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番外編【フリマアプリはほどほどに】3何でも売れる

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「そろそろ、寝なさいよ」

「はあい」

 俺は最近、フリマアプリに嵌まっている。バイトでお金を稼いでいるとはいえ、貧乏大学生はお金に余裕があるわけではない。実家から大学に通ってはいるが、サークルに合コン、日々の友達との遊びにお金がかかる。そんなときに友人から有益な情報を教えてもらった。

『このアプリ使って不用品を売ってみろよ。なんでも売れて、結構な収入になるぞ』

 教えてくれた友人は、そのアプリを使って不要になったものをいろいろ売っていた。着なくなった服やアクセサリー、店でもらった試供品のグッズなど。これくらいなら売れるとは思うが、出品しているものはそれだけにとどまらなかった。

『ちょっと、自分の身体を売るだけだ』

 その友人はにっこりと微笑んだが、その口の中の歯の本数は普通の人の半分ほどしかなかった。


「まさか、こんなものまで売れるとはね」

 世の中進化したものだ。いや、技術は進んだが時代は昔に戻っているのかもしれない。このフリマアプリは人間の身体の一部の売買まで行っているらしい。お金に困った若者が身体の一部を売り出し、それをマニアか何かわからないお金持ちが購入する。身体の一部を切り取って発送はできないので、そこは双方が病院などの予約をするなどして合意して取引が行われる。

 親に寝ろと言われてしまったので、仕方なく部屋の電気を消して寝たふりをする。机でスマホを見ていたが、場所を移してベッドにダイブする。枕に顎をのせてスマホを見る。電気を消した暗い部屋の中でスマホの光がまぶしい。これで視力が下がったら親のせいだ。見ているのは当然、友人から教えてもらったフリマアプリだ。

「自分の身体を売るのはなあ」

 友人は家に売るものがなくなり、自分の身体の一部を売り始めた。お金にはなるらしいが、どんどんと身体の一部が欠けていく様子を見るのは痛々しい。その代わり、友人を飾る装飾品はどんどん増えていく。時計にアクセサリーは、有名人がつけている高級ブランドで固めている。服もカバンも一目で高そうだとわかるブランド品だ。

「自分の身体以外だと、あらかた売ってしまったしなあ」

 スマホの画面から視線を逸らして、部屋の中をぐるりと見渡す。部屋は暗いが目が慣れてきてそれなりに部屋の中が見えるようになってきた。部屋は男子大学生にしてはシンプルだ。ベッドに机、イスがあるごく普通の部屋だが荷物は少ない。服は最小限で半そでに長そで、下着に上着が一着あるのみ。衣装ケース一箱とクローゼットにかかっている数着が服のすべてだ。

 服が少ないことは勿論だが、部屋の装飾もない。アニメやアイドルのグッズは、昔はそれなりに持っていたが、すべてフリマアプリで売ってしまった。漫画も雑誌も同様だ。高校生のころ使っていた教科書や参考書もフリマアプリに出品したら売れたので手放した。

「残るは、部屋の家具とこのメガネ……」

 大学生なので、授業に使う文房具類や参考書は売るわけにはいかない。そうなると、ベッドを売って固いフローリングの床で寝るか、机を売って床で勉強するか。それとも、大学生になり奮発して買ったビンテージのメガネを売るか。

「コンタクトって地味に高いしなあ」

 視力は悪いのでメガネは必需品だ。今使っているメガネを売って、そのお金で安いメガネを買うのもなんだかもったいない。

 悩んでいるうちに眠気が押し寄せてくる。とりあえず、今日は寝ることにしてスマホとかけていたメガネ外してベッドわきに置き、布団をかぶって目を閉じた。すぐに俺は意識を手放した。


「今日は大学あったような、あれ、休講だったかも」

「おはよう、そろそろ仕事をしてもいいんじゃないの?」

 次の日、目が覚めて二階の自分の部屋から一階のリビングに行くと、母親が朝食を作ってテーブルに並べていた。席に着くと、すぐに母親から小言を言われる。

「俺は大学生だよ。学生の本分は勉強なのに、仕事とか」

「あのね、そのフリマアプリ?はそろそろやめたほうがいいんじゃないの。そもそも、あんたはもう」

「おはよう、おや、今日は、朝ちゃんと起きて来たんだな。やっと、職業安定所に行く気になったか。それともどこか企業の面接にでも行くのか?」

 遅れて父親がリビングにやってきた。父親がテーブルを挟んで俺の正面の席に座る。最近、両親そろって、俺に仕事をしろと催促してくることが多くなった。親として、大学よりも仕事を優先しろというのはいかがなものか。そういえば、今日は何月何日だったか。冷房を使用する季節ではないが、まだまだ暑い日が続いている。

「もう、スマホを取り上げるしかないのか……」

「さすがにそれは可哀想で」

「でも、このままだと息子の面倒を一生見なくてはいけなくなるぞ」

 両親が何やら不穏な会話をしている。息子の面倒を一生見るなんて、まるで俺が引きこもりの無職みたいではないか。俺は今、大学生で学生という身分であり、無職ではない。あと数年もすればきちんと会社に就職する予定だ。そういえば、俺は今、何年生だっただろうか。確か、去年くらいに入学したから今は大学二年生のはずだ。

「ごちそうさま」

 朝食はご飯に味噌汁、鮭の塩焼きという和食の朝食の定番のメニューだった。それらを素早く口の中にかきこんでその場から退出する。このまま両親の小言を聞きたくはなかった。


 自分の部屋に戻ると、さっそく朝のフリマアプリの確認作業が始まる。最近は、大学の授業がない日の日課となっている。フリマアプリで自分が出品した商品にコメントがついていないか、他の出品者の商品で自分が参考に出来そうなものはないかのチェックをしている。自分の出品した商品にはコメントがついていなかったが、他人の興味深い商品を見つけた。

「記憶を売る……」

 それは、自分の記憶を売るというものだった。その出品者は自分のトラウマ的な出来事の記憶を売りに出していた。今の世の中の技術の発展は目覚ましい。記憶の売買も合法的に行われていた。記憶を売るという行為は出品者側の脳に与える影響が大きいので、かなりの額が提示されていた。しかし、もしそのようなことが可能なら、嫌な記憶が自分の脳から消え去り、さらにはお金が大量に入るのだ。これほどお得なことはない。

「俺もやってみようかな」

 とりあえず、まず先に記憶を売ることに対してのメリットとデメリットをしっかりと調査したほうがよい。取引が成立してしまったら、キャンセルすることは基本的にできない。出品するなら慎重に行わなくてはならない。

「これとか参考になりそう……。あれ、これって俺のアカウントだよな?」

 記憶の出品をしている人は結構多く、その一つ一つの詳細を見ていくと、そこで見覚えのあるアカウントを発見した。それは、俺が昔使っていたものだった。メールアドレスを変更後、パスワードも忘れて使えなくなってしまったので、新しく作り直したはずだ。そのアカウントをのぞくと、そこには自分が出品した商品がずらりと並び、すべてが売り切れの表示となっていた。

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