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番外編【変人になりたい】3先生呼び
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ということで、今回のネタは決まったわけだが、問題は大鷹さんがまだ私の部屋に居座っていることだ。疑問は解決したのに、なぜか私の部屋から出ていかない。
「ほかに何かあるんですか?疑問は解決したんでしょう?」
「疑問は解決しました。ただ……」
「ただ?」
「紗々さんがパソコンに向かっている姿をまた見られてうれしいというか」
「はあ」
大鷹さんはよほど、私が小説の執筆を再開したことがうれしいらしい。とはいえ、さすがにじっと見つめられるのは嫌だし、執筆に集中できない。ドアの前でずっと立ったままの状態も申し訳ない。
「リハビリも兼ねているので、そこまで長くなりませんよ。16時ごろにまたおやつ休憩をしたいので、そこで小説の進捗とか話しますので、いったん、私の部屋からでて」
「そうですよね。僕も読みかけの漫画とかあるので、いったん自分の部屋に戻ります。またおやつの時間になったら、部屋に来ますね」
私の言葉に大鷹さんは納得して、思いのほかあっさりと部屋から出ていった。さて、ここからが問題である。
「そこまで長くないとは言っても、かなり長い間、文字を書いていなかったからなあ」
ブランクが長いと、パソコンに文字を打つスピードも遅くなるし、感覚も鈍ってくる。それに、スポーツでもよく言われることだが、休んだ分の体力などを取り戻すのは案外時間がかかる。
「ああ、あんなこと、言わなきゃよかったな」
大鷹さんが出て行ってから数分後、早くもあきらめムードになってしまった。とりあえず、乱雑に文章は作っては見たが、どうにもしっくりこない。
「あああああああああ」
叫んでも何ともならないことはわかっていたが、つい、大声を出してしまう。とはいえ、大鷹さんが私の声に反応して部屋に駆け込んでくる気配はない。もしかしたら、自分の部屋に行くとは言ったが、それは嘘で私の為にお菓子でも買いに外に出ているのかもしれない。
「読者の期待には応えたい……」
せっかくやる気が出た時にやらなくてどうする。机に置かれたスマホの誘惑に負けそうになったが、ぐっとこらえて、私はまた執筆に戻ることにした。
暇なとき(小説執筆以外の余暇)の時間は結構ゆっくり過ぎるのに、いざ集中して小説執筆に取り組むと、時間はあっという間に過ぎていく。ふと、時計を見るとすでに大鷹さんとの約束の16時5分前に迫っていた。
「昼ご飯が終わって、そこから始めたから……」
一応、短編の形にはなった。あとは誤字脱字や表現などの違和感をなくす作業が必要だ。とはいえ、この2時間くらいでこれだけのものが書きあがったのだ。ブランク空けとはいえ、ずいぶん頑張った方だと思う。
「これでいいか」
文章の最終チェックをして、何とか時間内に出来上がった短編小説を小説投稿サイトにアップする。「投稿されました」の文字が出るころには、すでに16時を回っていた。
「トントン」
そして、タイミングよく大鷹さんがドアをノックする音が聞こえた。まるで私のことを監視していたかのようなタイミングだが、大鷹さんに限ってそんなストーカーじみたことをするとは思えない、こともないがきっとそんな漫画みたいなことはしていないと信じたい。私の部屋に監視できるような道具はぱっと見では見当たらない。
「どうぞ」
当然、私が大鷹さんを拒否することはない。すぐに大鷹さんが部屋に入ってくる。手には先ほどと同様にスマホを片手に持っていた。
「よ、ようやく先生が新作を……」
「ま、まあ、短編だし、大したネタではないのでそこまで感動されるようなことでもないのかと」
「いえいえ、更新された、という事実が読者にとってはとても重要なんですよ。今まで、コメントはしないけれど、ささのは先生を心配していた人は多いと思います。少しでも、こうして更新してもらえると、読者はかなり安心するのではないでしょうか。かくいう僕も安心している読者の一人ですし」
「はあ」
そういうものか。とはいえ、大鷹さんのいうこともわからないわけでもない。私だって、創作者であると同時に読者の一人でもあるのだから。
私たちは約束通り、おやつを食べるためにリビングにやってきた。予想した通り、大鷹さんは買い物に出かけていたようで、私が知らないお菓子を取り出して、テーブルに準備していた。どうやら、私の家の近くにあるケーキ屋で買ってくれたようだ。
「脳を使う作業には、やはり糖分が必要でしょう?だから、先生のために、奮発してケーキを買ってきました!」
大鷹さんは、今日は私を先生呼びすることにしたようだ。商業化もしていない、読者もそこまでいない底辺作家であるのに先生呼びは恥ずかしい。とはいえ、先生と呼ばれることは初めての経験ではない。
「先生、なんて呼ばれると、なんだか昔のバイトを思い出します」
「バイト、ですか?」
「はい。大鷹さんには話していませんでしたっけ?私、大学時代に塾講師のバイトをしていたんですよ。その時に」
「ああ、なるほど」
先生、なんて久しぶりに呼ばれた気がする。いや、たまに大鷹さんが勝手に先生と呼んでいたかもしれない。とはいえ、もし今、大鷹さん以外に先生と呼ばれるとしたら、シチュエーションはひとつしかない。
「私の作品が商業化した暁には、編集者の方とかに呼ばれる可能性があるということか……」
「そうなるように、もっとたくさん小説を投稿してくれると嬉しいです」
「まあ、精進します」
「それで、どれにしますか?先生が好きそうなものを買ってきたんですが」
ケーキは二つあり、チーズケーキとフルーツタルトだった。どちらもおいしそうだが、今回はフルーツタルトを選択する。
「いただきます」
気が利く大鷹さんは二人分の紅茶を用意してくれた。ケーキに紅茶。優雅な休日のティータイム。私たちは、まったりとおやつの時間を堪能した。
「ほかに何かあるんですか?疑問は解決したんでしょう?」
「疑問は解決しました。ただ……」
「ただ?」
「紗々さんがパソコンに向かっている姿をまた見られてうれしいというか」
「はあ」
大鷹さんはよほど、私が小説の執筆を再開したことがうれしいらしい。とはいえ、さすがにじっと見つめられるのは嫌だし、執筆に集中できない。ドアの前でずっと立ったままの状態も申し訳ない。
「リハビリも兼ねているので、そこまで長くなりませんよ。16時ごろにまたおやつ休憩をしたいので、そこで小説の進捗とか話しますので、いったん、私の部屋からでて」
「そうですよね。僕も読みかけの漫画とかあるので、いったん自分の部屋に戻ります。またおやつの時間になったら、部屋に来ますね」
私の言葉に大鷹さんは納得して、思いのほかあっさりと部屋から出ていった。さて、ここからが問題である。
「そこまで長くないとは言っても、かなり長い間、文字を書いていなかったからなあ」
ブランクが長いと、パソコンに文字を打つスピードも遅くなるし、感覚も鈍ってくる。それに、スポーツでもよく言われることだが、休んだ分の体力などを取り戻すのは案外時間がかかる。
「ああ、あんなこと、言わなきゃよかったな」
大鷹さんが出て行ってから数分後、早くもあきらめムードになってしまった。とりあえず、乱雑に文章は作っては見たが、どうにもしっくりこない。
「あああああああああ」
叫んでも何ともならないことはわかっていたが、つい、大声を出してしまう。とはいえ、大鷹さんが私の声に反応して部屋に駆け込んでくる気配はない。もしかしたら、自分の部屋に行くとは言ったが、それは嘘で私の為にお菓子でも買いに外に出ているのかもしれない。
「読者の期待には応えたい……」
せっかくやる気が出た時にやらなくてどうする。机に置かれたスマホの誘惑に負けそうになったが、ぐっとこらえて、私はまた執筆に戻ることにした。
暇なとき(小説執筆以外の余暇)の時間は結構ゆっくり過ぎるのに、いざ集中して小説執筆に取り組むと、時間はあっという間に過ぎていく。ふと、時計を見るとすでに大鷹さんとの約束の16時5分前に迫っていた。
「昼ご飯が終わって、そこから始めたから……」
一応、短編の形にはなった。あとは誤字脱字や表現などの違和感をなくす作業が必要だ。とはいえ、この2時間くらいでこれだけのものが書きあがったのだ。ブランク空けとはいえ、ずいぶん頑張った方だと思う。
「これでいいか」
文章の最終チェックをして、何とか時間内に出来上がった短編小説を小説投稿サイトにアップする。「投稿されました」の文字が出るころには、すでに16時を回っていた。
「トントン」
そして、タイミングよく大鷹さんがドアをノックする音が聞こえた。まるで私のことを監視していたかのようなタイミングだが、大鷹さんに限ってそんなストーカーじみたことをするとは思えない、こともないがきっとそんな漫画みたいなことはしていないと信じたい。私の部屋に監視できるような道具はぱっと見では見当たらない。
「どうぞ」
当然、私が大鷹さんを拒否することはない。すぐに大鷹さんが部屋に入ってくる。手には先ほどと同様にスマホを片手に持っていた。
「よ、ようやく先生が新作を……」
「ま、まあ、短編だし、大したネタではないのでそこまで感動されるようなことでもないのかと」
「いえいえ、更新された、という事実が読者にとってはとても重要なんですよ。今まで、コメントはしないけれど、ささのは先生を心配していた人は多いと思います。少しでも、こうして更新してもらえると、読者はかなり安心するのではないでしょうか。かくいう僕も安心している読者の一人ですし」
「はあ」
そういうものか。とはいえ、大鷹さんのいうこともわからないわけでもない。私だって、創作者であると同時に読者の一人でもあるのだから。
私たちは約束通り、おやつを食べるためにリビングにやってきた。予想した通り、大鷹さんは買い物に出かけていたようで、私が知らないお菓子を取り出して、テーブルに準備していた。どうやら、私の家の近くにあるケーキ屋で買ってくれたようだ。
「脳を使う作業には、やはり糖分が必要でしょう?だから、先生のために、奮発してケーキを買ってきました!」
大鷹さんは、今日は私を先生呼びすることにしたようだ。商業化もしていない、読者もそこまでいない底辺作家であるのに先生呼びは恥ずかしい。とはいえ、先生と呼ばれることは初めての経験ではない。
「先生、なんて呼ばれると、なんだか昔のバイトを思い出します」
「バイト、ですか?」
「はい。大鷹さんには話していませんでしたっけ?私、大学時代に塾講師のバイトをしていたんですよ。その時に」
「ああ、なるほど」
先生、なんて久しぶりに呼ばれた気がする。いや、たまに大鷹さんが勝手に先生と呼んでいたかもしれない。とはいえ、もし今、大鷹さん以外に先生と呼ばれるとしたら、シチュエーションはひとつしかない。
「私の作品が商業化した暁には、編集者の方とかに呼ばれる可能性があるということか……」
「そうなるように、もっとたくさん小説を投稿してくれると嬉しいです」
「まあ、精進します」
「それで、どれにしますか?先生が好きそうなものを買ってきたんですが」
ケーキは二つあり、チーズケーキとフルーツタルトだった。どちらもおいしそうだが、今回はフルーツタルトを選択する。
「いただきます」
気が利く大鷹さんは二人分の紅茶を用意してくれた。ケーキに紅茶。優雅な休日のティータイム。私たちは、まったりとおやつの時間を堪能した。
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