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「ねえ、鷹崎君。今日の放課後は暇かしら?」
放課後、紫陽が家に帰る支度をしていると、隼瀬に声をかけられた。彼女には、勝手に家に押し掛けられた経緯があり、あまり楽しい誘いとは言い難い。
「暇ではないな。大学に進学したいというのなら、高校一年生から勉強をしておくのは賢明なことだろ。だから、暇な時間なんて存在しない。用件はなんだ?教室で済む話なら、さっさと話してくれ。そうでない、込み入った話なら、お断りだ。他を当たってくれ」
「つれない男だね、でもいいわ。近くにあやのさんもいないし、私の質問に答えてくれるかしら?」
紫陽の言葉に気を悪くすることなく、なぜか、あやののことを気にしている彼女に首を傾げる。教室にはまだ数人の生徒が残っていたが、彼らも彼らで話したいことがあるらしく、誰も紫陽たちの会話に耳を傾ける者はいない。たまたまあやのは担任に呼ばれて教室にその姿はなかった。
「あやのはなぜ、手のスマホが成長しないのよ」
紫陽は、彼女の質問に対する答えを持っていない。そのことについては、紫陽も疑問に思っていたことだ。もっとも、一番に気になったのは、意識をスマホに乗っ取られたということだが、そのことを彼女に伝える必要はない。
「どうして、そう思ったんだ?」
「当たり前のことよ。彼女が最初にスマホに寄生されたのは、一カ月前。それなのに、いまだにタブレットサイズで成長をとどめている。クラスメイト達は、成長を恐れて、スマホに寄生されたら、すぐに手を切断しているのよ」
「そういえば、お前もスマホを買ったんだったな。スマホ依存症にはなっていないようで安心したよ。自分が安全圏にいるからって、他人の心配をするなんて優しい人だな。隼瀬は」
彼女の切羽詰まった表情を見ているうちに、紫陽は一つの考えが頭に浮かぶ。とはいえ、目の前の彼女のある一点を見る限り、彼の考えは正解とは言い難い。しかし、スマホに乗っ取られている幼馴染の言葉が冗談だとも思えない。それに、彼女の両親は確か。
「なあ、お前の手をよく見せてくれよ」
無意識のうちに、言葉が口から出ていた。もし、紫陽の考えが当たっているとしたら、彼女はすでにスマホの被害に遭っているということだ。自分の考えを確かめるためにも、隼瀬の手に触れる必要がある。
「おことわりよ。なんで、男子に自分の手を見せなくちゃいけないの。あいにく、手相占いは興味がないの」
手を見せることを断られるのは、想定内だった。他人に、しかも異性に手を容易に見せることには抵抗がある。紫陽は今日のところはあきらめることにした。
「わかったよ。別に無理に手を見たいというわけではないんだ、ただ」
「ただ、何よ」
ここで言葉を止めて、紫陽はじっと隼瀬を見つめる。見つめながらも、言葉が勝手に口からこぼれていく。
「その、隼瀬の手がきれいだなと思っていたんだ。最近は、男でも手はきれいにしていた方がいいだろう。だから、どうやったら手をきれいに保つことができるのか気になって。直接女性の手を見れば、何か秘訣があるのかわかると思って。まあ、一番の理由は、あやのことだけど」
「あやのさんになんの関係があるの?」
「ガラガラガラ」
突如、教室のドアが開かれて、ちょうど二人が話題にしていた彼女が教室に入ってきた。まるで、今までの会話を聞いていたようなタイミングの良さだった、もしかしたら、廊下で聞き耳を立てていたのかもしれない。
「そろそろ下校の時間だそうだけど、何かタイミング悪い時に入ってきちゃったかな?」
悪びれた様子もなく、軽い口調で下校時刻を知らせる幼馴染の姿になぜかほっとして、紫陽は帰り支度を始めた。突然の彼女の登場に隼瀬は戸惑っていた。
「もう、そんな時間なのね。でも、放送が入っていないようだけど」
「放送の前に帰った方がいいと思って。紫陽が残っていたら、一緒に帰ろうかと教室を覗いてみたんだけど、私は一人で帰った方がいいのかな」
「いや、オレはお前と一緒に帰る。お前は、何かと一人にしておくと、危なっかしいから」
「過保護だねえ。まあ、そこまで言うなら、さっさと帰ることにしましょう!」
話はここで終わりとばかりに、紫陽は鞄を持って教室に一歩足を踏み入れているあやのを促して教室の外に出ようとした。ふと、他のクラスメイトは帰ったのだろうかと教室を見回して驚く。
「これは、お前がやったのか……」
「これとは、そこに倒れている奴らのことか」
紫陽が見たのは、教室に残っていたクラスメイトがぐったりと床に倒れている姿だった。皆、スマホを手に握りしめていた。
「あやのさん、あなたは一体」
声のした方に振り向くと、そこには他のクラスメイトと同じようにぐったりと床にうずくまる隼瀬の姿があった。
「帰るぞ。そこに転がっているお前のクラスメイトに危害を加えたわけじゃない。一時的に動けなくしただけだ。そこの隼瀬とかいう女もな」
ここで、あやのは隼瀬に近寄り、耳元で何事かつぶやいた。はっと顔を上げて彼女を見つめる隼瀬に、あやのはにっこりと微笑み返す。
「では、今度こそ帰るとしよう」
紫陽は今の状況の説明を求めようとしたが、タイミング悪く、ここで下校の知らせを告げる放送が入った。
「まもなく、下校時刻となります。校内に残っている生徒は速やかに下校してください。繰り返します」
放送に邪魔されて、詳しく聞くことができないまま、紫陽は彼女と一緒に帰宅するのだった。
放課後、紫陽が家に帰る支度をしていると、隼瀬に声をかけられた。彼女には、勝手に家に押し掛けられた経緯があり、あまり楽しい誘いとは言い難い。
「暇ではないな。大学に進学したいというのなら、高校一年生から勉強をしておくのは賢明なことだろ。だから、暇な時間なんて存在しない。用件はなんだ?教室で済む話なら、さっさと話してくれ。そうでない、込み入った話なら、お断りだ。他を当たってくれ」
「つれない男だね、でもいいわ。近くにあやのさんもいないし、私の質問に答えてくれるかしら?」
紫陽の言葉に気を悪くすることなく、なぜか、あやののことを気にしている彼女に首を傾げる。教室にはまだ数人の生徒が残っていたが、彼らも彼らで話したいことがあるらしく、誰も紫陽たちの会話に耳を傾ける者はいない。たまたまあやのは担任に呼ばれて教室にその姿はなかった。
「あやのはなぜ、手のスマホが成長しないのよ」
紫陽は、彼女の質問に対する答えを持っていない。そのことについては、紫陽も疑問に思っていたことだ。もっとも、一番に気になったのは、意識をスマホに乗っ取られたということだが、そのことを彼女に伝える必要はない。
「どうして、そう思ったんだ?」
「当たり前のことよ。彼女が最初にスマホに寄生されたのは、一カ月前。それなのに、いまだにタブレットサイズで成長をとどめている。クラスメイト達は、成長を恐れて、スマホに寄生されたら、すぐに手を切断しているのよ」
「そういえば、お前もスマホを買ったんだったな。スマホ依存症にはなっていないようで安心したよ。自分が安全圏にいるからって、他人の心配をするなんて優しい人だな。隼瀬は」
彼女の切羽詰まった表情を見ているうちに、紫陽は一つの考えが頭に浮かぶ。とはいえ、目の前の彼女のある一点を見る限り、彼の考えは正解とは言い難い。しかし、スマホに乗っ取られている幼馴染の言葉が冗談だとも思えない。それに、彼女の両親は確か。
「なあ、お前の手をよく見せてくれよ」
無意識のうちに、言葉が口から出ていた。もし、紫陽の考えが当たっているとしたら、彼女はすでにスマホの被害に遭っているということだ。自分の考えを確かめるためにも、隼瀬の手に触れる必要がある。
「おことわりよ。なんで、男子に自分の手を見せなくちゃいけないの。あいにく、手相占いは興味がないの」
手を見せることを断られるのは、想定内だった。他人に、しかも異性に手を容易に見せることには抵抗がある。紫陽は今日のところはあきらめることにした。
「わかったよ。別に無理に手を見たいというわけではないんだ、ただ」
「ただ、何よ」
ここで言葉を止めて、紫陽はじっと隼瀬を見つめる。見つめながらも、言葉が勝手に口からこぼれていく。
「その、隼瀬の手がきれいだなと思っていたんだ。最近は、男でも手はきれいにしていた方がいいだろう。だから、どうやったら手をきれいに保つことができるのか気になって。直接女性の手を見れば、何か秘訣があるのかわかると思って。まあ、一番の理由は、あやのことだけど」
「あやのさんになんの関係があるの?」
「ガラガラガラ」
突如、教室のドアが開かれて、ちょうど二人が話題にしていた彼女が教室に入ってきた。まるで、今までの会話を聞いていたようなタイミングの良さだった、もしかしたら、廊下で聞き耳を立てていたのかもしれない。
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「放送の前に帰った方がいいと思って。紫陽が残っていたら、一緒に帰ろうかと教室を覗いてみたんだけど、私は一人で帰った方がいいのかな」
「いや、オレはお前と一緒に帰る。お前は、何かと一人にしておくと、危なっかしいから」
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