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4二次元と現実の区別をつけましょう~いいネタを思いつきました①~
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「明日から大鷹さんが泊りの出張らしいので、これを機に一度実家に戻ります。」
まずは実家の両親に連絡を入れておく。
「現実逃避もいいけど、ネタだよ。ネタ。何かこうインパクトのある……。」
「ブーッ。ブーッ。」
ネタ探しに奮闘していると、意外とすぐに両親から返信が届く。なぜ、スマホも見ずに振動だけでわかるかというと、家族くらいしか私に連絡をしてくる相手がいないからだ。言葉にすると、気にしてないとは言え、なんとなく心が痛む。
「別れ話でも切り出されたのかはわかりませんが、自殺されても困るので、話を聞こうと思います。」
あきれたような顔でスマホにメッセージを入力する母親と、その隣で、これまたあきれ顔でその様子を見守る父親の顔が思い浮かぶ。今のところ、別れる予定はない。向こうが本気で切り出さない限り、こちらからは切り出さないつもりである。
ただし、予定なだけで、あまりにも向こうが別れを切り出さないのならば、私自ら浮気材料でも不倫の既成事実でも作って別れようとは思っている。
期限は決めておくべきだろうか。私が今30歳で、大鷹さんは28歳だから、大鷹さんが30歳になる前、29歳くらいがいい頃合いだ。それまでに離婚の話を切り出さなければ、私から言ってやろうと思う。こう考えると、意外にも短い結婚生活だということが判明する。1~2年なんてあっという間に過ぎてしまうだろう。
しかし、今はその時ではないので、両親の心配は無用のものだ。
「そんなことはありません。ただ、グリムとお父さんとお母さんの様子を見に戻るだけです。」
返事をして、もう寝ようとベッドにもぐりこみ、明かりを消した。精神的ショックが大きかったのか、ただ単に現実逃避がそれほどしたかったのか、すぐに眠りに落ちた。
夢を見た。私はなぜか男になっていた。そして、爬虫類のような目をした若い男に押し倒されていた。瞳の色は金色で、初めて会ったはずなのに見覚えがある気がした。実家のベッドに押し倒されていて、私の上に覆いかぶさっている。両腕を私の身体を囲うように置かれて、私は身動きができない状態だ。
「あんな男を好きになるのが悪いんだ。ぼくはずっと紗々を見てきた。ぼくなら紗々を苦しむようなことはしないと誓う。」
どこかで聞いたことのあるような低めのイケメン声を耳元でささやかれた。ぞわっと全身に鳥肌が立つ。
「な、なにを言っているの。あなたはいったい……。」
「今さら何を言っているの。ぼくだよ。紗々といつも一緒にいただろう。紗々がぼくに名前をくれたんだよ。ぼくの名前は……。」
「ジリジリジリッ。」
目覚ましが鳴ったので、急いでベッド上にあった時計のアラームを止める。夢はそこで終わった。時刻は6時30分。起きなければならない時間である。
一番重要なセリフを聞く前に目が覚めてしまった。どうにも寝覚めが悪い。
とはいえ、今日も仕事はあるので、仕方なく会社に行く支度を始めた。
そして、もやもやとした気持ちを抱えたまま、仕事に向かうのだった。
私の仕事は銀行の窓口業務であり、お客様の対応をしなければならない。いつも通り、愛想のよいとされる笑顔を振りまいて、窓口に来たお客様の対応をしていく。
休憩時間に控室で昼食を一人でとっていると、珍しく声をかけてきた人がいた。私に声をかける人はいないので、いつもは昼食を食べ終わると、そのまま歯磨きをして休憩終わりまでスマホを見ていた。いったいどうしたのだろうか。
「ねえ、ねえ、倉敷さんの旦那さんが浮気しているのを見たっていう人がいるんだけど。夜に、若い年ごろの美人な女性と歩いているところを見た人がいるみたい。」
うわさ好きの40歳後半くらいの女性だ。パートで働いているが、仕事は私と同じ窓口業務である。どこでそんな情報を仕入れてきたのやら。
「旦那なら今朝から出張ですよ。私の方が浮気するなと釘を刺されました。」
「それはあぶないわねえ。相手には浮気するなといって、自分は浮気するなんて最低な男ね。早いところ別れた方がいいのではないかと思うわよ。」
そう言えば、この人の娘が確か、今年で大学を卒業して働き出すと言っていた気がする。さては、大鷹さんを狙っているのか。だとしたらこの話題も納得がいく。
「別に私は彼が浮気していても構いませんよ。何せ、心が広いですから。それに自分のことは自分で決めますから。安藤さんにも他人に言われる筋合いはありません。」
自分が離婚だの、別れるだのというのはいいのだが、他人に言われると無性に腹が立つのはなぜだろう。
こうして、朝の夢のことと、安藤さんの浮気発言で、もやもやした気分が再来した。いつもより気合を入れて業務に励まなければミスをしてしまう。そう思いながら、午後の業務に取り組むのだった。
「やっと終わったあ。」
何とか仕事を終えて、帰宅しようとしてふと気づく。今日は大鷹さんが出張で家にいないのだ。そして、実家に戻ると両親に連絡していたことも思い出す。
まずは一度家に戻って荷物を取りに行こう。それから実家に行って、夕食を食べさせてもらうことに決めた。
そうと決まれば、実家に連絡を入れなくてはならない。
「もしもし、紗々だけど、実家に戻ってもいいかな。昨日連絡したでしょう。」
「いいわよ。詳しい話は家に帰ってきてから聞くから覚悟しなさいよ。」
久しぶりに実家に戻る気がする。夢の国にデートに行ってから、大鷹さんは妙に私に構ってくるので、なかなか実家に顔を見せる機会がなかったのだ。
両親の顔も見ておきたいが、グリムの様子も気になる。元気にしているだろうか。
そう思いながら、私は一度大鷹さんと一緒に住むマンションに戻り、必要なものをまとめて、実家に向かった。
まずは実家の両親に連絡を入れておく。
「現実逃避もいいけど、ネタだよ。ネタ。何かこうインパクトのある……。」
「ブーッ。ブーッ。」
ネタ探しに奮闘していると、意外とすぐに両親から返信が届く。なぜ、スマホも見ずに振動だけでわかるかというと、家族くらいしか私に連絡をしてくる相手がいないからだ。言葉にすると、気にしてないとは言え、なんとなく心が痛む。
「別れ話でも切り出されたのかはわかりませんが、自殺されても困るので、話を聞こうと思います。」
あきれたような顔でスマホにメッセージを入力する母親と、その隣で、これまたあきれ顔でその様子を見守る父親の顔が思い浮かぶ。今のところ、別れる予定はない。向こうが本気で切り出さない限り、こちらからは切り出さないつもりである。
ただし、予定なだけで、あまりにも向こうが別れを切り出さないのならば、私自ら浮気材料でも不倫の既成事実でも作って別れようとは思っている。
期限は決めておくべきだろうか。私が今30歳で、大鷹さんは28歳だから、大鷹さんが30歳になる前、29歳くらいがいい頃合いだ。それまでに離婚の話を切り出さなければ、私から言ってやろうと思う。こう考えると、意外にも短い結婚生活だということが判明する。1~2年なんてあっという間に過ぎてしまうだろう。
しかし、今はその時ではないので、両親の心配は無用のものだ。
「そんなことはありません。ただ、グリムとお父さんとお母さんの様子を見に戻るだけです。」
返事をして、もう寝ようとベッドにもぐりこみ、明かりを消した。精神的ショックが大きかったのか、ただ単に現実逃避がそれほどしたかったのか、すぐに眠りに落ちた。
夢を見た。私はなぜか男になっていた。そして、爬虫類のような目をした若い男に押し倒されていた。瞳の色は金色で、初めて会ったはずなのに見覚えがある気がした。実家のベッドに押し倒されていて、私の上に覆いかぶさっている。両腕を私の身体を囲うように置かれて、私は身動きができない状態だ。
「あんな男を好きになるのが悪いんだ。ぼくはずっと紗々を見てきた。ぼくなら紗々を苦しむようなことはしないと誓う。」
どこかで聞いたことのあるような低めのイケメン声を耳元でささやかれた。ぞわっと全身に鳥肌が立つ。
「な、なにを言っているの。あなたはいったい……。」
「今さら何を言っているの。ぼくだよ。紗々といつも一緒にいただろう。紗々がぼくに名前をくれたんだよ。ぼくの名前は……。」
「ジリジリジリッ。」
目覚ましが鳴ったので、急いでベッド上にあった時計のアラームを止める。夢はそこで終わった。時刻は6時30分。起きなければならない時間である。
一番重要なセリフを聞く前に目が覚めてしまった。どうにも寝覚めが悪い。
とはいえ、今日も仕事はあるので、仕方なく会社に行く支度を始めた。
そして、もやもやとした気持ちを抱えたまま、仕事に向かうのだった。
私の仕事は銀行の窓口業務であり、お客様の対応をしなければならない。いつも通り、愛想のよいとされる笑顔を振りまいて、窓口に来たお客様の対応をしていく。
休憩時間に控室で昼食を一人でとっていると、珍しく声をかけてきた人がいた。私に声をかける人はいないので、いつもは昼食を食べ終わると、そのまま歯磨きをして休憩終わりまでスマホを見ていた。いったいどうしたのだろうか。
「ねえ、ねえ、倉敷さんの旦那さんが浮気しているのを見たっていう人がいるんだけど。夜に、若い年ごろの美人な女性と歩いているところを見た人がいるみたい。」
うわさ好きの40歳後半くらいの女性だ。パートで働いているが、仕事は私と同じ窓口業務である。どこでそんな情報を仕入れてきたのやら。
「旦那なら今朝から出張ですよ。私の方が浮気するなと釘を刺されました。」
「それはあぶないわねえ。相手には浮気するなといって、自分は浮気するなんて最低な男ね。早いところ別れた方がいいのではないかと思うわよ。」
そう言えば、この人の娘が確か、今年で大学を卒業して働き出すと言っていた気がする。さては、大鷹さんを狙っているのか。だとしたらこの話題も納得がいく。
「別に私は彼が浮気していても構いませんよ。何せ、心が広いですから。それに自分のことは自分で決めますから。安藤さんにも他人に言われる筋合いはありません。」
自分が離婚だの、別れるだのというのはいいのだが、他人に言われると無性に腹が立つのはなぜだろう。
こうして、朝の夢のことと、安藤さんの浮気発言で、もやもやした気分が再来した。いつもより気合を入れて業務に励まなければミスをしてしまう。そう思いながら、午後の業務に取り組むのだった。
「やっと終わったあ。」
何とか仕事を終えて、帰宅しようとしてふと気づく。今日は大鷹さんが出張で家にいないのだ。そして、実家に戻ると両親に連絡していたことも思い出す。
まずは一度家に戻って荷物を取りに行こう。それから実家に行って、夕食を食べさせてもらうことに決めた。
そうと決まれば、実家に連絡を入れなくてはならない。
「もしもし、紗々だけど、実家に戻ってもいいかな。昨日連絡したでしょう。」
「いいわよ。詳しい話は家に帰ってきてから聞くから覚悟しなさいよ。」
久しぶりに実家に戻る気がする。夢の国にデートに行ってから、大鷹さんは妙に私に構ってくるので、なかなか実家に顔を見せる機会がなかったのだ。
両親の顔も見ておきたいが、グリムの様子も気になる。元気にしているだろうか。
そう思いながら、私は一度大鷹さんと一緒に住むマンションに戻り、必要なものをまとめて、実家に向かった。
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