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11新しいバイトの子
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「新しい子がバイトで入ることになりました」
今日は塾のバイトがある日で、翼君も私と同じ時間にシフトが入っていたため、一緒に塾まで向かった。塾の教室のドアを開くと、すでに中では車坂が仕事をしていた。私たちが挨拶すると、ちらりとこちらに視線を向けたが、すぐに手元の生徒たちのために作られたカリキュラムに目を落とす。そのまま伝えられたのが『あたらしい先生が入る』という言葉だ。
「いきなりですね。確かに最近、塾の生徒が増えてきて、私たちだけでは手一杯になってきた気がしましたけど」
「新しいバイトを雇って大丈夫なの?お前の素性がばれるかもしれない」
「それについては心配いりません。素性というならば、同じことが君にも言えるでしょう?私はこれでも、だいぶ人間社会に慣れてきましたから、そう簡単に人間以外の存在だとばれはしませんよ」
靴を脱いで、私と翼君もタイムカードを切って、生徒を迎え入れるための準備を始める。そういえば、この塾で働き始めてから、車坂と翼君以外の塾講師に会ったことがなかった。私が塾のシフトに入っていない日は、他の教室から応援が来ていたのだろうか。
「あの、ここの教室って」
「朔夜さんの通っている大学の子が面接に来てくれたんですよ。ですから、この教室メインで働いてもらうことになります」
私たち以外の塾講師が気になったので質問しようとしたが、車坂には見事に無視されてしまう。そして、驚きの情報を口にする。他の塾講師のことなど、一瞬で頭から吹き飛んでしまった。
「同じ大学の学生さん……」
一体、どんな子が私たちと一緒に働くことになるのだろうか。
「嬉しそうな顔ですね。やっぱり同じ大学生ということで、親近感がわきますか?」
「そ、それは、まあ。同じ大学に通っているということですから、多少は感じますよ。まあ、年齢については、まったく親近感を感じることはないですが」
翼君に言われて改めて自分の年齢を思い出す。忘れてしまいがちだが、私の見た目と実年齢は異なっている。見た目が二十歳前後に見えるからと言って、それが実年齢ではないのだ。自分で思い出したことなのに、なんだか悲しい気持ちになってきた。
「それは言わない約束でしょう?そんなことを言ったら、僕はどうなるんですか?それに、そこにいる死神も、実年齢がいくつかわかったものじゃないですよ」
「私のことは気にしなくていいですよ。そうですねえ。確かにそこの坊やはこれからずっと、少年姿のままでしょうから、親近感でいうと、小学生とか中学生くらいになってしまいますね」
私が急に落ち込みだしたことに、二人がよくわからない擁護をしてくれた。実年齢と外見が一致しないのは、私だけではなかった。翼君はそもそも、今でこそ生前の青年の姿をしているが、普段はケモ耳美少年だ。隣に立っている車坂も、死神という人外の存在であり、成人男性の恰好はしているが、実際の年齢はわからない。私だけが異常ではないことに少しほっとする。
車坂は西園寺桜華が亡くなった事件の後、この町にやってきた死神である。なぜか、私のことを監視するという名目で、人間社会で人間のふりをして生活している。見た目は黒髪黒目、銀縁メガネをかけたインテリ風の青年である。そんな彼が死神だとは確かに誰も思うまい。
「翼君たちに比べたら、私の外見と実年齢の差はそれほど気になりませんね。新しいバイトの子がどんな子か、楽しみになりました!」
翼君や車坂のことを考えていたら、見た目と実年齢の差が気にならなくなってきた。いまさら、気にしても仕方のないことである。いつまで私はこの姿のままなのかはわからないが、受け入れて生きていくしかないのだ。そう思うと、急に同じ大学のバイトの子に興味が湧いてくる。
私は率先して、生徒が来るための準備をしていく。床の掃除機掛け、机の水拭き、生徒たち用のカリキュラムの作成。やることはたくさんある。私の言葉に彼らも仕事にとりかかった。
「こんにちは。向井姫奈(むかいひな)です、今日からこの塾で働くことになりました。よろしくお願いします」
「ああ、こんにちは。どうぞ、こちらに来てください。朔夜さん、宇佐美君。こちらが新しくこの教室で働いてくれる先生です」
生徒たちがくる15分前くらいに、新しいバイトの学生が塾にやってきた。車坂は事前に面接をしていたので、彼女とは面識があって当然だが、私は彼女の姿を見て、困惑してしまう。車坂に紹介された彼女が私たちの前に立ち、挨拶する。一重の細い瞳にすっとした鼻立ちの面長の顔。彼女の顔には見覚えがありすぎる。
「宇佐美翼(うさみつばさ)です。ここで働き始めて一年と少し経ちます」
「さ、朔夜、蒼紗で、す」
車坂の紹介で、翼君が先に彼女に自己紹介する。私も慌てて自分の名前を伝えるが、動揺してしまって言葉に詰まってしまう。
「あれ、あなたは……」
私のぎこちない自己紹介を不審に思った車坂と翼君が声をかける前に、新しく来たバイトの学生が私に話しかけてきた。相手も、私が誰かわかったのだろう。
「ええと、その」
「二人はお知り合いだったのですね。それは何かの縁ですね。これから同じ大学生同士、仲良くやっていってくださいね」
「蒼紗さんに知り合いがいたなんて」
なぜだか、男二人から生暖かい目で見られている気がする。私にだって知り合いくらい存在するのに、失礼な奴らである。
「あの、朔夜さんとおっしゃるのですね。先日はぶつかってしまってすいません」
「いや、私の方こそ、前方不注意でぶつかっちゃったから気にしなくていいです。車坂、先生から、私と同じ大学の子がバイトに入るって言っていたから、誰が来るのかと思っていました」
「そうなんですか?私は今年入学したばかりの一年生です」
「一年生だったんですね。私は」
「朔夜さんは二年生ですよね。だって先輩は大学内で有名ですから」
一年生だったら、私が知る機会はなかった。道理であまり見かけないわけだ。彼女が学年を伝えてきたので、私も素直に今年二年生になることを伝えようとしたが。
「大学で有名……。ああ、あれで有名なんですね」
「大学の様子を私は知らないのですが、何が有名なんですか?」
「ええと、実は……」
「なるほど。でもそれは、朔夜さんの趣味ではないのですね」
なぜか、私が話す前に言い当てられてしまう。有名という言葉に反応して翼君と車坂が私の後ろでこそこそと何か語り合っている。しかし、すぐに話は終わったのか彼女に向かって軽い口調で話しかける。
「朔夜さんは、向井さんより一つ上の学年ですが、彼女はどうにも、世間ずれしているところがありますから、何か変なことを言っていたら、僕に遠慮なく相談してくださいね」
「私も何かあったら相談に乗りますよ」
「ええと、ありがとうございます?」
「何を言っているんですか。二人とも。向井さん、私は別に世間ずれもしていないし、変なことも言いませんからね!」
私たちが話しているうちに生徒が来る時間が来てしまったようだ。
『こんにちは!』
塾のドアが開かれ、教室内に大きな挨拶が響き渡る。一番先に来た塾の生徒は、小学生の兄妹だった。
今日は塾のバイトがある日で、翼君も私と同じ時間にシフトが入っていたため、一緒に塾まで向かった。塾の教室のドアを開くと、すでに中では車坂が仕事をしていた。私たちが挨拶すると、ちらりとこちらに視線を向けたが、すぐに手元の生徒たちのために作られたカリキュラムに目を落とす。そのまま伝えられたのが『あたらしい先生が入る』という言葉だ。
「いきなりですね。確かに最近、塾の生徒が増えてきて、私たちだけでは手一杯になってきた気がしましたけど」
「新しいバイトを雇って大丈夫なの?お前の素性がばれるかもしれない」
「それについては心配いりません。素性というならば、同じことが君にも言えるでしょう?私はこれでも、だいぶ人間社会に慣れてきましたから、そう簡単に人間以外の存在だとばれはしませんよ」
靴を脱いで、私と翼君もタイムカードを切って、生徒を迎え入れるための準備を始める。そういえば、この塾で働き始めてから、車坂と翼君以外の塾講師に会ったことがなかった。私が塾のシフトに入っていない日は、他の教室から応援が来ていたのだろうか。
「あの、ここの教室って」
「朔夜さんの通っている大学の子が面接に来てくれたんですよ。ですから、この教室メインで働いてもらうことになります」
私たち以外の塾講師が気になったので質問しようとしたが、車坂には見事に無視されてしまう。そして、驚きの情報を口にする。他の塾講師のことなど、一瞬で頭から吹き飛んでしまった。
「同じ大学の学生さん……」
一体、どんな子が私たちと一緒に働くことになるのだろうか。
「嬉しそうな顔ですね。やっぱり同じ大学生ということで、親近感がわきますか?」
「そ、それは、まあ。同じ大学に通っているということですから、多少は感じますよ。まあ、年齢については、まったく親近感を感じることはないですが」
翼君に言われて改めて自分の年齢を思い出す。忘れてしまいがちだが、私の見た目と実年齢は異なっている。見た目が二十歳前後に見えるからと言って、それが実年齢ではないのだ。自分で思い出したことなのに、なんだか悲しい気持ちになってきた。
「それは言わない約束でしょう?そんなことを言ったら、僕はどうなるんですか?それに、そこにいる死神も、実年齢がいくつかわかったものじゃないですよ」
「私のことは気にしなくていいですよ。そうですねえ。確かにそこの坊やはこれからずっと、少年姿のままでしょうから、親近感でいうと、小学生とか中学生くらいになってしまいますね」
私が急に落ち込みだしたことに、二人がよくわからない擁護をしてくれた。実年齢と外見が一致しないのは、私だけではなかった。翼君はそもそも、今でこそ生前の青年の姿をしているが、普段はケモ耳美少年だ。隣に立っている車坂も、死神という人外の存在であり、成人男性の恰好はしているが、実際の年齢はわからない。私だけが異常ではないことに少しほっとする。
車坂は西園寺桜華が亡くなった事件の後、この町にやってきた死神である。なぜか、私のことを監視するという名目で、人間社会で人間のふりをして生活している。見た目は黒髪黒目、銀縁メガネをかけたインテリ風の青年である。そんな彼が死神だとは確かに誰も思うまい。
「翼君たちに比べたら、私の外見と実年齢の差はそれほど気になりませんね。新しいバイトの子がどんな子か、楽しみになりました!」
翼君や車坂のことを考えていたら、見た目と実年齢の差が気にならなくなってきた。いまさら、気にしても仕方のないことである。いつまで私はこの姿のままなのかはわからないが、受け入れて生きていくしかないのだ。そう思うと、急に同じ大学のバイトの子に興味が湧いてくる。
私は率先して、生徒が来るための準備をしていく。床の掃除機掛け、机の水拭き、生徒たち用のカリキュラムの作成。やることはたくさんある。私の言葉に彼らも仕事にとりかかった。
「こんにちは。向井姫奈(むかいひな)です、今日からこの塾で働くことになりました。よろしくお願いします」
「ああ、こんにちは。どうぞ、こちらに来てください。朔夜さん、宇佐美君。こちらが新しくこの教室で働いてくれる先生です」
生徒たちがくる15分前くらいに、新しいバイトの学生が塾にやってきた。車坂は事前に面接をしていたので、彼女とは面識があって当然だが、私は彼女の姿を見て、困惑してしまう。車坂に紹介された彼女が私たちの前に立ち、挨拶する。一重の細い瞳にすっとした鼻立ちの面長の顔。彼女の顔には見覚えがありすぎる。
「宇佐美翼(うさみつばさ)です。ここで働き始めて一年と少し経ちます」
「さ、朔夜、蒼紗で、す」
車坂の紹介で、翼君が先に彼女に自己紹介する。私も慌てて自分の名前を伝えるが、動揺してしまって言葉に詰まってしまう。
「あれ、あなたは……」
私のぎこちない自己紹介を不審に思った車坂と翼君が声をかける前に、新しく来たバイトの学生が私に話しかけてきた。相手も、私が誰かわかったのだろう。
「ええと、その」
「二人はお知り合いだったのですね。それは何かの縁ですね。これから同じ大学生同士、仲良くやっていってくださいね」
「蒼紗さんに知り合いがいたなんて」
なぜだか、男二人から生暖かい目で見られている気がする。私にだって知り合いくらい存在するのに、失礼な奴らである。
「あの、朔夜さんとおっしゃるのですね。先日はぶつかってしまってすいません」
「いや、私の方こそ、前方不注意でぶつかっちゃったから気にしなくていいです。車坂、先生から、私と同じ大学の子がバイトに入るって言っていたから、誰が来るのかと思っていました」
「そうなんですか?私は今年入学したばかりの一年生です」
「一年生だったんですね。私は」
「朔夜さんは二年生ですよね。だって先輩は大学内で有名ですから」
一年生だったら、私が知る機会はなかった。道理であまり見かけないわけだ。彼女が学年を伝えてきたので、私も素直に今年二年生になることを伝えようとしたが。
「大学で有名……。ああ、あれで有名なんですね」
「大学の様子を私は知らないのですが、何が有名なんですか?」
「ええと、実は……」
「なるほど。でもそれは、朔夜さんの趣味ではないのですね」
なぜか、私が話す前に言い当てられてしまう。有名という言葉に反応して翼君と車坂が私の後ろでこそこそと何か語り合っている。しかし、すぐに話は終わったのか彼女に向かって軽い口調で話しかける。
「朔夜さんは、向井さんより一つ上の学年ですが、彼女はどうにも、世間ずれしているところがありますから、何か変なことを言っていたら、僕に遠慮なく相談してくださいね」
「私も何かあったら相談に乗りますよ」
「ええと、ありがとうございます?」
「何を言っているんですか。二人とも。向井さん、私は別に世間ずれもしていないし、変なことも言いませんからね!」
私たちが話しているうちに生徒が来る時間が来てしまったようだ。
『こんにちは!』
塾のドアが開かれ、教室内に大きな挨拶が響き渡る。一番先に来た塾の生徒は、小学生の兄妹だった。
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