結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

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番外編【頭痛が痛い】5やばい夫婦

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「ちょっと、アニメショップまで出かけてきます」

「僕も一緒に」

「今日はひとりで行きます」

 次の日、体調はだいぶ良くなったので、予定通りに出掛けることにした。大鷹さんも一緒に行きたそうにしていたが、今日はなんとなく一人で買い物したい気分だった。

「そうですか……。僕もちょっと出かけようかな」

 一緒に出掛けるのを断っただけなのに、悲しそうな顔をされてしまった。とはいえ、無理やりついてくるような非常識な夫ではない。大鷹さんはすぐに立ち直り、自分も出かけようと言っていた。ここで食い下がってくるようなら、面倒くさくて私がここまで好きにはならなかっただろう。毎度のことながら、よくできた夫である。

「いってきます」
「いってらっしゃい。僕もすぐに出かけますけど」

 私の家から一番近いアニメショップは車で30分ほどの場所にある。アニメショップの開店時刻は10時で、家を出たのは9時半ごろ。玄関で挨拶をして出ようとしたら、同じく出かける大鷹さんが送り出してくれた。ここで、仲睦まじいラブラブ夫婦なら「いってきますのキス」をするのだろうが、あいにく私たちにそれを求めてはいけない。

 とはいえ「いってきますのキス」など、現実に存在するのだろうか。あれはもしかしたら、二次元だけのものかもしれない。私は勝手に二次元と三次元を同じに考えていた。とりあえず、私は大鷹さんに送り出されて、家を出た。

 外は雲一つない晴天で、まさにお出かけ日和にぴったりの天気だった。まあ、私が行く場所はアニメショップで、天気に左右される場所ではないが、出かけるとなれば天気が良いに越したことは無い。私は駐車場に向かい、車に乗り込んでエンジンをかけた。


「久しぶりに来たなあ」

 駐車場に車を停めて、私はアニメショップの前に立つ。アニメショップには大学生のころは大変お世話になった。しかし、社会人になり、なかなか足を運ぶことが少なくなった。大学のころは最寄り駅にアニメショップが入っていて、下校時によく通っていたが、現在は車通勤になったことで足が遠のいていた。

「漫画も買わなくなったし、来る理由がないから仕方ない、か」

 最近は漫画も小説もスマホで気軽に読めてしまうし、欲しい漫画も小説も電子書籍で買える。紙の書籍でも通販で買える時代だ。

 店内に入ると、休日ということもあり、かなり賑わっていた。それでも店内が歩けないほどの人ではなかった。駅前のアニメショップは電車を利用して訪れる客が多く、休日は常に人がいっぱいで、店内を歩くのも一苦労だった。それに比べれば全然ましだ。

「オメガバースでも探そうかな」

 アニメショップで欲しいものは特にない。先ほども述べたが、漫画も小説も今の時代は電子書籍というものがある。私も読みたいものは電子で購入しているので、紙の書籍を買ったのは大学生のころが最後かもしれない。

 書籍以外のグッズも今のところ、欲しいものはない。大学生のころは、ラバストや缶バッチなどを集めていたが、社会人になって急に熱が冷めてしまった。実家にはそのころ集めた大量のグッズが保管されている。いつか、処分しなくてならない。

 書籍やグッズを買わなくても、店に足を運ぶ意味はある。店内を散策するだけで、今流行の作品を知ることができるし、表紙が素敵な本を見つけて即買いという、店ならではの書籍の買い方もできる。

「発情期と私の頭痛を関連づけるには、ヤッパリ実物を読むのが一番だしね」

 店内を散策していたら、すぐにお目当てのコーナーが見つかった。最近はBLジャンルがかなり勢力を伸ばしている。深夜ではあるが、普通にテレビでもBLのアニメやドラマを流している。腐女子としてこれは喜ばしいことだ。


「これ、私のおすすめのオメガバース作品だけど、なかなか感動するよ」
「オメガバースは嫌いじゃなかったの?」

「最初はそう思っていたけど、よく考えたらありかなって。男性でも妊娠、しかもオメガ男性のみ。オメガ男性の葛藤が不覚にも心に響いた」

「雲英羽さんが言うなら、そうなのかもしれないね。でも、またそんなに大人買いしたら、喜咲ちゃんに怒られるよ」

「大丈夫。ちゃんと私の部屋に置いておくから。悠乃君も読んでみなよ。きっとハマるから」

「はいはい。それで、この後はどうする?久しぶりに二人で買い物にきたんだから、お昼はどこかで食べていく?」

「アニメのコラボがやってるとこにしよう。ここからだと……」

 お目当てのBL本コーナーで物色していると、背後から男女の会話が聞こえた。振り返って確認すると、一組の男女が楽しそうに話していた。男女ともに年齢は40代くらいだろうか。女性がかごにたくさんのBL漫画を入れているのが見えた。男女で一緒にアニメショップの、しかもBL本コーナーを見ているとは、なかなかの強者だ。

 男性の方はかなりのイケメンで大鷹さんに引けを取らないくらいだ。反対に女性の方は私が言うほどでもないが普通だ。会話の様子から、子供が居る夫婦かもしれない。

 子供が居ても、腐女子を辞めない人も多いと聞くが、目の前の女性もそうなのだろう。趣味を隠さず生きていけるのは大事だ。共有できる人がいるのは嬉しいことだ。


「それにしても、悠乃君がBLにはまってくれて、本当にうれしい。一緒に語り合える人がいるって、素晴らしいよ」

「僕も、楽しいよ。でも、娘たちには悪いことをしたなとは思ってる」

「悠乃君のせいじゃないから。やっぱり、店はいいね。表紙に惹かれた本を買って、家に帰ってすぐ読めるし。店なら、一気にいろいろな本に出会えるし。こうしてみると、BLも奥が深いね。オメガバース×生徒×先生とか、これも読んでみようかな」

「そんなの読んだら、来週から生徒や先生をオメガバース視点で見ちゃって、大変なことになりそうだね」

「あの子はオメガ、あの子はアルファ。あの先生はベータで……。彼と彼が運命の番で、その当て馬になるのが……。妄想がはかどっていいと思うけど」

「ちょっと、お店でその発言はマズいよ」

 私はその場からそっと退散した。これ以上、彼らの会話を聞いてはいけない気がした。どうやら、だいぶやばい夫婦のようだ。


「さすがにあれはないな」

 いくら、大鷹さんが腐男子になったとはいえ、あんな夫婦にはなりたくないと思った。

 結局、BL本コーナーから逃げ出した私は、アニメショップ店内を一通り回ったが、何も買わずに店を出た。オメガバース作品については、ネットで探して購入しよう。

 外はどんよりとした曇り空で、家を出た時とは打って変わって変な天気になっていた。見ているだけで頭痛がしそうな嫌な天気だ。急いで家に帰ることにした。



※途中で出て来たやばい夫婦は
「汐留一家は私以外腐ってる!」に出てくる人物になります。
 興味がある方はぜひ、読んでいただけたらと思います。
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