25 / 59
第四章 依頼開始
5
しおりを挟む
「明日また、居心地悪いあの家に行く羽目になるのね。あそこに行くの、私、嫌なんだけど」
化粧を終えた美彩がリビングに戻ってきた。今日が彼女と二人きりで過ごす最後の日となるので、慎重に行動する必要がある。
「仕方ないよ。それで、先輩はこのまま成仏する気はないのですか?僕、聞いたんです。期限を過ぎても還らない魂のこと」
「久瑠徒は、私と離れても平気なんだね。そりゃそうか。もとはと言えば、久瑠徒の浮気が原因だからね。私に興味がないことはわかっていたよ」
「違う!僕は浮気なんてしていない。あれはたまたまだったんだ。僕は先輩のことが好きだった!本当だ!」
自分が成仏することを望んでいると言われ、美彩は悲しそうに笑う。そんな彼女に久瑠徒は、彼女のことが好きだったと告白する。すでにその言葉が過去形になっていることに気付かず、彼女に対する思いを口にする。
さらに、明日ですべてが終わると無意識に思っていたのか、久瑠徒は今までの思いを言葉にしていく。
「そもそも、先輩の方こそどうだったんですか?久瑠羽からいろいろ聞いているんですよ。あなたは、僕の弟にも目をかけていた。そりゃあ、僕と弟は兄弟でとてもよく似ていると周りからよく言われます。弟も先輩の前で、自分が久瑠徒だと名乗っていたと言っていたので、あなただけが悪いとは言えません。ですが、僕だって弟と親しくしていたことに何も思わなかったわけではない!」
「だったら!どうして私を置いて他の女性と話せるの?私のことが好きというのなら、他の女とは一切話さないという配慮が必要でしょ。それを怠ったらから、私は悲しくなって。それに」
久瑠徒の言葉に、彼女も感情的に反論する。彼らは生前、自分の言葉をここまでぶつけ合ったことはなかった。喧嘩することなく、互いに笑い合って過ごしていた。そこに本音があったどうかは、今となってはわからない。しかし、今のこの状況でやっと互いの本音をぶつけ合えたように見えた。
「ピンポーン」
二人の会話はインターホンの無機質な音で中断された。大事な話をしている最中であり、久瑠徒も美彩も居留守を決め込む。
「ピンポーン」
しかし、再度インターホンが鳴らされる。仕方なく、久瑠徒が応対すると、インターフォン越しの画面には、自分とよく似た顔が映っていた。
「二人きりのところ、邪魔して悪いね。今日が最終日だとわかっているんだけどさ。オレも彼女と話したいことがあってさ。家に入れてくる?」
久瑠羽を家に入れるかどうか迷ったのは一瞬だった。明日までに彼女が成仏したいと思わないならば、シラコに魂を食べられてしまう。そうなれば、彼女の魂は完全に消滅してしまう。魂の消滅だけは避けたかった久瑠徒は、弟に望みをかけるために、家に招き入れることにした。
「恋人同士の逢瀬にオレが邪魔しちゃいけないかなとは思ったんだけど、明日にはあなたはいなくなる。その前にどうしても話したいことがあってさ」
「私はあんたと話なんてないけど」
弟を部屋に招き入れたのはいいが、彼女は久瑠徒を見るなり、嫌悪感をあらわに出て行けとばかりに言葉を荒げる。しかし、その様子に肩をすくめるだけで、弟は部屋を出ていこうとはしない。
「そこまで険悪になることはないだろ。久瑠羽、話ってなんだ。もう、二度とない機会だからな。その話は僕も聞いていいのか?」
「もちろん、久瑠兄にも聞いてもらいたいから、わざわざうちに戻ってきたんだよ」
兄の言葉ににっこりと微笑みを浮かべて返答する久瑠羽だが、表情とは裏腹に楽しそうには見えなかった。
化粧を終えた美彩がリビングに戻ってきた。今日が彼女と二人きりで過ごす最後の日となるので、慎重に行動する必要がある。
「仕方ないよ。それで、先輩はこのまま成仏する気はないのですか?僕、聞いたんです。期限を過ぎても還らない魂のこと」
「久瑠徒は、私と離れても平気なんだね。そりゃそうか。もとはと言えば、久瑠徒の浮気が原因だからね。私に興味がないことはわかっていたよ」
「違う!僕は浮気なんてしていない。あれはたまたまだったんだ。僕は先輩のことが好きだった!本当だ!」
自分が成仏することを望んでいると言われ、美彩は悲しそうに笑う。そんな彼女に久瑠徒は、彼女のことが好きだったと告白する。すでにその言葉が過去形になっていることに気付かず、彼女に対する思いを口にする。
さらに、明日ですべてが終わると無意識に思っていたのか、久瑠徒は今までの思いを言葉にしていく。
「そもそも、先輩の方こそどうだったんですか?久瑠羽からいろいろ聞いているんですよ。あなたは、僕の弟にも目をかけていた。そりゃあ、僕と弟は兄弟でとてもよく似ていると周りからよく言われます。弟も先輩の前で、自分が久瑠徒だと名乗っていたと言っていたので、あなただけが悪いとは言えません。ですが、僕だって弟と親しくしていたことに何も思わなかったわけではない!」
「だったら!どうして私を置いて他の女性と話せるの?私のことが好きというのなら、他の女とは一切話さないという配慮が必要でしょ。それを怠ったらから、私は悲しくなって。それに」
久瑠徒の言葉に、彼女も感情的に反論する。彼らは生前、自分の言葉をここまでぶつけ合ったことはなかった。喧嘩することなく、互いに笑い合って過ごしていた。そこに本音があったどうかは、今となってはわからない。しかし、今のこの状況でやっと互いの本音をぶつけ合えたように見えた。
「ピンポーン」
二人の会話はインターホンの無機質な音で中断された。大事な話をしている最中であり、久瑠徒も美彩も居留守を決め込む。
「ピンポーン」
しかし、再度インターホンが鳴らされる。仕方なく、久瑠徒が応対すると、インターフォン越しの画面には、自分とよく似た顔が映っていた。
「二人きりのところ、邪魔して悪いね。今日が最終日だとわかっているんだけどさ。オレも彼女と話したいことがあってさ。家に入れてくる?」
久瑠羽を家に入れるかどうか迷ったのは一瞬だった。明日までに彼女が成仏したいと思わないならば、シラコに魂を食べられてしまう。そうなれば、彼女の魂は完全に消滅してしまう。魂の消滅だけは避けたかった久瑠徒は、弟に望みをかけるために、家に招き入れることにした。
「恋人同士の逢瀬にオレが邪魔しちゃいけないかなとは思ったんだけど、明日にはあなたはいなくなる。その前にどうしても話したいことがあってさ」
「私はあんたと話なんてないけど」
弟を部屋に招き入れたのはいいが、彼女は久瑠徒を見るなり、嫌悪感をあらわに出て行けとばかりに言葉を荒げる。しかし、その様子に肩をすくめるだけで、弟は部屋を出ていこうとはしない。
「そこまで険悪になることはないだろ。久瑠羽、話ってなんだ。もう、二度とない機会だからな。その話は僕も聞いていいのか?」
「もちろん、久瑠兄にも聞いてもらいたいから、わざわざうちに戻ってきたんだよ」
兄の言葉ににっこりと微笑みを浮かべて返答する久瑠羽だが、表情とは裏腹に楽しそうには見えなかった。
0
お気に入りに追加
1
あなたにおすすめの小説
校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれた女子高生たちが小さな公園のトイレをみんなで使う話
赤髪命
大衆娯楽
少し田舎の土地にある女子校、華水黄杏女学園の1年生のあるクラスの乗ったバスが校外学習の帰りに渋滞に巻き込まれてしまい、急遽トイレ休憩のために立ち寄った小さな公園のトイレでクラスの女子がトイレを済ませる話です(分かりにくくてすみません。詳しくは本文を読んで下さい)
就職面接の感ドコロ!?
フルーツパフェ
大衆娯楽
今や十年前とは真逆の、売り手市場の就職活動。
学生達は賃金と休暇を貪欲に追い求め、いつ送られてくるかわからない採用辞退メールに怯えながら、それでも優秀な人材を発掘しようとしていた。
その業務ストレスのせいだろうか。
ある面接官は、女子学生達のリクルートスーツに興奮する性癖を備え、仕事のストレスから面接の現場を愉しむことに決めたのだった。
ママと中学生の僕
キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。
女子高生は卒業間近の先輩に告白する。全裸で。
矢木羽研
恋愛
図書委員の女子高生(小柄ちっぱい眼鏡)が、卒業間近の先輩男子に告白します。全裸で。
女の子が裸になるだけの話。それ以上の行為はありません。
取って付けたようなバレンタインネタあり。
カクヨムでも同内容で公開しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる