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番外編【波乱の新年の幕開け】7忘れて欲しかった
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当間が私の会社に勤めだして一週間が経過した。その間、当間が私に個人的な用事で話し掛けてくることはなかった。ただし、妙に視線を感じたので何か言いたいことがあったのだろう。とはいえ、私が彼に話したいことなどないので無視していた。
「当間さんって、独身なんですよね。好きな女性のタイプとかいますか?」
「どうしてうちの会社に転職を?」
女性社員から当間は人気らしかった。何人かの社員が当間に質問している場面を目撃した。私としてはただの長身の糸目のひょろっとした人間にしか見えないが、他の人には魅力的に映るらしい。別に私の好みではないし、そもそも私には大鷹さんがいる。わざわざ会話に混ざる気にはなれず、そのまま彼らの後ろを通過した。
結局、河合さんが提案した私、当間、河合さんの三人での食事会の話はあれから、話題に上ることは無かった。河合さんが単純に私たちの関係に興味がなくなったのかもしれないし、単に自分の発言を忘れている可能性もある。どちらにせよ、約束がなくなったのなら、それに越したことはない。
そう思っていたのに。
「それで、当間さんとの食事会、いつにしますか?」
昼休みに休憩を取っていたら、同じく休憩中だった河合さんに声をかけられる。私の中では一週間も放置していた話題を蒸し返されるとは思っていなかったので、思わず食べていた卵焼きを口から吹きそうになった。慌てて飲み込んで水筒のお茶を飲んでごまかす。
「わ、忘れていたのでは?」
「なんでそんな寂しいこと言うんですか?たまたま、先輩とゆっくり話せる機会がなかったんですよ。休憩時間も合わないし、他の時間もなんだか先輩に話し掛けにくくて」
「はあ」
「今週の金曜日とかどうですか?当間さんって、確か独身でしたよね?なら、金曜日なら明日に響かないし、丁度良いと思います」
河合さんは私の予定を聞くことなく、話を進めていく。前々から思っていたが、ずいぶんと自分勝手でマイペースな人間である。とはいえ、私にだって予定は。
特にない。
そこがコミュ障ボッチの嫌なところだ。しかし、予定がないからと言って、断れないわけではない。仮にも私は既婚者である。大鷹さんを理由に何とか断れないものか。
「あの、私は、金曜日は大鷹さんと」
「じゃあ、今週の金曜日にしましょう。大鷹さんには、私から先輩をお借りしますと連絡入れておきます。当間さんにも聞かなくちゃいけませんね」
私の予定はあっさりと無視された。食事会が開かれないためにも、当間が金曜日に予定があることを祈るばかりだ。
「当間さん、この前の食事会の件ですけど、今週の金曜日とかどうでしょう?」
「構いませんよ。金曜日は特に用事は無いので」
「そこは空気読んで断われよ……」
定時後、河合さんが私を連れて当間を探していたら、会社の廊下を歩いているところを発見した。河合さんが声をかけると、当間は特に考えることなく、食事会に行けるという、肯定の返事をした。少しくらいは悩んで欲しかった。私の恨みがましい小言は二人に届くことはなかった。
それにしても、予定がないとすぐに答えられるということは、この男も実は私と同じでコミュ障ボッチなのでは。
「それにしても、入社して一週間で、早くもお気に入りの子を見つけるなんて、当間さんも隅に置けないですな」
「な、なんのことやら」
なにやら、河合さんと当間が楽しそうに会話している。とりあえず、日にちは決まったなら、今日はもう解散してもいいだろうか。
「では、私は帰ります」
『お疲れ様です』
二人の声がきれいなハモリを見せた。どうやら、当間は私とは人種がちがい、河合さんや大鷹さんと同じ部類の人間だということがわかった。食事会が一気に不安になるが、今更断れないので、あきらめることにした。
「当間さんって、独身なんですよね。好きな女性のタイプとかいますか?」
「どうしてうちの会社に転職を?」
女性社員から当間は人気らしかった。何人かの社員が当間に質問している場面を目撃した。私としてはただの長身の糸目のひょろっとした人間にしか見えないが、他の人には魅力的に映るらしい。別に私の好みではないし、そもそも私には大鷹さんがいる。わざわざ会話に混ざる気にはなれず、そのまま彼らの後ろを通過した。
結局、河合さんが提案した私、当間、河合さんの三人での食事会の話はあれから、話題に上ることは無かった。河合さんが単純に私たちの関係に興味がなくなったのかもしれないし、単に自分の発言を忘れている可能性もある。どちらにせよ、約束がなくなったのなら、それに越したことはない。
そう思っていたのに。
「それで、当間さんとの食事会、いつにしますか?」
昼休みに休憩を取っていたら、同じく休憩中だった河合さんに声をかけられる。私の中では一週間も放置していた話題を蒸し返されるとは思っていなかったので、思わず食べていた卵焼きを口から吹きそうになった。慌てて飲み込んで水筒のお茶を飲んでごまかす。
「わ、忘れていたのでは?」
「なんでそんな寂しいこと言うんですか?たまたま、先輩とゆっくり話せる機会がなかったんですよ。休憩時間も合わないし、他の時間もなんだか先輩に話し掛けにくくて」
「はあ」
「今週の金曜日とかどうですか?当間さんって、確か独身でしたよね?なら、金曜日なら明日に響かないし、丁度良いと思います」
河合さんは私の予定を聞くことなく、話を進めていく。前々から思っていたが、ずいぶんと自分勝手でマイペースな人間である。とはいえ、私にだって予定は。
特にない。
そこがコミュ障ボッチの嫌なところだ。しかし、予定がないからと言って、断れないわけではない。仮にも私は既婚者である。大鷹さんを理由に何とか断れないものか。
「あの、私は、金曜日は大鷹さんと」
「じゃあ、今週の金曜日にしましょう。大鷹さんには、私から先輩をお借りしますと連絡入れておきます。当間さんにも聞かなくちゃいけませんね」
私の予定はあっさりと無視された。食事会が開かれないためにも、当間が金曜日に予定があることを祈るばかりだ。
「当間さん、この前の食事会の件ですけど、今週の金曜日とかどうでしょう?」
「構いませんよ。金曜日は特に用事は無いので」
「そこは空気読んで断われよ……」
定時後、河合さんが私を連れて当間を探していたら、会社の廊下を歩いているところを発見した。河合さんが声をかけると、当間は特に考えることなく、食事会に行けるという、肯定の返事をした。少しくらいは悩んで欲しかった。私の恨みがましい小言は二人に届くことはなかった。
それにしても、予定がないとすぐに答えられるということは、この男も実は私と同じでコミュ障ボッチなのでは。
「それにしても、入社して一週間で、早くもお気に入りの子を見つけるなんて、当間さんも隅に置けないですな」
「な、なんのことやら」
なにやら、河合さんと当間が楽しそうに会話している。とりあえず、日にちは決まったなら、今日はもう解散してもいいだろうか。
「では、私は帰ります」
『お疲れ様です』
二人の声がきれいなハモリを見せた。どうやら、当間は私とは人種がちがい、河合さんや大鷹さんと同じ部類の人間だということがわかった。食事会が一気に不安になるが、今更断れないので、あきらめることにした。
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