結婚したくない腐女子が結婚しました

折原さゆみ

文字の大きさ
19 / 234

4二次元と現実の区別をつけましょう~いいネタを思いつきました③~

しおりを挟む
 ウキウキと楽しい気分が、仕事場でも続いた。楽しそうに仕事をしていると、運も回ってくるようだ。面倒なお客の担当をすることなく、仕事のミスもなく、定時きっかりに仕事を終えるこができた。


「お世話になりました。すき焼き、ごちそうさまでした。」


 一度実家に戻り、両銀にお礼を言って、大鷹さんと一緒に暮らすマンションに帰ってきた。グリムとの別れは寂しかったが、私にも新しい生活がある。名残惜しいが、泣く泣くお別れをしてきた。




 玄関のカギを開け、中に入って照明をつけていく。そこにはがらんとした空間が広がっていた。別に物が少ないというわけでもないのだが、私以外誰もいない部屋は、なぜだか無性に寂しく感じた。たったの一日いなかっただけで、荷物の配置が変わったわけでも、ホコリまみれの汚い部屋になったわけでもない。それでも、なぜか大鷹さんと二人でいたときと何かが違っていた。


 そう思いながらも、鞄を自分の部屋に置き、部屋着に着替えてすぐに部屋のパソコンの電源を入れる。

 パソコンが起動して、すぐにBL小説の続きを書こうとしたが、その前に自分の投稿した小説がどれくらい読まれているかチェックする。投稿サイトにログインしてみると、そこには新着のコメントが投稿されていた。クリックして内容を確認する。




「紗々の葉さん、こんにちは。小説読ませていただきました。主人公と相手の両想いな様子がよく伝わってきました。今後もこの二人が末永く幸せに過ごすことを祈っています。僕にも妻がいますが、つい二人を重ねて読んでしまいました。」

 コメントに何やら怪しい言葉が並んでいる。続きを見るのが怖いが、最後まで画面をスクロールさせて読み進めていく。


「もし、二人が別れたり、それぞれが違う男と付き合いだしたりしたらと想像すると、まるで、自分のことのように辛い気持ちになります。悲しくて涙が止まらなくなりそうです。そんな展開にならないことを希望します。

妻のことを世界一愛しているが、妻にはわかってもらえていない不憫な男」





「これは、私に対する嫌がらせか。絶対そうとしか思えない。もはや、これがお仕置きでもいいくらいだよ。」 


 このコメントを書いたのは、絶対大鷹さんである。感想は感想として受け止めることができる。小説は読み手の解釈でどうとでもなるので、登場人物と自分を重ね合わせてしまうほど、感情移入してしまっても、それは読者の勝手である。問題は、このふざけたペンネームだ。それに、コメントが今日の昼に更新されているのも怪しすぎる。

 基本的に、コメントには返事を書いているのだが、さて、どう返事をしたら無難になるだろうか。





「ガチャリ。」

 コメントの返答に迷っているうちに、玄関の方から音がした。大鷹さんが帰ってきたようだ。

 慌てて、パソコンの画面を閉じる。ノートパソコンを使用しているので、画面を閉じれば、何をしていたのかはわからない。


 
 ガチャリとドアを開けて、玄関から靴を脱いで、大鷹さんが部屋に入ってくる。私はさも今気づいたかのようにゆっくりと自分の部屋から出て、大鷹さんのいる方に歩いて、声をかけた。


「おかえりなさい。予定より早かったじゃないですか。」

「予定の電車より早いのに乗ることができました。連絡を入れたのですが、気づきませんでしたか。」


 口調は優しいが、声に抑揚はない。怒っているようには見えないが、本心はわからない。それに、私の小説のコメントも気になる。




「とりあえず、お風呂にでも入ったらどうですか。それからいろいろ話しましょう。」

「そうすることにします。そうしないと、感情的になりすぎて、紗々さんに嫌われてしまうかもしれません。」


 感情的になると、どうなってしまうのか気になるところではあるが、今は落ち着いて話すことが大切だ。


「私もいろいろ話したいことがあるので、大鷹さんが風呂に入っている間に何を話したいか頭の中を整理しておきます。」





 大鷹さんが浴室に行くのをしっかり見届けて、わたしは再び自分の部屋に急いだ。パソコンの電源を完全に落とし、スマホを確認する。

 一件の新着メッセージが届いていた。大鷹さんからだろう。そもそも私のスマホにメッセージをくれるのは大鷹さんか家族くらいだ。

 見るもの面倒なので、スマホをベッドに投げ捨てて、ついでに自分もベッドにダイブする。そういえば、先日も実家のベッドにダイブしたばかりだ。もちろん、布団の種類もベッドの高さも枕も布団も違うのだが、落ち着くのはなぜだろう。


 枕に顔をうずめているうちに眠たくなってきてしまった。大鷹さんには言葉通り、たくさん話したいことがある。




「ふあああ。」

 何を話そうか考えているうちに、睡魔が襲ってきた。あまりの睡魔に勝てずに、私はそのまま意識を失うように眠りについた。今度は夢も見なかった。







 そして、気づいたら朝になっていた。時計を見たら、すでに朝の9時を指していた。今日が土曜日で幸いである。今日は仕事がない、休日だ。

 昨日はそのまま寝てしまったということか。大鷹さんはあきれているだろう。



「おはようございます。昨日は寝ちゃってすいません。」


 大鷹さんの部屋の前で声をかける。部屋の中から返事はなかった。出かけてしまったのか、返事ができない状態なのか。後者ならば、急いで部屋を確認する必要がある。



「失礼します。」

 小さく断りを入れて、中に入る。普段は返事があってから入るので、恐る恐る入る。そこにはベッドと机とイスや家具だけで、部屋の主はいなかった。


 仕方なく、リビングに行くと、ダイニングテーブルの上に紙切れが置かれていた。




「予定が入ったので、出かけます。夜には帰ります。」


 ひとまず、戦いは夜までお預けというわけか。そうとわかれば、まずは風呂に入ってさっぱりとしよう。それから、お腹が減っているので、朝食を食べることにしよう。その後は二度寝を決め込むまでだ。しっかり睡眠をとって、夜に備えることにしよう。

 風呂に入り、朝ご飯を食べ、歯をみがき、顔を洗って再度自分の部屋のベッドにもぐりこむ。


 昼食時にまた起きて、また寝てを繰り返す自堕落な時間の過ごし方をしていたら、あっという間に夕方になってしまった。




 これ以上寝ていては、夜眠れなくなりそうなくらいには爆睡していたので、大鷹さんが帰ってくるまで何をしていようか。

 悩んだ末に、BL小説の続きを執筆することにした。パソコンを開いて、執筆しようと意気込んでいたところで、それを遮るかのようにスマホがバイブで邪魔をする。



「ブーッ。ブーッ。」

 いったい私に連絡をするのは誰なのか。私に連絡してくるのは、いつも言っているが、家族か、大鷹さんくらいしか考えられない。それ以外は相手のスマホの操作ミスというくらいのボッチ具合だ。

 スマホの画面には「大鷹さん」と表示が出ていた。電話してくるなど珍しい。何か急ぎの要件でもあったのだろうか。



「もしもし。紗々ですけど。電話なんて珍しいですね。いったい……。」

「……。」

 なぜだか返事がない。外にいるのだろうか。ざわざわと何かの音がする。耳を澄ませて、返事を待っていても一向に返事がない。


 玄関の方で音が聞こえた。気になって視線を向けると、鍵が回るのが見えた。鍵を持っているのは家主である大鷹さんと私しかいない。ということは、大鷹さんが帰ってきたということだ。

 では、この電話は誰がかけているのか。大鷹さんなのだろうか。




「おかえりなさい。」

「………。」

 予想通り、大鷹さんが帰ってきた。しかし、どうも様子がおかしい。表情はいたって普通だ。顔が赤いわけでも青いわけでもない。しかし、目がすわっている。私をみつめ、何も話さない。

 数分の沈黙が流れた。耐え切れずに私が視線を逸らすと、ぐっと私の顔を両手で挟み込んで、顔を近づけてきた。大鷹さんの顔からは酒の匂いがした。




「大鷹さん、酔っているのですね。服を着替えて、今日はもう寝た方がいいですよ。」

「紗々さんがひどい……。そもそも、紗々さんがひどいんですからね。今日、僕がこうなってしまったのも、もとはといえばさささんが。」


 私に覆いかぶさるように体重をかけてきた。重みに耐えきれず、私たちは廊下の床に倒れこむ。

 私が床に押し倒されている状態なので、背中が痛い。何をしているのかと問いただそうとしたが、べろり、という舌の感触を首元に感じ、一気に全身に鳥肌が立つ。


 一気に気分が急降下した。自分でもわかる、低いどすの利いた声で話しかける。






「大鷹さん、これ以上私に触ったら、本気で離婚ですよ。」


 その声で一気に酔いがさめたようだ。私が本気で「離婚」すると、本能で理解したのだろう。いつもの「離婚」という言葉も本気だが、今回の行動は許しがたい。

 床には通話中のスマホ2台が転がっていた。
しおりを挟む
感想 3

あなたにおすすめの小説

学園の美人三姉妹に告白して断られたけど、わたしが義妹になったら溺愛してくるようになった

白藍まこと
恋愛
 主人公の花野明莉は、学園のアイドル 月森三姉妹を崇拝していた。  クールな長女の月森千夜、おっとり系な二女の月森日和、ポジティブ三女の月森華凛。  明莉は遠くからその姿を見守ることが出来れば満足だった。  しかし、その情熱を恋愛感情と捉えられたクラスメイトによって、明莉は月森三姉妹に告白を強いられてしまう。結果フラれて、クラスの居場所すらも失うことに。  そんな絶望に拍車をかけるように、親の再婚により明莉は月森三姉妹と一つ屋根の下で暮らす事になってしまう。義妹としてスタートした新生活は最悪な展開になると思われたが、徐々に明莉は三姉妹との距離を縮めていく。  三姉妹に溺愛されていく共同生活が始まろうとしていた。 ※他サイトでも掲載中です。

義姉妹百合恋愛

沢谷 暖日
青春
姫川瑞樹はある日、母親を交通事故でなくした。 「再婚するから」 そう言った父親が1ヶ月後連れてきたのは、新しい母親と、美人で可愛らしい義理の妹、楓だった。 次の日から、唐突に楓が急に積極的になる。 それもそのはず、楓にとっての瑞樹は幼稚園の頃の初恋相手だったのだ。 ※他サイトにも掲載しております

私がガチなのは内緒である

ありきた
青春
愛の強さなら誰にも負けない桜野真菜と、明るく陽気な此木萌恵。寝食を共にする幼なじみの2人による、日常系百合ラブコメです。

百合ランジェリーカフェにようこそ!

楠富 つかさ
青春
 主人公、下条藍はバイトを探すちょっと胸が大きい普通の女子大生。ある日、同じサークルの先輩からバイト先を紹介してもらうのだが、そこは男子禁制のカフェ併設ランジェリーショップで!?  ちょっとハレンチなお仕事カフェライフ、始まります!! ※この物語はフィクションであり実在の人物・団体・法律とは一切関係ありません。 表紙画像はAIイラストです。下着が生成できないのでビキニで代用しています。

俺を振ったはずの腐れ縁幼馴染が、俺に告白してきました。

true177
恋愛
一年前、伊藤 健介(いとう けんすけ)は幼馴染の多田 悠奈(ただ ゆうな)に振られた。それも、心無い手紙を下駄箱に入れられて。 それ以来悠奈を避けるようになっていた健介だが、二年生に進級した春になって悠奈がいきなり告白を仕掛けてきた。 これはハニートラップか、一年前の出来事を忘れてしまっているのか……。ともかく、健介は断った。 日常が一変したのは、それからである。やたらと悠奈が絡んでくるようになったのだ。 彼女の狙いは、いったい何なのだろうか……。 ※小説家になろう、ハーメルンにも同一作品を投稿しています。 ※内部進行完結済みです。毎日連載です。

日本列島、時震により転移す!

黄昏人
ファンタジー
2023年(現在)、日本列島が後に時震と呼ばれる現象により、500年以上の時を超え1492年(過去)の世界に転移した。移転したのは本州、四国、九州とその周辺の島々であり、現在の日本は過去の時代に飛ばされ、過去の日本は現在の世界に飛ばされた。飛ばされた現在の日本はその文明を支え、国民を食わせるためには早急に莫大な資源と食料が必要である。過去の日本は現在の世界を意識できないが、取り残された北海道と沖縄は国富の大部分を失い、戦国日本を抱え途方にくれる。人々は、政府は何を思いどうふるまうのか。

身体だけの関係です‐三崎早月について‐

みのりすい
恋愛
「ボディタッチくらいするよね。女の子同士だもん」 三崎早月、15歳。小佐田未沙、14歳。 クラスメイトの二人は、お互いにタイプが違ったこともあり、ほとんど交流がなかった。 中学三年生の春、そんな二人の関係が、少しだけ、動き出す。 ※百合作品として執筆しましたが、男性キャラクターも多数おり、BL要素、NL要素もございます。悪しからずご了承ください。また、軽度ですが性描写を含みます。 12/11 ”原田巴について”投稿開始。→12/13 別作品として投稿しました。ご迷惑をおかけします。 身体だけの関係です 原田巴について https://www.alphapolis.co.jp/novel/711270795/734700789 作者ツイッター: twitter/minori_sui

イケボすぎる兄が、『義妹の中の人』をやったらバズった件について

のびすけ。
恋愛
春から一人暮らしを始めた大学一年生、天城コウは――ただの一般人だった。 だが、再会した義妹・ひよりのひと言で、そんな日常は吹き飛ぶ。 「お兄ちゃんにしか頼めないの、私の“中の人”になって!」 ひよりはフォロワー20万人超えの人気Vtuber《ひよこまる♪》。 だが突然の喉の不調で、配信ができなくなったらしい。 その代役に選ばれたのが、イケボだけが取り柄のコウ――つまり俺!? 仕方なく始めた“妹の中の人”としての活動だったが、 「え、ひよこまるの声、なんか色っぽくない!?」 「中の人、彼氏か?」 視聴者の反応は想定外。まさかのバズり現象が発生!? しかも、ひよりはそのまま「兄妹ユニット結成♡」を言い出して―― 同居、配信、秘密の関係……って、これほぼ恋人同棲じゃん!? 「お兄ちゃんの声、独り占めしたいのに……他の女と絡まないでよっ!」 代役から始まる、妹と秘密の“中の人”Vライフ×甘々ハーレムラブコメ、ここに開幕!

処理中です...