことになるのでは。歩武が同級生を心配して質問すると、それは杞憂だったようだ。ミコが呆れたように鼻を鳴らし、質問に回答する。
「こいつに限ってはそれはなさそうね。だって、だいぶこの子に懐いているから、むしろ守護霊として彼女を生涯守り続けそうな勢いだし。とはいえ」
ミコが何か人間には聞き取れない言語で同級生の肩に向かって話しかける。鳥の鳴き声に近いものだったが、わからない。しかし、その言葉によってその場の空気ががらりと変わる。急に寒気を感じ、歩武は思わず周囲を見渡すが、特に景色が変わった様子は見られない。
「さて、と。ねえ、あなたはもう一度、大事だった『ふくちゃん』に会いたい?今から私が提示する選択肢を選んで頂戴。ここで出会ったのもなにかの縁。『ふくちゃん』とやらに免じて、今回は特別にお姉ちゃん以外に力を貸してあげてもいいわ。」
ずいぶんと上から目線な言い方をするミコだが、誰も注意することはない。歩武はいつものことだとあきらめているし、同級生の高木は自分のペットのことで頭がいっぱいでそれどころではなかった。
ミコは同級生に三つの選択肢を示した。
①フクロウにもう一度会って、そのまま別れを告げる
②フクロウに会わずに一生、フクロウに見守られて過ごす
③気味悪い霊をさっさと追い払って、フクロウを思い出の中だけにとどめて一生を過ごす
「そうねえ、あなたがこれから生きていく上で選んだ方がいいのは、①か③かしら。守護霊なんて物を置いていたら、どこぞの祓い屋なんかに目をつけられて、生きにくいと思うわ」
さあ、どうする?
選択肢を言い終えたミコが改めて同級生に問いかける。突然、自分の飼っていたペットが霊になって自分のそばに居ると言われるだけでも衝撃的なのに、それと別れを告げるか、そばに置き続けるかを迫っているのだ。今ここで即決するのは難しい質問だろう。
自分ならどうするだろうか。別れを告げて、お互いに新しい未来に向けて進んでいく方がいい気がする。とはいえ、そばにずっと気配を感じながら生きるのも悪くないのかもしれない。話しぶりからすると、フクロウのペットは同級生が相当大事に育てていた様子だった。
○
それから、時間にして数分の時間が過ぎ去った。特にやることがない歩武は、花壇のレンガから腰を上げて辺りを散策していた。学校の校舎にかけられた時計を確認すると、後10分ほどで昼休みが終えようとしている。中庭から教室までは結構な距離があるため、うかうかとしてはいられない。
「ねえ、君は視える人なの?あそこの人間に化けている奴は何者?僕を捕まえようとする悪いやつかな」
昼休みの残り時間をミコたちに告げようとしたら、急に目の前に何かが現れ、可愛らしい小さい子供の声が聞こえた。
「ええと、こんにちは?」
今日は本当に動物によく会う日である。歩武の足下には、白いふさふさの毛をまとった、赤い目のウサギがちょこんと座って歩武を見上げていた。ただし、本物ではないことは一目瞭然だった。このウサギもまた、半透明で身体から後ろの景色が透けて見えていた。
「これは、また、すいごい光景だわ……」
昼休みになるまでに、歩武はたくさんの半透明の存在を目にした。クラスメイトの肩に乗っていたり、廊下を生徒の間をすり抜けてふわふわと漂っていたりしていた。いずれも人間の形を取っているものはなく、人間以外の動物の形を取っているように見えた。
「では、この問題を前で解いてくれ。そうだな、遠野。お前はどうだ?」
「ええと、すいません。話を聞いていませんでした」
「まったく、しっかりと先生に話を聞くように。今日はどうにも集中力がないな。気を付けなさい」
あまりの非日常な景色に歩武は授業に集中するどころではなく、先生に問題を解くよう指摘されても、とっさに反応することができず、叱られてしまう。そんなことが続いて、ようやく給食を食べ終え、昼休みに突入した。
○
「お姉ちゃん、それと朝の同級生。中庭に行って、三人きりで話せる場所に移動しましょう」
昼休み始まりのチャイムが鳴り、歩武と同級生の高木が隣のミコのいる教室に向かおうと教室を出ると、すでに、廊下でミコが二人を待ち受けていた。にっこりと圧のある笑顔で微笑まれ、二人はあいまいに頷いて彼女の後に続いて中庭に向かう。
そういえばと、歩武は今朝、同級生との話に中庭がどうのこうのと話していたことを断片的に思い出す。とはいえ、肩の存在に気を取られすぎて話を聞き流していたので、詳しいことはわからない。
「まあいいか」
ちらりと隣の同級生の様子をうかがうと、なぜか顔を真っ青にして震えていた。やはり、中庭に不気味な何かがあるようだ。
「ああ、そういえば、中庭でいろいろあるみたいだね。でもまあ、私が一緒だから、何も起こらないと思うよ。お姉ちゃんも一緒だし、ね」
意味深なミコの言葉にひっと彼女はおびえるが、歩武はいつものことだと割り切って何も口にすることはなかった。
○
「よいしょっと」
歩武たちは中庭の花壇の近くまでやってきた。そして、ミコは椅子代わりとばかりに花壇の端にあるレンガの上に腰かける。歩武たちもそれに続いてミコと少し距離を取ってレンガの上に座り込む。
「では、詳しい話を聞いていきましょうか。いったい何がわかったのか、ということからね」
「あ、あれは、その」
「ねえ、ミコ、本当に高木さんの肩に何か乗っているの?」
会話が始まってしまう前に、歩武はミコに自分が見た謎の半透明の物体について質問することにした。そもそも、ハモった原因にもなった存在である。歩武だけに見えている存在なのかどうかが気になった。
「そうだねえ。だから、わざわざ高木さん?を呼び出しているんだよ。それが答えって言うことにしてもいい?」
「だったら、高木さんの身に危険は」
「本当に私の肩に何か視えるの?それって、もしかして、フクロウの姿をしていない!どうなの!」
突然、同級生の高木が遠野姉妹の会話に声を荒げて割り込んできた。先ほどまでおびえていた人物とは思えない興奮ぶりだ。歩武は驚いてミコの様子をうかがう。妹は驚くことなく冷静に高木に対応する。そして、歩武にはわからないことを話し出す。
「なるほど。家でフクロウを飼っていたと。それで、老衰か病気か知らないけど、最近亡くなって、そいつがまだあんたのそばに居たくてそこにいるわけね。ふむ、わかった」
「やっぱり、『ふくちゃん』は私の近くにいたんだ!それで、今はどんな表情で私を見守っているの!」
どうやら、同級生に肩に乗っていたのは彼女のペットのフクロウの霊だったようだ。正体が判明したが、このままずっとそばに居ていいものだろうかという疑問が歩武の頭に浮かぶ。それにしても、ミコは歩武の心以外にも他人の心も読めるのだろうか。だとしたら、すごいことである。歩武の心の内を見透かしたようにミコはどんどん話を進めていく。
「今はそんなことを考えている時じゃないよ、お姉ちゃん。お姉ちゃんもこいつの姿が見えていて、それでフクロウに見えたから、こいつと『わかった』なんてハモりになったわけだよね」
「う、うん。まあ、そう言うことになるのかな。ところで、もしそれが本当だとしたら、このままずっと高木さんのもとに、そのフクロウの霊は居続けていいものなの?」
霊はこの世に残り続けるのは良くないと聞いたことがある。悪霊にでもなってしまったら、大変なことになるのでは。歩武が同級生を心配して質問すると、それは杞憂だったようだ。ミコが呆れたように鼻を鳴らし、質問に回答する。
「こいつに限ってはそれはなさそうね。だって、だいぶこの子に懐いているから、むしろ守護霊として彼女を生涯守り続けそうな勢いだし。とはいえ」
ミコが何か人間には聞き取れない言語で同級生の肩に向かって話しかける。鳥の鳴き声に近いものだったが、わからない。しかし、その言葉によってその場の空気ががらりと変わる。急に寒気を感じ、歩武は思わず周囲を見渡すが、特に景色が変わった様子は見られない。
「さて、と。ねえ、あなたはもう一度、大事だった『ふくちゃん』に会いたい?今から私が提示する選択肢を選んで頂戴。ここで出会ったのもなにかの縁。『ふくちゃん』とやらに免じて、今回は特別にお姉ちゃん以外に力を貸してあげてもいいわ。」
ずいぶんと上から目線な言い方をするミコだが、誰も注意することはない。歩武はいつものことだとあきらめているし、同級生の高木は自分のペットのことで頭がいっぱいでそれどころではなかった。
ミコは同級生に三つの選択肢を示した。
①フクロウにもう一度会って、そのまま別れを告げる
②フクロウに会わずに一生、フクロウに見守られて過ごす
③気味悪い霊をさっさと追い払って、フクロウを思い出の中だけにとどめて一生を過ごす
「そうねえ、あなたがこれから生きていく上で選んだ方がいいのは、①か③かしら。守護霊なんて物を置いていたら、どこぞの祓い屋なんかに目をつけられて、生きにくいと思うわ」
さあ、どうする?
選択肢を言い終えたミコが改めて同級生に問いかける。突然、自分の飼っていたペットが霊になって自分のそばに居ると言われるだけでも衝撃的なのに、それと別れを告げるか、そばに置き続けるかを迫っているのだ。今ここで即決するのは難しい質問だろう。
自分ならどうするだろうか。別れを告げて、お互いに新しい未来に向けて進んでいく方がいい気がする。とはいえ、そばにずっと気配を感じながら生きるのも悪くないのかもしれない。話しぶりからすると、フクロウのペットは同級生が相当大事に育てていた様子だった。
○
それから、時間にして数分の時間が過ぎ去った。特にやることがない歩武は、花壇のレンガから腰を上げて辺りを散策していた。学校の校舎にかけられた時計を確認すると、後10分ほどで昼休みが終えようとしている。中庭から教室までは結構な距離があるため、うかうかとしてはいられない。
「ねえ、君は視える人なの?あそこの人間に化けている奴は何者?僕を捕まえようとする悪いやつかな」
昼休みの残り時間をミコたちに告げようとしたら、急に目の前に何かが現れ、可愛らしい小さい子供の声が聞こえた。
「ええと、こんにちは?」
今日は本当に動物によく会う日である。歩武の足下には、白いふさふさの毛をまとった、赤い目のウサギがちょこんと座って歩武を見上げていた。ただし、本物ではないことは一目瞭然だった。このウサギもまた、半透明で身体から後ろの景色が透けて見えていた。
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