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29出発
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向井さんの家は、大学の最寄駅から一駅分ということだった。向井さんはすぐには公園から出発せず、スマホで家に連絡を取り始めた。どうやら、家族に連絡を取っているようだ。予定より訪問する人数が増えたことを報告していた。
「うん。そうそう。前から言っていた大学の先輩3人と、先輩の知り合いを3人連れていくからね」
私たちはそんな向井さんの様子を眺めていた。しかし、そこでふと違和感に気付いて首をかしげてしまう。綾崎さんが私たちの会話に参加していない。一般人である綾崎さんが向井さんの態度の豹変に疑問を持たないはずはない。それなのに、なぜ、会話に割って入ってこないのだろうか。
「綾崎さん、体調でも悪いのですか?」
一緒についてきた綾崎さんに声をかけてみる。調子が悪いのなら、家に帰した方がいい。そう思ったのだが、どうにも様子がおかしかった。目が虚ろで私の声が聞こえていないかのように反応がない。
「お主が能力を使ったせいだろう?」
「能力?ああ、カフェでのことですよね」
私は綾崎さんに『ちょっと黙って』と言ってしまった。その反動でいまだに黙っているということか。急いで解除しようかと思って口を開こうとしたら、思わぬ邪魔が入った。
「そのままにしておいた方がいいかもしれませんよ。もしくは」
「言霊の力を解除して、家に帰した方がいい」
邪魔をしたのは少年姿の翼君と狼貴君だった。当然、能力に関しての話題なので、私たちは向井さんに聞かれないようにこっそりと話をしている。幸い、電話に夢中で向井さんが私たちの話しを聞いている様子はない。翼君が理由を補足する。
「蒼紗さんも見たでしょう?どう考えても、あの向井さんという女性には何らかの者が取り憑いています。そんな中に一般人を連れていくのは危険だと思います。それに、万が一の場合、蒼紗さんは彼女に真実を話すことができますか?」
最後の言葉は私に問いかけるものだった。翼君は、元々は人間だった。ジャスミンのように、一般的な人とは少し違う特殊能力を持っていただけで、それ以外はただの青年だった。だからこそ、一般人である綾崎さんが、自分の友達の秘密を知った時の反応が容易に想像できたのだろう。私のことを思って忠告してくれている。狼貴君も当然、翼君と同じ生い立ちだ。二人は九尾によって、人生そのものを変えられてしまった。
二人が心配そうに私を見つめてくる。私は申し訳ないと思いつつ、彼女にもう一度能力を使うことにした。
『今日はこのまま、家に帰ってください。家に帰ったら口を開いていいですよ』
私は綾崎さんと向き直り、能力を発動させるため、視線を合わせる。能力の効果は絶大で、いまだに綾崎さんの視線はうつろで正気を失っていた。能力が発動して、私の瞳は黄金に輝き、綾崎さんと私の周囲も黄金に包まれる。
「わかりました」
すぐに能力の効果が表れ、綾崎さんはそのまま私たちの前から去っていく。これで、向井さんの家に行くための懸念事項はなくなった。
『やはり、お前の能力はすごいねえ。会うのが待ち遠しいよ』
はっと声のした方を振り向くと、そこには私たちの行動の一部始終を見ていたらしい向井さんの姿があった。九尾たちは何をしていたのだろうと周囲を見渡すと、面白そうに私たちを見つめるだけだった。
「気にすることはないでしょ。これで、この場には蒼紗の事情を知る私と、そこの狐たちだけになったんだから。それに、気付いていると思うけど、この子、また乗っ取っているわよ。しかも、その乗っ取っている相手は」
『ほれ、こっちだ。姫奈には迷惑をかけるが、ここからは私が案内しよう』
ジャスミンの言葉を遮り、言葉を発したのは向井さんだった。とはいえ、正確には本人ではないかもしれない。取り憑いている人格が向井さんに乗っ取り声を出しているというのが正解か。
「あなたは本当に荒川ゆ」
『その言葉は今、ここでいうべきセリフではないな』
声の主の言うことは最もである。とりあえず、私たちは彼女の後に続いて、向井さんの家に向かうことにした。
私たちが公園から出ようと歩き出した時、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。私たちは持参した傘を差し、向井さんの後に続いた。
「うん。そうそう。前から言っていた大学の先輩3人と、先輩の知り合いを3人連れていくからね」
私たちはそんな向井さんの様子を眺めていた。しかし、そこでふと違和感に気付いて首をかしげてしまう。綾崎さんが私たちの会話に参加していない。一般人である綾崎さんが向井さんの態度の豹変に疑問を持たないはずはない。それなのに、なぜ、会話に割って入ってこないのだろうか。
「綾崎さん、体調でも悪いのですか?」
一緒についてきた綾崎さんに声をかけてみる。調子が悪いのなら、家に帰した方がいい。そう思ったのだが、どうにも様子がおかしかった。目が虚ろで私の声が聞こえていないかのように反応がない。
「お主が能力を使ったせいだろう?」
「能力?ああ、カフェでのことですよね」
私は綾崎さんに『ちょっと黙って』と言ってしまった。その反動でいまだに黙っているということか。急いで解除しようかと思って口を開こうとしたら、思わぬ邪魔が入った。
「そのままにしておいた方がいいかもしれませんよ。もしくは」
「言霊の力を解除して、家に帰した方がいい」
邪魔をしたのは少年姿の翼君と狼貴君だった。当然、能力に関しての話題なので、私たちは向井さんに聞かれないようにこっそりと話をしている。幸い、電話に夢中で向井さんが私たちの話しを聞いている様子はない。翼君が理由を補足する。
「蒼紗さんも見たでしょう?どう考えても、あの向井さんという女性には何らかの者が取り憑いています。そんな中に一般人を連れていくのは危険だと思います。それに、万が一の場合、蒼紗さんは彼女に真実を話すことができますか?」
最後の言葉は私に問いかけるものだった。翼君は、元々は人間だった。ジャスミンのように、一般的な人とは少し違う特殊能力を持っていただけで、それ以外はただの青年だった。だからこそ、一般人である綾崎さんが、自分の友達の秘密を知った時の反応が容易に想像できたのだろう。私のことを思って忠告してくれている。狼貴君も当然、翼君と同じ生い立ちだ。二人は九尾によって、人生そのものを変えられてしまった。
二人が心配そうに私を見つめてくる。私は申し訳ないと思いつつ、彼女にもう一度能力を使うことにした。
『今日はこのまま、家に帰ってください。家に帰ったら口を開いていいですよ』
私は綾崎さんと向き直り、能力を発動させるため、視線を合わせる。能力の効果は絶大で、いまだに綾崎さんの視線はうつろで正気を失っていた。能力が発動して、私の瞳は黄金に輝き、綾崎さんと私の周囲も黄金に包まれる。
「わかりました」
すぐに能力の効果が表れ、綾崎さんはそのまま私たちの前から去っていく。これで、向井さんの家に行くための懸念事項はなくなった。
『やはり、お前の能力はすごいねえ。会うのが待ち遠しいよ』
はっと声のした方を振り向くと、そこには私たちの行動の一部始終を見ていたらしい向井さんの姿があった。九尾たちは何をしていたのだろうと周囲を見渡すと、面白そうに私たちを見つめるだけだった。
「気にすることはないでしょ。これで、この場には蒼紗の事情を知る私と、そこの狐たちだけになったんだから。それに、気付いていると思うけど、この子、また乗っ取っているわよ。しかも、その乗っ取っている相手は」
『ほれ、こっちだ。姫奈には迷惑をかけるが、ここからは私が案内しよう』
ジャスミンの言葉を遮り、言葉を発したのは向井さんだった。とはいえ、正確には本人ではないかもしれない。取り憑いている人格が向井さんに乗っ取り声を出しているというのが正解か。
「あなたは本当に荒川ゆ」
『その言葉は今、ここでいうべきセリフではないな』
声の主の言うことは最もである。とりあえず、私たちは彼女の後に続いて、向井さんの家に向かうことにした。
私たちが公園から出ようと歩き出した時、ぽつりぽつりと雨が降り始めた。私たちは持参した傘を差し、向井さんの後に続いた。
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