59 / 234
番外編【身だしなみと価値観】3いざ、執筆としゃれこみますか
しおりを挟む
「ということで、河合さんの案を借りることにしました」
「小説で訴える。紗々さんらしいと思いますよ。ですが、どのジャンルで書くつもりですか?河合さんの言う通り、BL(ボーイズラブ)で書くには難しそうな題材ですが」
家に帰ってさっそくどのような小説にしようか考える。この際なので、大鷹さんに相談することにした。
「やっぱり、私の得意分野(ボーイズラブ)ではなかなか難しいですよね。でも、私、他のジャンルって手を出したことがなくて」
BLは読むのも書くのも両方やっているが、他のジャンルはもっぱら読む専だ。異世界転生系も、男女の恋愛も、現代ファンタジーも書いたことがない。BLも絡めて書いたとすれば、恋愛も現代ファンタジーも書いたことがあるといえるが、根本が男性同士の恋愛に重きを置いているので、書いたことがあるというのは、微妙なところだろう。
「ううん」
「だったらいっそ、僕たちの常識とは真逆の世界観で、BLを書いてみればどうでしょう?」
「真逆の世界観?」
小説のジャンル決めからすでに難航していた。そんな私に大鷹さんがアドバイスをくれた。とはいえ、ジャンルがBLでうまく読者に私の意図が伝わるだろうか。大鷹さんの言葉を繰り返すと、大鷹さんは、自分の考えを丁寧に説明してくれた。
「たまに見かける題材だと思いますけど。例えば、異世界に転生したら、美醜の概念が逆で、もといた世界では、ブスでさえない自分が、異性や同性からモテモテになる話とか。そういう感じで、紗々さんが不満に思う現在の常識が、小説の中では浸透していない、もしくはまったく逆の常識となっている話とかどうですか?」
「美醜逆転。そんなような内容が書かれていそうなタイトルを見たことはありますが、読んだことはなかったです。参考にしてみます」
「紗々さんの力になれてうれしいです」
「それは恐縮ですが、大鷹さんはどこからそんな情報を仕入れているのですか?」
疑問に思ったことを質問すると苦笑された。
「紗々さんと同じですよ。小説投稿サイトって、無料で無限に小説が読めるでしょう?暇なときにいろいろ漁って読んでいるんです。そこから拾っただけですよ」
さも、誰でもやっていますという風に話す大鷹さんに、私は自分の旦那がだいぶオタクになってきたなあと思うのだった。
大鷹さんからもアイデアをもらった私は、自室に戻り、パソコンの電源を入れた。
「常識が違う世界観」
ワードに思いついたことを入力していくことにした。
・ムダ毛処理をしないことが美
・ありのままの素の自分が良いとされる世界
・毛の生えていないツルツル肌は恥ずかしい
・体毛が濃い方が異性にもてる
・もじゃもじゃが正義
・獣に先祖返り
・獣人設定
「……。いったいどんな世界観なら、私の、今の世の中の不満が伝わるだろうか」
頭に浮かんだ設定を並べていくが、どれも私の中でしっくりくるものはない。設定を羅列するのではなく、物語の流れを考えてみるのはどうだろうか。結局、私がかけそうなのはBLな気がしたので、そこはそのままにすることにした。
・体毛が濃い方がモテる世界で、主人公は体毛が薄かくていじめられていた
↓
・それを見かねた幼馴染の男がお前はお前だ。他の意見なんて気にするなと言ってくる
↓
・主人公はその言葉を励みに、いじめにあいながらも一生懸命生きていく
↓
・幼馴染の男は実は、主人公が住んでいる国の皇子で、お忍びで下町に遊びにきていた
↓
・二人は互いに惹かれ合い、最終的に結婚する
↓
・男性同士の結婚を皇子は世に示す、体毛が薄くてもいいのだと訴える
話の大まかな流れを箇条書きにしていく。まず考え付いたのが、体毛が濃い方が異性からモテるという設定。しかし、この話はどこかで見たような内容で、大したインパクトもないし、結局、体毛が薄い方が受けだ。そのため、体毛が薄い、ツルツルの方がモテることになり、今までと変わらない。男同士の結婚なんて、BLの世界では普通の設定になっている場合もある。オメガバースという、男同士の妊娠もあるので、これではオリジナル性もないし、ありきたりすぎて、物語としてもつまらない。
そもそも、これでは私の世の中の不満が伝わらない。
これが逆の設定ならばどうだろうか。同じように物語の流れを箇条書きにしてみる。
・主人公は体毛が濃い自分が嫌だった、男女ともに体毛が濃い方が素晴らしいという世界観
↓
・毛を剃っても剃っても、すぐに生えてくる剛毛に悩まされる
↓
・脱毛サロン経営の社長と出会う(出会いは適当に考える)
↓
・自分ならお前をツルツルにしてやれる
↓
・脱毛サロンに通ううちに、二人の距離は徐々に縮まっていく
↓
・主人公の体毛がなくなりツルツルになると、社長が実は、お前の剛毛好きだったな呟く
↓
・周りを見渡すと自分と同じツルツルの男女が行き交っている
↓
・自分に剛毛をなくすと何が残るというのか
↓
・主人公の剛毛体質は、脱毛サロンでは到底処理できないほどのものだったので、脱毛の処理をやめると、数日で生えてきた
↓
・主人公の体毛が元のようにもじゃもじゃになり、二人の愛はさらに深まりましたとさ。
↓
・それを見た人々が、剛毛もありかもしれないと思い始めて、剛毛が広まっていく。
「これはこれでありかもしれないけど……」
書きあがった内容を読み返すが、どうにも気持ちが悪い。どうしてだろうと原因を探していると、根本的なものが見えてきた。
「そうか、そもそも、私自身が、ツルツルが好きなんだ」
なんて言うことだ。これではいくら常識が違った世界を書いても、面白くないし、しっくりこないわけだ。作者である私自身が、ツルツルの肌が好みなのだから。要は、自分はぼうぼうの草原でもいいが、他人にはツルツルを要求するという、なんともわがままな言い分をしていることに気づかされ、いったん、執筆を中断することにした。
「小説で訴える。紗々さんらしいと思いますよ。ですが、どのジャンルで書くつもりですか?河合さんの言う通り、BL(ボーイズラブ)で書くには難しそうな題材ですが」
家に帰ってさっそくどのような小説にしようか考える。この際なので、大鷹さんに相談することにした。
「やっぱり、私の得意分野(ボーイズラブ)ではなかなか難しいですよね。でも、私、他のジャンルって手を出したことがなくて」
BLは読むのも書くのも両方やっているが、他のジャンルはもっぱら読む専だ。異世界転生系も、男女の恋愛も、現代ファンタジーも書いたことがない。BLも絡めて書いたとすれば、恋愛も現代ファンタジーも書いたことがあるといえるが、根本が男性同士の恋愛に重きを置いているので、書いたことがあるというのは、微妙なところだろう。
「ううん」
「だったらいっそ、僕たちの常識とは真逆の世界観で、BLを書いてみればどうでしょう?」
「真逆の世界観?」
小説のジャンル決めからすでに難航していた。そんな私に大鷹さんがアドバイスをくれた。とはいえ、ジャンルがBLでうまく読者に私の意図が伝わるだろうか。大鷹さんの言葉を繰り返すと、大鷹さんは、自分の考えを丁寧に説明してくれた。
「たまに見かける題材だと思いますけど。例えば、異世界に転生したら、美醜の概念が逆で、もといた世界では、ブスでさえない自分が、異性や同性からモテモテになる話とか。そういう感じで、紗々さんが不満に思う現在の常識が、小説の中では浸透していない、もしくはまったく逆の常識となっている話とかどうですか?」
「美醜逆転。そんなような内容が書かれていそうなタイトルを見たことはありますが、読んだことはなかったです。参考にしてみます」
「紗々さんの力になれてうれしいです」
「それは恐縮ですが、大鷹さんはどこからそんな情報を仕入れているのですか?」
疑問に思ったことを質問すると苦笑された。
「紗々さんと同じですよ。小説投稿サイトって、無料で無限に小説が読めるでしょう?暇なときにいろいろ漁って読んでいるんです。そこから拾っただけですよ」
さも、誰でもやっていますという風に話す大鷹さんに、私は自分の旦那がだいぶオタクになってきたなあと思うのだった。
大鷹さんからもアイデアをもらった私は、自室に戻り、パソコンの電源を入れた。
「常識が違う世界観」
ワードに思いついたことを入力していくことにした。
・ムダ毛処理をしないことが美
・ありのままの素の自分が良いとされる世界
・毛の生えていないツルツル肌は恥ずかしい
・体毛が濃い方が異性にもてる
・もじゃもじゃが正義
・獣に先祖返り
・獣人設定
「……。いったいどんな世界観なら、私の、今の世の中の不満が伝わるだろうか」
頭に浮かんだ設定を並べていくが、どれも私の中でしっくりくるものはない。設定を羅列するのではなく、物語の流れを考えてみるのはどうだろうか。結局、私がかけそうなのはBLな気がしたので、そこはそのままにすることにした。
・体毛が濃い方がモテる世界で、主人公は体毛が薄かくていじめられていた
↓
・それを見かねた幼馴染の男がお前はお前だ。他の意見なんて気にするなと言ってくる
↓
・主人公はその言葉を励みに、いじめにあいながらも一生懸命生きていく
↓
・幼馴染の男は実は、主人公が住んでいる国の皇子で、お忍びで下町に遊びにきていた
↓
・二人は互いに惹かれ合い、最終的に結婚する
↓
・男性同士の結婚を皇子は世に示す、体毛が薄くてもいいのだと訴える
話の大まかな流れを箇条書きにしていく。まず考え付いたのが、体毛が濃い方が異性からモテるという設定。しかし、この話はどこかで見たような内容で、大したインパクトもないし、結局、体毛が薄い方が受けだ。そのため、体毛が薄い、ツルツルの方がモテることになり、今までと変わらない。男同士の結婚なんて、BLの世界では普通の設定になっている場合もある。オメガバースという、男同士の妊娠もあるので、これではオリジナル性もないし、ありきたりすぎて、物語としてもつまらない。
そもそも、これでは私の世の中の不満が伝わらない。
これが逆の設定ならばどうだろうか。同じように物語の流れを箇条書きにしてみる。
・主人公は体毛が濃い自分が嫌だった、男女ともに体毛が濃い方が素晴らしいという世界観
↓
・毛を剃っても剃っても、すぐに生えてくる剛毛に悩まされる
↓
・脱毛サロン経営の社長と出会う(出会いは適当に考える)
↓
・自分ならお前をツルツルにしてやれる
↓
・脱毛サロンに通ううちに、二人の距離は徐々に縮まっていく
↓
・主人公の体毛がなくなりツルツルになると、社長が実は、お前の剛毛好きだったな呟く
↓
・周りを見渡すと自分と同じツルツルの男女が行き交っている
↓
・自分に剛毛をなくすと何が残るというのか
↓
・主人公の剛毛体質は、脱毛サロンでは到底処理できないほどのものだったので、脱毛の処理をやめると、数日で生えてきた
↓
・主人公の体毛が元のようにもじゃもじゃになり、二人の愛はさらに深まりましたとさ。
↓
・それを見た人々が、剛毛もありかもしれないと思い始めて、剛毛が広まっていく。
「これはこれでありかもしれないけど……」
書きあがった内容を読み返すが、どうにも気持ちが悪い。どうしてだろうと原因を探していると、根本的なものが見えてきた。
「そうか、そもそも、私自身が、ツルツルが好きなんだ」
なんて言うことだ。これではいくら常識が違った世界を書いても、面白くないし、しっくりこないわけだ。作者である私自身が、ツルツルの肌が好みなのだから。要は、自分はぼうぼうの草原でもいいが、他人にはツルツルを要求するという、なんともわがままな言い分をしていることに気づかされ、いったん、執筆を中断することにした。
0
あなたにおすすめの小説
百合ランジェリーカフェにようこそ!
楠富 つかさ
青春
主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?
ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!!
※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。
表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。
学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった
白藍まこと
恋愛
主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。
クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。
明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。
しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。
そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。
三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。
※他サイトでも掲載中です。
身体だけの関係です‐三崎早月について‐
みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」
三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。
クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。
中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。
※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。
12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。
身体だけの関係です 原田巴について
https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789
作者ツイッター: twitter/minori_sui
【完結】異世界に転移しましたら、四人の夫に溺愛されることになりました(笑)
かのん
恋愛
気が付けば、喧騒など全く聞こえない、鳥のさえずりが穏やかに聞こえる森にいました。
わぁ、こんな静かなところ初めて~なんて、のんびりしていたら、目の前に麗しの美形達が現れて・・・
これは、女性が少ない世界に転移した二十九歳独身女性が、あれよあれよという間に精霊の愛し子として囲われ、いつのまにか四人の男性と結婚し、あれよあれよという間に溺愛される物語。
あっさりめのお話です。それでもよろしければどうぞ!
本日だけ、二話更新。毎日朝10時に更新します。
完結しておりますので、安心してお読みください。
俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。
true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。
それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。
これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。
日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。
彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。
※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。
※内部進行完結済みです。毎日連載です。
日本列島、時震により転移す!
黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる