結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

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番外編【新しい扉を開く】2妄想はほどほどに

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 私にはシスコンの妹がいる。

「お姉ちゃん、一緒に帰ろう」
「お姉ちゃんの真似してみた、似合う?」
「お姉ちゃん、大好き」

 年は一つしか変わらないが、私のことを大好きだと連呼して、私と四六時中一緒に過ごしたいらしい。そして、私の真似ばかりする。同じ髪型、同じ服装、同じ文房具。さらには姉に対して、毎日のように大好きだと言ってくる。

 同じ格好をしているせいで、双子だと思われることも多かった。年が一つしか違わないので仕方ないだろう。私は嫌だったが、妹は双子だと思われてとても嬉しそうだった。

 とりあえず、妹からの愛がとても重かった。

 そんな私たち姉妹も高校生になった。

 現在、私が高校二年生、妹が高校一年生。高校一年生のころは、学校が一緒に通えないことを妹はかなり嘆いていた。当然、妹は私と同じ高校を受験した。

 高校一年生のころの妹からの解放感は素晴らしかった。たとえかわいい妹だとしても、さすがに四六時中一緒に居ると窮屈で仕方ない。

 しかし、その平穏な生活も一年だけだった。妹は私と同じ高校に見事合格した。こうして、高校二年生になってからは姉妹で同じ高校に通うことになった。授業中はさすがに一緒に過ごすことは無いが、小中学校同様、朝は一緒に登校、昼休みも一緒に昼食、一緒に帰宅という生活が戻ってきた。

「おはよう」
「おはよう、今日もお疲れだね。毎日、妹ちゃんとの登校、ご苦労様」

 とはいえ、私の生活にも変化が訪れた。それは、私に○○ができたことだ。



「とまあ、出だしはこんな感じでいいか」

 大鷹さんに百合についての魅力を語ったその日、私は初めて【百合】というジャンルの小説に挑戦しようとパソコンを開いた。要するに、いつも書いているBL(男同士の恋愛)を百合(女同士の恋愛)に置き換えて書けばいいのだ。

 まあ、それを言うと、どちらの界隈からも大批判を浴びそうだが、書いたことがないので、まずはそこから慣れていこうと考えたわけだ。手始めに姉妹の百合作品の冒頭を執筆してみた。

「現実世界ではありえないけど、これはフィクションだからなあ。そもそも、私はそこまで妹に好かれていないし。いや、普通かな」

 私の独り言が部屋に響き渡る。そう、これはあくまでフィクション。私には妹がいるが関係は良好で、シスコンでもなければ、犬猿の仲でもない。たまに連絡を取り合ったり、盆正月に実家で会ったりする程度の仲だ。だから、自分の経験を活かすことはできない。

 とはいえ、世の中は男女の恋愛然り、BL然り、百合然り。近親相姦系の創作で溢れている。溢れているというのは語弊があるかもしれないが、それでも調べればそれなりの数の創作物がヒットする。

「ここからの展開が大事だけどねえ。さて、どうしたものか」

 プロットもなしにいきなり書き始めたら、当たり前だがすぐに行き詰る。仕方なく、私はパソコンに思いついた設定を入力していく。


・女子校生同士の百合物語
・シスコンの妹に付きまとわれる姉だが、実は姉の方も妹のことが大好き
→妹の交友関係はしっかりと把握している。

・高校一年生の時、姉に念願の彼氏ができる。妹には秘密にしようと思ったが、すぐにばれてしまう
→別れてと懇願されると思ったが、妹は無反応だった

・一年後、姉妹で同じ高校に通うことになったが、いつも通り、妹は姉を追い回す日が戻ってきた

・彼氏とのデートの最中、彼氏は姉に別れを告げる
→理由は他に好きな人ができたから
 ありきたりな理由過ぎて言葉が出なかったが、その好きな相手が妹ではないことに安心する。実は裏で妹が糸を引いていた

・初めての彼氏だったが、別れても大して傷ついていないことに気付く

・妹が自分のクラスにやってきた転校生を紹介してくる
→転校生には大学生の姉がいて、こちらの姉妹も愛が重いシスコン姉妹だった

・最終的に 妹×転校生 姉×女子大生 のカップリングができる
→妹と女子大生はそれぞれ愛が重すぎて、姉、妹をストーカーよろしく付きまとっている
・デートは基本4人でダブルデートになった

・愛が重い姉妹同士の百合


 トントン。

「どうぞ」

 物語の大体の構想が決まったところで、部屋のドアがノックされる。ノックをしてきたのは大鷹さんだ。パソコンの右下の時刻を見ると、パソコンを開いてから一時間が経過していた。集中すると、あっという間に時間が過ぎてしまう。

「紗々さんがおすすめしてくれた作品ですけど、この本物の悪役令嬢の愛が重いですね。ですが、愛が重たいゆえの面白さがあります。とりあえず、サイトの無料お試し分は読んだので感想をと思いまして」

 どうやら、私のおすすめ作品をさっそく読んでくれたようだ。今の世の中、ネット環境さえ整っていれば、自分がすすめた作品の冒頭部分をお試しで読んでもらえる。ずいぶんと便利な世の中になったものだ。

「それで……。執筆中でしたか。それなら、また明日にでも」

「いいえ、ちょうどキリがいいところまで書けたので大丈夫です。そうだ、大鷹さんは性別問わず、近親相姦系の話しってどう思いますか?」

「キ、キンシンソウカン」

「もちろん、現実では倫理的、遺伝的にやばいと思います。ですがほら、創作だといろいろな作品が出ているなと」

「はあ」

 大鷹さんが胡乱げな目で私を見てくる。前置きもなしにこの質問はさすがにまずかったか。とはいえ、単純に他の人の意見は聞いてみたい。

「ソウデスネ。フィクションノハナシナラ、トクニナニモイウコトハナイデスネ」

「なぜ、片言になってるんですか?ああ、そういえば……」

 大鷹さんの言葉を聞いて思い出す。私は以前、大鷹さんと弟の亨さんで兄弟BLを妄想したことがあった。

「確かにフィクションなら許されることもありますね。私も今後は気をつけます。大鷹さんと弟の亨さんと」

「さ、最後まで言わないでください。では、僕は紗々さんの執筆の邪魔になる前に退室しますね」

 大鷹さんはそそくさと私の部屋から出ていった。

「大鷹さんの前では妄想はほどほどにしよう」

 改めて心に誓った。

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