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番外編【身だしなみと価値観】1嫌な季節がやってきました
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「大鷹さんは、どの季節が好きですか?」
だんだんと蒸し暑い日が続くようになってきた。そんなある日、大鷹さんに質問した。エアコンを効かせたリビングは涼しくて快適である。
「僕ですか?僕は夏が好きですね。寒いのはどうも苦手でして。紗々さんは、ああ、顔を見ればわかります」
大鷹さんの答えに思わず顔をしかめてしまった。確かに私も寒いのは苦手だ。冬の寒い日には、職場に行くだけで身体が凍ってしまいそうで、職場ですぐに文字がうまく書けないほど手が冷たくなるのはよくあることだ。だがしかし。
「私はまだ、冬の方がましですね。冬の寒さは服を着こんだり、ストーブをつけたりで対処可能です。ですが、夏は無理です。しかも、何が嫌かと言いますと、ムダ毛処理(アレ)をしなくてはならないのが、夏のものすごく面倒で嫌なところです」
つい、声に力が入ってしまった。こんなことを自分の旦那に語ってどうするつもりなのか。とはいえ、面倒なものは面倒なのではっきり言うしかない。
「紗々さんって、意外とデリケートな部分もずかずかと言いますね」
私の恥じらいのない言葉に大鷹さんは苦笑する。私にも恥じらいはあるが、どうしても物申したくなってしまう季節なのだ。
「だって、夏になると、ムダ毛ケアは女性にとって、最優先事項なんですよ。どんなに疲れていても、体調が悪かろうが、そこに毛があれば、なんとしてでも殲滅しなければならないんですよ。それを怠れば、大変な事態になります」
「紗々さんの言うことは理解できます。女子力が高いと呼ばれる人たちは、100%ツルツル美肌を自慢していますからね」
「そこですよ!何が全身ツルツルで異性からモテモテだ、この野郎!と思いませんか?」
最近、スマホで動画を見たり、ネットサーフィンしたりしていると、脱毛サロンや脱毛クリームの宣伝がやたら目に入ってくる。動画では、ムダ毛処理が甘くて、そのせいで恋人から別れを告げられたり、浮気されたりしている。さらには、異性からモテずにハブられたり、周りからいじられたりしているのだ。
「それが、ツルツルになった途端にモテモテですよ。意味がわかりません。ツルツルな女性が正義ですか。そうですか。だったら私は、悪ですね。真っ黒もいいところな、ムダ毛ぼうぼうの腐女子ですよ!」
「なんか、今日はずいぶんと荒んでいますね。何か仕事場で嫌なことでもあったんですか?ていうか、そんな赤裸々な話をよく僕にしようと思いましたね」
「ああそうですか。大鷹さんもどうせ、ツルツル美肌な女性が好みなんですね。わかりました。わかりました。だったら、早いところ、私と」
「別にツルツル美肌な女性が好きとは言っていませんよ。ツルツル美肌な女性は確かに触り心地は最高かもしれません。ですが、そんなもの、年を取ればどうせ同じでしょう。どんなにツルツルに脱毛しても、エステに通って美肌を保とうとしても、しょせん、老化には勝てません。もし、ツルツル美肌だけで付き合うのを判断するのなら、それこそ、女性をとっかえひっかえするしかありません。だったら僕は、中身が好みの女性の方を選びますけど」
そもそも、ツルツル美肌系女子の方が、肉食系で僕はむしろ苦手ですけど。
さらりと、過去の恋愛遍歴を暴露する大鷹さんだが、私が何を言い出すのか予想はついているようで、私に言葉を発する隙を与えない。
「赤裸々とは言いましたけど、実は僕、その手の話題って、もう聞き飽きるほど聞いているんですよ。ほら、話しそうな人が僕の親戚にいるでしょう?」
「ああ、もしかして、千沙さんですか?」
私は大鷹さんが遠い目をして、思い出したくなさそうにしているのを見て確信した。彼女の破天荒な行動を見ていれば、想像は容易い。
「実は、千沙さんって結構な剛毛らしくて、彼女も文句を言いながら、ムダ毛処理をしていましたよ。彼女は女子力高めの女性みたいですから」
そうか、だから私がいきなりムダ毛処理についての文句を言い始めても、大鷹さんはドン引きしたり、嫌悪感を私に向けなかったのか。
「どうしたら、ムダ毛処理をしなくていい社会になりますかね?」
ポロリと出た言葉は私の本当の気持ちだ。一週間に一回か二回ほど、面倒なムダ毛処理をする時間がもったいない。そんなことをしても、モテるわけでもないし、誰に褒められるわけでもない。ただ、やらないと世間の目が恐ろしいという、あいまいなことのためにやっている作業だ。その作業がなかったら、もっと私の趣味のBL(ボーイズラブ)を楽しむ時間が増えるに。脱毛に通うのもなんだか癪に触って通っていない。そのお金はBL(ボーイズラブ)のために使いたい。
「だったら、SNSで本音をつぶやいてみればいいのではないですか。案外、同じことを思う女性も多いかと思いますけど」
「ああ、あれですよね。女性の靴の話、みたいにですよね」
大鷹さんの提案に私は頭を悩ませる。もし、私の言葉に共感を得る人が多いとして、そうなれば、私が主導で何かしなくてはならないのだろうか。そうなるとすれば、面倒くさい。私は別に率先してムダ毛処理をしなくていい社会を作りたいわけでもないし、そのための活動を率先してしたいわけではない。ただ、女性のムダ毛処理をしなくてもいいという社会が来て欲しいだけだ。
「あんな風に活動するのは、正直言って、私の引きこもりコミュ障オタクには到底できないし、やりたくもない。何か、他に世間に訴える方法はないものか」
そう、あくまで自然に世間の人に伝えられる方法。風の噂で、人々の意識に根差していけるような何か。
「ううん」
私は、自分の部屋に戻って必死に考えていた。しかし、考えてもなかなかいいアイデアは思いつかない。とはいえ、それもそのはずだ。長年、この面倒な案件は解決されていない。それは、世の中がツルツルムダ毛なし女性を正当化しているからだ。
世の中がツルツル女子を求めている。人々の中に女性はツルツルであるべしという固定概念があるからいけないのだ。その概念をどうにかして破壊する方法はないものか。
結局、その日は、良いアイデアは思いつかず、私はそのまま寝ることにした。
だんだんと蒸し暑い日が続くようになってきた。そんなある日、大鷹さんに質問した。エアコンを効かせたリビングは涼しくて快適である。
「僕ですか?僕は夏が好きですね。寒いのはどうも苦手でして。紗々さんは、ああ、顔を見ればわかります」
大鷹さんの答えに思わず顔をしかめてしまった。確かに私も寒いのは苦手だ。冬の寒い日には、職場に行くだけで身体が凍ってしまいそうで、職場ですぐに文字がうまく書けないほど手が冷たくなるのはよくあることだ。だがしかし。
「私はまだ、冬の方がましですね。冬の寒さは服を着こんだり、ストーブをつけたりで対処可能です。ですが、夏は無理です。しかも、何が嫌かと言いますと、ムダ毛処理(アレ)をしなくてはならないのが、夏のものすごく面倒で嫌なところです」
つい、声に力が入ってしまった。こんなことを自分の旦那に語ってどうするつもりなのか。とはいえ、面倒なものは面倒なのではっきり言うしかない。
「紗々さんって、意外とデリケートな部分もずかずかと言いますね」
私の恥じらいのない言葉に大鷹さんは苦笑する。私にも恥じらいはあるが、どうしても物申したくなってしまう季節なのだ。
「だって、夏になると、ムダ毛ケアは女性にとって、最優先事項なんですよ。どんなに疲れていても、体調が悪かろうが、そこに毛があれば、なんとしてでも殲滅しなければならないんですよ。それを怠れば、大変な事態になります」
「紗々さんの言うことは理解できます。女子力が高いと呼ばれる人たちは、100%ツルツル美肌を自慢していますからね」
「そこですよ!何が全身ツルツルで異性からモテモテだ、この野郎!と思いませんか?」
最近、スマホで動画を見たり、ネットサーフィンしたりしていると、脱毛サロンや脱毛クリームの宣伝がやたら目に入ってくる。動画では、ムダ毛処理が甘くて、そのせいで恋人から別れを告げられたり、浮気されたりしている。さらには、異性からモテずにハブられたり、周りからいじられたりしているのだ。
「それが、ツルツルになった途端にモテモテですよ。意味がわかりません。ツルツルな女性が正義ですか。そうですか。だったら私は、悪ですね。真っ黒もいいところな、ムダ毛ぼうぼうの腐女子ですよ!」
「なんか、今日はずいぶんと荒んでいますね。何か仕事場で嫌なことでもあったんですか?ていうか、そんな赤裸々な話をよく僕にしようと思いましたね」
「ああそうですか。大鷹さんもどうせ、ツルツル美肌な女性が好みなんですね。わかりました。わかりました。だったら、早いところ、私と」
「別にツルツル美肌な女性が好きとは言っていませんよ。ツルツル美肌な女性は確かに触り心地は最高かもしれません。ですが、そんなもの、年を取ればどうせ同じでしょう。どんなにツルツルに脱毛しても、エステに通って美肌を保とうとしても、しょせん、老化には勝てません。もし、ツルツル美肌だけで付き合うのを判断するのなら、それこそ、女性をとっかえひっかえするしかありません。だったら僕は、中身が好みの女性の方を選びますけど」
そもそも、ツルツル美肌系女子の方が、肉食系で僕はむしろ苦手ですけど。
さらりと、過去の恋愛遍歴を暴露する大鷹さんだが、私が何を言い出すのか予想はついているようで、私に言葉を発する隙を与えない。
「赤裸々とは言いましたけど、実は僕、その手の話題って、もう聞き飽きるほど聞いているんですよ。ほら、話しそうな人が僕の親戚にいるでしょう?」
「ああ、もしかして、千沙さんですか?」
私は大鷹さんが遠い目をして、思い出したくなさそうにしているのを見て確信した。彼女の破天荒な行動を見ていれば、想像は容易い。
「実は、千沙さんって結構な剛毛らしくて、彼女も文句を言いながら、ムダ毛処理をしていましたよ。彼女は女子力高めの女性みたいですから」
そうか、だから私がいきなりムダ毛処理についての文句を言い始めても、大鷹さんはドン引きしたり、嫌悪感を私に向けなかったのか。
「どうしたら、ムダ毛処理をしなくていい社会になりますかね?」
ポロリと出た言葉は私の本当の気持ちだ。一週間に一回か二回ほど、面倒なムダ毛処理をする時間がもったいない。そんなことをしても、モテるわけでもないし、誰に褒められるわけでもない。ただ、やらないと世間の目が恐ろしいという、あいまいなことのためにやっている作業だ。その作業がなかったら、もっと私の趣味のBL(ボーイズラブ)を楽しむ時間が増えるに。脱毛に通うのもなんだか癪に触って通っていない。そのお金はBL(ボーイズラブ)のために使いたい。
「だったら、SNSで本音をつぶやいてみればいいのではないですか。案外、同じことを思う女性も多いかと思いますけど」
「ああ、あれですよね。女性の靴の話、みたいにですよね」
大鷹さんの提案に私は頭を悩ませる。もし、私の言葉に共感を得る人が多いとして、そうなれば、私が主導で何かしなくてはならないのだろうか。そうなるとすれば、面倒くさい。私は別に率先してムダ毛処理をしなくていい社会を作りたいわけでもないし、そのための活動を率先してしたいわけではない。ただ、女性のムダ毛処理をしなくてもいいという社会が来て欲しいだけだ。
「あんな風に活動するのは、正直言って、私の引きこもりコミュ障オタクには到底できないし、やりたくもない。何か、他に世間に訴える方法はないものか」
そう、あくまで自然に世間の人に伝えられる方法。風の噂で、人々の意識に根差していけるような何か。
「ううん」
私は、自分の部屋に戻って必死に考えていた。しかし、考えてもなかなかいいアイデアは思いつかない。とはいえ、それもそのはずだ。長年、この面倒な案件は解決されていない。それは、世の中がツルツルムダ毛なし女性を正当化しているからだ。
世の中がツルツル女子を求めている。人々の中に女性はツルツルであるべしという固定概念があるからいけないのだ。その概念をどうにかして破壊する方法はないものか。
結局、その日は、良いアイデアは思いつかず、私はそのまま寝ることにした。
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