結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

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番外編【クリスマス】1思いがけない来客①~自宅~

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 私は、今2つのことに悩んでいた。世間は12月半ばに迫り、「クリスマス」を誰とどのように過ごすかについて、白熱した議論を交わしていることだろう。そして、とうとう私にも縁のあるイベントとなってしまった。

 ただし、白熱することもなく、大鷹さんと一緒にクリスマスを過ごすというだけだが、それでも私にとっては一大事だった。

 これが1つ目の悩みだ。2つ目は、自分が創作しているBL小説のクリスマスのシーンについてだ。これは、特に悩まずに王道を詰めこみ、あまあまのクリスマスにしようと決めていたのだが、いざ執筆を始めると意外にも筆が乗らずに、いまだに未完成のままだった。



 現実と妄想の両方で、私はクリスマスに苦しめられているのだった。






「倉敷さんは、クリスマスは旦那さんと過ごすんでしょう。いいなあ、私もあんなイケメンと一度でもいいからクリスマスを一緒に過ごしてみたいわ。」


 昼休みの休憩中も、クリスマスの話題で盛り上がっていた。話しかけてきたのは、結婚1年目の平野さんだった。旦那とクリスマスを一緒に過ごすのではないだろうか。それなのに、人の旦那を羨ましがっている。
 
 私が返事をしないのに気まずくなったのか、慌てて言い訳を並べだす。


「もちろん、私も旦那とクリスマスは過ごすけど、こう華がないから、どうしてもイケメンに目が行ってしまうのは、仕方ないことでしょう。」



「はあ。」

「それはわかります。イケメンはいるだけで目の保養になりますから。ちなみに私は最近、イケメンの彼氏ができまして、彼と一緒にクリスマスを過ごします。」


 話に入ってきたのは、今年入社1年目の藤田さんだ。小柄で、可愛らしい小動物系の女子だ。しかし、中身は肉食系だと最近気づいたのだが。




「それで、プレゼントはどうしようかと思っているのですが、何がいいですかね。」

 嬉しそうに尋ねる藤田さんだが、特に回答を求めての質問ではないようだ。周りの意見を聞くことなく自分で答えを言い始めた。


「私としては、マフラーとか、手袋とかの防寒アイテムがいいと思うのですが、それだと定番すぎな気がするんですよね。朔夜さんは何を旦那さんにあげる予定ですか。」


「私は、ファッションセンスがないので、ワインを買うことにしました。」

 正直に答えると、それはそれでアリですね、と真剣にうなずかれてしまった。しかし、もし、外で夕食をとるならば、マフラーや手袋の方がいいだろう。


「まあ、プレゼントしたいものを買えば、彼も喜んでくれると思いますよ。」







 家に帰ると、すでに明かりがついていて、私より先に大鷹さんが帰っていたようだ。しかし、玄関には大鷹さんのものではない、見知らぬ靴が一足置かれていた。はて、誰か来客がいるということだろうか。


「いい加減にしろよ。そんな理由でオレの家に居てもらっても困る。俺たちだって新婚だぞ。お前なんか家に泊める余裕なんてない。」

「そこを何とか頼むよ、兄貴。友達に頼もうにも、こんな恥ずかしい理由言えないだろ。兄弟のよしみで数日だけでも。」

「ダメなものはダメだ。さっさと帰れ。そして、嫁さんに謝れ。」



 リビングに向かうと、大鷹さんと男性が激しく口論をしていた。大鷹さんの口調が荒いのは珍しい。私の前では常に敬語なので、新鮮ではあるのだが、怒っている。私がその場に顔を出していいものか悩むところである。しかし、リビングを通過しなければ、自分の部屋にはたどりつけない。





「ただいま戻りました……。」

 そろそろとリビングに入ると、大鷹さんと男性が同時に私の方に振り向く。男性の顔には見覚えがあった。確か、大鷹さんの弟のはずだ。先ほどの会話からすると、奥さんと喧嘩して、家を出てきた様子だ。



「おかえりなさい。紗々さん。今、このクズを家から追い出しますので、少し待っていてくださいね。」

 いつもの敬語口調に戻して、大鷹さんは弟を玄関に引っ張っていく。弟は必死に玄関に連れていかれないように足で踏ん張っている。



「ええと、話は聞こえていたのですが、数日くらい、弟さんを泊めても、私は構いませんよ。私が実家に戻るだけの話ですから。」


 私は内心でガッツポーズを決めていた。これは、兄×弟の禁断の関係がみられる可能性があるということだ。近親相姦ネタも個人的には好物の一つである。もちろん、二次元の話に限るが、大鷹さんと弟の顔面偏差値ならいける気がする。それはそれでアリかもしれない。



 ただし、近親相姦を推奨はしていない。これだけは言っておこう。あくまで私は常識人である。






 さて、せっかくの兄×弟の絡みだが、部外者の私がいてはお邪魔だろう。邪魔者は実家に戻るとしよう。兄×弟を実際に見ることはできないが、せめて今のこの状況だけでも目に焼き付けておかなければ。

 じっと2人の様子に視線を向けていると、私の様子がおかしいことに気付いた大鷹さんが慌てて近寄ってきた。



「いや、紗々さん。違いますからね。絶対紗々さんが妄想しているようなことはおこりません。おい、享(きょう)、お前からも紗々さんになんか言ってやれ。」


「そう言われても、姉さんが何を考えているのかわからないし。とりあえず、お姉さん、顔が怖いので、少し落ち着いてください。」


 ハッと我に返る。弟さんに顔が怖いと言われてしまった。いけない、目に焼き付けようと必死になっていた。






「説明はいりません。まずは兄弟水入らずで、思う存分話し合いを行ってください。別に話すだけでなく、身体で分かり合ってもいいですよ。」


 では、と私は大鷹さんと弟さんの脇をすり抜けて玄関を出ようとした。実家になんと連絡を入れて泊めてもらおうか。そんなことを考えていると、大鷹さんは、今度は私の腕を引っ張ってきた。




「なぜ、そこで実家に戻ろうとするのですか。いい加減、一人で暴走するのはやめてください。なんで、新婚の俺たちが弟に遠慮する必要がありますか。弟なんて放っておいて大丈夫です。」


「いやいや、兄弟は大事ですよ。それに、私は純粋に大鷹さんと弟さんの仲を応援しているのですよ。兄×弟。なんていい響き。爽やか系インテリ兄×ヤンキー系弟受……。」





「だから、それが暴走というのですよ。まったく……。」

 私たちが言い争いを始めたのを弟さんはぽかんとした様子で見つめている。横目でそれを確認した私は、話を強引に終わらせる。


「とりあえず、今日は泊めてあげるのがいいと思いますよ。兄×弟は抜きにしても。お兄ちゃんなんでしょう。話くらい聞いてあげてもいいのでは。」


 BLネタ以前の問題である。兄弟がいるなら、困っているときは助け合うことも必要である。私も妹がいるので、頼られたら、相談くらいは乗ってあげようと思っている。






「そうまで言うのなら、仕方ありません。享。今日だけは泊めてやる。明日には帰れよ」


 話の流れを理解しきれていないのか、弟さんは、ああ、ああとうなずいているが、頭にははてなマークが浮かんでいた。



「紗々さんに感謝するんだな。」

 脅すように言われた言葉には殺意が込められていた。まったく、どれだけ私と一緒に居たいのだろうか。こちらが恥ずかしくなってしまう。



 こうして、私は実家に身を寄せるのだった。
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