59 / 168
番外編【身だしなみと価値観】3いざ、執筆としゃれこみますか
しおりを挟む
「ということで、河合さんの案を借りることにしました」
「小説で訴える。紗々さんらしいと思いますよ。ですが、どのジャンルで書くつもりですか?河合さんの言う通り、BL(ボーイズラブ)で書くには難しそうな題材ですが」
家に帰ってさっそくどのような小説にしようか考える。この際なので、大鷹さんに相談することにした。
「やっぱり、私の得意分野(ボーイズラブ)ではなかなか難しいですよね。でも、私、他のジャンルって手を出したことがなくて」
BLは読むのも書くのも両方やっているが、他のジャンルはもっぱら読む専だ。異世界転生系も、男女の恋愛も、現代ファンタジーも書いたことがない。BLも絡めて書いたとすれば、恋愛も現代ファンタジーも書いたことがあるといえるが、根本が男性同士の恋愛に重きを置いているので、書いたことがあるというのは、微妙なところだろう。
「ううん」
「だったらいっそ、僕たちの常識とは真逆の世界観で、BLを書いてみればどうでしょう?」
「真逆の世界観?」
小説のジャンル決めからすでに難航していた。そんな私に大鷹さんがアドバイスをくれた。とはいえ、ジャンルがBLでうまく読者に私の意図が伝わるだろうか。大鷹さんの言葉を繰り返すと、大鷹さんは、自分の考えを丁寧に説明してくれた。
「たまに見かける題材だと思いますけど。例えば、異世界に転生したら、美醜の概念が逆で、もといた世界では、ブスでさえない自分が、異性や同性からモテモテになる話とか。そういう感じで、紗々さんが不満に思う現在の常識が、小説の中では浸透していない、もしくはまったく逆の常識となっている話とかどうですか?」
「美醜逆転。そんなような内容が書かれていそうなタイトルを見たことはありますが、読んだことはなかったです。参考にしてみます」
「紗々さんの力になれてうれしいです」
「それは恐縮ですが、大鷹さんはどこからそんな情報を仕入れているのですか?」
疑問に思ったことを質問すると苦笑された。
「紗々さんと同じですよ。小説投稿サイトって、無料で無限に小説が読めるでしょう?暇なときにいろいろ漁って読んでいるんです。そこから拾っただけですよ」
さも、誰でもやっていますという風に話す大鷹さんに、私は自分の旦那がだいぶオタクになってきたなあと思うのだった。
大鷹さんからもアイデアをもらった私は、自室に戻り、パソコンの電源を入れた。
「常識が違う世界観」
ワードに思いついたことを入力していくことにした。
・ムダ毛処理をしないことが美
・ありのままの素の自分が良いとされる世界
・毛の生えていないツルツル肌は恥ずかしい
・体毛が濃い方が異性にもてる
・もじゃもじゃが正義
・獣に先祖返り
・獣人設定
「……。いったいどんな世界観なら、私の、今の世の中の不満が伝わるだろうか」
頭に浮かんだ設定を並べていくが、どれも私の中でしっくりくるものはない。設定を羅列するのではなく、物語の流れを考えてみるのはどうだろうか。結局、私がかけそうなのはBLな気がしたので、そこはそのままにすることにした。
・体毛が濃い方がモテる世界で、主人公は体毛が薄かくていじめられていた
↓
・それを見かねた幼馴染の男がお前はお前だ。他の意見なんて気にするなと言ってくる
↓
・主人公はその言葉を励みに、いじめにあいながらも一生懸命生きていく
↓
・幼馴染の男は実は、主人公が住んでいる国の皇子で、お忍びで下町に遊びにきていた
↓
・二人は互いに惹かれ合い、最終的に結婚する
↓
・男性同士の結婚を皇子は世に示す、体毛が薄くてもいいのだと訴える
話の大まかな流れを箇条書きにしていく。まず考え付いたのが、体毛が濃い方が異性からモテるという設定。しかし、この話はどこかで見たような内容で、大したインパクトもないし、結局、体毛が薄い方が受けだ。そのため、体毛が薄い、ツルツルの方がモテることになり、今までと変わらない。男同士の結婚なんて、BLの世界では普通の設定になっている場合もある。オメガバースという、男同士の妊娠もあるので、これではオリジナル性もないし、ありきたりすぎて、物語としてもつまらない。
そもそも、これでは私の世の中の不満が伝わらない。
これが逆の設定ならばどうだろうか。同じように物語の流れを箇条書きにしてみる。
・主人公は体毛が濃い自分が嫌だった、男女ともに体毛が濃い方が素晴らしいという世界観
↓
・毛を剃っても剃っても、すぐに生えてくる剛毛に悩まされる
↓
・脱毛サロン経営の社長と出会う(出会いは適当に考える)
↓
・自分ならお前をツルツルにしてやれる
↓
・脱毛サロンに通ううちに、二人の距離は徐々に縮まっていく
↓
・主人公の体毛がなくなりツルツルになると、社長が実は、お前の剛毛好きだったな呟く
↓
・周りを見渡すと自分と同じツルツルの男女が行き交っている
↓
・自分に剛毛をなくすと何が残るというのか
↓
・主人公の剛毛体質は、脱毛サロンでは到底処理できないほどのものだったので、脱毛の処理をやめると、数日で生えてきた
↓
・主人公の体毛が元のようにもじゃもじゃになり、二人の愛はさらに深まりましたとさ。
↓
・それを見た人々が、剛毛もありかもしれないと思い始めて、剛毛が広まっていく。
「これはこれでありかもしれないけど……」
書きあがった内容を読み返すが、どうにも気持ちが悪い。どうしてだろうと原因を探していると、根本的なものが見えてきた。
「そうか、そもそも、私自身が、ツルツルが好きなんだ」
なんて言うことだ。これではいくら常識が違った世界を書いても、面白くないし、しっくりこないわけだ。作者である私自身が、ツルツルの肌が好みなのだから。要は、自分はぼうぼうの草原でもいいが、他人にはツルツルを要求するという、なんともわがままな言い分をしていることに気づかされ、いったん、執筆を中断することにした。
「小説で訴える。紗々さんらしいと思いますよ。ですが、どのジャンルで書くつもりですか?河合さんの言う通り、BL(ボーイズラブ)で書くには難しそうな題材ですが」
家に帰ってさっそくどのような小説にしようか考える。この際なので、大鷹さんに相談することにした。
「やっぱり、私の得意分野(ボーイズラブ)ではなかなか難しいですよね。でも、私、他のジャンルって手を出したことがなくて」
BLは読むのも書くのも両方やっているが、他のジャンルはもっぱら読む専だ。異世界転生系も、男女の恋愛も、現代ファンタジーも書いたことがない。BLも絡めて書いたとすれば、恋愛も現代ファンタジーも書いたことがあるといえるが、根本が男性同士の恋愛に重きを置いているので、書いたことがあるというのは、微妙なところだろう。
「ううん」
「だったらいっそ、僕たちの常識とは真逆の世界観で、BLを書いてみればどうでしょう?」
「真逆の世界観?」
小説のジャンル決めからすでに難航していた。そんな私に大鷹さんがアドバイスをくれた。とはいえ、ジャンルがBLでうまく読者に私の意図が伝わるだろうか。大鷹さんの言葉を繰り返すと、大鷹さんは、自分の考えを丁寧に説明してくれた。
「たまに見かける題材だと思いますけど。例えば、異世界に転生したら、美醜の概念が逆で、もといた世界では、ブスでさえない自分が、異性や同性からモテモテになる話とか。そういう感じで、紗々さんが不満に思う現在の常識が、小説の中では浸透していない、もしくはまったく逆の常識となっている話とかどうですか?」
「美醜逆転。そんなような内容が書かれていそうなタイトルを見たことはありますが、読んだことはなかったです。参考にしてみます」
「紗々さんの力になれてうれしいです」
「それは恐縮ですが、大鷹さんはどこからそんな情報を仕入れているのですか?」
疑問に思ったことを質問すると苦笑された。
「紗々さんと同じですよ。小説投稿サイトって、無料で無限に小説が読めるでしょう?暇なときにいろいろ漁って読んでいるんです。そこから拾っただけですよ」
さも、誰でもやっていますという風に話す大鷹さんに、私は自分の旦那がだいぶオタクになってきたなあと思うのだった。
大鷹さんからもアイデアをもらった私は、自室に戻り、パソコンの電源を入れた。
「常識が違う世界観」
ワードに思いついたことを入力していくことにした。
・ムダ毛処理をしないことが美
・ありのままの素の自分が良いとされる世界
・毛の生えていないツルツル肌は恥ずかしい
・体毛が濃い方が異性にもてる
・もじゃもじゃが正義
・獣に先祖返り
・獣人設定
「……。いったいどんな世界観なら、私の、今の世の中の不満が伝わるだろうか」
頭に浮かんだ設定を並べていくが、どれも私の中でしっくりくるものはない。設定を羅列するのではなく、物語の流れを考えてみるのはどうだろうか。結局、私がかけそうなのはBLな気がしたので、そこはそのままにすることにした。
・体毛が濃い方がモテる世界で、主人公は体毛が薄かくていじめられていた
↓
・それを見かねた幼馴染の男がお前はお前だ。他の意見なんて気にするなと言ってくる
↓
・主人公はその言葉を励みに、いじめにあいながらも一生懸命生きていく
↓
・幼馴染の男は実は、主人公が住んでいる国の皇子で、お忍びで下町に遊びにきていた
↓
・二人は互いに惹かれ合い、最終的に結婚する
↓
・男性同士の結婚を皇子は世に示す、体毛が薄くてもいいのだと訴える
話の大まかな流れを箇条書きにしていく。まず考え付いたのが、体毛が濃い方が異性からモテるという設定。しかし、この話はどこかで見たような内容で、大したインパクトもないし、結局、体毛が薄い方が受けだ。そのため、体毛が薄い、ツルツルの方がモテることになり、今までと変わらない。男同士の結婚なんて、BLの世界では普通の設定になっている場合もある。オメガバースという、男同士の妊娠もあるので、これではオリジナル性もないし、ありきたりすぎて、物語としてもつまらない。
そもそも、これでは私の世の中の不満が伝わらない。
これが逆の設定ならばどうだろうか。同じように物語の流れを箇条書きにしてみる。
・主人公は体毛が濃い自分が嫌だった、男女ともに体毛が濃い方が素晴らしいという世界観
↓
・毛を剃っても剃っても、すぐに生えてくる剛毛に悩まされる
↓
・脱毛サロン経営の社長と出会う(出会いは適当に考える)
↓
・自分ならお前をツルツルにしてやれる
↓
・脱毛サロンに通ううちに、二人の距離は徐々に縮まっていく
↓
・主人公の体毛がなくなりツルツルになると、社長が実は、お前の剛毛好きだったな呟く
↓
・周りを見渡すと自分と同じツルツルの男女が行き交っている
↓
・自分に剛毛をなくすと何が残るというのか
↓
・主人公の剛毛体質は、脱毛サロンでは到底処理できないほどのものだったので、脱毛の処理をやめると、数日で生えてきた
↓
・主人公の体毛が元のようにもじゃもじゃになり、二人の愛はさらに深まりましたとさ。
↓
・それを見た人々が、剛毛もありかもしれないと思い始めて、剛毛が広まっていく。
「これはこれでありかもしれないけど……」
書きあがった内容を読み返すが、どうにも気持ちが悪い。どうしてだろうと原因を探していると、根本的なものが見えてきた。
「そうか、そもそも、私自身が、ツルツルが好きなんだ」
なんて言うことだ。これではいくら常識が違った世界を書いても、面白くないし、しっくりこないわけだ。作者である私自身が、ツルツルの肌が好みなのだから。要は、自分はぼうぼうの草原でもいいが、他人にはツルツルを要求するという、なんともわがままな言い分をしていることに気づかされ、いったん、執筆を中断することにした。
0
お気に入りに追加
236
あなたにおすすめの小説
挙式後すぐに離婚届を手渡された私は、この結婚は予め捨てられることが確定していた事実を知らされました
結城芙由奈
恋愛
【結婚した日に、「君にこれを預けておく」と離婚届を手渡されました】
今日、私は子供の頃からずっと大好きだった人と結婚した。しかし、式の後に絶望的な事を彼に言われた。
「ごめん、本当は君とは結婚したくなかったんだ。これを預けておくから、その気になったら提出してくれ」
そう言って手渡されたのは何と離婚届けだった。
そしてどこまでも冷たい態度の夫の行動に傷つけられていく私。
けれどその裏には私の知らない、ある深い事情が隠されていた。
その真意を知った時、私は―。
※暫く鬱展開が続きます
※他サイトでも投稿中
夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました
氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。
ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。
小説家になろう様にも掲載中です
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
『別れても好きな人』
設樂理沙
ライト文芸
大好きな夫から好きな女性ができたから別れて欲しいと言われ、離婚した。
夫の想い人はとても美しく、自分など到底敵わないと思ったから。
ほんとうは別れたくなどなかった。
この先もずっと夫と一緒にいたかった……だけど世の中には
どうしようもないことがあるのだ。
自分で選択できないことがある。
悲しいけれど……。
―――――――――――――――――――――――――――――――――
登場人物紹介
戸田貴理子 40才
戸田正義 44才
青木誠二 28才
嘉島優子 33才
小田聖也 35才
2024.4.11 ―― プロット作成日
💛イラストはAI生成自作画像
娼館で元夫と再会しました
無味無臭(不定期更新)
恋愛
公爵家に嫁いですぐ、寡黙な夫と厳格な義父母との関係に悩みホームシックにもなった私は、ついに耐えきれず離縁状を机に置いて嫁ぎ先から逃げ出した。
しかし実家に帰っても、そこに私の居場所はない。
連れ戻されてしまうと危惧した私は、自らの体を売って生計を立てることにした。
「シーク様…」
どうして貴方がここに?
元夫と娼館で再会してしまうなんて、なんという不運なの!
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
皇太子夫妻の歪んだ結婚
夕鈴
恋愛
皇太子妃リーンは夫の秘密に気付いてしまった。
その秘密はリーンにとって許せないものだった。結婚1日目にして離縁を決意したリーンの夫婦生活の始まりだった。
本編完結してます。
番外編を更新中です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる