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番外編【新年の目標】4旦那さんを紹介してください!
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「梨々花さん、この伝票、間違いがあるので訂正お願いします」
仕事上、同僚に話しかけなくてはならない時がある。たまたま、私が裏方業務で彼女が窓口業務を担当するシフトになっていた。彼女から回ってきた書類に不備があり、仕方なく声をかける。彼女は当間の現在の恋人らしい。あまりに薄気味悪い会話をしているため、あまりかかわりたくなかった。
「ああ、すみません。そこの机に置いておいてください」
彼女はなにやら考え事をしていたようだ。幸い、窓口にお客さんが来ていなかったので問題はなかったが、仕事中なので仕事に集中してもらいたい。
「何か私の顔についていますか?」
注意しようかと思い、彼女の顔をじいと見つめていると、嫌そうな顔をされた。先輩としてビシッと一言言ってやろうと思ったが、文句を言われても面倒なのでそのまま自分の席に戻ることにした。
「ねえ、倉敷さんの旦那さんって、そんなにイケメンなの?」
「はあ」
だから、仕事中に仕事以外の考え事も私語も慎んで欲しい。そして、私の旦那のことなど、彼女に何の関係があるのか。
「さあ、人によってイケメンかどうかは変わるのでわかりません」
「まあ、そうですよね」
彼女は私の答えに納得したのか、それ以上の追及はなかった。
「梨々花さんって、当間、さんと付き合っていますよね?」
「そうですけど。何か問題がありますか?」
昼休憩時に、珍しく梨々花さんと一緒になった。休憩室の机の上にお弁当を広げて食べていたら、梨々花さんがやってきた。何も話さないのは気まずいので、気になっていたことを質問する。いきなりすぎる質問だったが、彼女は答えてくれた。かなり嫌そうな顔だったが、気にしない。
「問題はないですけど、仕事中に私の夫について聞かれたので、どうなのかなと思いまして」
「はああああ」
どうしてこんな地味な女に当間君は。
ぼそりとつぶやかれた言葉は、私の耳にはっきり届いた。独り言のつもりなのか、あえて私に聞かせるように言ったのかはわからない。ただ、私のことが嫌いなことはよくわかった。
「私と当間、さんとの間には何もないので、心配はないかと」
「そんなことはわかっています。でも」
「だったら、当間、さんを信じたらいいじゃないですか?」
「だって、あれからずっとおかしいんですよ。一年経っても、倉敷さんを目で追っていることがあるんです」
「はあ」
当間が私を。
まさかそんなことがあるはずはない、とは言い切れなかった。仕事中は集中していて気付かなかったが、出勤や退勤時間にたまに視線を感じることはあった。あれは当間の視線だったのか。とはいえ、そのことを梨々花さんが知っているということは、かなり目立っているということだ。年下の可愛い後輩を捕まえて、私を目で追うとは意味不明だ。
まるで私に未練があるみたいではないか。
そこまで考えて、自分の考えに気分が悪くなる。私の心は大鷹さんに占拠されている。他の男性が入るスキマなどみじんもない。
「今度、倉敷さんの旦那さんを私に紹介してください!」
「なぜ?」
最近の若い子の心理は理解不能だ。どうしてここで、大鷹さんを紹介して欲しいということになるのか。
「いいじゃないですか?それ、私も同席していいですか?」
「か、河合さん!」
タイミング悪く、河合さんが昼休憩にやってきた。そして、梨々花さんの言葉を聞いてしまったらしい。どうして、河合さんはいつも、物事を面倒くさくするのが好きなのだろうか。ちらりと梨々花さんの様子をうかがうと、目がとてもキラキラしていた。これはもう、断れない奴だ。
「私、河合さんと一度、二人きりでゆっくりお話したいと思っていたんですけど、倉敷さんの旦那さんと会う前に、二人きりで夕食とかどうですか?」
「いいねえ。私もずっとあなたとお話ししたかったんだよね。先輩の旦那とは知り合いだから、私から連絡入れるよ。あなたとはいつご飯食べに行こうか」
「知り合いなんですか?すごいですねえ」
私の旦那なのに、なぜ河合さんから連絡するとか言いだすのか。とはいえ、梨々花さんと河合さん、私と大鷹さんが会うのは絶対らしい。
「どうやって、大鷹さんに話そう」
毎年、新年は何かしらの面倒ごとが起こるらしい。二人の会話を聞きながら、私はお弁当に入っていた昨日の夕食のおでんのたまごを頬張るのだった。
仕事上、同僚に話しかけなくてはならない時がある。たまたま、私が裏方業務で彼女が窓口業務を担当するシフトになっていた。彼女から回ってきた書類に不備があり、仕方なく声をかける。彼女は当間の現在の恋人らしい。あまりに薄気味悪い会話をしているため、あまりかかわりたくなかった。
「ああ、すみません。そこの机に置いておいてください」
彼女はなにやら考え事をしていたようだ。幸い、窓口にお客さんが来ていなかったので問題はなかったが、仕事中なので仕事に集中してもらいたい。
「何か私の顔についていますか?」
注意しようかと思い、彼女の顔をじいと見つめていると、嫌そうな顔をされた。先輩としてビシッと一言言ってやろうと思ったが、文句を言われても面倒なのでそのまま自分の席に戻ることにした。
「ねえ、倉敷さんの旦那さんって、そんなにイケメンなの?」
「はあ」
だから、仕事中に仕事以外の考え事も私語も慎んで欲しい。そして、私の旦那のことなど、彼女に何の関係があるのか。
「さあ、人によってイケメンかどうかは変わるのでわかりません」
「まあ、そうですよね」
彼女は私の答えに納得したのか、それ以上の追及はなかった。
「梨々花さんって、当間、さんと付き合っていますよね?」
「そうですけど。何か問題がありますか?」
昼休憩時に、珍しく梨々花さんと一緒になった。休憩室の机の上にお弁当を広げて食べていたら、梨々花さんがやってきた。何も話さないのは気まずいので、気になっていたことを質問する。いきなりすぎる質問だったが、彼女は答えてくれた。かなり嫌そうな顔だったが、気にしない。
「問題はないですけど、仕事中に私の夫について聞かれたので、どうなのかなと思いまして」
「はああああ」
どうしてこんな地味な女に当間君は。
ぼそりとつぶやかれた言葉は、私の耳にはっきり届いた。独り言のつもりなのか、あえて私に聞かせるように言ったのかはわからない。ただ、私のことが嫌いなことはよくわかった。
「私と当間、さんとの間には何もないので、心配はないかと」
「そんなことはわかっています。でも」
「だったら、当間、さんを信じたらいいじゃないですか?」
「だって、あれからずっとおかしいんですよ。一年経っても、倉敷さんを目で追っていることがあるんです」
「はあ」
当間が私を。
まさかそんなことがあるはずはない、とは言い切れなかった。仕事中は集中していて気付かなかったが、出勤や退勤時間にたまに視線を感じることはあった。あれは当間の視線だったのか。とはいえ、そのことを梨々花さんが知っているということは、かなり目立っているということだ。年下の可愛い後輩を捕まえて、私を目で追うとは意味不明だ。
まるで私に未練があるみたいではないか。
そこまで考えて、自分の考えに気分が悪くなる。私の心は大鷹さんに占拠されている。他の男性が入るスキマなどみじんもない。
「今度、倉敷さんの旦那さんを私に紹介してください!」
「なぜ?」
最近の若い子の心理は理解不能だ。どうしてここで、大鷹さんを紹介して欲しいということになるのか。
「いいじゃないですか?それ、私も同席していいですか?」
「か、河合さん!」
タイミング悪く、河合さんが昼休憩にやってきた。そして、梨々花さんの言葉を聞いてしまったらしい。どうして、河合さんはいつも、物事を面倒くさくするのが好きなのだろうか。ちらりと梨々花さんの様子をうかがうと、目がとてもキラキラしていた。これはもう、断れない奴だ。
「私、河合さんと一度、二人きりでゆっくりお話したいと思っていたんですけど、倉敷さんの旦那さんと会う前に、二人きりで夕食とかどうですか?」
「いいねえ。私もずっとあなたとお話ししたかったんだよね。先輩の旦那とは知り合いだから、私から連絡入れるよ。あなたとはいつご飯食べに行こうか」
「知り合いなんですか?すごいですねえ」
私の旦那なのに、なぜ河合さんから連絡するとか言いだすのか。とはいえ、梨々花さんと河合さん、私と大鷹さんが会うのは絶対らしい。
「どうやって、大鷹さんに話そう」
毎年、新年は何かしらの面倒ごとが起こるらしい。二人の会話を聞きながら、私はお弁当に入っていた昨日の夕食のおでんのたまごを頬張るのだった。
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