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続編~中学校編②~
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自然学習が終わったと思ったら、テスト週間がやってきた。部活はテスト週間のためなくなり、授業が終わるとすぐに家に帰される。
「別府さん、次のテストは赤点を取らないようにせいぜい頑張ることね。」
前回のテストの結果を蒸し返し、別府えにしのことをけなすくそ女に対して、彼女が返した言葉は意外なものだった。とはいえ、オレは彼女の実力を知っているので、驚かなかった。
「はい、頑張ります。福島さんも頑張ってくださいね。私より頭がいいみたいですけど、もし私が今回、あなたより良い点数を取ったりしたら、クラスに示しがつきませんから。」
挑発するような言葉に、くそ女がふっと鼻で笑う。
「そんなこと言って、私をけん制しているつもりでしょうけど、おあいにく様。私はあなたみたいにバカじゃないの。あなたなんかに負けるわけないでしょう。」
どうやら、別府えにしは、赤点の補習テストでの点数をオレ以外に公表していないらしい。オレ以外に知らない、別府えにしの情報を持っていることに優越感が湧く。
「わかりました。では、そこまで自信があるのなら、一つ、賭けでもしませんか。」
オレが優越感に浸っている間に、話はどんどんおかしな方向に進んでいく。別府えにしは、よほどテストに自信があるのか、くそ女にかけの内容をはっきりと伝える。
「もし、私が今回のテストで学年一位を取ったら、こうたろう君と話すのを一切やめてもらえませんか。」
「ずいぶんな自信ね。それで、一位をとれなかったら、どうするつもり。」
「こうたろう君とつき合うのをやめるというのはどうでしょう。」
「自分が何を言っているのか、わかっているのかしら。学年一位なんて、あなたの成績でとれるわけないでしょう。でも、そこまで言うのなら、賭けに乗ってもいいわ。どんな不正をするのか知らないけど、先生に問題を事前に教えてもらおうとでも言うのかしら。」
「おい、ちかげ。その辺にしておけ。えにしは、実は頭がめちゃくちゃい。」
「こうたろう君は、いまだに私とつき合っているのに、福島さんの行動ばかり目で追っています。今もほら、あなたを不利にさせないように、言葉をかけている。」
オレの言葉は、別府えにしに遮られた。オレは、くそ女に彼女の実力を教えようとしただけだ。別に、くそ女が賭けに不利になるから声をかけたのではない。
「だからこそ、今回のテストで白黒つけたい。不正なんてしませんよ。もし不安なら、私や先生を見張ってください。では、私は帰ります。宣言したのに、勉強をしないわけにはいきませんから。」
くそ女とオレを残して、別府えにしは、教室から出ていった。
「おい、そのかけ、今すぐ撤回するように、えにしに伝えろよ。」
「嫌よ。だって、一位なんてとれるわけないわ。この賭けは、私にメリットはあっても、デメリットはないもの。こうたろうが待っていても、私のものになるんだから」
「お前らって、テレビとか漫画とかでよく見る、三角関係そのものだよな。」
「見てて、ドキドキしちゃうね。」
「生で三角関係のドロドロが見れるなんて、すげえラッキー。」
教室にはまだ帰宅していないクラスメイトが数人残っており、皆、オレたちの会話にじっと耳を傾けていたらしい。彼女が出ていった途端に、口々に会話を再開する。
「私が勝つに決まっているでしょう。さっさと野次馬は帰れ。」
「オレもそれには同感だ。人の会話を面白そうに聞いてるんじゃないぞ。とっとと帰ってお前らも勉強しろよ。」
「やっぱり、お前たち二人の方がしっくりくるな。」
「別府さんには申し訳ないけど、あんたたち二人に付け入るスキはなさそうね。」
「まったくその通りだ。」
オレとくそ女が息をそろえて、自分たちに反論するのを聞いて、クラスメイト達は肩をすくめながら、教室を出ていった。残されたのは、オレとくそ女の二人となった。オレは、知らず知らずのうちに、くそ女が賭けに勝つことを口にしていることに気付かなかった。
「こうたろう。別府えにしはやめておいた方がいいわ。」
二人きりになった途端、くそ女は真剣な表情でオレに忠告する、いつだったかに聞いた、男のように低い声で、話を続ける。
「彼女、あんなことを言っていたけど、きっと学年一位を取る算段が付いているんだわ。もともと得体の知れない女だとは思っていたけど。」
そこで彼女はいったん、言葉を止めた。そして、くそ女にしては珍しく弱気な発言をした。
「こうたろうは、本当に別府えにしのことが好きではないのよね。彼女に言われて、しぶしぶつき合っているんでしょう。そうだと言ってよ。じゃないと私。」
「しぶしぶではない。オレも彼女とつき合うことに同意している。双方の意志は同じだ。だからこそ、彼女の賭けにお前が乗ることに反対だ。」
好きとも嫌いともいえぬ言葉を返したオレは、内心で動揺していた。オレの内心の動揺を読み取ったのかわからないが、くそ女はオレの言葉で安心したようだ。
「その顔だと、大丈夫そうだね。じゃあ、私たちも帰りましょう。別府えにしに負けないように勉強しないと。」
「そ、そうだな。」
オレたちはその後、二人で下校した。久しぶりに幼馴染として、たわいもない会話をしながら帰宅した。先日の自然学習の話、今日の授業の話、はたまた天気の話などの話をした。まるで、今までのぎすぎすとした幼馴染の関係が嘘のように、会話が弾んだ。
「それじゃあ、また明日。」
「ああ、また明日。」
お互いの家の前で挨拶をして家の中に入る。
「オレは、本当に彼女のことが好きなのだろうか。」
くそ女のことが、嫌いで嫌いでたまらないはずなのに、今日のオレは、そんな幼馴染と和やかに会話をしながら、二人きりで下校していた。
きっと、別府えにしの存在が、オレにとってもくそ女にとっても、得体の知れないものだと共通の認識を持ったからだろう。そのことに安どして、会話が弾んでしまったのだ。
決して、別府えにしより、くそ女の方が可愛く、心の内がわかって楽だと思ってはいないはずだ。彼女と別れることに期待しているわけでもない。
「別府さん、次のテストは赤点を取らないようにせいぜい頑張ることね。」
前回のテストの結果を蒸し返し、別府えにしのことをけなすくそ女に対して、彼女が返した言葉は意外なものだった。とはいえ、オレは彼女の実力を知っているので、驚かなかった。
「はい、頑張ります。福島さんも頑張ってくださいね。私より頭がいいみたいですけど、もし私が今回、あなたより良い点数を取ったりしたら、クラスに示しがつきませんから。」
挑発するような言葉に、くそ女がふっと鼻で笑う。
「そんなこと言って、私をけん制しているつもりでしょうけど、おあいにく様。私はあなたみたいにバカじゃないの。あなたなんかに負けるわけないでしょう。」
どうやら、別府えにしは、赤点の補習テストでの点数をオレ以外に公表していないらしい。オレ以外に知らない、別府えにしの情報を持っていることに優越感が湧く。
「わかりました。では、そこまで自信があるのなら、一つ、賭けでもしませんか。」
オレが優越感に浸っている間に、話はどんどんおかしな方向に進んでいく。別府えにしは、よほどテストに自信があるのか、くそ女にかけの内容をはっきりと伝える。
「もし、私が今回のテストで学年一位を取ったら、こうたろう君と話すのを一切やめてもらえませんか。」
「ずいぶんな自信ね。それで、一位をとれなかったら、どうするつもり。」
「こうたろう君とつき合うのをやめるというのはどうでしょう。」
「自分が何を言っているのか、わかっているのかしら。学年一位なんて、あなたの成績でとれるわけないでしょう。でも、そこまで言うのなら、賭けに乗ってもいいわ。どんな不正をするのか知らないけど、先生に問題を事前に教えてもらおうとでも言うのかしら。」
「おい、ちかげ。その辺にしておけ。えにしは、実は頭がめちゃくちゃい。」
「こうたろう君は、いまだに私とつき合っているのに、福島さんの行動ばかり目で追っています。今もほら、あなたを不利にさせないように、言葉をかけている。」
オレの言葉は、別府えにしに遮られた。オレは、くそ女に彼女の実力を教えようとしただけだ。別に、くそ女が賭けに不利になるから声をかけたのではない。
「だからこそ、今回のテストで白黒つけたい。不正なんてしませんよ。もし不安なら、私や先生を見張ってください。では、私は帰ります。宣言したのに、勉強をしないわけにはいきませんから。」
くそ女とオレを残して、別府えにしは、教室から出ていった。
「おい、そのかけ、今すぐ撤回するように、えにしに伝えろよ。」
「嫌よ。だって、一位なんてとれるわけないわ。この賭けは、私にメリットはあっても、デメリットはないもの。こうたろうが待っていても、私のものになるんだから」
「お前らって、テレビとか漫画とかでよく見る、三角関係そのものだよな。」
「見てて、ドキドキしちゃうね。」
「生で三角関係のドロドロが見れるなんて、すげえラッキー。」
教室にはまだ帰宅していないクラスメイトが数人残っており、皆、オレたちの会話にじっと耳を傾けていたらしい。彼女が出ていった途端に、口々に会話を再開する。
「私が勝つに決まっているでしょう。さっさと野次馬は帰れ。」
「オレもそれには同感だ。人の会話を面白そうに聞いてるんじゃないぞ。とっとと帰ってお前らも勉強しろよ。」
「やっぱり、お前たち二人の方がしっくりくるな。」
「別府さんには申し訳ないけど、あんたたち二人に付け入るスキはなさそうね。」
「まったくその通りだ。」
オレとくそ女が息をそろえて、自分たちに反論するのを聞いて、クラスメイト達は肩をすくめながら、教室を出ていった。残されたのは、オレとくそ女の二人となった。オレは、知らず知らずのうちに、くそ女が賭けに勝つことを口にしていることに気付かなかった。
「こうたろう。別府えにしはやめておいた方がいいわ。」
二人きりになった途端、くそ女は真剣な表情でオレに忠告する、いつだったかに聞いた、男のように低い声で、話を続ける。
「彼女、あんなことを言っていたけど、きっと学年一位を取る算段が付いているんだわ。もともと得体の知れない女だとは思っていたけど。」
そこで彼女はいったん、言葉を止めた。そして、くそ女にしては珍しく弱気な発言をした。
「こうたろうは、本当に別府えにしのことが好きではないのよね。彼女に言われて、しぶしぶつき合っているんでしょう。そうだと言ってよ。じゃないと私。」
「しぶしぶではない。オレも彼女とつき合うことに同意している。双方の意志は同じだ。だからこそ、彼女の賭けにお前が乗ることに反対だ。」
好きとも嫌いともいえぬ言葉を返したオレは、内心で動揺していた。オレの内心の動揺を読み取ったのかわからないが、くそ女はオレの言葉で安心したようだ。
「その顔だと、大丈夫そうだね。じゃあ、私たちも帰りましょう。別府えにしに負けないように勉強しないと。」
「そ、そうだな。」
オレたちはその後、二人で下校した。久しぶりに幼馴染として、たわいもない会話をしながら帰宅した。先日の自然学習の話、今日の授業の話、はたまた天気の話などの話をした。まるで、今までのぎすぎすとした幼馴染の関係が嘘のように、会話が弾んだ。
「それじゃあ、また明日。」
「ああ、また明日。」
お互いの家の前で挨拶をして家の中に入る。
「オレは、本当に彼女のことが好きなのだろうか。」
くそ女のことが、嫌いで嫌いでたまらないはずなのに、今日のオレは、そんな幼馴染と和やかに会話をしながら、二人きりで下校していた。
きっと、別府えにしの存在が、オレにとってもくそ女にとっても、得体の知れないものだと共通の認識を持ったからだろう。そのことに安どして、会話が弾んでしまったのだ。
決して、別府えにしより、くそ女の方が可愛く、心の内がわかって楽だと思ってはいないはずだ。彼女と別れることに期待しているわけでもない。
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