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番外編【腰痛】6彼女の家に招待されました

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 仕事が終わり、私と河合さんは今、仕事場近くのファミレスにいるはずだった。しかし、残念ながら私たちは今、ファミレスにはいなかった。当初の予定では、一緒に夕飯を食べながら、昼間の話の続きをしようということだったが、相手の意向により、急きょ変更となった。

 大鷹さんには、同僚と夕食を食べると連絡を入れておいた。紗々さんにしては珍しいですねと言われたが、それ以外に何か言われることはなかった。



「ええと、河合さんって、一人暮らししていたんだね」

「はい。両親がうるさいので、思い切って一人暮らしを始めました。もうそろそろ一年たちます!」

 自慢そうに言われても、苦笑しか出てこない。私たちは、河合さんの住むアパートの前まで来ていた。仕事終わり、ファミレスに行こうと誘ったのが、そこでは人目もあるからと言われてしまい、何ならうちにきませんかと言われて、半ば強引に河合さんの家まで来てしまった形である。

「どうぞどうぞ、ちょうど彼氏のものも捨て終えたところで、物は少ないですが」

 どうぞと言われれば、はいと答えて中に入るしかない。意を決し、私は最近入った中途採用の女性宅にお邪魔するのだった。



「これはまた、すごいことになっていますね……」

 家の中はきれいに片付いていた。玄関を抜け、リビングに入ると、そこで待ち受けていた光景に絶句した。車がド派手なショッキングピンクで、なんとなく予想はついていたが、まさかここまですごいことになっているとは思っていなかった。

 部屋に置かれている物のほとんどが、車と同じショッキングピンクだった。さすがに借家のため、壁紙までピンクとはいかなかったが、それ以外のものがこれ以上ないほどのピンク率である。テーブルクロスも、イスのクッションもその他の小物、ペン立てからボールペンに至るまでピンクで埋め尽くされている。そのピンクが薄い淡いピンクなら落ち着きようがあるが、このピンクは目に痛いショッキングピンクだった。

 足元を確認すると、貸し出された来客用のスリッパも、もれなくピンクだった。

「このピンクのことですか。私、引っ越してからピンクにはまってしまって。最近は自分の持ち物すべてがピンクでないと気が済まなくて」

 私をリビングに案内してくれた彼女は、ピンクの部屋の説明をしてくれた。そして、座って待っていてくださいね、と言って、服を着替えに奥の部屋に入っていく。

おとなしく勧められたイスに座るが、この目に痛い配色のせいで落ち着かない。奥の部屋から出てきた彼女は、これまたショッピングピンクの半そで短パンに、ピンクのフリルのついたエプロンをつけていた。銀行から出る際に、お総菜などを買っていないため、どうやら、料理をふるまってくれるらしい。




「ちょっと待っていてくださいね。すぐに夕食を作りますから」

 キッチンで何やら調理を始めた河合さんをしり目に、私は河合さんの性癖について考えることにした。


 腐女子である彼女は、普通の人のように結婚の話に興味を持っている。腐女子と結婚。この二つの言葉を結び付けてみる。すると、私の中で一つの結論が出た。彼女が私に付きまとっている理由がわかった気がした。

「河合さんは、私を腐女子だと見抜き、それでも結婚しているという事実を知り、私に恋愛相談を持ち掛けてきた。腐女子でも結婚でいる理由を知るために」

 口に出すと、これが最も納得いく理由である。腐女子にとって、オタばれの危機は常に隣り合わせだ。恋人や結婚相手にすべてをさらけ出して付き合うか、隠し通して一生を過ごすか。とても悩むところである。その点、私は運がよかったと言える。すでに腐女子でオタクなことがばれているうえ、大鷹さんには、その趣味を公認してもらっているのだから。

「私は本当に恵まれている」

 この幸運に感謝することを忘れず、これからも我が道を貫こうと、人の家に居るにも関わらず、ガッツポーズで決意を新たにした。




「お待たせしました」

 河合さんが出してくれた料理は、たらこスパゲッティだった。ピンクのものに囲まれて、食べ物までピンクだと、頭がおかしくなりそうだ。

『いただきます』

 しかし、せっかく出してくれた料理なので、頭がおかしくなりそうでもありがたくいただくことにする。お腹が減っていたので、無言で食べていると、河合さんも食事中に話す内容ではないと判断したのか、私に合わせて特に話すことはなく、黙々とスパゲティを食べ始めた。しばらく無言の時間が続いた。

『ごちそうさまでした』

 食事を終えて、河合さんが食器を片付ける。彼女は、夕食の他にも、食後のコーヒーとお菓子を出してくれた。




「ええと、ご飯も頂いたことですし、河合さんのお話を聞きたいと思うのですが。昼間の話の続きでも」

 食後のコーヒーをいただきながら、出してくれたピンクのマカロンも口にする。マカロンは甘くておいしいが、食べてばかりでは、わざわざ私が彼女の家に来た意味がない。一息ついて、私は彼女に昼間の話題の続きをしようと提案する。

「は、はい。そうですよね。そのために倉敷先輩が私の家に来てくれたのですから。その前に、倉敷さんの旦那さんの写真を見せていただけないでしょうか」

 河合さんは、会社にいるときから、しきりに私の旦那である大鷹さんの顔を知りたがる。オタクと結婚するような旦那がどんな容姿なのか、そんなに気になるのだろうか。別に見せて減るものでもないが、あまり見せびらかしたいものではない。何せ、大鷹さんはイケメンなのだ。見せびらかして惚れられたらたまったものではない。イケメンな旦那を自慢する趣味は、私にはない。

「どうしてそこまで私の旦那を見たいのか知りませんが、そこまで言うなら、見せますよ。隠しているわけでもないので」

 私は、執拗に大鷹さんの写真を見せてくれと懇願され、しぶしぶスマホから大鷹さんが映っている写真を探し出し、河合さんにスマホを渡して見せた。河合さんは、真剣に大鷹さんの写真を凝視する。

「ああ、やっぱり。私、あなたの旦那さんのこと、知っていますよ。なぜなら」





「ブーブー」

 河合さんが重要なことを言おうとしたその時、タイミング悪く、私のスマホが大鷹さんの写真の上で電話が来ていることを通知する。同時にスマホも振動する。


「どうぞ私のことは気にせず、電話に出てください。話題の大鷹さんからの電話みたいですよ」

 河合さんに促されて、私はスマホの通知をスライドして、大鷹さんからの着信に出ることにした。

「もしもし、紗々さんですよね。今、どこにいますか?」

「どこって、同僚の家に居ますけど、大鷹さんにも言っていたではないですか。今日は同僚の家にお邪魔するから、夕食はいりませんし、帰りは遅くなりますと」

 大鷹さんは、開口一番に慌てた様子で、私がどこにいるか確認してきた。きちんと遅くなることを報告したのに、電話越しに慌てた声の大鷹さんに不思議に思いつつも、私は自分の居場所を正直に報告した。
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