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43これは夢でしょうか
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「おい、お主、大丈夫か。しっかりしろ!」
「うるさいですよ。今日は土曜日で大学もないので、もう少し寝かせてください」
「完全に寝ぼけているな。翼、お前のキュートな笑顔で正気に戻せ」
「キュートって、これが効くのは蒼紗さんだけの気もしますが。あまりやりたくはないですが、やるしかないようですね」
大きく息を吸ってはいての深呼吸の音が聞こえた。そして、何者かが私の耳もとでささやいた。
「あおさおねえちゃん、そろそろ起きないとぼく、泣いちゃうよ」
「ショタが泣くなんて!」
かわいい、甘えたようなショタボイスが耳もとにささやかれる。そんなことをささやかれた私は、一気に現実世界に引き戻された、いや、もしかしたら、目がさめた瞬間からが夢かもしれない。
「つ、翼君、それに九尾。その格好は……」
目を開けて飛び込んできた情景に絶句した。そして、ようやく質問できたのは、今の自分の現状確認ではなく、彼らの服装についてだった。
「本当に、お主が不審者で捕まっていないことが奇跡と思えるほどの変態だな」
「この恰好を提案したのは、狼貴ですよ。僕の趣味とかじゃないですからね」
「ありがとうございます!神様!」
「誰に言っているのだろうな。目の前にその神様がいるということすら、こやつは頭から抜け落ちている。もしや、あの女にやられてこんな状況に」
「それはないと思いますよ。彼女の焚いていたお香のようなものは、こちらで回収しましたが、幻覚を見せる効果があるものでした。ですが、もうその効果は切れているはずです」
それにと、こそこそと翼君が九尾に耳打ちする。翼君の話に納得できるところがあるようで、九尾はなるほどと頷いていた。
「翼の言うことは最もだな。こやつはもとからこのような変態だった」
「へ、変態ではありません!」
慌てて九尾の言葉に反論するが、ついじっと彼らの恰好を凝視してしまう。翼君と九尾は、私立のお金持ちが通うような学校の制服を着ていた。半そでの白いシャツに首元にはフリルのついた赤いリボン。下は膝小僧がのぞく短パンで、サスペンダーがついていた。足元には白いハイソックスを着用していた。
それだけでも私のツボに入る格好なのに、極めつけとばかりに、いつものケモミミ尻尾が装備されていた。そのせいで、コスプレプレイ感が半端なかった。これで現実世界に戻ってきたと思う方がおかしいだろう。九尾たちは小学校高学年くらいから中学生くらいの背格好なので、半端なく可愛らしく仕上がっていた。
「のんきに興奮している場合ではなかろう。お主、今の状況がわかっているのか?」
「今の状況?」
話を元に戻すかのような九尾の言葉に、ようやく私の頭は正常に働きだした。はて、私は今まで何をしていたのか。あたりを見回すが、そこには見慣れた景色が広がっていた。私の部屋である。私はベッドの上で九尾たちと会話していた。
自分の恰好を確認すると、鬼崎さんの家に行くために着替えた黒いワンピースを着たままだった。
「そういえば、私は鬼崎さんの家に行ったのでした。なのに、なぜ、自分の部屋のベッドに寝ているのでしょうか?」
はあとため息を二人に吐かれてしまったが、あまりにも二人の恰好がツボ過ぎて、先にそっちに目が行ってしまったのだ。決して、私のせいだけではない。
九尾たちは、私が今までのことを思い出すまで、じっと待ってくれていた。そのおかげで、今の状況を改めて確認することができた。
「私は、鬼崎さんの家に犬史君と一緒に行きました。九尾たちも私の後をついてきてくれたのですよね?」
「その通りだ」
口に出して、今までの行動を振り返る。九尾が私の言葉に頷いてくれたので、そのまま話を続ける。
「彼女の部屋に入ってすぐ、壁に貼られた大量の写真に目を奪われました。そして、その写真のまがまがしさにすぐに家を出たくなりました」
「確かにあの数の心霊写真もどきは恐ろしいですね。加工とわかっていても、ぞっとします」
「加工?あれ、九尾たちは鬼崎さんの部屋に入ったのですか?」
「そこからか。まったく、世話の焼ける奴だ」
「僕たちは蒼紗さんについていくと言いましたよね?まあ、部屋の前まで来たら、窓から様子を見るってことになっていましたけど。事態は急変しましたので」
「急変した……。そういえば、犬史君はどうしたのですか?それに狼貴君も見当たりませんが?」
「今さら過ぎるな。少しずつ順を追って説明するから、慌てるな」
私の慌てぶりに九尾が説明するから静かにしろというので、おとなしく口をつぐむ。
「それで、緊急事態だったため、彼女の家に突入したんですけど、その時に部屋に貼られた写真を拝見したわけです。それにしても、蒼紗さんは気づかなかったんですか?本物の心霊写真にそっくりですけど、あれらは全て、精巧に加工された合成写真ですよ」
翼君が驚きの発言をする。あの壁に貼られた無数の写真がすべて心霊写真も土器とはにわかには信じられなかった。
「で、でも、犬史君は壁の写真は普通の写真に見えるって言っていたから、てっきり、霊感のある人にしか見えないのだと」
「もうすでに犬史君は洗脳済みだったのでしょう」
「あれは傑作だったな。人間があそこまで洗脳できるとは」
「僕も見ていて驚きました。まさか、狼貴に会わせてあげるというのは、幻覚を見せるということだったなんて、予想外でした」
「洗脳って……」
九尾たちの言葉が理解できない。洗脳やら幻覚やら、物騒な言葉が出てきて、自分が無事に家に帰って来られたことに感謝した。彼らが私を窮地から救い出してくれたのだ。
「すいません。油断していました。私がもっとしっかりしていれば、こんな事態には」
『おぬし(蒼紗さん)は抜けているところがある(あります)から』
私の謝罪は軽く流された。どうやら、私が何かしでかすことは、彼らの想定内だったようだ。
「別にお主に期待していたわけではないが、突然、倒れてしまったのは想定外だな」
「でも、あの部屋に炊かれていたお香のにおいにずいぶんと持ちこたえていたと思いますよ」
「だが、結果的にあいつの弟やらを助ける名目でつれだせたのだから、いいと思うがな」
「それには同感です」
二人の話についていけず、頭にはてなを飛ばす私に、二人は最初から説明してくれた。
「うるさいですよ。今日は土曜日で大学もないので、もう少し寝かせてください」
「完全に寝ぼけているな。翼、お前のキュートな笑顔で正気に戻せ」
「キュートって、これが効くのは蒼紗さんだけの気もしますが。あまりやりたくはないですが、やるしかないようですね」
大きく息を吸ってはいての深呼吸の音が聞こえた。そして、何者かが私の耳もとでささやいた。
「あおさおねえちゃん、そろそろ起きないとぼく、泣いちゃうよ」
「ショタが泣くなんて!」
かわいい、甘えたようなショタボイスが耳もとにささやかれる。そんなことをささやかれた私は、一気に現実世界に引き戻された、いや、もしかしたら、目がさめた瞬間からが夢かもしれない。
「つ、翼君、それに九尾。その格好は……」
目を開けて飛び込んできた情景に絶句した。そして、ようやく質問できたのは、今の自分の現状確認ではなく、彼らの服装についてだった。
「本当に、お主が不審者で捕まっていないことが奇跡と思えるほどの変態だな」
「この恰好を提案したのは、狼貴ですよ。僕の趣味とかじゃないですからね」
「ありがとうございます!神様!」
「誰に言っているのだろうな。目の前にその神様がいるということすら、こやつは頭から抜け落ちている。もしや、あの女にやられてこんな状況に」
「それはないと思いますよ。彼女の焚いていたお香のようなものは、こちらで回収しましたが、幻覚を見せる効果があるものでした。ですが、もうその効果は切れているはずです」
それにと、こそこそと翼君が九尾に耳打ちする。翼君の話に納得できるところがあるようで、九尾はなるほどと頷いていた。
「翼の言うことは最もだな。こやつはもとからこのような変態だった」
「へ、変態ではありません!」
慌てて九尾の言葉に反論するが、ついじっと彼らの恰好を凝視してしまう。翼君と九尾は、私立のお金持ちが通うような学校の制服を着ていた。半そでの白いシャツに首元にはフリルのついた赤いリボン。下は膝小僧がのぞく短パンで、サスペンダーがついていた。足元には白いハイソックスを着用していた。
それだけでも私のツボに入る格好なのに、極めつけとばかりに、いつものケモミミ尻尾が装備されていた。そのせいで、コスプレプレイ感が半端なかった。これで現実世界に戻ってきたと思う方がおかしいだろう。九尾たちは小学校高学年くらいから中学生くらいの背格好なので、半端なく可愛らしく仕上がっていた。
「のんきに興奮している場合ではなかろう。お主、今の状況がわかっているのか?」
「今の状況?」
話を元に戻すかのような九尾の言葉に、ようやく私の頭は正常に働きだした。はて、私は今まで何をしていたのか。あたりを見回すが、そこには見慣れた景色が広がっていた。私の部屋である。私はベッドの上で九尾たちと会話していた。
自分の恰好を確認すると、鬼崎さんの家に行くために着替えた黒いワンピースを着たままだった。
「そういえば、私は鬼崎さんの家に行ったのでした。なのに、なぜ、自分の部屋のベッドに寝ているのでしょうか?」
はあとため息を二人に吐かれてしまったが、あまりにも二人の恰好がツボ過ぎて、先にそっちに目が行ってしまったのだ。決して、私のせいだけではない。
九尾たちは、私が今までのことを思い出すまで、じっと待ってくれていた。そのおかげで、今の状況を改めて確認することができた。
「私は、鬼崎さんの家に犬史君と一緒に行きました。九尾たちも私の後をついてきてくれたのですよね?」
「その通りだ」
口に出して、今までの行動を振り返る。九尾が私の言葉に頷いてくれたので、そのまま話を続ける。
「彼女の部屋に入ってすぐ、壁に貼られた大量の写真に目を奪われました。そして、その写真のまがまがしさにすぐに家を出たくなりました」
「確かにあの数の心霊写真もどきは恐ろしいですね。加工とわかっていても、ぞっとします」
「加工?あれ、九尾たちは鬼崎さんの部屋に入ったのですか?」
「そこからか。まったく、世話の焼ける奴だ」
「僕たちは蒼紗さんについていくと言いましたよね?まあ、部屋の前まで来たら、窓から様子を見るってことになっていましたけど。事態は急変しましたので」
「急変した……。そういえば、犬史君はどうしたのですか?それに狼貴君も見当たりませんが?」
「今さら過ぎるな。少しずつ順を追って説明するから、慌てるな」
私の慌てぶりに九尾が説明するから静かにしろというので、おとなしく口をつぐむ。
「それで、緊急事態だったため、彼女の家に突入したんですけど、その時に部屋に貼られた写真を拝見したわけです。それにしても、蒼紗さんは気づかなかったんですか?本物の心霊写真にそっくりですけど、あれらは全て、精巧に加工された合成写真ですよ」
翼君が驚きの発言をする。あの壁に貼られた無数の写真がすべて心霊写真も土器とはにわかには信じられなかった。
「で、でも、犬史君は壁の写真は普通の写真に見えるって言っていたから、てっきり、霊感のある人にしか見えないのだと」
「もうすでに犬史君は洗脳済みだったのでしょう」
「あれは傑作だったな。人間があそこまで洗脳できるとは」
「僕も見ていて驚きました。まさか、狼貴に会わせてあげるというのは、幻覚を見せるということだったなんて、予想外でした」
「洗脳って……」
九尾たちの言葉が理解できない。洗脳やら幻覚やら、物騒な言葉が出てきて、自分が無事に家に帰って来られたことに感謝した。彼らが私を窮地から救い出してくれたのだ。
「すいません。油断していました。私がもっとしっかりしていれば、こんな事態には」
『おぬし(蒼紗さん)は抜けているところがある(あります)から』
私の謝罪は軽く流された。どうやら、私が何かしでかすことは、彼らの想定内だったようだ。
「別にお主に期待していたわけではないが、突然、倒れてしまったのは想定外だな」
「でも、あの部屋に炊かれていたお香のにおいにずいぶんと持ちこたえていたと思いますよ」
「だが、結果的にあいつの弟やらを助ける名目でつれだせたのだから、いいと思うがな」
「それには同感です」
二人の話についていけず、頭にはてなを飛ばす私に、二人は最初から説明してくれた。
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