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20協力者
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新学期も始まり、塾の新規申し込みも一段落したところで、体験入学を希望する生徒の数も減少していた。小・中学生たちの相手をしながら、車坂が名前を挙げた生徒たち、つまり三つ子が来るのを待っていると、彼らが時間通りに塾にやってきた。
高橋 陸玖(りく)、海威(かい)、宙良(そら)兄弟。
彼らは翼君や車坂が言うような、特別な能力を持っているのだろうか。思わず、教室にやってきた彼らをじっと観察してしまう。外はいまだに雨が降り続いているのか、彼らの身体はところどころ濡れていた。
「朔夜先生、僕たちの顔に何か変なものがついているの?それとも、何か悩みでもあるとか」
「もしかして、僕たちの魅力に気付いて、惚れちゃったとか?いや、この顔は悩みがある顔だな」
「確かに朔夜先生が僕たちに惚れることはないか。でも、悩みってなんだろう」
彼らとは、私がこの塾に入る前にアルバイトをしていた塾でも一緒で、かれこれ一年以上ともに塾で勉強を教えてきた先生と生徒の仲だ。とはいえ、彼らが能力者であるとは思ってもみなかった。
それにしても、いまだに三つ子の判別ができない。いくら一卵性だと言っても、一年も一緒に過ごしてわからないものだろうか。自分が今まで見てきた双子について思いをはせていると、車坂が三つ子に余計なことを言っている。
「生徒に心配されてしまうとは、情けないですねえ。朔夜先生はある悩みを抱えていて、それで今日は仕事に手がつかないらしいですよ」
たまたま、他の生徒たちは帰ってしまい、塾には車坂と私、三つ子の五人しかいなかった。そのため、車坂の話し方が少し軽い調子になっている。
「へえ、朔夜先生が悩みねえ。大人には大人の事情ってやつがあるってこと?」
「どんな悩みなの?車坂先生がそういうってことは、僕たちにその悩みの解決を手助けして欲しいってことでしょ」
「子どもに頼むことではないと思うけどな」
言いたい放題の三人にあきれて何も言葉が出てこない。黙っていると、車坂が今度は勝手に三つ子に私の悩みを話し始める。
「とりあえず、朔夜先生は何者かに指名手配されているようです。ですので、早急に自分の替え玉を必要としています」
「だから、僕たちの出番っていうわけね」
「ていうか、車坂先生はいつから、僕たちの能力に気付いていたの?」
「結構うまく隠していたのになあ」
「ちょっと、待ってください!」
話がとんでもない方向に進みかけたので、さすがに彼らの会話を中断させることにした。そもそも、そんなに軽い調子で私の悩みを生徒に漏らす車坂に驚きだ。指名手犯など、私が何か悪いことでもしたみたいな言い方だ。
「ああ、そろそろ休憩時間が終わりますね。この話は……ソウデスネ。いつにしましょうか」
私に問い詰められそうな雰囲気を察した車坂が、わざとらしく自分の腕時計で時刻を確認している。話の続きをどこでしようかと悩み始めた車坂に、三つ子は自分たちの家はダメだと言っている。
「じゃあ、うちに来る?ああでも、突然、塾の先生がうちに来るとか親は驚くよな」
「そうだよね。ううん、どうしようか」
「朔夜先生の悩みを解決するのに協力するのは、全然、いいんだけどね」
ううむとうなる車坂と三つ子たち。
「陸玖(りく)君たちにそんな危険な真似をしてもらわなくても、私は」
私が断りの言葉を口にする途中で、何か思いついたのか、車坂がぼんと手をたたいた。とても嬉しそうな顔で嫌な予感がする。
「では、今度の休みの日に、朔夜先生の家で話をしましょう。先生の家なら、時間を気にせずに話すことができますから」
どんどん、私の意志を無視して話が進んでいく。このままでは三つ子が私の家を訪問することが決まってしまう。それは避けたいところだ。そもそも、家には九尾たち人外が居候している。そんな彼らと三つ子を会わせたくはない。それに、家には翼君がいる。翼君と一緒に住んでいることを知られるのは、かなりまずい。
「だ、ダメですよ。そんな、勝手に生徒を自宅に招くなんて。先生としてあるまじきことです。マンガや小説じゃあるまいし」
『僕たちはそんなこと、気にしないけどね』
私の苦し気な言い訳はバッサリと切り捨てられる。きれいな三つ子のハモりに車坂が満足そうに頷く。メガネをクイっと引き上げた車坂が、有無を言わせぬ口調で私に確認を求める。
「では、今度の週末に朔夜先生の家に行きましょう!それでいいですよね」
「ハ、ハイ。シュウマツハヨテイヲアケテオキマス」
「では、休憩時間は終了です。勉強を再開してください」
『ハーイ』
話は終わりとばかりに、三つ子に車坂が勉強を再開するよう伝え、この話は終わりとなった。
その後は、三つ子は私語もなく集中して塾での課題に取り組んでいた。そして、あっという間に三つ子の塾の時間が終わってしまう。三つ子が塾にいる間、他の生徒が塾に来ることはなかった。車坂が塾の生徒に電話していた様子はないので、偶然だろう。
結局、三つ子が家に来ることが決定してしまった。三つ子のことに頭がいっぱいで、今日はバイトに向井さんが来るはずなのに、来なかったことに気付くことができなかった。
高橋 陸玖(りく)、海威(かい)、宙良(そら)兄弟。
彼らは翼君や車坂が言うような、特別な能力を持っているのだろうか。思わず、教室にやってきた彼らをじっと観察してしまう。外はいまだに雨が降り続いているのか、彼らの身体はところどころ濡れていた。
「朔夜先生、僕たちの顔に何か変なものがついているの?それとも、何か悩みでもあるとか」
「もしかして、僕たちの魅力に気付いて、惚れちゃったとか?いや、この顔は悩みがある顔だな」
「確かに朔夜先生が僕たちに惚れることはないか。でも、悩みってなんだろう」
彼らとは、私がこの塾に入る前にアルバイトをしていた塾でも一緒で、かれこれ一年以上ともに塾で勉強を教えてきた先生と生徒の仲だ。とはいえ、彼らが能力者であるとは思ってもみなかった。
それにしても、いまだに三つ子の判別ができない。いくら一卵性だと言っても、一年も一緒に過ごしてわからないものだろうか。自分が今まで見てきた双子について思いをはせていると、車坂が三つ子に余計なことを言っている。
「生徒に心配されてしまうとは、情けないですねえ。朔夜先生はある悩みを抱えていて、それで今日は仕事に手がつかないらしいですよ」
たまたま、他の生徒たちは帰ってしまい、塾には車坂と私、三つ子の五人しかいなかった。そのため、車坂の話し方が少し軽い調子になっている。
「へえ、朔夜先生が悩みねえ。大人には大人の事情ってやつがあるってこと?」
「どんな悩みなの?車坂先生がそういうってことは、僕たちにその悩みの解決を手助けして欲しいってことでしょ」
「子どもに頼むことではないと思うけどな」
言いたい放題の三人にあきれて何も言葉が出てこない。黙っていると、車坂が今度は勝手に三つ子に私の悩みを話し始める。
「とりあえず、朔夜先生は何者かに指名手配されているようです。ですので、早急に自分の替え玉を必要としています」
「だから、僕たちの出番っていうわけね」
「ていうか、車坂先生はいつから、僕たちの能力に気付いていたの?」
「結構うまく隠していたのになあ」
「ちょっと、待ってください!」
話がとんでもない方向に進みかけたので、さすがに彼らの会話を中断させることにした。そもそも、そんなに軽い調子で私の悩みを生徒に漏らす車坂に驚きだ。指名手犯など、私が何か悪いことでもしたみたいな言い方だ。
「ああ、そろそろ休憩時間が終わりますね。この話は……ソウデスネ。いつにしましょうか」
私に問い詰められそうな雰囲気を察した車坂が、わざとらしく自分の腕時計で時刻を確認している。話の続きをどこでしようかと悩み始めた車坂に、三つ子は自分たちの家はダメだと言っている。
「じゃあ、うちに来る?ああでも、突然、塾の先生がうちに来るとか親は驚くよな」
「そうだよね。ううん、どうしようか」
「朔夜先生の悩みを解決するのに協力するのは、全然、いいんだけどね」
ううむとうなる車坂と三つ子たち。
「陸玖(りく)君たちにそんな危険な真似をしてもらわなくても、私は」
私が断りの言葉を口にする途中で、何か思いついたのか、車坂がぼんと手をたたいた。とても嬉しそうな顔で嫌な予感がする。
「では、今度の休みの日に、朔夜先生の家で話をしましょう。先生の家なら、時間を気にせずに話すことができますから」
どんどん、私の意志を無視して話が進んでいく。このままでは三つ子が私の家を訪問することが決まってしまう。それは避けたいところだ。そもそも、家には九尾たち人外が居候している。そんな彼らと三つ子を会わせたくはない。それに、家には翼君がいる。翼君と一緒に住んでいることを知られるのは、かなりまずい。
「だ、ダメですよ。そんな、勝手に生徒を自宅に招くなんて。先生としてあるまじきことです。マンガや小説じゃあるまいし」
『僕たちはそんなこと、気にしないけどね』
私の苦し気な言い訳はバッサリと切り捨てられる。きれいな三つ子のハモりに車坂が満足そうに頷く。メガネをクイっと引き上げた車坂が、有無を言わせぬ口調で私に確認を求める。
「では、今度の週末に朔夜先生の家に行きましょう!それでいいですよね」
「ハ、ハイ。シュウマツハヨテイヲアケテオキマス」
「では、休憩時間は終了です。勉強を再開してください」
『ハーイ』
話は終わりとばかりに、三つ子に車坂が勉強を再開するよう伝え、この話は終わりとなった。
その後は、三つ子は私語もなく集中して塾での課題に取り組んでいた。そして、あっという間に三つ子の塾の時間が終わってしまう。三つ子が塾にいる間、他の生徒が塾に来ることはなかった。車坂が塾の生徒に電話していた様子はないので、偶然だろう。
結局、三つ子が家に来ることが決定してしまった。三つ子のことに頭がいっぱいで、今日はバイトに向井さんが来るはずなのに、来なかったことに気付くことができなかった。
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