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第四章 依頼開始

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「明日また、居心地悪いあの家に行く羽目になるのね。あそこに行くの、私、嫌なんだけど」

 化粧を終えたがリビングに戻ってきた。今日が彼女と二人きりで過ごす最後の日となるので、慎重に行動する必要がある。

「仕方ないよ。それで、先輩はこのまま成仏する気はないのですか?僕、聞いたんです。期限を過ぎても還らない魂のこと」

「久瑠徒は、私と離れても平気なんだね。そりゃそうか。もとはと言えば、久瑠徒の浮気が原因だからね。私に興味がないことはわかっていたよ」

「違う!僕は浮気なんてしていない。あれはたまたまだったんだ。僕は先輩のことが好きだった!本当だ!」

 自分が成仏することを望んでいると言われ、は悲しそうに笑う。そんな彼女に久瑠徒は、彼女のことが好きだったと告白する。すでにその言葉が過去形になっていることに気付かず、彼女に対する思いを口にする。

さらに、明日ですべてが終わると無意識に思っていたのか、久瑠徒は今までの思いを言葉にしていく。

「そもそも、先輩の方こそどうだったんですか?久瑠羽からいろいろ聞いているんですよ。あなたは、僕の弟にも目をかけていた。そりゃあ、僕と弟は兄弟でとてもよく似ていると周りからよく言われます。弟も先輩の前で、自分が久瑠徒だと名乗っていたと言っていたので、あなただけが悪いとは言えません。ですが、僕だって弟と親しくしていたことに何も思わなかったわけではない!」

「だったら!どうして私を置いて他の女性と話せるの?私のことが好きというのなら、他の女とは一切話さないという配慮が必要でしょ。それを怠ったらから、私は悲しくなって。それに」

 久瑠徒の言葉に、彼女も感情的に反論する。彼らは生前、自分の言葉をここまでぶつけ合ったことはなかった。喧嘩することなく、互いに笑い合って過ごしていた。そこに本音があったどうかは、今となってはわからない。しかし、今のこの状況でやっと互いの本音をぶつけ合えたように見えた。


「ピンポーン」

 二人の会話はインターホンの無機質な音で中断された。大事な話をしている最中であり、久瑠徒もも居留守を決め込む。

「ピンポーン」

 しかし、再度インターホンが鳴らされる。仕方なく、久瑠徒が応対すると、インターフォン越しの画面には、自分とよく似た顔が映っていた。

「二人きりのところ、邪魔して悪いね。今日が最終日だとわかっているんだけどさ。オレも彼女と話したいことがあってさ。家に入れてくる?」

 久瑠羽を家に入れるかどうか迷ったのは一瞬だった。明日までに彼女が成仏したいと思わないならば、シラコに魂を食べられてしまう。そうなれば、彼女の魂は完全に消滅してしまう。魂の消滅だけは避けたかった久瑠徒は、弟に望みをかけるために、家に招き入れることにした。

「恋人同士の逢瀬にオレが邪魔しちゃいけないかなとは思ったんだけど、明日にはあなたはいなくなる。その前にどうしても話したいことがあってさ」

「私はあんたと話なんてないけど」

 弟を部屋に招き入れたのはいいが、彼女は久瑠徒を見るなり、嫌悪感をあらわに出て行けとばかりに言葉を荒げる。しかし、その様子に肩をすくめるだけで、弟は部屋を出ていこうとはしない。

「そこまで険悪になることはないだろ。久瑠羽、話ってなんだ。もう、二度とない機会だからな。その話は僕も聞いていいのか?」

「もちろん、久瑠兄にも聞いてもらいたいから、わざわざうちに戻ってきたんだよ」

 兄の言葉ににっこりと微笑みを浮かべて返答する久瑠羽だが、表情とは裏腹に楽しそうには見えなかった。
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