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「狐のお面をつけていますね」
「ふうん」
綾崎さんがスマホで動画を再生する。すると聞いたことのある曲が始まった。イントロからすでに耳になじみのある曲で、店とかで流れているものだと思い出す。
「この曲、店とかで聞いたことある。なるほど、店でよく流れている流行の曲を作ったのがこいつってわけだ。なるほど、確かにこれは有名人で、綾崎さんが興奮するのもわかる」
「店で流れる曲を作った有名人が私たちの大学に来るなんて、すごいですね」
記憶~メモリー~
綾崎さんが動画で聞かせてくれた曲のタイトルだ。人生の不幸を並べながらも、それに立ち向かう内容の歌詞で、人々の共感を得たのだろう。
『こんなオレでも生きている』『死んだらお前らの記憶に残らない。オレはお前らの記憶に残り続ける人でありたい』という特徴的なフレーズが記憶に残る歌詞だった。曲調は暗い感じでありながらも、サビになるにつれて明るくなる。しかし、最後にはまた暗い感じになるという構成だった。動画内では、曲に合わせて狐の仮面を被った男が踊っていた。
先ほどとは一転、私たちが彼に興味を持ち始めると、綾崎さんはようやく笑顔を見せた。
「お二人とも、ようやく彼のすごさに気づいたようですね。今年の文化祭にはそんな有名人がゲストとして来るのです!」
「綾崎さんが興奮するのもわかる気がするわ。とはいえ、私は誰が来ようと、一番は蒼紗だけど」
「わ、私だって、蒼紗さんと彼のどちらかを選べと言われたら、蒼紗さんと即答します!それとこれとは話が別ですよ!」
「どうして、こんな有名人と私を並べるのですか?」
ジャスミンの突然の私推しの言葉にあきれてしまう。それに便乗する綾崎さんも綾崎さんだ。いまさら驚くことでもないが、どうして彼女たちは私を自分たちの中の一番にしたがるのかいまだに謎である。
この時、西炎(さいえん)という人物がわざわざ私たちの大学に来る理由を深く考えることはなかった。ただ、この大学に彼の熱狂的なファンがいて、彼らが頑張って文化祭に呼んだのだと楽観的に考えていた。
「すっかり忘れていたけど、蒼紗、今日の服装もミステリアスで素敵よ!」
「偶然かもしれないですけど、その頭にかけられた狐のお面が少し、西炎(さいえん)っぽくてかっこいいです!」
「ありがとうございます」
本日の私の格好にジャスミンがようやく気付いて感想を口にする。私は大学にいる間、コスプレをしようと思っている。大学一年生の時に起きたあの事件を忘れないように。犠牲になった「西園寺桜華(おうか)」のことを忘れてしまわないように。
私は狐の白いお面を頭の横にかけ、黒い浴衣を着ていた。本当は頭に狐の耳、お尻に狐の尻尾をつけたかったのだが、それだと家にいる居候たちと恰好が被ってしまう。何より、私みたいな成人した大人がやっていい恰好ではない。ケモミミと尻尾は幼い子供がするから萌えるのであって、それ以外の人間がしても興がそがれるだけだと思っている。そのため、妥協案として、綾崎さんが見せてくれた動画の人物と服装が被ってしまったという訳だ。
聞くところによると、西炎(さいえん)という人物は、人前に出るときは必ず、白い狐のお面をつけているそうだ。白い狐の面に黒い浴衣。これが彼の正装だそうだ。
「蒼紗さんは何を着ても似合いますけど、偶然ってあるんですね」
「そうねえ。蒼紗が後期の初日から、巷で有名な人間と同じ格好だなんて、なんだか嫌な予感がするわ。文化祭で何も起こらないといいけど」
ジャスミンは嫌みを言ったわけではないが、確かに偶然にしては出来過ぎている。私としては被らせたつもりはないが、こういう偶然は何かしら意味があるものだ。
私の大学生活は今のところ、平穏とはかけ離れている。私が事件を起こしたことはない。勝手に事件が向こうからやってくるのだ。反論したかったが、実際に私が大学に入ってから起きた事件の数々を思い出し、口をつぐんだ。
「ふうん」
綾崎さんがスマホで動画を再生する。すると聞いたことのある曲が始まった。イントロからすでに耳になじみのある曲で、店とかで流れているものだと思い出す。
「この曲、店とかで聞いたことある。なるほど、店でよく流れている流行の曲を作ったのがこいつってわけだ。なるほど、確かにこれは有名人で、綾崎さんが興奮するのもわかる」
「店で流れる曲を作った有名人が私たちの大学に来るなんて、すごいですね」
記憶~メモリー~
綾崎さんが動画で聞かせてくれた曲のタイトルだ。人生の不幸を並べながらも、それに立ち向かう内容の歌詞で、人々の共感を得たのだろう。
『こんなオレでも生きている』『死んだらお前らの記憶に残らない。オレはお前らの記憶に残り続ける人でありたい』という特徴的なフレーズが記憶に残る歌詞だった。曲調は暗い感じでありながらも、サビになるにつれて明るくなる。しかし、最後にはまた暗い感じになるという構成だった。動画内では、曲に合わせて狐の仮面を被った男が踊っていた。
先ほどとは一転、私たちが彼に興味を持ち始めると、綾崎さんはようやく笑顔を見せた。
「お二人とも、ようやく彼のすごさに気づいたようですね。今年の文化祭にはそんな有名人がゲストとして来るのです!」
「綾崎さんが興奮するのもわかる気がするわ。とはいえ、私は誰が来ようと、一番は蒼紗だけど」
「わ、私だって、蒼紗さんと彼のどちらかを選べと言われたら、蒼紗さんと即答します!それとこれとは話が別ですよ!」
「どうして、こんな有名人と私を並べるのですか?」
ジャスミンの突然の私推しの言葉にあきれてしまう。それに便乗する綾崎さんも綾崎さんだ。いまさら驚くことでもないが、どうして彼女たちは私を自分たちの中の一番にしたがるのかいまだに謎である。
この時、西炎(さいえん)という人物がわざわざ私たちの大学に来る理由を深く考えることはなかった。ただ、この大学に彼の熱狂的なファンがいて、彼らが頑張って文化祭に呼んだのだと楽観的に考えていた。
「すっかり忘れていたけど、蒼紗、今日の服装もミステリアスで素敵よ!」
「偶然かもしれないですけど、その頭にかけられた狐のお面が少し、西炎(さいえん)っぽくてかっこいいです!」
「ありがとうございます」
本日の私の格好にジャスミンがようやく気付いて感想を口にする。私は大学にいる間、コスプレをしようと思っている。大学一年生の時に起きたあの事件を忘れないように。犠牲になった「西園寺桜華(おうか)」のことを忘れてしまわないように。
私は狐の白いお面を頭の横にかけ、黒い浴衣を着ていた。本当は頭に狐の耳、お尻に狐の尻尾をつけたかったのだが、それだと家にいる居候たちと恰好が被ってしまう。何より、私みたいな成人した大人がやっていい恰好ではない。ケモミミと尻尾は幼い子供がするから萌えるのであって、それ以外の人間がしても興がそがれるだけだと思っている。そのため、妥協案として、綾崎さんが見せてくれた動画の人物と服装が被ってしまったという訳だ。
聞くところによると、西炎(さいえん)という人物は、人前に出るときは必ず、白い狐のお面をつけているそうだ。白い狐の面に黒い浴衣。これが彼の正装だそうだ。
「蒼紗さんは何を着ても似合いますけど、偶然ってあるんですね」
「そうねえ。蒼紗が後期の初日から、巷で有名な人間と同じ格好だなんて、なんだか嫌な予感がするわ。文化祭で何も起こらないといいけど」
ジャスミンは嫌みを言ったわけではないが、確かに偶然にしては出来過ぎている。私としては被らせたつもりはないが、こういう偶然は何かしら意味があるものだ。
私の大学生活は今のところ、平穏とはかけ離れている。私が事件を起こしたことはない。勝手に事件が向こうからやってくるのだ。反論したかったが、実際に私が大学に入ってから起きた事件の数々を思い出し、口をつぐんだ。
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