朔夜蒼紗の大学生活④~別れを惜しむ狼は鬼と対峙する~

折原さゆみ

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40居候がさらに増えそうです

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 私が眠った後、九尾たち三人は、彼らの部屋の窓をじっと見つめていた。まるで窓から来客が来るとおもっているかのようだった。夜中に誰が来るというのか。もし来るとしたら、それは人間ではなく人外の存在だろう。

「それで、いったいこんな時間に何の用だ、七尾」

 九尾たちの部屋の二階の窓から、一人の少年が訪ねてきた。コンコンとたたかれた窓を開け、九尾は部屋に彼を招き入れる。窓から入ってきた少年には、狐のケモミミと尻尾が生えていた。

「何って、一応、オレの下僕が危険な目に遭いそうだから、保護してもらおうかなと思って」

「保護?下僕とは、あの雨を操るという、雨水家のガキか」

「雨水君が危険に晒されるとは?」

 七尾は、部屋に入ると、堂々と彼らの眠る布団に座り込む。そして、自分と一緒に暮らしている雨水君を保護するよう、九尾たちに頼み込む。それに対して、九尾と翼君は疑問の声を上げた。

「雨水も、西園寺桜華を失った被害者だ。鬼崎辺りが目をつけてもおかしくはない」

「ふむ、それは考えもしなかった」

「ということで、明日から残りのGW中は、雨水もこの家に泊まってもいい?もちろん、僕もこの家に泊まるけど」

 二人の疑問に答えたのは、狼貴君だった。狼貴君の言葉に七尾が同意しつつも、私の家に滞在したいと言い出した。この家の持ち主である私の許可を得ずに、九尾たちに頼み込む当たり、彼らに人間の常識はないのだろう。

「それは急すぎではないですか?泊まると勝手に言ってくれますが、蒼紗さんは女性です。女性の家に男性をそうやすやすと泊めるほど、蒼紗さんの貞操観念は壊れてはいません」


「うちのガキがお前らのとこと間違いが起こるないだろう?そもそも、僕たちが一緒なんだから起こりようがない。それに、あいつって、実はあの見かけ通りじゃなくて、相当な年増、だって聞いてるけど」

「本人に言うなよ。殺されるぞ」

「本当に言ってはいけませんよ」

「じゃあ、明日からよろしくな」

 七尾がやってきて、雨水君が泊まるかもしれないという大事な話が、私が寝ている間に行われていたのであった。





 朝、私が起きると、目のまえにはケモミミ少年パラダイスが待っていた。要するに私の寝顔を九尾たちがじっと見ていたわけなのだが、それよりも起きてすぐにケモミミ美少年尾顔が拝めた私はつい、興奮して叫んでしまった。

「ここは天国か!」

「あの、蒼紗さん、重要な話があるので、さっさと起きてくれませんか?僕たちも暇ではないので」

「起きろ」

「こやつは、このような性癖があったことを忘れていた」

「面白いねえ」

 叫んだ私の言葉に、四人のケモミミ少年が不審者を見るような冷たい視線を私に送り、容赦ない言葉を私に投げかけてくる。おかげですぐにばっちりと目を覚ますことができた。その後、雨水君がやってくるという話を聞いて、私は慌ててパジャマから私服に着替えるため、彼らを部屋から追い出した。

 七尾から雨水君がいつごろ来るかと聞くと、昼頃にやってくるとのことだった。それまでに身支度をと問えなくてはと思った私は、まずは朝食を食べるために一階のリビングに足を運ぶ。

 リビングに着くと、すでに翼君が朝食の用意をして待っていた。私は朝食を食べながら、七尾の話を聞くことにした。

「そこの狼君が狙われているというのは聞いたけど、その次はうちの雨水のガキかもしれないと思って。少しの間、こいつをかくまってくれないかな?」

 七尾から話を聞いた私は、どうしようかと頭を悩ませる。私の家にはすでに九尾たちが居候しているので、今更一人や二人男が増えたところで問題はない。しかし、七尾の言い分だと、他にも被害者が出そうだ。そして、それは。

「私の周りの人間が危ないということですか?」

「あの蛇娘の心配をしておるのか。それなら心配はいらないだろう。危害を加えられたとして、立ち向かえる能力があるからな」

「でも、ジャスミンだって、か弱い女性で」

「心配なら、監視をつけてやっても構わんが、おそらく、やつがターゲットになるのは、もっと後だろう」

「今は、瀧の事件の関係者を探そうと躍起になっているみたいだからな」




「瀧の事件……」

「そうだ、だから、翼や狼貴が狙われた。お前ら以外は全員、われがこの世に欠片も残さず燃やしたからな。お前ら以外の死んだ奴の被害者を当たっても、どうにもならない。しかし」

「西園寺桜華の死は違う」

 七尾の話を九尾が補足していると、狼貴君も同様に口を開く。

「西園寺家の当主となるはずだった彼女が亡くなって、それに伴って雨水は大学を退学した。そうなれば、気になってくるものだ。亡くなった真相を知っているものが近くに居たら、根ほり葉ほり、聞きたくなるものだろう?」

 私は話を聞きながら、ちらりと雨水君に思いをはせる。もし、駒沢たちが雨水君に西園寺桜華の情報を話せと迫ったらと想像する。

「人の死を根ほり葉ほり聞くのは許せません」

 鬼崎さんが大学に入学してから、やばいことが起こり始めている。雨水君の件も問い詰めた方がいいだろう。




 ふいに、辺りを見渡して、この状況の可笑しさに私は気づいてしまう。そもそも、駒沢や鬼崎さんが私たちに目をつけているのは、なぜなのか。私については何とも言えないが、翼君や狼貴君に関していえば、悪いのは九尾なのだ。

 もともとは、九尾がこの町にやってきていろいろやらかしたのが原因だ。それに加えて、今は、翼君や狼貴君を眷属にしてしまった。

「元はと言えば、九尾が悪いんですよね」

「何が言ったか?」

「いえ、私もたいがいだなと思ってしまいました」

 私もすでにおかしいのだ。人殺しをしたと思われる神様を居候させている。大事な大学の友達が亡くなった元凶を家に入れている。

要するに、この場にいる全員がすでに人の常識から外れてしまっている。そう考えると、笑いがこみ上げてくる。妙に楽しい気分になってきてしまう。

「ふふふふふ」

「どうした?気でもおかしくなったか?」

 四人が一斉に私に視線を向ける。今度は心配そうな表情が二つ、何が起こるかとわくわくした表情が二つあった。

「すでに私はおかしいなと思って。だから、おかしい私は決めました」

 そう、私はすでに人の道から大幅に外れている。今更、人の正しい道を歩み必要はないといまさら気付かされる。


「面倒なので、鬼崎さんも駒沢もまとめておとなしくさせましょう。そして、またみんな仲良く楽しい生活を送れるように」

 そんな感じで話をしながら、雨水君を迎えるための身支度を整えていると、雨水君がやってきた。雨水君は私の大事な人間の一人だ。駒沢なんかに簡単に渡さない。居候の件はすぐに了承した。

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