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番外編【ファンが増えました】4小説みたいですね
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「では、先ほどの件について、改めて話し合いましょう。紗々さんからどうぞ」
食事を終えて、大鷹さんが温かいお茶を出してくれた。私の分と自分の分をテーブルに置いて、大鷹さんは私の正面に腰を下ろす。出されたお茶を一口飲むと、温かくてほっとする。大鷹さんがお茶を飲むのを見届けてから、私から話し始める。
「大鷹さんが悪いと思います。いきなり河合さんが元カノだと改めて宣言するから」
「それについては、それが一番、紗々さんの理解を得られると思ったからです。そもそも、河合江子のことを元カノだと口にするのは、僕にとって苦痛だということを知っておいてください」
「そうなんですか?」
てっきり、過去のことで気にしていないのかと思っていた。苦痛なら、私の理解を得られるからと言って、わざわざ言う必要はない。別の言葉で私のことを説得すればよかったではないか。そうしたら、今、私と大鷹さんが決まずい雰囲気にならなかった。
「でも、紗々さんに誤解を与えたとしたら、その発言は逆効果でした。キチンと説明するので、しっかりと聞いてください」
「何が誤解かわかりませんが、聞きましょう」
大鷹さんは一度深呼吸して、口を開く。
「河合江子と僕の好みはよく似ています。不本意ながら」
「それはなんとなくわかります。私の理解の及ばないところで、二人が理解し合っているのを見たことがあります」
「そこまでわかっているのなら、今回の件も心配の必要はないかと思いますけど」
二人の好みのタイプや趣味が似ているから、何だというのか。そもそも、私は大鷹さんが河合さんを誰かに取られることが嫌で、ヨリを戻そうとするかもしれないことが嫌なのだ。
「だから、紗々さんの話しにでてきた後輩に、河合江子がなびくことはないということです。そして、僕は絶対に河合江子とヨリを戻すことはありません。さらに言うと、彼女に新たな恋人が現れようが嫉妬もしません。むしろ、紗々さんにべったりな状況がなくなるのなら、応援したいくらいです」
「はあ」
「紗々さんと離婚したいなど、僕の口からは絶対に言いません。そもそも、紗々さんのことをあんなに構っていた彼女が、そんなぽっとでの後輩とやらに簡単になびくと思っていたら、彼女が逆に可哀想になります」
「河合さんの肩を持つのですか?」
「そうではなく、僕だったら、すでに心に決めた人がいるのに、猛アタックしてきた他人にそう簡単に心を開くことはないということです」
「でも、河合さんは今年の目標で『結婚相手を探す』って言っていましたよ?」
私も河合さんのことは信じている。後輩に猛アタックされたところで、簡単になびくとは本気で思っていない。しかし、今年の目標の件もあって、少し彼女への信頼が揺らいでいた。
「それはその、なんていうか……」
珍しく大鷹さんが焦っている。しかし、それも一瞬だった。すぐに表情を元に戻し、予想外の事を言い始める。
「きっと、僕たちのことが羨ましくなったに違いありません!」
「いやいや、そんなわけ」
「僕と同じ思考を持つ彼女なら、そう考える可能性は捨てきれません。僕たちの夫婦仲を見て、独身でいるのに迷いが出たのでしょう」
河合さんの考えを口にした大鷹さんはやけに自信ありげだった。それがなんだか無性に腹が立つ。
付き合いとしては大鷹さんの方が長い。とはいえ、別れてからずいぶんと経っているし、今は私の方が仕事で一緒に居る分、長く接している。親密さは出会ってからの期間の長さが必ずしも反映されないことを二次元から私は学んでいる。
「ということで、この話は終わりにしましょう。そんなに不安なら明日にでも、今日の退勤後のことを直接、河合江子に聞いてみたらいかがですか?きっと、紗々さんに頼まれたら、包み隠さず話してくれると思います」
「直接……」
「それとも、これも非常に不本意ですが、河合江子を呼んで、僕と紗々さん、彼女の三人で一度食事でもしますか?僕としては、これは避けたいですが」
「それは大丈夫です」
直接、河合さんに今日の件を聞いた方が三人での食事より断然良い。大鷹さんの提案は即座にお断りする。
「なんだか、小説みたいな出来事ですね?」
「今日の話のどのあたりですか?」
「今日の紗々さんが見た光景から、紗々さんと会話している内容、すべてが傍から見たら、面白いかもしれないな、と」
当事者としてはちっとも面白くはないですけど。
大鷹さんが私より先に日常生活から小説のネタを拾い上げた。これは由々しき事態だ。ネタを拾い上げられるようになったら、後はそのネタを文字に落とし込むだけだ。
「大鷹さん、いよいよ、私はお払い箱でしょうか?」
「なぜ、そうなるんですか?」
「だって、私みたいなことを言い始めるので。これはもう、大鷹さん自身が小説を書き始めるフラグで、そこから一気に私よりも人気作家になって、他人の読む作品よりも自分で書くほうが楽しいと気付き、私のファンでいることをやめ、そうしてそのうち、出版社から書籍化のオファーがきて、作品が商業化。作家の仕事が忙しくなり、私の事をないがしろにして、最終的に大鷹さんが世に出した作品がコミカライズ化、映画化、ドラマ化、アニメ化にまで発展して、アニメ化の際に、10歳以上若手の声優さんと親しくなって、そのまま私と離婚をしてその子と結婚するんですか?」
暗い想像ばかりしていたせいか、大鷹さんのネタ発言につい、悪い方の妄想が広がってしまう。早口で自分の妄想を語ってしまった。今度は大鷹さんが頭にはてなマークを飛ばしている。
「い、いったん、部屋に戻って頭を冷やします。今の発言は忘れてください」
「わ、ワカリマシタ」
少し冷静になって、自分の妄想を振り返るが、あまりに恥ずかしすぎる。このまま大鷹さんと一緒に居たら、次は何を口走ってしまうかわからない。一度、一人きりになって、気分を落ち着かせる必要がある。
私は急いでぬるくなったお茶を口に流し込んで席を立ち、自分の部屋に駆け込んだ。
食事を終えて、大鷹さんが温かいお茶を出してくれた。私の分と自分の分をテーブルに置いて、大鷹さんは私の正面に腰を下ろす。出されたお茶を一口飲むと、温かくてほっとする。大鷹さんがお茶を飲むのを見届けてから、私から話し始める。
「大鷹さんが悪いと思います。いきなり河合さんが元カノだと改めて宣言するから」
「それについては、それが一番、紗々さんの理解を得られると思ったからです。そもそも、河合江子のことを元カノだと口にするのは、僕にとって苦痛だということを知っておいてください」
「そうなんですか?」
てっきり、過去のことで気にしていないのかと思っていた。苦痛なら、私の理解を得られるからと言って、わざわざ言う必要はない。別の言葉で私のことを説得すればよかったではないか。そうしたら、今、私と大鷹さんが決まずい雰囲気にならなかった。
「でも、紗々さんに誤解を与えたとしたら、その発言は逆効果でした。キチンと説明するので、しっかりと聞いてください」
「何が誤解かわかりませんが、聞きましょう」
大鷹さんは一度深呼吸して、口を開く。
「河合江子と僕の好みはよく似ています。不本意ながら」
「それはなんとなくわかります。私の理解の及ばないところで、二人が理解し合っているのを見たことがあります」
「そこまでわかっているのなら、今回の件も心配の必要はないかと思いますけど」
二人の好みのタイプや趣味が似ているから、何だというのか。そもそも、私は大鷹さんが河合さんを誰かに取られることが嫌で、ヨリを戻そうとするかもしれないことが嫌なのだ。
「だから、紗々さんの話しにでてきた後輩に、河合江子がなびくことはないということです。そして、僕は絶対に河合江子とヨリを戻すことはありません。さらに言うと、彼女に新たな恋人が現れようが嫉妬もしません。むしろ、紗々さんにべったりな状況がなくなるのなら、応援したいくらいです」
「はあ」
「紗々さんと離婚したいなど、僕の口からは絶対に言いません。そもそも、紗々さんのことをあんなに構っていた彼女が、そんなぽっとでの後輩とやらに簡単になびくと思っていたら、彼女が逆に可哀想になります」
「河合さんの肩を持つのですか?」
「そうではなく、僕だったら、すでに心に決めた人がいるのに、猛アタックしてきた他人にそう簡単に心を開くことはないということです」
「でも、河合さんは今年の目標で『結婚相手を探す』って言っていましたよ?」
私も河合さんのことは信じている。後輩に猛アタックされたところで、簡単になびくとは本気で思っていない。しかし、今年の目標の件もあって、少し彼女への信頼が揺らいでいた。
「それはその、なんていうか……」
珍しく大鷹さんが焦っている。しかし、それも一瞬だった。すぐに表情を元に戻し、予想外の事を言い始める。
「きっと、僕たちのことが羨ましくなったに違いありません!」
「いやいや、そんなわけ」
「僕と同じ思考を持つ彼女なら、そう考える可能性は捨てきれません。僕たちの夫婦仲を見て、独身でいるのに迷いが出たのでしょう」
河合さんの考えを口にした大鷹さんはやけに自信ありげだった。それがなんだか無性に腹が立つ。
付き合いとしては大鷹さんの方が長い。とはいえ、別れてからずいぶんと経っているし、今は私の方が仕事で一緒に居る分、長く接している。親密さは出会ってからの期間の長さが必ずしも反映されないことを二次元から私は学んでいる。
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「直接……」
「それとも、これも非常に不本意ですが、河合江子を呼んで、僕と紗々さん、彼女の三人で一度食事でもしますか?僕としては、これは避けたいですが」
「それは大丈夫です」
直接、河合さんに今日の件を聞いた方が三人での食事より断然良い。大鷹さんの提案は即座にお断りする。
「なんだか、小説みたいな出来事ですね?」
「今日の話のどのあたりですか?」
「今日の紗々さんが見た光景から、紗々さんと会話している内容、すべてが傍から見たら、面白いかもしれないな、と」
当事者としてはちっとも面白くはないですけど。
大鷹さんが私より先に日常生活から小説のネタを拾い上げた。これは由々しき事態だ。ネタを拾い上げられるようになったら、後はそのネタを文字に落とし込むだけだ。
「大鷹さん、いよいよ、私はお払い箱でしょうか?」
「なぜ、そうなるんですか?」
「だって、私みたいなことを言い始めるので。これはもう、大鷹さん自身が小説を書き始めるフラグで、そこから一気に私よりも人気作家になって、他人の読む作品よりも自分で書くほうが楽しいと気付き、私のファンでいることをやめ、そうしてそのうち、出版社から書籍化のオファーがきて、作品が商業化。作家の仕事が忙しくなり、私の事をないがしろにして、最終的に大鷹さんが世に出した作品がコミカライズ化、映画化、ドラマ化、アニメ化にまで発展して、アニメ化の際に、10歳以上若手の声優さんと親しくなって、そのまま私と離婚をしてその子と結婚するんですか?」
暗い想像ばかりしていたせいか、大鷹さんのネタ発言につい、悪い方の妄想が広がってしまう。早口で自分の妄想を語ってしまった。今度は大鷹さんが頭にはてなマークを飛ばしている。
「い、いったん、部屋に戻って頭を冷やします。今の発言は忘れてください」
「わ、ワカリマシタ」
少し冷静になって、自分の妄想を振り返るが、あまりに恥ずかしすぎる。このまま大鷹さんと一緒に居たら、次は何を口走ってしまうかわからない。一度、一人きりになって、気分を落ち着かせる必要がある。
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