15 / 58
きっかけ~小学校編~
15
しおりを挟む
「おはようございます。朝から大変なことになっていますね。いったい何があったのですか。」
担任がやっと教室に入ってきた。クラスメイトはやっと現実に戻ったようだ。口々に自分たちに起きた出来事を話し出す。上履きがなくなっていたこと、自分たちの作品が破かれて、ゴミ箱から紙吹雪のように舞っていたこと、ゴミ箱の中にクラスメイトの人数分の封筒が入っていて、その中に自分たちの秘密が書かれていたこと、最後にCDプレーヤーから謎の音声が流れだしたことを必死で担任に説明していた。
説明を聞いた担任はたいそう驚いた顔をしていた。その後に面倒くさいことをしてくれたとばかりに児童を見回してにらみつける。
「いったい誰がこんなことをやらかしたのですか。やったものは正直に手を挙げなさい。今なら、話を聞くだけで許してあげましょう。」
古今東西、正直に手を挙げる奴や、正直に犯人だと名乗り出るものなどいるわけがない。その例外にもれず、誰も自分が犯人だと名乗り出ることはなかった。当然、今回の事件の犯人は私なので、私以外が手を挙げる必要はないのだが。それでも、私は女にあらかじめ指示しておいたので、女がしぶしぶ手を挙げた。
「まさか、今回のことは麗さんがやったのですか。いくら何でもそれは……。」
「いえ、私ではありません。ええと、ええと……。」
しきりに目を泳がせている女であるが、決心したのだろう。一度目をつむり、深呼吸して一気に犯人の名前を告げた。
「中道望君です。彼が今回の事件の犯人です。でも、事件を起こした原因は私にあります。叱るなら私を先に叱ってください。」
「僕はやっていない。濡れ衣だ。」
女が犯人を告げると間髪入れずに男が反論する。まあ、犯人ではないので当然の反応だろう。それでも、犯人になってもらうのだが。
「どういうことですか。のぞむが犯人だというのですか。」
「そんなわけがない。」
「のぞむはそんな悪い奴じゃない。」
「れいったら、何を言っているの。そんなひどいことをのぞむがしないことはれいが一番よく知っているでしょう。」
一気に話し出したクラスメイトに女は苦笑する。そして、理由を説明し始めた。
説明を指示したのは私なので、話の内容はすでに知っている。退屈になってきた私はクラスの後ろのロッカーの上に座り、じっと先生と女とクラスメイトの様子を観察することにした。
「ええと、実はのぞむはクラスメイトの別府えにしさんのことが好きで告白したみたいなんです。それで、見事に振られたみたいで。私はそのことが信じられませんでした。のぞむは私のことが好きだったはずなのに、まさか私ではなくて、彼女に告白するとは思ってもみなかった。」
「告白なんてしていない。告白してきたのは別府さんだ。」
「私は告白されましたよ。驚いてふってしまいましたけど。それに私は転校してしまう。告白はうれしかったけど、付き合えないでしょう。」
ここで、私も会話に参加する。
「告白したことをのぞむは私に伝えてきた。ふられてすごい落ち込みようだったから、私はその時に提案した。そんなに落ち込むくらい好きなら、彼女の思い出に残るような盛大なお別れ会をしたらいいんじゃないかと。」
それがこんな結果になるなんて……。いかにも女が、自分が提案したせいで今回の事件が起きたと言わんばかりの演技をする。女の発言は、親の七光りもあって嘘でも真実に変わることがある。
今にも泣きだしそうな、すでに泣いているように手で両手を隠して泣きまねをしていた。当然、本当には泣いているはずがない。私が泣きながら説明しろと指示していたからだ。
「その話は本当なの。のぞむ。」
担任は本人に直接事実を確認することにしたようだ。もちろん、男は否定するに決まっている。
「僕はやっていません。朝学校に来て、上履きが盗まれることを知りました。それに……。」
「そんなことは今は忘れましょう。今日は私のお別れ会ですよね。せっかくみんなが準備してくれたと思うから、早く始めてくださいよ。私、実はとても楽しみにしていたんですよ。」
ここで、大きく息を吸う。そして、一気に叫ぶように伝える。
「だって、れいさんとのぞむくん中心で一生懸命準備してくれたんでしょう。朝のこれも私のお別れ会の余興だと思えば、とてもいい思い出だよ。ありがとう、こんな楽しい余興を準備してくれて。」
のぞむくんに向かって言い放つ。言われたのぞむくんは固まって動けないでいる。さて、こんなところでいいだろう。
「た、たしかにお別れ会はしなくちゃ。犯人捜しは後でもいいかも。」
「せっかく準備してきたからね。」
ちらほらと私に賛同する意見が出される。先生は犯人捜しをしたいようで、渋い顔で考え込んでいる。
「それはできません。こんなクラス全体に被害が出るような事件が起きているのですから、先に犯人を見つけることが先決です。」
担任は犯人捜しを優先することにしたらしい。
こうして、お別れ会当日は、犯人探しというつまらない話し合いで終わってしまった。私は面倒くさくなったので早退することにした。先生もよもや、転校する私が腹いせにクラス全体に嫌がらせのような事件を起こすとは思っていなかったのだろう。多少の疑いは持たれていたようだが、最終的には犯人ではないと思ってくれたようだ。具合が悪くなったと伝えるとあっさり早退を認めてくれた。
クラスが騒ぎ出して面白いものが見ることができた。男の驚く姿も確認できた。大満足の一日だった。
担任がやっと教室に入ってきた。クラスメイトはやっと現実に戻ったようだ。口々に自分たちに起きた出来事を話し出す。上履きがなくなっていたこと、自分たちの作品が破かれて、ゴミ箱から紙吹雪のように舞っていたこと、ゴミ箱の中にクラスメイトの人数分の封筒が入っていて、その中に自分たちの秘密が書かれていたこと、最後にCDプレーヤーから謎の音声が流れだしたことを必死で担任に説明していた。
説明を聞いた担任はたいそう驚いた顔をしていた。その後に面倒くさいことをしてくれたとばかりに児童を見回してにらみつける。
「いったい誰がこんなことをやらかしたのですか。やったものは正直に手を挙げなさい。今なら、話を聞くだけで許してあげましょう。」
古今東西、正直に手を挙げる奴や、正直に犯人だと名乗り出るものなどいるわけがない。その例外にもれず、誰も自分が犯人だと名乗り出ることはなかった。当然、今回の事件の犯人は私なので、私以外が手を挙げる必要はないのだが。それでも、私は女にあらかじめ指示しておいたので、女がしぶしぶ手を挙げた。
「まさか、今回のことは麗さんがやったのですか。いくら何でもそれは……。」
「いえ、私ではありません。ええと、ええと……。」
しきりに目を泳がせている女であるが、決心したのだろう。一度目をつむり、深呼吸して一気に犯人の名前を告げた。
「中道望君です。彼が今回の事件の犯人です。でも、事件を起こした原因は私にあります。叱るなら私を先に叱ってください。」
「僕はやっていない。濡れ衣だ。」
女が犯人を告げると間髪入れずに男が反論する。まあ、犯人ではないので当然の反応だろう。それでも、犯人になってもらうのだが。
「どういうことですか。のぞむが犯人だというのですか。」
「そんなわけがない。」
「のぞむはそんな悪い奴じゃない。」
「れいったら、何を言っているの。そんなひどいことをのぞむがしないことはれいが一番よく知っているでしょう。」
一気に話し出したクラスメイトに女は苦笑する。そして、理由を説明し始めた。
説明を指示したのは私なので、話の内容はすでに知っている。退屈になってきた私はクラスの後ろのロッカーの上に座り、じっと先生と女とクラスメイトの様子を観察することにした。
「ええと、実はのぞむはクラスメイトの別府えにしさんのことが好きで告白したみたいなんです。それで、見事に振られたみたいで。私はそのことが信じられませんでした。のぞむは私のことが好きだったはずなのに、まさか私ではなくて、彼女に告白するとは思ってもみなかった。」
「告白なんてしていない。告白してきたのは別府さんだ。」
「私は告白されましたよ。驚いてふってしまいましたけど。それに私は転校してしまう。告白はうれしかったけど、付き合えないでしょう。」
ここで、私も会話に参加する。
「告白したことをのぞむは私に伝えてきた。ふられてすごい落ち込みようだったから、私はその時に提案した。そんなに落ち込むくらい好きなら、彼女の思い出に残るような盛大なお別れ会をしたらいいんじゃないかと。」
それがこんな結果になるなんて……。いかにも女が、自分が提案したせいで今回の事件が起きたと言わんばかりの演技をする。女の発言は、親の七光りもあって嘘でも真実に変わることがある。
今にも泣きだしそうな、すでに泣いているように手で両手を隠して泣きまねをしていた。当然、本当には泣いているはずがない。私が泣きながら説明しろと指示していたからだ。
「その話は本当なの。のぞむ。」
担任は本人に直接事実を確認することにしたようだ。もちろん、男は否定するに決まっている。
「僕はやっていません。朝学校に来て、上履きが盗まれることを知りました。それに……。」
「そんなことは今は忘れましょう。今日は私のお別れ会ですよね。せっかくみんなが準備してくれたと思うから、早く始めてくださいよ。私、実はとても楽しみにしていたんですよ。」
ここで、大きく息を吸う。そして、一気に叫ぶように伝える。
「だって、れいさんとのぞむくん中心で一生懸命準備してくれたんでしょう。朝のこれも私のお別れ会の余興だと思えば、とてもいい思い出だよ。ありがとう、こんな楽しい余興を準備してくれて。」
のぞむくんに向かって言い放つ。言われたのぞむくんは固まって動けないでいる。さて、こんなところでいいだろう。
「た、たしかにお別れ会はしなくちゃ。犯人捜しは後でもいいかも。」
「せっかく準備してきたからね。」
ちらほらと私に賛同する意見が出される。先生は犯人捜しをしたいようで、渋い顔で考え込んでいる。
「それはできません。こんなクラス全体に被害が出るような事件が起きているのですから、先に犯人を見つけることが先決です。」
担任は犯人捜しを優先することにしたらしい。
こうして、お別れ会当日は、犯人探しというつまらない話し合いで終わってしまった。私は面倒くさくなったので早退することにした。先生もよもや、転校する私が腹いせにクラス全体に嫌がらせのような事件を起こすとは思っていなかったのだろう。多少の疑いは持たれていたようだが、最終的には犯人ではないと思ってくれたようだ。具合が悪くなったと伝えるとあっさり早退を認めてくれた。
クラスが騒ぎ出して面白いものが見ることができた。男の驚く姿も確認できた。大満足の一日だった。
0
お気に入りに追加
0
あなたにおすすめの小説
可愛すぎるクラスメイトがやたら俺の部屋を訪れる件 ~事故から助けたボクっ娘が存在感空気な俺に熱い視線を送ってきている~
蒼田
青春
人よりも十倍以上存在感が薄い高校一年生、宇治原簾 (うじはられん)は、ある日買い物へ行く。
目的のプリンを買った夜の帰り道、簾はクラスメイトの人気者、重原愛莉 (えはらあいり)を見つける。
しかしいつも教室でみる活発な表情はなくどんよりとしていた。只事ではないと目線で追っていると彼女が信号に差し掛かり、トラックに引かれそうな所を簾が助ける。
事故から助けることで始まる活発少女との関係。
愛莉が簾の家にあがり看病したり、勉強したり、時には二人でデートに行ったりと。
愛莉は簾の事が好きで、廉も愛莉のことを気にし始める。
故障で陸上が出来なくなった愛莉は目標新たにし、簾はそんな彼女を補佐し自分の目標を見つけるお話。
*本作はフィクションです。実在する人物・団体・組織名等とは関係ございません。
アルファポリス収益報告書 初心者の1ヶ月の収入 お小遣い稼ぎ(投稿インセンティブ)スコアの換金&アクセス数を増やす方法 表紙作成について
黒川蓮
エッセイ・ノンフィクション
アルファポリスさんで素人が投稿を始めて約2ヶ月。書いたらいくら稼げたか?24hポイントと獲得したスコアの換金方法について。アルファポリスを利用しようか迷っている方の参考になればと思い書いてみました。その後1ヶ月経過、実践してみてアクセスが増えたこと、やると増えそうなことの予想も書いています。ついでに、小説家になるためという話や表紙作成方法も書いてみましたm(__)m
オタクな俺のことを嫌いな筈の幼馴染を振ったら ~なぜかタイムリープしてデレデレになっていた~
ケイティBr
青春
『アタシはアタシだよ』幼馴染が本当の事を教えてくれない。
それは森池 達也(モリイケ タツヤ)が高校最後のクリスマスを迎える前の事だった。幼馴染である、藤井 朱音(フジイ アカネ)に近所の公園に呼び出されて告白された。
けれど、俺はその告白を信じられなかったのでアカネを振ってしまう。
次の日の朝、俺はなぜか高校最初の登校日にタイムリープしていた。そこで再会した幼馴染であるアカネは前回と全く違う態度だった。
そんな距離感が近い俺たちを周囲はお似合いのカップルだと言うんだ。一体どうなってるんだ。そう思ってアカネに聞いても。
「たっくんが何言ってるのか分かんないよ。アタシはアタシだよ」
としか言ってはくれない。
これは、タイムリープした幼馴染同士が関係をやり直すラブストーリー。
小説投稿サイトの比較―どのサイトを軸に活動するか―
翠月 歩夢
エッセイ・ノンフィクション
小説家になろう
エブリスタ
カクヨム
アルファポリス
上記の4つの投稿サイトを実際に使ってみての比較。
各サイトの特徴
閲覧数(PV)の多さ・読まれやすさ
感想など反応の貰いやすさ
各サイトのジャンル傾向
以上を基準に比較する。
☆どのサイトを使おうかと色々試している時に軽く整理したメモがあり、せっかくなので投稿してみました。少しでも参考になれば幸いです。
☆自分用にまとめたものなので短く簡単にしかまとめてないので、もっと詳しく知りたい場合は他の人のを参考にすることを推奨します。
Bグループの少年
櫻井春輝
青春
クラスや校内で目立つグループをA(目立つ)のグループとして、目立たないグループはC(目立たない)とすれば、その中間のグループはB(普通)となる。そんなカテゴリー分けをした少年はAグループの悪友たちにふりまわされた穏やかとは言いにくい中学校生活と違い、高校生活は穏やかに過ごしたいと考え、高校ではB(普通)グループに入り、その中でも特に目立たないよう存在感を薄く生活し、平穏な一年を過ごす。この平穏を逃すものかと誓う少年だが、ある日、特A(特に目立つ)の美少女を助けたことから変化を始める。少年は地味で平穏な生活を守っていけるのか……?
トゥルードリーム〜努力と掴んだ夢〜
saiha
青春
青春を好む山本は女子応援団へ入り3年目を迎えた。しかし、応援団に入っている後輩が問題を起こしたことで職員は応援団に対して反感を持ち、解散を要求した。山本の青春はどうなるか、応援団はそのまま存続できるのか!
追う者
篠原
青春
追う者 ~第1巻~
過酷な現状に耐え、正しい生き方をしてきたはずだった…。
でも、知ってしまった、母の死んだ後。
純連潔白だと信じ切っていた自分の中に、
凶悪強姦犯の血が赤々と流れているという、衝撃の、恐ろしい、忌まわしい、
事実を。
そして、私は、決めた。もう、生き方を変える・・・・・・。
~あらすじ~
とある街、夏の熱帯夜。実在する鬼から逃げるように、死に物狂いで走る、
1人の若い女性…。交番に向かって、走っていく……が…。
それから、かなりの時間が過ぎて…。
最愛の男性との結婚式を数日後に控え、
人生史上最も幸せなはずの20代女子・柳沼真子は回想する。
真子の回想から、ある小さな女の子が登場する。
彼女の苗字は奥中。幸せに暮らしていた。
その町で、男が轢き殺される事故が起こる、あの日まで…。
(本作の無断転載等はご遠慮ください)
(エブリスタ、小説家になろう、ノベルデイズ にも掲載)
(本作は、 追う者 ~第1巻~です。第2巻で完結します)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる