35 / 59
35だったら私は……
しおりを挟む
「それで、ジャスミンは一体、私に何を話したかったのですか?」
「ああ、あれね。どう説明したらいいものか……」
家の中に入ると、九尾たちは頭とお尻にケモミミと尻尾が生えた姿でリビングのソファでくつろぎ始めた。私とジャスミンはリビングのテーブルに向かい合い、じっとにらみ合いを続けている。先に根負けしたのはジャスミンで、先ほどまでの強気な口調が嘘のようで声に張りがない。
「この話をしたことは、綾崎さんには言わないで欲しいんだけど、約束できる?」
話す気になったようだが、どうやら綾崎さんにも関わりがあるらしい。話を聞いてみないことには何とも言えない。私が返事をしないのを見ると、観念したのかジャスミンはため息をつきながら、自分たちの身に起こったことを話し始めた。
「私たちに変な手紙が届いたのはちょうど、私たちが向井さんに会う前日のことだった」
「手紙、ですか?」
何を話し出すかと思って聞いていたら、いきなりよくわからないことを言い始める。思わず聞き返してしまう。
「蒼紗が驚くのも無理もないわ。今時、手紙なんて書かないし、届かないものだからね。で、も、私と綾崎さんの家に、ある内容が書かれた手紙が届いたの」
これだと、証拠とばかりにスマホを鞄から取り出し、画面を操作して手紙を撮った写真を見せてくれた。最初の画面には白い封筒で「佐藤様」と書かれていたが、住所は書かれていなかった。そして、ジャスミンが指で画面を横に操作すると、次の画像には白い無地の紙に警告するかのように真っ赤な文字が記されていた。
『朔夜蒼紗とつき合ったら不幸が訪れる』
「ひどいでしょ。いったい誰がこんなことしたのか。どうにもいたずらにしては手が込んでいるなと思って」
ジャスミンが呆れたように何か言っているが、言葉は頭に入ってこない。こんないたずらみたいな脅迫分文を送った犯人が誰かということで頭がいっぱいだった。可能性としてはいくつか考えられるが。まさか、彼らがそんなことをするとは思えない。とはいえ、向井さんの家での出来事を考えると、あるいは。
「綾崎さんの家に届いた手紙も、私のように白い無地の封筒で、宛名は『綾崎さん』だったみたいだけど、内容は私と同じだったみたい」
「私とつき合ったら不幸が訪れる……」
「こんな手紙を真に受けたらダメよ。私たちはそんなことないって、胸を張って言えるわ。だから、当の本人がそんなに悲観しちゃダメ」
「でも、組合のせいで、ジャスミンたちは」
「蒼紗!」
気分がどんどん急降下していく。私がジャスミンたちを不幸にする。私が向井さんの家に行ったせいで、荒川結女は。私のせいで西園寺桜華が。私のせいで、翼君や狼貴君が。
考え出すときりがない。ジャスミンが私の肩を揺さぶってくる。
「しっかりしなさい!蒼紗!正気に戻りなさいよ!」
何か私の耳もとで叫んでいるみたいだが、頭に入ってこない。私のせいで周りのみんなが不幸になる。それは嫌だ。でも、私だって自分の特異体質のせいで、不幸な目にあっている。
「よく考えたら、ジャスミンたちの今回の件は、犯人の予想はついています」
そうだ。確かに彼女たちを不幸にしてしまう可能性がある。しかし、そんな可能性を一つずつつぶしていけばいいのだ。今回だったら、彼女たちに手紙を送り付けた相手、雨水君が加入している『組織』を。
私自らがこの手で『組織』をつぶしてしまえばいい。
「その辺にしておけ。殺気が漏れ出しているぞ。そこの蛇娘もおびえている」
はっと声のする方向に目を向けると、面白いおもちゃを見つけた子供のような、どこか嬉しそうな顔で私を見つめる狐のケモミミを生やした少年がいた。そっと自分の周囲に目を向けると、いつの間にか両隣にはうさ耳と狼のケモミミ美少年が立っていた。目の前には、私の肩から手を離し、どこか恐れを含んだ表情を見せる、大学の親友がいた。
「蒼紗さんって、僕たちが気を付けていないとやっぱり駄目ですね」
「何をしでかすかわからないからな」
「そ、そうよ。まったく、わ、私がいないと、ダメ、なんだから」
彼らは口々に私のことを心配してくれているのか、それともからかっているのかわからない口調で、私に話しかけてきた。
「だ、そうだ。だから、お主が一人で抱え込む必要はないということだ。少し落ち着け」
九尾にじっと見つめられてしまうと、先ほどまで考えていた物騒な考えを読まれていたのかと身構えてしまう。
「プルルルル」
九尾たちの言葉で少し落ち着いたところで、突然、私のスマホが着信を告げる。部屋に電子音が響き渡った。
「ああ、あれね。どう説明したらいいものか……」
家の中に入ると、九尾たちは頭とお尻にケモミミと尻尾が生えた姿でリビングのソファでくつろぎ始めた。私とジャスミンはリビングのテーブルに向かい合い、じっとにらみ合いを続けている。先に根負けしたのはジャスミンで、先ほどまでの強気な口調が嘘のようで声に張りがない。
「この話をしたことは、綾崎さんには言わないで欲しいんだけど、約束できる?」
話す気になったようだが、どうやら綾崎さんにも関わりがあるらしい。話を聞いてみないことには何とも言えない。私が返事をしないのを見ると、観念したのかジャスミンはため息をつきながら、自分たちの身に起こったことを話し始めた。
「私たちに変な手紙が届いたのはちょうど、私たちが向井さんに会う前日のことだった」
「手紙、ですか?」
何を話し出すかと思って聞いていたら、いきなりよくわからないことを言い始める。思わず聞き返してしまう。
「蒼紗が驚くのも無理もないわ。今時、手紙なんて書かないし、届かないものだからね。で、も、私と綾崎さんの家に、ある内容が書かれた手紙が届いたの」
これだと、証拠とばかりにスマホを鞄から取り出し、画面を操作して手紙を撮った写真を見せてくれた。最初の画面には白い封筒で「佐藤様」と書かれていたが、住所は書かれていなかった。そして、ジャスミンが指で画面を横に操作すると、次の画像には白い無地の紙に警告するかのように真っ赤な文字が記されていた。
『朔夜蒼紗とつき合ったら不幸が訪れる』
「ひどいでしょ。いったい誰がこんなことしたのか。どうにもいたずらにしては手が込んでいるなと思って」
ジャスミンが呆れたように何か言っているが、言葉は頭に入ってこない。こんないたずらみたいな脅迫分文を送った犯人が誰かということで頭がいっぱいだった。可能性としてはいくつか考えられるが。まさか、彼らがそんなことをするとは思えない。とはいえ、向井さんの家での出来事を考えると、あるいは。
「綾崎さんの家に届いた手紙も、私のように白い無地の封筒で、宛名は『綾崎さん』だったみたいだけど、内容は私と同じだったみたい」
「私とつき合ったら不幸が訪れる……」
「こんな手紙を真に受けたらダメよ。私たちはそんなことないって、胸を張って言えるわ。だから、当の本人がそんなに悲観しちゃダメ」
「でも、組合のせいで、ジャスミンたちは」
「蒼紗!」
気分がどんどん急降下していく。私がジャスミンたちを不幸にする。私が向井さんの家に行ったせいで、荒川結女は。私のせいで西園寺桜華が。私のせいで、翼君や狼貴君が。
考え出すときりがない。ジャスミンが私の肩を揺さぶってくる。
「しっかりしなさい!蒼紗!正気に戻りなさいよ!」
何か私の耳もとで叫んでいるみたいだが、頭に入ってこない。私のせいで周りのみんなが不幸になる。それは嫌だ。でも、私だって自分の特異体質のせいで、不幸な目にあっている。
「よく考えたら、ジャスミンたちの今回の件は、犯人の予想はついています」
そうだ。確かに彼女たちを不幸にしてしまう可能性がある。しかし、そんな可能性を一つずつつぶしていけばいいのだ。今回だったら、彼女たちに手紙を送り付けた相手、雨水君が加入している『組織』を。
私自らがこの手で『組織』をつぶしてしまえばいい。
「その辺にしておけ。殺気が漏れ出しているぞ。そこの蛇娘もおびえている」
はっと声のする方向に目を向けると、面白いおもちゃを見つけた子供のような、どこか嬉しそうな顔で私を見つめる狐のケモミミを生やした少年がいた。そっと自分の周囲に目を向けると、いつの間にか両隣にはうさ耳と狼のケモミミ美少年が立っていた。目の前には、私の肩から手を離し、どこか恐れを含んだ表情を見せる、大学の親友がいた。
「蒼紗さんって、僕たちが気を付けていないとやっぱり駄目ですね」
「何をしでかすかわからないからな」
「そ、そうよ。まったく、わ、私がいないと、ダメ、なんだから」
彼らは口々に私のことを心配してくれているのか、それともからかっているのかわからない口調で、私に話しかけてきた。
「だ、そうだ。だから、お主が一人で抱え込む必要はないということだ。少し落ち着け」
九尾にじっと見つめられてしまうと、先ほどまで考えていた物騒な考えを読まれていたのかと身構えてしまう。
「プルルルル」
九尾たちの言葉で少し落ち着いたところで、突然、私のスマホが着信を告げる。部屋に電子音が響き渡った。
0
お気に入りに追加
4
あなたにおすすめの小説
朔夜蒼紗の大学生活③~気まぐれ狐は人々を翻弄する~
折原さゆみ
キャラ文芸
朔夜蒼紗(さくやあおさ)は、今日も平穏な大学生活を望んでいた。しかし、彼女のもとに平穏な生活が訪れることはない。
「私、この度、彼氏ができました!」ジャスミンの唐突な彼氏宣言。
「先生は、サンタを信じている?」
「受験の悪魔がいるんだって」塾での怪しい噂。
塾に来た新しい生徒に、西園寺家次期当主を名乗る、謎の人物。怪しい人物だらけで、朔夜蒼紗の周りは今日もとてもにぎやかだ。
「まったく、お主は面白いのう」
朔夜蒼紗は今回、どのような騒動に巻き込まれるのだろうか。始まりは狐。狐は人々を今日も翻弄していく。
※朔夜蒼紗の大学生活シリーズ三作目となります。
朔夜蒼紗の大学生活~幽霊だって勉強したい~
https://www.alphapolis.co.jp/novel/16490205/842219471
朔夜蒼紗の大学生活②~死神は退屈を持て余す~
https://www.alphapolis.co.jp/novel/16490205/579224814
三作目もどうぞよろしくお願いします。
朔夜蒼紗の大学生活④~別れを惜しむ狼は鬼と対峙する~
折原さゆみ
キャラ文芸
朔夜蒼紗(さくやあおさ)はこの春、大学2年生となった。今年こそは、平和な日常を過ごしたいと意気込むが、彼女にそんな日常は訪れることはない。
「蒼紗さん、私のサークルに新しい子が入りました!」
「鬼崎美瑠(おにざきみる)です」
「蒼紗さん、僕も大学に入学することになりました、七尾(ななお)です!」
大学2年生となり、新入生が入学するのは当然だ。しかし、個性豊かな面々が蒼紗の周りに集まってくる。彼女と一緒に居る綾崎の所属するサークルに入った謎の新入生。蒼紗に興味を持っているようで。
さらには、春休みに出会った、九尾(きゅうび)の元眷属のケモミミ少年もなぜか、大学に通うことになっていた。
「紅犬史(くれないけんし)です。よろしくお願いします」
蒼紗がアルバイトをしている塾にも新しい生徒が入ってきた。この塾にも今年も興味深い生徒が入学してきて。
さらには、彼女の家に居候している狼貴(こうき)君と翼(つばさ)君を狙う輩も現れて。アルバイト先の上司、死神の車坂(くるまざか)の様子もおかしいようだ。
大学2年生になっても、彼女の日常は平穏とは言い難いが、今回はどのような騒動に巻き込まれるのだろうか。
朔夜蒼紗の大学生活4作目になります。引き続き、朔夜蒼紗たちをよろしくお願いします。
ハレマ・ハレオは、ハーレまない!~億り人になった俺に美少女達が寄ってくる?だが俺は絶対にハーレムなんて作らない~
長月 鳥
キャラ文芸
W高校1年生の晴間晴雄(ハレマハレオ)は、宝くじの当選で億り人となった。
だが、彼は喜ばない。
それは「日本にも一夫多妻制があればいいのになぁ」が口癖だった父親の存在が起因する。
株で儲け、一代で財を成した父親の晴間舘雄(ハレマダテオ)は、金と女に溺れた。特に女性関係は酷く、あらゆる国と地域に100名以上の愛人が居たと見られる。
以前は、ごく平凡で慎ましく幸せな3人家族だった……だが、大金を手にした父親は、都心に豪邸を構えると、金遣いが荒くなり態度も大きく変わり、妻のカエデに手を上げるようになった。いつしか住み家は、人目も憚らず愛人を何人も連れ込むハーレムと化し酒池肉林が繰り返された。やがて妻を追い出し、親権を手にしておきながら、一人息子のハレオまでも安アパートへと追いやった。
ハレオは、憎しみを抱きつつも父親からの家賃や生活面での援助を受け続けた。義務教育が終わるその日まで。
そして、高校入学のその日、父親は他界した。
死因は【腹上死】。
死因だけでも親族を騒然とさせたが、それだけでは無かった。
借金こそ無かったものの、父親ダテオの資産は0、一文無し。
愛人達に、その全てを注ぎ込み、果てたのだ。
それを聞いたハレオは誓う。
「金は人をダメにする、女は男をダメにする」
「金も女も信用しない、父親みたいになってたまるか」
「俺は絶対にハーレムなんて作らない、俺は絶対ハーレまない!!」
最後の誓いの意味は分からないが……。
この日より、ハレオと金、そして女達との戦いが始まった。
そんな思いとは裏腹に、ハレオの周りには、幼馴染やクラスの人気者、アイドルや複数の妹達が現れる。
果たして彼女たちの目的は、ハレオの当選金か、はたまた真実の愛か。
お金と女、数多の煩悩に翻弄されるハレマハレオの高校生活が、今、始まる。
小さなことから〜露出〜えみ〜
サイコロ
恋愛
私の露出…
毎日更新していこうと思います
よろしくおねがいします
感想等お待ちしております
取り入れて欲しい内容なども
書いてくださいね
よりみなさんにお近く
考えやすく
朔夜蒼紗の大学生活⑥
折原さゆみ
キャラ文芸
大学二年の夏休みが終わり、後期が始まった。後期最初のイベントいえば文化祭。そこにある特別ゲストが参加するらしい。彼の名前は【西炎(さいえん)】。二年目の後期も波乱に満ちたものになりそうだ。
朔夜蒼紗の大学生活シリーズ第6作目になります。サブタイトルは決まり次第、付け加えます。
初見の方は、ぜひ1作目から目を通していただけると嬉しいです。
黒龍の神嫁は溺愛から逃げられない
めがねあざらし
BL
「神嫁は……お前です」
村の神嫁選びで神託が告げたのは、美しい娘ではなく青年・長(なが)だった。
戸惑いながらも黒龍の神・橡(つるばみ)に嫁ぐことになった長は、神域で不思議な日々を過ごしていく。
穏やかな橡との生活に次第に心を許し始める長だったが、ある日を境に彼の姿が消えてしまう――。
夢の中で響く声と、失われた記憶が導く、神と人の恋の物語。
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
サンタクロースが寝ている間にやってくる、本当の理由
フルーツパフェ
大衆娯楽
クリスマスイブの聖夜、子供達が寝静まった頃。
トナカイに牽かせたそりと共に、サンタクロースは町中の子供達の家を訪れる。
いかなる家庭の子供も平等に、そしてプレゼントを無償で渡すこの老人はしかしなぜ、子供達が寝静まった頃に現れるのだろうか。
考えてみれば、サンタクロースが何者かを説明できる大人はどれだけいるだろう。
赤い服に白髭、トナカイのそり――知っていることと言えば、せいぜいその程度の外見的特徴だろう。
言い換えればそれに当てはまる存在は全て、サンタクロースということになる。
たとえ、その心の奥底に邪心を孕んでいたとしても。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる