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11今季アニメ、何をみる?④~時代は移り変わるものです~
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しばらく沈黙が続いた。誰も何も言葉を発しない時間が数分程続いたように感じた。実際のところは一分も経っていなかったかもしれない。最初にその沈黙をやぶったのは妹の陽咲だった。
「麗華、素敵なアイデアなんだけど、それには一つ、重大な問題点があるのよ」
「そうそう。ものすごい欠点が一つある」
「ああ、私に才能があれば……」
同意するように芳子とこなでも頷きながら陽咲に続いて言葉を口にする。なんとなく理解した私もつい、苦い顔になってしまう。一学期を一緒に過ごしてきた仲だからこそわかってきた彼女たちの能力。彼女たちの中にアレの才能がある者はいない。そう、アニメを作るうえで欠かせないアレである。
「ちなみに麗華は、アニメをどうやって作るか知っているの?」
私が考えている間にも、会話は進んでいく。麗華に質問したのは陽咲だったが、なぜか疲れ切った顔をしていた。当たり前に答えられる質問に麗華は首をかしげていたが、素直に回答を口にする。
「どうって……。絵を描いてそれをアニメーションにして、声を入れて、動画サイトとかに投稿?だと思いますが」
それがいったいどうしたと疑問顔の麗華に仕方なく、私が補足説明する。
「あのね、残念だけど、ここにいるメンバーに絵心のある奴らはいないの。それとも、麗華は絵に自信があるの?」
「ないです」
麗華は即答した。迷いのない答えに陽咲だけでなく、周りにいた私たちも苦笑する。そこでようやく、己の提案の問題点に気付いたのか、麗華は慌てて弁解を始めた。
「わ、私、陽咲さんたちが絵を描けないのを知らずに、とんだ発言をしてしまいました。ご、ごめんな」
「いいの、いいの。絵のセンスがないのは事実だからね。だから、自分たちで動画投稿、っていうのは無理かな」
陽咲の自嘲気味に笑う。私の周りには絵のセンスがない人しかいない。かくいう私も人のことを言えない。動画に出すほどの絵を描けるとも思えない。
「でもさあ、よくよく考えたら」
こなでが絵心のなさのショックから立ち直り、のんびりとした様子で新たな問題発言を口にする。
「最近、無料動画サイトを見る機会が多いんだけど、私、ボカロに興味出てきて、最近はもっぱらボカロをよく聞いていることを思い出したわ。あれってアニメみたいなMV(ミュージックビデオ)付きで、短編アニメを見ているみたいなものもあって、結構面白いんだよね」
この発言をきっかけに、今度はボカロについての議論が始まってしまった。
「世の中、結局、時代の流れに乗って趣味は変わっていくものということだね」
「そうそう、テレビでアニメ視聴というのは、今時、時代遅れになっているのかもしれない」
「私も最近、ボカロを動画でよく聞きますよ」
「今回の結論は出たということね」
なんだかんだいろいろ話しているうちに、ずいぶんと時間が過ぎていたようだ。放課後という限られた時間の中で、いつの間にか夕飯の時間となっていた。
芳子は気を利かせて、会議の最中、私たちの口が乾かないように一階に行き、冷たい麦茶を入れたコップを人数分と、麦茶の入ったピッチャーを持ってきた。その後、もう一度部屋を出て、ポテトチップスやら、チョコレート菓子なども差し入れてくれた。そのため、喉も乾かず、空腹になることもなく議論は活発に行われたのだった。
「芳子、もうすぐ夕食の時間になるけど、友達は帰らなくていいのかしら?」
トントンという、部屋をノックする音で、私たちはようやく帰宅する時間が迫っていることを知った。どうやら、芳子の母親が帰宅したようだ。声が彼女の祖母より若い感じがした。
「お母さん、わかったから、一階で待っていてよ。間違っても絶対に私の部屋に入ってこないでね。今から部屋を出るから」
芳子は部屋越しに母親に返事をする。母親にも自分の部屋を見せていないようだ。夏休みに訪れた時と同様に、部屋にはたくさんの二次元のイケメンたちがところかしこにいた。改めて考えてみると、私たちはこの異常な空間で謎の会議をしていたわけだ。
「じゃあ、会議での結論も出たことだし、そろそろ帰りますか。芳子の家族に迷惑をかけてもいけないしね」
「ごめんね。ここが二次元だったら……」
『よかったら、私たちの家で夕食でもドウゾ』
『わあ、うれしいです。ぜひ、いただきます』
『遠慮しないで食べてね。今日は珍しくたくさん夕食を作っちゃったから、どんどんお代わりして頂戴』
『ハイ!』
母親の声真似をしたこなでの言葉に、陽咲が会話に乗っかり、目の前で寸劇が行われた。麗華は感心したように彼女たちの様子をじっと見ていた。
「そんなの、現実的にあるわけないでしょ。わざわざ友達を夕食に誘うとか、材料費とか、食器とか、帰宅時間とかいろいろ問題あるでしょ」
ぼそりと、つい、現実的なことが口から飛び出してしまった。最近、あまりにも日常的に二次元と現実の違いについて議論していたせいだろう。慌てて口を押えるが、私の言葉は部屋にいた彼女たち全員の耳に届いてしまった。
「うわあ。それ、思っていても言っちゃダメな奴でしょ」
「そうそう、せっかくいい気分で家に帰れそうだと思ったのに、ここで現実を引き合いに出されるとちょっと」
「事実は事実ですから、別にいいと思いますよ」
「さあ、さっさと帰って頂戴。喜咲の言う通り、うちであなたたちをもてなす夕食はないからね」
だって、ここは現実世界だからね
こうして、私たちは部屋を出て、言葉通りに一階で待っていた芳子の母親に挨拶してそれぞれの家に帰った。帰りに彼女の祖母の様子を確認したかったが、私たちの前に現れることはなかった。
次の日の昼休み、私たちは新たな娯楽を見つけて、その話題について大いに盛り上がるのだった。時代はテレビから動画に映っているのかもしれない。
そういえば、と昼休みに昨日のことを振り返る。撮りためたアニメの視聴を見ながら会議しようと言っていた芳子の言葉を思い出したが、すでに新たな会議のネタを見つけた彼女たちの楽しそうな様子に、まあいいかと。私も会議に参戦するのだった。
「麗華、素敵なアイデアなんだけど、それには一つ、重大な問題点があるのよ」
「そうそう。ものすごい欠点が一つある」
「ああ、私に才能があれば……」
同意するように芳子とこなでも頷きながら陽咲に続いて言葉を口にする。なんとなく理解した私もつい、苦い顔になってしまう。一学期を一緒に過ごしてきた仲だからこそわかってきた彼女たちの能力。彼女たちの中にアレの才能がある者はいない。そう、アニメを作るうえで欠かせないアレである。
「ちなみに麗華は、アニメをどうやって作るか知っているの?」
私が考えている間にも、会話は進んでいく。麗華に質問したのは陽咲だったが、なぜか疲れ切った顔をしていた。当たり前に答えられる質問に麗華は首をかしげていたが、素直に回答を口にする。
「どうって……。絵を描いてそれをアニメーションにして、声を入れて、動画サイトとかに投稿?だと思いますが」
それがいったいどうしたと疑問顔の麗華に仕方なく、私が補足説明する。
「あのね、残念だけど、ここにいるメンバーに絵心のある奴らはいないの。それとも、麗華は絵に自信があるの?」
「ないです」
麗華は即答した。迷いのない答えに陽咲だけでなく、周りにいた私たちも苦笑する。そこでようやく、己の提案の問題点に気付いたのか、麗華は慌てて弁解を始めた。
「わ、私、陽咲さんたちが絵を描けないのを知らずに、とんだ発言をしてしまいました。ご、ごめんな」
「いいの、いいの。絵のセンスがないのは事実だからね。だから、自分たちで動画投稿、っていうのは無理かな」
陽咲の自嘲気味に笑う。私の周りには絵のセンスがない人しかいない。かくいう私も人のことを言えない。動画に出すほどの絵を描けるとも思えない。
「でもさあ、よくよく考えたら」
こなでが絵心のなさのショックから立ち直り、のんびりとした様子で新たな問題発言を口にする。
「最近、無料動画サイトを見る機会が多いんだけど、私、ボカロに興味出てきて、最近はもっぱらボカロをよく聞いていることを思い出したわ。あれってアニメみたいなMV(ミュージックビデオ)付きで、短編アニメを見ているみたいなものもあって、結構面白いんだよね」
この発言をきっかけに、今度はボカロについての議論が始まってしまった。
「世の中、結局、時代の流れに乗って趣味は変わっていくものということだね」
「そうそう、テレビでアニメ視聴というのは、今時、時代遅れになっているのかもしれない」
「私も最近、ボカロを動画でよく聞きますよ」
「今回の結論は出たということね」
なんだかんだいろいろ話しているうちに、ずいぶんと時間が過ぎていたようだ。放課後という限られた時間の中で、いつの間にか夕飯の時間となっていた。
芳子は気を利かせて、会議の最中、私たちの口が乾かないように一階に行き、冷たい麦茶を入れたコップを人数分と、麦茶の入ったピッチャーを持ってきた。その後、もう一度部屋を出て、ポテトチップスやら、チョコレート菓子なども差し入れてくれた。そのため、喉も乾かず、空腹になることもなく議論は活発に行われたのだった。
「芳子、もうすぐ夕食の時間になるけど、友達は帰らなくていいのかしら?」
トントンという、部屋をノックする音で、私たちはようやく帰宅する時間が迫っていることを知った。どうやら、芳子の母親が帰宅したようだ。声が彼女の祖母より若い感じがした。
「お母さん、わかったから、一階で待っていてよ。間違っても絶対に私の部屋に入ってこないでね。今から部屋を出るから」
芳子は部屋越しに母親に返事をする。母親にも自分の部屋を見せていないようだ。夏休みに訪れた時と同様に、部屋にはたくさんの二次元のイケメンたちがところかしこにいた。改めて考えてみると、私たちはこの異常な空間で謎の会議をしていたわけだ。
「じゃあ、会議での結論も出たことだし、そろそろ帰りますか。芳子の家族に迷惑をかけてもいけないしね」
「ごめんね。ここが二次元だったら……」
『よかったら、私たちの家で夕食でもドウゾ』
『わあ、うれしいです。ぜひ、いただきます』
『遠慮しないで食べてね。今日は珍しくたくさん夕食を作っちゃったから、どんどんお代わりして頂戴』
『ハイ!』
母親の声真似をしたこなでの言葉に、陽咲が会話に乗っかり、目の前で寸劇が行われた。麗華は感心したように彼女たちの様子をじっと見ていた。
「そんなの、現実的にあるわけないでしょ。わざわざ友達を夕食に誘うとか、材料費とか、食器とか、帰宅時間とかいろいろ問題あるでしょ」
ぼそりと、つい、現実的なことが口から飛び出してしまった。最近、あまりにも日常的に二次元と現実の違いについて議論していたせいだろう。慌てて口を押えるが、私の言葉は部屋にいた彼女たち全員の耳に届いてしまった。
「うわあ。それ、思っていても言っちゃダメな奴でしょ」
「そうそう、せっかくいい気分で家に帰れそうだと思ったのに、ここで現実を引き合いに出されるとちょっと」
「事実は事実ですから、別にいいと思いますよ」
「さあ、さっさと帰って頂戴。喜咲の言う通り、うちであなたたちをもてなす夕食はないからね」
だって、ここは現実世界だからね
こうして、私たちは部屋を出て、言葉通りに一階で待っていた芳子の母親に挨拶してそれぞれの家に帰った。帰りに彼女の祖母の様子を確認したかったが、私たちの前に現れることはなかった。
次の日の昼休み、私たちは新たな娯楽を見つけて、その話題について大いに盛り上がるのだった。時代はテレビから動画に映っているのかもしれない。
そういえば、と昼休みに昨日のことを振り返る。撮りためたアニメの視聴を見ながら会議しようと言っていた芳子の言葉を思い出したが、すでに新たな会議のネタを見つけた彼女たちの楽しそうな様子に、まあいいかと。私も会議に参戦するのだった。
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