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4鬼崎美瑠(おにざきみる)という後輩

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「あの子、相当やばいわ」

「やばいとは、能力者ということですか?」

 ジャスミンのつぶやきに思わず質問してしまう。しかし、もし仮に彼女が能力者だとして、どうしてジャスミンが警戒しなければならないのだろう。ジャスミンだって能力者であり、多少の危険も自分の能力で回避できるはずだ。もしかして、とても危険な能力者とでもいうのだろうか。

「能力者ではないわ。あれはたぶん、能力者の存在に気付いていないけれど、能力者のことを執拗に追い回す、厄介な相手ね。おそらく、彼女はただの一般人。私たちみたいな能力者ではないはず。だけど、妙に勘が鋭くて、非科学的な現象に興味を持っていて、私たち能力者を見つけたいタイプね」

「今日会ったばかりの鬼崎さんについて、ずいぶん詳しく解説していますけど、ジャスミンは彼女と面識があったのですか?」

「いや、私は彼女とは初対面よ。ただ、あんな目つきをした奴を見たことがあるだけ。ああいう人種は、自分が納得するまであきらめないから、対処に苦労したわ」

 私の言葉を否定し、ジャスミンは過去を思い出しながら、しみじみと昔を回想する。

「今まで私が出会った連中は、私がどうにか黙らせたけど、どうにも、彼女はこれまでとは違うタイプかもしれないわ。蒼紗も注意した方がいい。そもそも、蒼紗に興味を持った時点ですでに怪しい奴決定ね」

「ジャスミンが言うほど、危険人物だとは思えませんでしたが」

「蒼紗は危機管理能力が低いのよ!もしかしたら、蒼紗の周りを嗅ぎまわるかもしれないから、蒼紗の居候たちにも気を付けるよう伝えた方がいいかもね」




「朔夜先輩の家に居候している人がいるのですか?」

「な、どうしてあんたがここに!」

 廊下で歩きながら話していたはずなのに、私たちの後ろから鬼崎さんの声が聞こえた。今の会話をどこから聞いていたのだろうか。

「どうしてと言われたら、朔夜先輩に伝え忘れていたことがあったからです」

「私に、ですか?」

 私と鬼崎さんは今日、初めて会ったはずで、初対面の相手だ。そんな相手に伝え忘れるようなことがあるとも思えないが。

「朔夜先輩のことは、実は綾崎先輩の他に、駒沢先生からもお話を伺っていました。駒沢先生の授業を受けて、先生の考えに共感しまして。お話を伺っていたら、朔夜先輩のお話が上がって」

「さっさと用件を言いなさいよ。まどろっこしい!」

 鬼崎さんの言葉にジャスミンがいら立ちを隠せず、怒りをぶつける。彼女はジャスミンの様子をちらりと見たが、すぐに私に向き直り、言葉を続ける。

「すいません。つい、朔夜先輩と話せて興奮してしまって。用件ですが、駒沢先生から、朔夜先輩に伝言を預かっていたのです。伝言の前に、朔夜先輩の恰好ですが、毎日コスプレをしているとは聞いていましたが、今日の服装は桜の妖精みたいで、とてもよくお似合いです」

「はあ、ありがとうございます」

 私の服装をほめてくれるのはうれしいが、このタイミングは微妙だ。お礼を述べると、鬼崎さんは、本題の駒沢の伝言を話し出した。

『朔夜さんの周りに不幸を呼ぶ者たちが存在している。取り除いてほしければ、いつでも相談に乗るよ』

「だそうです。何のことかわかりませんが、先ほどの話と組み合わせると、居候の方々に問題がある方がいるのですか?ですが、駒沢先生の言い方だと、もしやその方々は」

『今の話は忘れてください!』

 私は無意識に言霊の能力を発動していた。鬼崎さんと視線を合わせて言葉を紡ぐと、私と鬼崎さんの周りが金色に光り出す。私の瞳も金色に輝いているだろう。服装を褒めてくれたのはうれしいが、それとこれとは話が違う。

「ワカリマシタ」

 能力がかけられた彼女は、こくりと頷くと、そのまま私たちの前から立ち去った。




 しばらく、私たちの間には沈黙が広がった。ジャスミンは私の行動に驚いて固まっていた。私もつい、能力を行使してしまったことに動揺していた。

 鬼崎さんは九尾たちの存在を直接知っているわけではないし、駒沢だって、彼らの正体に気付いているのかわからない。他人が言う言葉に心を揺らされてはいけない。それでも、彼らは私にとって。

「蒼紗にはびこっているあいつらが、蒼紗を不幸にするなんて、前から分かっていたことでしょ。今更、何を落ち込んでいるの?」

 ぐるぐると考え込んでいた私に、ジャスミンはが簡潔な答えをくれた。ジャスミンは、初めからわかっていたことで、気にすることはないと力説する。

「だって、あいつらは、蒼紗や私たちと違って、人間ではない存在。そんな存在がいて、今まで通りの平穏な生活が送れるはずがないのは当たり前でしょう?不幸はすでに何度か経験済みで、それはあいつらのせいだってこともわかっている。それでも、蒼紗は、あいつらとつき合うことに決めた」

「そうですけど、でも」

「でもじゃないでしょ。あんな胡散臭い奴の言葉に影響されるなんて、蒼紗らしくない。それとも、いまさら、あいつらのことを家から追い出すの?ご丁寧に忠告を聞き入れて、駒沢に取り除いてもらう?」

「それはありえません!」

 ジャスミンの言葉を即座に否定する。九尾たちを家から追い出すことはありえない。彼らが私に愛想が尽きて、彼ら自身が出ていくというのならば仕方ないが、私から彼らを追い出すことはない。

「ようやく元に戻ってきたわね。それでいいのよ。うじうじ悩んでいないで、今日はさっさと帰りましょう」

「はい」

 ジャスミンがその場にいたおかげで、私は救われた気分だった。鬼崎さんが駒沢に何を吹き込まれたのは知らないが、私が他人に指図されて動く必要はない。それに、私は彼らより、ずっと長く世間の荒波にもまれている。大学教授ごときに意見される筋合いはない。




 帰る途中、私はジャスミンにお礼を述べることを忘れなかった。

「ジャスミン、ありがとうございました。もし、私一人で鬼崎さんと対峙していたら、大変なことになっていました」

 いきなりの謝罪発言に、ジャスミンはぽかんとした顔をしていたが、徐々に意味を理解して、顔が赤くなる。

「すでに大変なことになっていたけどね。一般人相手に急に能力を使いだしたのには驚いたわ。私は大したことは言ってない。蒼紗があまりにあんな奴の一言で落ち込んでいたから、当然のことを言ったまで。お礼を言われることじゃないわ」

 そう言いながらも、お礼を言われて、少しは嬉しいのだろうか。言葉の後半は、照れ隠しのようにぼそぼそとした声となっていた。


「では、明日からの大学も頑張っていきましょう!また明日、大学で」

「そうね。また明日大学で」

 ジャスミンと別れて、私は鬼崎さんが言っていた、不幸を呼ぶ居候が待つだろう家に帰宅するのだった。
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