結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

文字の大きさ
104 / 234

番外編【GWの過ごし方】9大鷹さんは大鷹さんだった

しおりを挟む
「お、大鷹さん、どうしてここに?」

「遅い!おおたかっち、ヤッパリ先輩の頭かなり腐っているから、ここらへんでちゃんと自分のものだと示したほうがいいよ」

「あなたに言われたくはありません」

 私は大鷹さんの登場に驚いたが、河合さんはまるで大鷹さんが来ることがわかっていたかのような口ぶりだ。もしかして、大鷹さんをここに呼んだのは河合さんだろうか。だとしたら、なんのために呼んだのか。

「紗々さん、帰りますよ。河合江子とこれ以上二人で居るのは危険です」

「女性に対して危険とか、おおたかっち、ひどいねえ」

「いえ、あなただから危険だと判断したまでです。では、僕たちはこれで」

 二人の間に火花が散っている。私のために争うなというべきだろうか。いや、さすがにそこまで自意識過剰な思考は持ち合わせていない。とはいえ、実際そうだとしても口に出してはいけない気がした。

 大鷹さんは河合さんから視線をそらして、私に手を指し伸ばす。チラリと河合さんに目を向けると、にっこりと微笑まれる。大鷹さんの行動に怒っているかと思ったが、そうではないらしい。私に向ける笑みに怒りは感じられない。

「お金はどうし」

「僕が出しますよ。これでいいですか?」

「毎度アリ」

 大鷹さんと一緒に帰ることになってしまったが、料理は食べ終えているし、もっと話したい気持ちはあったが、大鷹さんにそれを言ってはいけないと本能が警告している。それにしても、私はそんなに飲み食いしていない。どうして五千円も大鷹さんは河合さんに渡しているのか。せいぜい、二千円もあれば私の分は十分に払うことが出来る。

「先輩、またいつでも二人でランチしましょうね」

「はあ」

「行きますよ」

 河合さんは大鷹さんがテーブルに出した五千円札を自分の財布にしまった。ここで私がお金の件で文句を言える雰囲気ではない。明らかに私のランチ分より多いのに、そのまま懐にしまう河合さんにも驚きだが、それ以上にまたランチに誘うという、大鷹さんにとっては地雷な言葉をさらりと吐く河合さんは、メンタルがかなりお強いようだ。

 私と大鷹さんはこうして、店を出た。大鷹さんから差し出された手を取るのは恥ずかしかったので無視したら、強引に手をつながれてしまった。

「ひ、ひとまえで手は」

「別に構わないでしょう?僕たちは夫婦ですよ」

「いやいや、でもでも」

 店を出てもずっとつながれている右手がかなり熱い。私の手は緊張と恥ずかしさで汗まみれになっている。つながれていない左手はすでに手汗で湿っている。

「僕は手汗がひどくても気にしませんよ。それとも」

 紗々さんは僕と手を放したいですか?

 耳元で急にささやかれたら、断れるわけがない。私は操り人形になったかのようにただ首を左右に振ることしかできなかった。



「大鷹さん、どうやってこのカフェに来たんですか?」

 カフェを出た私たちは駐車場を歩いていた。ここでようやく、大鷹さんがこの場所に来るまでの経路にまで頭が回るようになった。このカフェは駅から近い場所にはないので、客の大半は車で来ている。

 自然と足は私の車が停めてある場所に向かっていたが、大鷹さんがもし、車で来ていたらここからは別に帰らなくてはならない。

「攻(おさむ)君。いきなりこのカフェに行きたと言い出したから驚いたよ。あれ、紗々さんだ。偶然だねえ」

「守君!それに千沙さんも」

「あらあら、だから急いでいたのねえ。こんにちは、紗々さん」

 どうやら、大鷹さんは千沙さんの車でここまで来たらしい。今日の用事は千沙さんたちとだったのか。行き先を言われなかったが、どうして彼女達と予定があるのだと言ってくれなかったのか。

「言いたくなかったんです。紗々さんとせっかく二人きりでどこかに行こうと思ったのに、当の本人は仕事の後輩、いや僕の元カノと一緒にランチをすると言い出したので」

「ふむ」

 大鷹さんは右手で顔を覆っていた。左手はいまだにガッチリと私とつながっている。

「ずいぶんと親しくなったのねえ」

 私は自分の右手を見下ろし、慌てて千沙さんと守君を見ると、生暖かい視線を投げられた。大鷹さんの親せきにこんな恥ずかしいところを見られて、このままの状態ではいられない。どうにかして私は大鷹さんの手を引き離し、少し距離を取る。それを残念そうに眺めながらも、大鷹さんは千沙さんに冷ややかな表情を向ける。

「当たり前です。紗々さんは私の妻ですよ」

「独占欲が強すぎる旦那は嫌われるわよお」

 二人の間の空気はかなり殺伐としている。間に入った方がいいのか悩んでいると、服の裾をつかまれる。
 
「ねえ、紗々さん」

 声をかけてきたのは守君だった。

「今日ずっと、攻君はそわそわしていたよ。きっと、紗々さんのことが心配だったんだろうね。紗々さんは愛されているね」

「そうだね。私は愛されているね」

 私は守君に笑顔で言葉を返す。目の前ではいまだに千沙さんと大鷹さんが口げんかをしている。はたから見たら、彼らの方がお似合いのカップルに見えるかもしれない。でも、私は。

「大鷹さん、今日はもう帰りましょう。それとも、このままドライブしますか」

 手をつないでいたところを見られたことで私の羞恥心は吹っ切れた。大鷹さんの腕に絡みついて、精一杯の甘え声で大鷹さんに問いかける。大鷹さんを見上げる形になったが、果たしてこれで可愛らしいを演出出来ているだろうか。

「いいなあ。僕も愛されたいなあ」

 ぼそりとつぶやかれた守君の言葉は私の耳に届くことは無かった。


「河合江子と何を話していたのか知りませんが」

「別にどうってことはありません。大鷹さんとドライブなんてなかなかないので、今はそちらの方を楽しみませんか?」

 私たちは私の車でドライブしていた。運転は大鷹さんがしている。昼過ぎでまだ日が高いのでちょっと遠出しようと、私たちの町から少し離れた有名な湖までやってきた。

 天気はどんよりとした曇り空だったが、雨はまだ降ることは無いだろう。せっかく湖まで来たのに曇り空とは運が悪いが、雨が降っていないだけましだろう。太陽が出ていないことで気温も上がらず、暑くないことが幸いだ。気持ちの良い風が私たちの身体を吹き抜ける。

 私たちは湖近くの遊歩道をゆったりと歩いていた。

「いつもは家に引きこもっていますが、たまにはこういう風に外に出るのもいいですね」

「たまにとかじゃなくて、もっと頻度を増やして、時々こうやって一緒に出かけましょう」

 湖を眺める大鷹さんはとても穏やかな顔をしていた。

(ああ、こんなにいい旦那の浮気相手を妄想していた私が恥ずかしい)

 カフェでのことを思い出した私があわあわとしている様子を大鷹さんが横目で見ていたことに気づかなかった。


『今日はランチ、楽しかったです。あと、おおたかっちの件で謝らなくてはいけないことがあります』

『実は、私が【おおたかっちが女性と二人きりでカフェにいた】と言ったのは嘘です。先輩の反応が面白そうだから、つい嘘をついてしまいました。まあ、お詫びとしておおたかっちを召還したので許してください』

 家に帰ると、河合さんからメッセージが入っていて、それを大鷹さんに見られた私は、大鷹さんの怒りを買ってしまったのは良い思い出である。
 
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

処理中です...