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【番外編】もしも、高校生だったなら……4

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「私は……」

 誰を選んでも恨みを買いそうな気がする。それにしても、夢の中の私は現実の私と一緒で、ずいぶんとモテているようだ。昔の私なら信じられない光景だ。昔の私は、自分の特異体質に気づいて以来、なるべく目立たないように生きてきた。

「なぜ、そこで涙を流すのだ?」

 九尾のあきれた声に我に返る。慌てて目元を触ってみると、涙が流れた濡れた感触がある。無意識に涙を流していたようだ。悲しくて涙が出たという訳ではない。むしろ、過去の自分に今の自分を見せて自慢してやりたいくらいだ。

今の自分はとても恵まれていて、たくさんの仲間に囲まれているぞ。

「だから言ったでしょう?こんなところにいるから、涙もろくなるんです」

 また、新たな人物が教室にやってきた。いや、正確には人ではないが、彼のことはよく知っている。

「涙もろくてもいいじゃないですか。車坂、先生」

「それで、お昼を誰と食べるかを相談をしていたようですが、残念ながらあなた方の願いは叶いません」

 こいつも夢に出てくるとは。新たに登場したのは死神の車坂だった。死神のくせに、人間とともに生活している変わり者だ。お金も自力で稼いでいて、私の働く個人指導塾の上司である。塾で働いているときは黒いスーツを身に着けていたが、今も同じ格好をしているので教師をしているのだろう。

 車坂は私以外に視線を向けて大きな溜息を吐く。そして、私にとって一番会いたくない人物の名を口にする。

「瀧先生が朔夜さんに話があるようですよ。話は長くなりそうですから、朔夜さんは彼とお昼を食べることになると思います」

「お断り」

「私に言ってもらっても困ります。嫌なら、本人に直接言って、さっさと戻ってくることです」

 車坂は私の返事を途中で遮り、無慈悲な言葉を突き付ける。会いたくないのに、なぜ、直接会って、それを相手に伝えなくてはならないのか。

 瀧。彼のせいで私の二度目の大学生活が大変なことになった。彼だけのせいにしてはいけないが、彼のせいでたくさんの人が亡くなっている。私と一緒にお昼を食べたいと言った彼らの中にも犠牲者がいる。

 しかし、瀧もまたすでに亡くなっているはずだった。現実で会う事は二度とない人間だ。駒沢といい、瀧といい、どうして夢の中なのに私の嫌いな人物まで出てくるのか。

「お断りします」

「何度も言わせないでください。嫌なら本人に直接言って」

 当然、車坂の言葉だろうと聞く気はない。再度、断わりの言葉が口から出たが、車坂は私に拒否権を与えない。そうだとしても。

「お断りします」

「まったく、教師という仕事も面倒ですねえ。無理やり連れて行きたくはないのですが」

 私がめげずに断わりの言葉を口にしていたら、車坂は嫌そうな顔をしながらも、どこかあきらめた表情をした。私が絶対に彼に会いたくないという強い意志を感じたのか、今度は実力行使に出るつもりらしい。

 もし、車坂が本気を出したらどうなるのか。死神の本気を見たことがないからわからないが、油断はできない。まだ、夢の中で自分の能力が使えるかは判明していない。それでも、今ここで車坂を黙らせるには能力を使うしかない。そう思って、車坂に視線を合わせようとしたが。


「蒼紗は連れて行かせない!」
「わ、私も佐藤さんの意見に賛成です!」

「蒼紗は私のものだから、私の許可なく、他人に引き合わせるのはなしよ」
「桜華のいうことは間違っているが、無理やりはよくない」

「あんな男の元に蒼紗お姉ちゃんを行かせられない」
「同意だ」

「まったく、何を言っておるのやら。これだから人間というのは面倒だ。我の言うことが一番に決まっておろう。蒼紗は我のものだ」

 しかし、能力を使う必要はなかった。私の周りにいた人間(人外もいる)が私の前に立ち、私を瀧の元に連れて行かせないと口々に言い始める。

 私は二度目の大学生活で、たくさんの愉快な仲間を得たらしい。彼らは単純に私と一緒にお昼を食べる権利が自分だと主張しているだけだ。私のためだけに動いているわけではない。とはいえ、その権利が新たな第三者に取られるのが嫌なのだろう。ただ、それだけのわがままな理由で、車坂に突っかかっている可能性が高い。

 いや、可能性ではなく、それが本音だろう。

「あ、蒼紗が笑ってる……」

 ジャスミンが私の表情の変化にいち早く気づいて言葉にする。それを聞いたほかの面々も驚いた顔をして、一斉に私に視線を向ける。さっきは私が涙を流しても何も言わなかったのに今更だ。

「なぜ、このような状況で私の表情を実況するのですか?私が笑うわけ」

 ない、とは言い切れなかった。自分の頬を触ってみると、わずかに口角が上がっている。涙はすっかり乾いている。これはまずい。ジャスミンは私の言葉に気をよくして、得意げに語りだす。

「バカね。泣いていたら、気を遣うでしょう?でも、今は誰がどう見ても、笑っている。相変わらず、自分の気持ちに疎いんだから。まあ、それが蒼紗の魅力の一つではあるけどね」

 それで、瀧先生との約束はどうするの?

 ジャスミンが私の顔を覗き込むように問いかけてくる。にやにやと笑っている顔を見ていると腹が立つ。つい、ジャスミンの頬を両手でつまむと、お餅みたいによく伸びる。びよーんと限界まで引っ張って手を放す。

「痛い!蒼紗、何するのよ。人がせっかく褒めているのに」

「羨ましい……。いえ、そうではなくて、佐藤さん、蒼紗さんが嫌がることはしてはダメですよ。いいなあ、私も蒼紗さんに頬を引っ張ってもらいたい……」

「蒼紗、仕方ないから、特別に瀧の元についていってあげるわ。だから、その後にゆっくりお昼を食べましょう。なんなら、5時間目をさぼっても構わないわ」

「桜華がそう言うのなら、俺はそれに従うだけだ」

 ジャスミンに八つ当たりをしていたら、綾崎さんが変なことを言いだした。それをきっかけにまた、私の愉快な仲間たちが声をあげる。

「じゃあ、いっそのこと、みんなで瀧先生の元に、蒼紗お姉ちゃんを独占するなと直談判に行きますか?」

「大人数だと迷惑かもしれないけど、それが平和的解決策に思える」

「面倒なことだ。我は、今日はあきらめるとするか」

「まったく、世話の焼ける生徒ですね。あなたには保護者がずいぶんとたくさんいるようだ」

 彼らの私に対する執着心を見せつけられ、車坂が生温かい視線を私に向ける。そして、大きな溜息を吐く。どうやら、実力行使で私を瀧の元に連れていくことはあきらめてくれたらしい。

 有難いことだったのに、私の愉快な仲間たちは私を連れて、瀧の元に向かう話を始めてしまう。結局、私の意見は通らなかった。ひとりで瀧に会うということはなくなったが、その代わりに彼らと一緒に瀧の元に向かうことになってしまった。まあ、彼らを私の言葉で止められるはずがない。瀧と会う事は避けられない運命だったとあきらめることにした。

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