朔夜蒼紗の大学生活⑤~幼馴染は彼女の幸せを願う~

折原さゆみ

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22休んだ理由

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「ねえ、蒼紗。結局、私たちは向井さんの家に行くことになったわよね。いつ頃になるとか、予定は聞いているかしら?」

 大学に着くと、珍しく機嫌が悪いジャスミンと綾崎さんに遭遇した。いつもなら、私の顔を見ると、とても嬉しそうに近寄ってくるのに、今日はそんな様子が一切見られない。とうとう、私の大学での服装に嫌気がさしたのだろうか。

「おはようございます。ジャスミンに綾崎さん。ええと、まだいつにするのか決めていませんけど」

 ジャスミンの言葉で、この前の塾のバイトに向井さんが来なかったことに気付く。車坂は気にしていないようだったが、私には言わずに、車坂に休みの連絡を入れたのだろうか。

「ジャスミンたちが早い方がいいというのなら、連絡を取ってみます」

「ぜひ、早めに向井さんと連絡を取ってもらえますか。そうしないと」

「綾崎さん!」

「ご、ごめんなさい。佐藤さん」

 私に何か言いかけた綾崎さんの言葉をジャスミンが名前を呼ぶことで遮った。それに対して、怒ることなく、綾崎さんはなぜか謝罪している。

二人は私に何か隠し事をしているようだ。向井さんに興味を持っているのは確かだが、どうにも様子がおかしい。別に彼女の家に行くのはいつでもいいはずだ。なぜ、そこまで急ぐ必要があるのか。

 向井さんが塾を急に休んだ理由、ジャスミンたちの様子がおかしいこと、考えることはたくさんあった。しかし、今、最も優先される事項は一つだ。私は今日の服装の感想を彼女たちから聞いていない。

「あ、あの今日の私の服装が、そんなに変でしたか?」

 もしかしたら、ジャスミンたちは私の今日の恰好があまりにも変だったので、機嫌を損ねたのかもしれない。とりあえず、今日の服装の感想を聞くことにした。

 今日の服装は昨日のこともあって、世界中で指名手配されていることで有名な、赤いボーダーの男性キャラをイメージしてみた。今までと違って、普通の人でもできる格好なので、面白味にかけて、機嫌を損ねてしまったのだろうか。

「べ、別に変ではないわよ。そもそも、いつもがへんてこな格好だから、今日のはまだましなレベルだと思うけど……。綾崎さんはどう思う?」

「わ、私も別に変だとは思いません。その赤いボーダー柄のシャツ、素敵ですよ。何をイメージしているのかはわかりませんが、元気が出る色ですよね。赤って」

 私の質問に二人は目を泳がせてしどろもどろに回答する。いつもなら、私のことをうるさいくらいに褒めちぎるのに、それがないのはおかしい。

「今日の私は、某有名キャラのものですよ。世界中で探されている有名なあのキャラです!」

「アア、ソウダッタワネ。オモイダシタ」

「ソウデシタ、ソウデシタ」

 今度はなぜかカタコトで返事をされた。友達と呼べる相手に能力を使いたくはなかったが、隠し事されるのは気に入らない。悪く思わないで欲しいと、心の中で二人に謝罪して、能力を使おうとした。

『私に隠していることを』


「あ、あの。朔夜先輩。この前は塾を無断で休んでしまって、申し訳ありませんでした!」

 能力を発動する前に、思わぬ邪魔が入った。

「む、向井さん?」

 突然、声をかけてきたのは向井さんだった。会いたかったのは確かだが、タイミングが悪い。

「じゃあ、私たちはこれで失礼するわ。ね、綾崎さん」

「は、はい。では蒼紗さん」

これ幸いにとジャスミンと綾崎さんは私から離れていく。理由もわからないまま避けられるのは気分が悪いが、大学内で能力を使わなくて良かったと安心する自分もいた。大学内で能力を使用しているところをあの薄気味悪い大学教授にばれてしまったら、面倒なことになる。辺りを見渡すが、廊下を歩いている人たちの中に駒沢の姿はなかった。



「向井さんに会えてよかったです。塾に来なかったことを心配していたんですよ」

 突然声をかけてきた向井さんにとりあえず、心の中で感謝する。ジャスミンたちの姿が見えなくなるまで姿を追ってから、改めて向井さんに目を向ける。彼女は塾を無断で休んだと言った。車坂にも言わずに勝手に休んだのはいただけない。

「無断で休むのは良くないです。急に体調が悪くなったとかですか?」

「体調が悪くなったのは、私のひいおばあちゃんなんです。家で塾のバイトに向かう支度をしていたんですけど、急に倒れてしまって、その時に家に居たのが私だけで」

 向井さんは私の言葉に申し訳なさそうにしながら、事情を説明してくれた。

「ひいおばあさんが倒れた……」

 何やら大変な事態になっているようだ。大学の廊下で話す内容でもないので、向井さんに今からの予定を聞くと、次の授業は空きコマになっているらしい。ちょうど私も授業がなかったので、大学の食堂で続きを聞くことにした。

「それは大変でしたね。こんなところで立ち話もなんですから、食堂で話しましょう。ひいおばあさんのことは気になりますし」



 昼前の食堂は人があまりおらず、私たちは適当に窓際に席を取り、腰を下ろす。すぐに向井さんが倒れた後のことを口にする。

「それで、ひいおばあちゃんが倒れたときに家に居たのが、ちょうど私だけで、気が動転してしまった私はすぐに救急車を呼びました。とはいえ、病院で診てもらったら、膝を擦りむくくらいの軽い怪我でした。他に異常はなかったみたいです」

 無断で休んですいませんでした。

 ひいおばあさんに大事がなくて良かった。向井さんは再度私に頭を下げて、塾の無断欠勤について謝罪する。


 向井さんのひいおばあさんとは、昔、幼馴染だった荒川結女(あらかわゆめ)で間違いない。私が世間一般の人と同じような時の流れに生きていたのなら、いつ倒れても、いつ死んでもおかしくない年齢になっていたはずだ。私の幼馴染は普通の人間であるはずなので、充分起こりうることだったのだろう。

「それを言うために、私に声をかけてきたのですか?」

「いえ、それもありますけど、本題はここからです。朔夜さん、ひいおばあちゃんの残り少ない人生に悔いを与えないようにするために、私に協力してもらえないでしょうか?」

 突然、かしこまって頭を下げられてしまう。いったい、何を私に頼みたいのか、大体の想像はつくが、私は黙って彼女の話を聞くことにした。

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